【連載】秋季早慶戦直前特集『It's SHOW TIME!』第7回 髙橋広監督

野球

 「あくまで早慶戦」。髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)は伝統の一戦への熱い思いを口にした。見えてきたグランドスラムもいまは目の前の伝統の一戦に勝つことのみを考えている。開幕直後は不調だったチームもここに来て投打共に復調。伝統の一戦をものにするために必要なものとは――。

※この取材は10月23日に行われたものです。

「全てにおいて原点回帰しよう」

今季ここまでの戦いを振り返る髙橋監督

――春に比べて数字からも攻守共に落ちている印象ですが

 春は打線が良かったと言いますが、実際は試合の序盤に投手が良くて、攻撃のリズムが作れて、終盤で打ったというパターンだったんですよね。秋は投手陣が出足で、大竹(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)が故障で、万全でなかったので、ようやくここに来て、リズムが出てきたという感じですね。

――研究されているという話もありましたが、どういった点で、感じましたか

 やはり打者ですね。投手はそもそもベストコンディションで臨めていないですよね。ローテーションがうまくいかなかったということもあって。打者はずっと好調だったんですよ。春から夏休み中も好調でしたが、そこの好調さで私も油断していたかも知れないし、そこで相手に研究されたというところもあるし、選手にもいつでも打てるというちょっとした慢心があったのではないかというところもあって。基本の反対方向へという意識がちょっとずつ緩んでね。ちょっと色気が出てきてね(笑)。遠くへ飛ばそうだとかいい打球を打とうとか、そういう部分で空回りしたかなと思います。そこで相手の研究がうまく合ってしまった。でもここに来て本来の打撃のかたちになってきたかなという感じですね。

――そうなったのも基礎基本の徹底ですか

 もう一回原点回帰というか、全てにおいて原点回帰しようよということで、気を引き締めて、気を抜いていたわけではないのですが、ちょっとそういうところが難しいですね。夏休み中のオープン戦でも好調だったのでね、特に打線は。社会人とやっても結構打っていたし、安定して打っていたので、安心しきっていたのですけど、難しいですね。

――春と一番異なるチーム状況はどこでしょうか

 やはり投手陣。大竹の故障というのが一番になりますね。それでエースが投げる1試合目の先発ローテーションが狂いましたからね。大竹も1か月の故障で出遅れたとその後に吉野(和也、社3=新潟・日本文理)投手を期待していたのですが、彼もバランスを崩しまして、ベストコンディションではなかった。小島(和哉、スポ1=埼玉・浦和学院)も開幕したころはベストではなかったんですよね。だから後ろに据えていたのですが、上手く機能しなかったですよね。

――先発2本柱が欠けたのが大きい

  そうですね。小島はそれから(調子)を取り戻してくれて、立大戦、法大戦と先発できましたが、小島をそう使うと次は抑えがという話になってくる。大竹がぎりぎり間に合って来だしたので、前後ろを入れ替えていました。

――小島投手はリリーフで起用したいという言葉もありましたが

 基本的にはね。大竹先発から吉野でもいいしというところで、小島を先発での起用にしていて、実際のところ大竹先発で吉野という継投でもいいんですけどね。春も吉野が抑えになることもありましたから。その3人でのローテーションが崩れたので、他の投手で……北濱(竣介、人2=石川・金沢桜丘)が出てきてくれたので良かったですけど、難しいですね。予定していた竹内(諒、スポ3=三重・松阪)がしっかりしなかったからね。

――北濱投手は3登板で3勝中と今季活躍してくれていますが

 8月中あんまり良くなかったんですけどね。シーズンが近付くにつれて良くなって来て、1勝したことであとの投球の自信になったんじゃないですかね。経験地が少なかったことで。かといって、東大戦に試すとか、東大も実力があるから出来ないんですよ。そんなぶっつけでなかなかできないのですが、台所事情がそうせざるを得なくて、北濱をぶっつけでいったんですけどね。そしたらそれがうまく好転してね。

――大竹投手のいまの調子はどうですか

 かなり復調して来ています。8月の1か月間、膝(の故障)だったので、走れていない、投げられていないでしょう。そこから9月中の明大戦ぐらいでは投げられたけども、1か月のロスは大きかったですよね。それからもう1か月投げ込んでもうかなり万全な状態。

「早慶戦を勝つというのは有終の美を飾ること」

大舞台での采配にも注目が集まる

――一方打線ではここ数試合で調子が上向いて来ていますね

 結局3番、4番が打つか打たないかの問題ですよ(笑)。全体のアベレージもありますけど、まあ重信(慎之介副将、教4=東京・早実)は首位打者に向けて好調だし、道端は春と同じくらいのところにいるわけですから、得点機で3番、4番が打つか打たないの問題だけで、右京(河原右京主将、スポ4=大阪桐蔭)にいたっても、20数試合連続ヒット中ですからね。彼なりに好不調があるのだろうけど、1試合に1本はずっと出しているわけですからね。

