【連載】秋季早慶戦直前特集『It's SHOW TIME!』第8回 岡田稔基新人監督

野球

 快進撃の裏には、この男たちの活躍がある。髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)と選手との橋渡しを行う学生コーチ陣。中でも岡田稔基新人監督(スポ4=埼玉・川越東)は首脳陣の意向を汲んで練習メニューを組み、時にチームに喝を入れる存在だ。今回は『早稲田スポーツ早慶野球(秋)号』の特集企画に際し、岡田新人監督に「人を育てる」ことの極意を伺った。

※この取材は10月23日に行われたものです。

「みんなが活躍してくれるのが一番うれしい」

真剣な眼差しで話す岡田新人監督

――早大に進学した理由はありますか

早大に進学したのは、高校の1つ上の高梨さん(雄平、平27スポ卒=現JX―ENEOS)というピッチャーの方がいたのですが、その人ともう一回同じチームで野球やりたいなと思って、早大を志望しました。自分自身将来スポーツを仕事にしたいなと高校生の当時は考えていたので、スポーツ科学部がある早大を目指しました。

――一般受験ですか

はい、そうです。

――学生コーチになったきっかけはどういうものですか

きっかけは、早大を目指したきっかけでもあるのですが、野球で日本一になりたかったからです。日本一になるためには、自分が学生コーチをやった方が、この学年は機能するんじゃないかなと思って志望しました。

――いつから学生コーチを志望されていましたか

 2年の春くらいですかね。同期の中でも自分を(学生コーチに)推してくれる人がいたので、自分がやるしかないかなと思いました。

――学生コーチの存在は入学前から知っていましたか

 はい、知っていました。

――選手をやることに関して未練は感じましたか

 はい。

――それでも切り替えて学生コーチをやろうと

 はい。

――学生コーチの仕事内容はどのようなものですか

 メニューを決めたり、監督の意向を選手たちに伝えたり、おおざっぱに言ったら練習を円滑に回す役割です。

――ご自身でメニューを作ってから監督に見せるのですか

 はい、そうです。

――学生コーチの面白さを感じるのはどのようなところですか

 面白さというか、嬉しさを感じるのは同期が試合で活躍したり、あとは落ち込んでいる選手に声をかけて、その選手が試合で結果を出してくれたりするときです。みんなが活躍してくれるのが一番嬉しいです。

――落ち込んでいる選手に声をかけるのを難しいと感じることはありませんか

 いや、しょっちゅうあります。

――言いにくいと

 そうですね。言いにくさもありますし、相手の心境を考えてから、言葉を選ぶようにはしています。

――やりがいを感じるのは、やはり同期や選手の活躍を見たときですか

 はい。あとは自分自身、選手が調子悪かったり、追い込まれたりした状況でこそ声をかけてあげることが必要だなと感じます。マスコミとかもそうだと思うんですが、調子が良かったら持ち上げる人ってたくさんいるじゃないですか。そうじゃなくて、選手が追い込まれた時こそ、人間として本性が出ると思いますし、そういう逆境とかで、持ちこたえられる選手、がんばれる選手が活躍してくれると思うので、そういう時に自分の存在意義があるかなと感じます。

――学生コーチをしていて苦労したことはありますか

 選手の心境を読むことです。言葉を選ばないといけないと思うので、そこはちょっと気をつかうようにしています。

――選手は指導するうえで心がけていることはありますか

 心がけているのは、追い込まれた時に頑張れるような、声掛けなどをしてあげることです。早大に入ってくる選手は、みんな高校時代はエースで4番とか、言ってみれば大将たちがほとんど集まっていると思うんです。なので、そういう人たちだからこそ、試合に出られなかったら萎えるとかいうのがあるのかなと、1年生のときに見ていて思ったので、そういうふうに落ち込んだ時に声かけてあげようと思いました。

――監督やコーチではない、学生コーチだからこその強みとは何ですか

 強みはやはり、選手と同じ立場や目線の高さで、物事を考えられることかなと思います。監督に言えない部分も話せますし、監督が普段思っていることを選手に伝えることもできますし。選手に近いのですが、監督さんの意向も組みながらできるというのが学生コーチならではと思います。

