【連載】秋季早慶戦直前特集『It's SHOW TIME!』最終回 河原右京主将

野球

 春季リーグ開幕前から、「弱い」と言われ続けたことしのチーム。しかし、下馬評とは裏腹に春は大学日本一に駆け上がり、そしていまや8年ぶりの春秋連覇にも手が届きそうだ。その中心としてチームをまとめ、プレー面でも勝利に貢献し続けてきた河原右京主将(スポ4=大阪桐蔭)。最後の早慶戦を控えたキャプテンに、思いの丈を聞いた。

※この取材は10月23日に行われたものです。

「客観的にチームを見ることができる」

チームをけん引し続けてきた河原主将

――まずは連続試合安打記録について伺います。昨年の秋の早慶戦から安打を打ち続けてきたということは気づいていましたか

 はい、気づいていました。春に全部終わった時に全部ヒットを打っていることに気がついて、秋に始まった時にも何試合か続けて打っていたので。そこから少し意識するようにはなりましたね。

――どうして毎試合安打が出たのでしょうか、なにかコツのようなものはあるのでしょうか

 自分の中で、調子が悪くてもヒットを1本出すことができるのがいい選手だと思っているので。オープン戦を合わせても、毎試合でコンスタントに打ててきてはいると思います。意識はしていないですが、3〜4打席あれば相手に対応できているような感触はありますね。

――早慶1回戦で安打を打てば並ぶ、2回戦でも打てば更新ということになりますが、更新したいという気持ちは

 とてもあります。

――道端俊輔選手(スポ4=智弁和歌山)が今季から背番号『6』をつけていますが、ご自身は背番号は気にするタイプでしょうか

 もともと背番号は気にするタイプではありませんね。ことしは伝統ある早稲田の10番ということで重みはありましたが、そこを自分自身は重く捉えなかったですね。

――現在意識されている背番号『10』へのこだわりなどはありますか

 ワセダの10番というのは、見られていると思うので。それに恥じないというのはあります。番号に恥じないように、と。

――1年間主将として戦ってきた感想というのはありますか

 春、日本一になって。それは本当にうれしかったんですけど、そのあとは厳しくなるだろうなと自分でもわかっていましたが、その通りになりました。やっぱりその日本一になったことへのプレッシャーもあったと思うんですけど、秋は思うように戦えていなかった。明治に勝ち点を落としてからそこからちょっとチームにもギアが入ったというのはありますね。

――以前、この時期に中村奨吾元主将(平27スポ卒=現プロ野球・千葉ロッテ)にお話を伺った際、「チームをまとめることと自分自身のことを両立するのが大変」とおっしゃっていたのですが、河原主将はいかがでしょうか

 きょねんに比べれば、チームのことも考えないといけないのでその部分では苦労したんだと思うんですけど。ただ、主将になることがプレッシャーになるのだろうと予想して覚悟していたのですが、思っていた以上にうまくやってこれたかなと思っています。もっと自分の中では、いろいろなことに気を取られて自分のパフォーマンスができなくなるのかなと思っていたんですけど。

――歴代の背番号『10』で目標にしている方はいますか

 きょねんの中村さんですね。後ろから見ていても、すごい方だったので。中村さんの10番に負けないように頑張ろう、とは思っていましたね。

――どのような点がすごいと感じましたか

 野球はもちろんなんですが、普段の練習の際にも中村さんはすごく練習して、みんなから尊敬されていました。その背中を見てきたので、それに恥じないようにと思ってきましたね。

――ここまで4年間の大学野球生活、4人キャプテンをご覧になってきたと思いますが、いままでの3人と比べて自分はどのようなキャプテンだという自己認識は

 一人一人個性があってみんな違ったタイプのキャプテンだったのですが。みんな普段と変わらなかったので、自分もそうでしたね。4年生になったから、キャプテンになったからといって、気負うこともなかったです。

――以前、岡田稔基新人監督(スポ4=埼玉・川越東)から「右京がすごく練習するので、チームが締まる」と伺いましたが、キャプテンだということで意識して練習もなさっていましたか

 いや、もともと下級生の頃から続けていて。逆に、そういうのを見ていたからみんながキャプテンに選んでくれたのかなと思うので。そこはもう変わらず、ですね。

――キャプテンになって変えたところというのはありますか

 うーん、特にないですね。練習中に率先して動くとか、声を出すというくらいですかね。

――その際に心がけていることは

 きょねんまでは自分もわかりませんでしたが、キャプテンしかわからないようなこと、客観的にチームを見ることができるので。みんなが気付かないだろうことを言ったりしていますね。/p>