――主軸に当たりが出始めたのも原点回帰という点ですか

 ちょっとやっぱり全体に打てていて、春の好調を維持していたので、私は逆に言ったらそれが実力になってきていると思っていたのですが、……実力にはなっていたと思うのですが、それだけ研究されたというのと春は本当のチャレンジャーで行ったと思うんですけど、秋は心のどこかに受けて立っているんでしょうね。だから空回りしたというか、そういうのがあったんじゃないですかね。

――当たりが少ない中でも下位打線は変えずにここまで戦っています

 やはり彼らには守備力があるのでね。次の選手を使うというチョイスはあるのですが、打つかもわからないけど守備力が落ちるので、ある程度投手が抑えてくれると、そうでなくても打つといっても4割、5割打つわけではないですからね。と守備力重視になったら、どうしても川原(孝太、文構4=静岡・掛川西)、中澤(彰太、スポ3=静岡)は外せない。

――理想の得点パターンなどはありますか

  春はどこからでも得点できたようなところがありますが、やっぱりここ最近勝っている試合でも大事なところで3番、4番が打っていますよね。

――決める人が決めるという

  そうそう。抑える人が抑えて、打つべき人が打ったら自然に勝っていく。

――秋になってより粘り強いチームになったと感じているのはどういった部分でしょうか

 法大戦も3-0で負け試合でしたけど、同点に追い付いて、逆転しましたよね。明大との1回戦も上原投手に対してもう完敗でしたが、とりあえず同点にしているわけですからね。あそこの完敗の試合を勝ち切らなかったというのがね。春は勝っていたんですよ。あそこが一つの分かれ目だったように感じますね。

――明大戦を落としたのはかなり大きかったと思いますが

 どうしてもそれが焦りになって、次の立大戦でも打者が不本意な打撃をしていたように思いますね。

――ただそういったチャンスの場面では茂木(栄五郎、文構4=神奈川・桐蔭学園)選手が決めてくれる印象です

 夏の疲れか東大戦で調子が悪かったんですけど、明大の一発からまた吹っ切れたように変わりましたね。あれまでは東大戦終わって明大戦の前はひどかったですからね。こんなに調子が悪くなるものなのかなと、練習を見ていてもね。他の選手は練習ではそんなに悪くないんですよ。茂木選手は極端に悪くなっていてね。

――夏の試合にもあまり出場していませんでしたが

 オープン戦は疲れもあるだろうからと。蓄積していたものが残っていたのではないですかね。

――ピンチの場面での投手の印象はどうですか

 まあ最終的には結構点を取られているんですよね。法大戦でも勝負ですから内容は別にして1回戦は8-6ですけど、途中までは8-2の試合ですからね。だから有利に展開していて、失点しているから結局早大投手陣の層の薄さだと思います。さっきの三人が崩れて、次北濱ってなって、それが崩れてじゃあ次、次ってことになったら抑えられる投手がいるわけではないのでね。そこらで前の投手が崩れていくと苦しいですよね。

――守備から攻撃のリズムという点でも失策数も4とリーグ最低数です

 春よりエラーしていない印象が強いですね。

――秋と春で伝統の一戦へのチームの雰囲気は違いますか

 まだ優勝の可能性は残していますからね。それはそれでリーグ戦の勝ち負けであって、あくまで早慶戦、対抗戦ですからやっぱり最後、早大の野球部を卒業するにあたって、早慶戦を勝つというのは有終の美を飾ることであってね。人生においても大きいと思うんですよね。秋勝って、卒業していく。そういう意気込みを感じますね。

――残り1週間弱ですが、慶大を倒すためにさらに必要なものは何ですか

 慶大は打線が調子いいですからね。やっぱり投手の奮起というか。こちらの打つというのは当てになりませんからね。相手投手が良かったら打てないし。当然ロースコアの展開にさせるためには、いま勢いのいい慶大打線に勢い付かせてはいけない。

――慶大も上位打線が怖いですね

 特に今季は本塁打がものすごく出ていますからね。

――早慶戦に向けて意気込みをお願いします

 優勝かかる、かからないは関係なく伝統の一戦でもあるし、慶大に勝つというのは大きな目標ですから、私の掲げた3つの目標のまず1つなので、勝ちたいと思いますね。

――ありがとうございました! 

(取材・編集 豊田光司)

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955(昭30)年2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977(昭52)年教育学部卒。選手時代は捕手、早大4年時には新人監督を務めた。早慶戦で注目して欲しいところはチームの『和』だと書いてくださった髙橋監督。春のように打線が爆発し、大量得点で勝利を挙げているわけではありませんが、チームワークを武器として接戦に勝利し続けている今季のチーム。早慶戦でも、その『和』から目が離せません。