――選手の相談に乗ることもありますか

はい、あります。ただ4年生になってからは、あまりないです。

――例えばどのような相談を受けますか。

野球のことが多いですね。バッティングフォームが見ていてどうなっているとか。守備で球をとりにいく時も足が動いているかとか。そういったところですね。

――選手に言いにくいことはありますか

 言いにくいことはやはり、気がのらないときって人間だからあると思うんです、選手にも。彼らはその中でも頑張っているという意識はあると思うのですが、4年生という立場を遠くから見ると、やはりその態度じゃいけないんじゃないと思うこともあります。4年生個人に対してもそうですし、4年生という学年に対してもそうですが、そこをちょっと言わないといけないなというときはあります。それはちょっと言う前に勇気がいる気がします。

――ご自身の野球経験が、学生コーチをするうえで活きたことはありますか

 まだ20何年しか生きていないですが、自分の高校時代の監督が、自分の人生の中で大きなポイントだったなと思います。その高校時代の監督が言っていたことが高校時代は本当に分からなかったのですが、それがいまになって、すごい分かるようなった感じがします。いまの野球の見方でもう一回選手としてやりたいなと思いますね。

――主にどんなことを高校時代の監督から言われましたか

 野球の面だったら、カウントごとでバッテリーが考えることとか、いまは当然だと思っていることなのですが、その当時はただがむしゃらに野球をやっていた感じがあるので、そこはいま野球やったらちょっとは楽だろうなと思います。

――大学野球全体での学生コーチの重要性についてはどう考えていますか

 大学生は、基本的には大人なので、他の大学は見ていないのでわからないのですが、特に今年の早大はまあ4年生中心に主体性があるっていうか、ほったらかしといても練習するような選手ばかりです。だからこそ気持ちが落ちたとか、落ち込んだ時に声かけていられるのが学生コーチかなと思います。

「厳しさがある指導者になりたい」

試合中はコーチャーを務めるほか、声でも仲間を鼓舞している

――2軍戦や新人戦でも指揮を採られることがあると思いますが、どのようなことを心がけていますか

 心がけているのは「縛りすぎない」。まあ自由にやらせてもいいところは自由にやらせるようにしています。

――具体的にはどのような点ですか

 エンドランとかをかけすぎないとか、やっぱりみんな基本的に野手だったら、ヒットを打つために練習しているじゃないですか。その成果を試合で出させてあげたいなというのはあります。(試合で)指揮し始めた当初、3年の春とかは、選手を動かしすぎて、試合の中で縛りすぎちゃったなというのを感じたので、そこからちょっと変えるようにしました。

――指揮を採り始めたのは、いまおっしゃったように3年生になってからですか

 そうです。

――大変なことや難しいと感じるのはどういったことですか

 難しいと感じるのは、ピッチャーの継投のタイミングと、新人戦でタイム取ってマウンドに行くタイミングが難しいですね。

――試合中にマウンドに行く時はどのような言葉をかけますか

基本的には、あまり重要なことは言ってないです。例えば、フォアボールとか出していても、球自体が走っていたら、球走っているからと、気持ちいらさず振って行けよという感じで、あまりちゃんとしたことは話していないです。

――嬉しかったことやエピソードはありますか

 代打が成功したとか、あとは、試合で結果が出ていなかった選手でも、普段の練習手を抜かずに頑張っている選手とかを紅白戦とかでポッと出したとき、その選手が結果を残してくれると嬉しいですね。

――初出場の選手や緊張している選手とかもいると思いますが、そのような選手にはどう接していますか

 基本的には前向きになるような言葉を選んで、代打を送る時には、「打つために練習してきたんだから、しっかり3つ振ってこい」と声をかけて送ります。

――スターティングメンバーを決めるなどの采配の決め方はありますか

 スタメンを決めるのは、結構好きです。いまでは結構プロとかでも主流なんですが、2番バッターにいいバッターを置いてバントさせないとか結構好きなんですよね。大型な選手を2番にぽっと置いたりだとか、8番、9番にある程度計算できるバッターを置いて、打線が切れないようにしたりっていうのを考えるのが結構好きです。