――主将は客観的にチームを見ることができる、のでしょうか

 そうですね。いままでの自分が野球をやっていた時と比べたら全然見え方が違うので。

――それは就任当初からですか

 そうですね。最初の方からですね。意識して客観的に見ようとしたわけではありませんでしたが、そういう立場になってチームをまとめないといけないというのを意識し始めてからですね。そうしたら客観的に見えるようになりました。

――春からたびたび責任感というのを口にされていましたが、それはどういったものでしょうか

 チームを勝たせる、というのが一番ですね。

――「勝てたのはチームメイトのおかげで、負けたのは自分の責任」と以前おっしゃっていましたが、それは変わっていないですか

 はい。

――責任を負うということに、怖くなって硬くなってしまったりというのはないですか

 いや、特にそれはありません。それはキャプテンになっときに覚悟していたので。

――就任したときに、こういうキャプテンになろうというテーマなどはありましたか

 それもありませんでした。自然体でやっていくうちに、自分なりのなにかをできたらなと考えていました。

――1年間を終えようとしているいま、見つけた自分のかたちのようなものはありますか

 自分ではわからないですね。

――秋は研究され、なかなか打線が機能しない時期もありました。チームが落ち込んだりしているときもありましたか

 明大に負けたときは、いままでこのチームになって勝ち点を落としたことがなかったのでちょっと沈みましたね。

――その際にチームへの声かけなどはなさいましたか

 優勝がなくなったわけではないので、ここからやぞというのは話しました。監督さんも自分もなんですが、負けたから優勝がなくなったわけではない、ということを言っていました。ここで気落ちしていたら、絶対に勝てないからと思って。そこからはチームはいい雰囲気でできていると思います。/p>

――明大戦で負けてからギアが入ったとおっしゃっていましたが、その前と後で、チームのここが変わったというのはありますか

 そうですね、春もずっと勝ち点を落とさずに、ほぼ負けなしで来ていたので。心の隙間に、どこかに勝てるだろうという気持ちがあったと思うんですよ。それが明大に負けて、現実を知ったというか。やっぱりこのままじゃダメだとわかったと思うので。

――その後は負けなしで勝ってきており、法大戦では春のような逆転勝ちもありました。その粘り強さはどこから来ているのでしょうか

 挑戦者の気持ち、ですかね。明大に負けてから、もう一度挑戦者として戦おうと思ってやっているので。それはみんな言っていますね。自分も、岡田も、監督も。

――今週末の結果によってはまだ優勝もあると思うのですが、優勝にかける思いは強いですか

 春も日本一になって最高の思いをしたので、このラストシーズン、もう一度あの思いをしたいというのはありますね。

「キャプテンをやってよかった」

ここまで毎試合で安打を放つなど、打撃面での貢献度も大きい

――この1年間やってきて主将として心がけてきたこととして「自分よりチームのために」との言葉がありましたが、それは具体的にはどのようなものでしょうか

 いままでだったら自分のことが一番で、自分のことしか見えていなかったんですが、チームを一番と考えられるようになったということですかね。なにをしているということではないのですが、チームのことを一番に考えるようになりました。

――この1年やってきて一番印象的だったことはなんでしょうか

 自分がキャプテンになって初めてのシーズンで優勝したことですね。

――日本一になった際にはインタビュー中に涙も見られましたが、その涙の理由というのは

 あのときは新チームが発足したときのことを思い出していて。まさか日本一になるチームだとは思っていなかったので。勝てるのだろうかという不安しかなかったときの気持ちを思い出していたら、こみ上げてきました。

――最初の方は不安でしたか

 不安しかなかったです。

――それはシーズン始まる前まではずっとですか

 冬の期間中、シーズンが始まる前まで、シーズンが始まっても不安でしたね。勝ち点を取って行って、東大立教法政と勝ち点を取ったあたりですね。優勝が少し見えてきたあたりからです。

――キャプテンとして辛かったことというのはありますか

 1年間、何かと言われれば特にないですけど、自分にしかわからないことで、いろいろ辛かったことはありますね。

――それはどのように抜け出しましたか

 あまり自分自身相談するほうではないので、それでみんなに迷惑をかけたくないので。それは自分自身でおさめていました。みんなには自分のことをやって欲しいので。

――キャプテンをやっているときにお世話になった人、心の支えになった人というのは

 中村さん、東條さんはよく連絡をくれました。キャプテンにしかわからないようなことをわかっていらっしゃるので、そのことで相談に乗ってもらうこともありました。

――4年生、同期への思いは

 最終学年になって、4年生が頑張ろうと決めてやってきて。メンバーに入っている人は頑張って当たり前なのですが、控えの奴らもすごく頑張ってくれたので、自分はそれが一番嬉しかったですね。練習でもすごくサポートしてくれたり、声出してくれたりしていたので。そういうのが一番嬉しかったので。

――4年生になって初めてリーグ戦で活躍したり、メンバーに入ったりという選手も見られましたが、4年生になって、3年生のときから雰囲気は変わったのでしょうか

 やはり一人一人の責任感じゃないですかね。自分がやらないといけないという。そういう気持ちはマルコとかもあったと思うので、そういうところから結果が出ていると思います。

――下級生、次期キャプテンに伝えていきたいことはありますか

 「4年生が一番頑張らないといけない」。これは自分たちがそのまま言われたことだったのですが、実感しました。春のシーズン始まるまでが一番大事だと思うのですが、冬から春にかけてのトレーニング期間で先頭に立ってやったりとか、そういうことが大事だと思います。

――キャプテンから見て、ことしのチームはどのようなチームでしょうか

 1年間戦ってみても、終盤の粘り強さがすごいチームでしたね。そういうのって気持ちの部分だと思うんですよ。みんなが勘違いせずに、自分たちは弱いんだと、いい意味でそういう思いを胸に春も戦ってきて。すごくまとまりのあるチームだと思います。

――この1年間キャプテンを経験したことで成長したと思うことはありますか

 いままでだったら自分のことしか考えていませんでしたが、チーム全体を見ることで。いままでこういう経験があまりなかったので、視野もすごく広がりましたし。ワセダのキャプテンということでいろいろな場に出てスピーチしたりというのもあったので、すごく自分自身成長したなと思っています。

――技術面、精神面双方ででしょうか

 一人の人間として、すごく成長したと思っています。この1年間。キャプテンをやってよかったなとすごく思っています。

――河原さんに取って、ワセダのキャプテンとはどういった存在でなければならないと考えていますか

 全国の大学生の中でも、六大学、早慶といえば特別なものだと思いますし。そのキャプテンというのは誰もができることではないと思うので、周りからもそういう目で見られますし、野球選手としてだけではなくて、ひとりの人間としてみんなから尊敬されるようにならないといけないと思います。

――4年間最後の早慶戦になりますが、この3年間を振り返って

 下級生の頃は代打とかであまり試合に出る機会が少なくて、何回か挫折しかけたこともありました。そんな中でも諦めずに頑張っていたら、3、4年生になって試合に出る機会も増えて。下級生の頃に諦めなくてよかったなと思います。4年間楽しいことばかりではありませんでしたが、頑張ってきてよかったです。

――慶大というのはやはり特別な相手なのでしょうか

 早慶戦は観客の入り方も全然違いますし、 雰囲気がまず全然違うので。やっていてもすごく楽しいですし、他の大学と試合するときとはまた違った印象ですね。

――これまででいちばん印象に残っている早慶戦は

 今回の春の早慶戦ですね。やはり優勝がかかっていて。 

――今週末は最後の早慶戦になります。懸ける思いを教えてください

 ここまで4年間頑張ってきたので、絶対に勝って引退したいと思います。優勝の可能性が残っていたらもちろん優勝したいですし、どちらにせよ負けられない戦いになります。最後にケイオーに勝って、このリーグ戦を終えたいですね。

――慶大で警戒する相手は

 今回打線がいいと思うので、打順に限らずホームランが出ているので。今は全員が警戒する相手だと思います。

――最後の早慶戦ということで、ここに注目して欲しいというプレーは

 いま連続試合安打がかかっているので、早慶戦で大人数が見ている中で更新したいなというのがあります。

――チームとして注目して欲しいポイントは

 粘り強さですね。負けていても最後に必ず逆転して、必ず勝つという気持ちを持って戦うので。粘り強さを見て欲しいですね。

――キャプテンとして臨む最後のリーグ戦になります。どのような形で花道を飾りたいですか

 最後に早慶戦に勝って、優勝できたら一番ですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 芦沢仁美)

◆河原右京(かわはら・うきょう)

1993年(平5)11月4日生まれのA型。身長173センチ、体重76キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。内野手。右投左打。「プレーで引っ張るタイプのキャプテン」と自らを評し、人一倍熱心に練習をするなどストイックな河原主将。しかし、チームメイトのほかの選手の皆さんの取材中に河原主将のことを伺うと、「ムードメーカーで、空気を和ませる力がある」との声もありました。時にフランクに、時にストイックに。頼れるキャプテンがチームを頂へ導きます