――ヤクルトの2番、川端慎吾選手というのも、そういうかんじですかね

 いいですね(笑)。

――プロを参考にしてスタメンを決めますか

 そうですね。

――同じ指導者として高橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)から学んだことは何ですか

 監督については、就任前は鳴門工高でがつがつ練習して、厳しい方というのを聞いていたので、あれやれこれやれで縛り付けるのかなと思っていました。しかし、ある程度(選手を)大人扱いして、締めるべきところは締めるんですが、縛りすぎない、選手がのびのびしてできているんだなと、のびのびしている中に、緊張感や厳しさがあるというのをすごい感じます。言葉で表すのが難しいのですが、そういう選手の扱い方がうまいなと感じます。

――高橋監督も早大在学時に新人監督をされていましたが、その点でアドバイスはありますか

 練習量を増やせと言われました。

――普段の高橋監督はどのような感じですか

 優しい方です。

――練習の時とは違った

 そうですね、はい。

――早大野球部のなかで高橋監督はどのような存在ですか

グランドに入ってきただけで空気がピリッとするというか、やっぱり一番上にいる人だなという感じですね。

――ことしの春、監督が代わってすぐ日本一でしたが、監督が代わって変化したところはありますか

 周りの人にはすごい変わったと言われるのですが、自分には目に見えて変わったのがあまりよく分からなかったです。ただ、いまの4年生と高橋監督がうまく合っているなという感じはします。いまの4年生は主体性が強くてしっかりやってくれる学年なのですが、だからこそ泥臭さというか、一球に対して執着心とか、そういうこう高校野球でやってきたかつ大学生になって忘れかけていた部分を高橋監督は持ってきてくれて、うまくかみ合ったというのをすごく感じます。忘れていた部分を監督が持ってきたなっていうのは感じます。

――岡田さんから見て、高橋監督が指導者として優れているところはありますか

 経験値がすごいので、選手の扱い方がうまくて、こういう状況の時はこういう声掛けをするとか、ちょっとやそっとや動じない方なので、相手を考える、先を読むというところで、高校で二十何年指導されてきたというその経験の深さを感じます。

――目標とする指導者はいますか

 目標とするのは、高校時代の監督です。

――主にどういったところですか

 やっぱりいまの時代って、怒られてきた人って少ないと思うんです。ゆとりとか言われて、親も過保護になって、いいこいいこされて育ったと思うんですよ。自分の学校がある程度進学校といわれている学校で、やはりそれなりに中学校の時に勉強できたやつが入ってきているからこそ、怒られてきていないからこそ、だめなものはだめとはっきり言いますし。怒るというのはすごいエネルギーや勇気がいると思うのですが、それを躊躇なくしていた方かなと。いい悪いをすごい教えてもらいました。そんな厳しさがある指導者になりたいです。

――新人監督として、選手にとってどのような存在でありたいですか

 あまり出すぎてもいけないと思うので、追い込まれた時に岡田見れば大丈夫だというぐらいな感じがいいかなと思います。

――早大での4年間で得たものは何ですか

 得たものはやはり「あきらめなければ目標に届く」ということですかね。あとは「孤独に勝つ」。それができるかできないかが、あきらめないで努力できるかできないかにつながってくるのかなと思います。

――4年間で1番の思い出は

 日本一になったことなのですが、まだ途中なので。

――いままでで印象に残っている試合は何ですか

 たくさんあるのですが…。2試合いいですか(笑)。春優勝できると思ったのが、明治の1回戦負けた後なんです。それは試合を覚えているというか、試合後のミーティングで、右京(河原、スポ4=大阪桐蔭)がみんなに話してくれたのです。ずっと選手主体のチームを作りたいとコーチで言っていて、それまでだったら自分とかがミーティングしますとしてミーティングを始めるのですが、その時は負けてロッカー上がってきて、ぱって全員そろって右京が喋ってくれたのを見て、主体性のあるチームを作れたなと思い、優勝できるだろうと思いました。そして優勝した春の早慶戦の1回戦の、あの大観衆の中で野球ができたというのは、一生忘れないですね。

――最後に岡田さんにとって「育てる」とは

 自分も学ぶことだと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 加藤佑希乃、川浪康太郎)

◆岡田稔基(おかだ・としき)

1994年(平6)1月26日生まれ。身長175センチ、体重70キロ。埼玉・川越東高出身。スポーツ科学部4年。4年間を振り返って一言、という質問に対して、大きく『夢』と書いてくださった岡田新人監督。卒業後はコンディショニングコーチとして経験を積んだ後、将来的には高校野球の監督として甲子園を目指したいと『夢』を語ってくださいました。