早大が誇るスピードスター重信慎之介副将(教4=東京・早実)が臨むラストシーズン。ここまでリーグトップの打率を残すなど、1番打者として大車輪の活躍を見せている。春秋連覇が懸かる早慶戦にどのような思いで臨むのか。前日に行われたプロ野球ドラフト会議の様子と共に、お話を伺った。
※この取材は10月23日に行われたものです。
重ねた努力が結果につながった今季
笑顔で質問に答える重信
――今季ここまで4割1分4厘という打率ですが、ご自身の成績についていかがですか
春苦しんだのでそういった面では調子もいいですし、すごくいい感じで来ています。ただ細かいことを言えば自分の中でミスもありますし、決して満足はしていないです。
――自分の中でのミスとはどういったものですか
打ち損じだったり際どい球を見逃しての三振もあったので、そこは防げるミスだったと思います。そういった面でも突き詰めていけばもっといい結果が出るのではないかと思っているので、決して満足はしていないです。
――出塁率は5割超えですが、1番打者の役割を果たせていると思いますか
最低限はできていると思いますが、まだまだ足りないなというのが正直な感想です。
――理想とする数字はどのぐらいですか
目指すはもちろん10割です。なかなか難しいですが、目標としては10割と言っておきます。
――「盗塁数が少ない」とおっしゃっていましたが、シーズン前半は盗塁できる機会が少なかったと思います。その時は盗塁したいという思いはありましたか
もちろんありました。前にランナーがいたり、ホームランを打ったり、2塁打、3塁打を打ったり。(長打を)打ったら点も入るしうれしいのですが、ただちょっともどかしい思いもありますね。
――立大2回戦からは3試合連続2盗塁をされていますが、そこからは満足のいく数字を残していますか
1試合に2盗塁は最低ラインとして掲げているので、ギリギリ許容範囲かなと思います。
――目標は全打席盗塁ですか
そうですね。出塁したらしたいですね。
――今季はいままでよりも安定してヒットを打てていますがその点についてはいかがですか
塁に出られているという面ではすごくいいことだと思います。ヒット、エラー、フォアボール、デッドボールでも出られていますしそれが僕の役目なので、ヒットが出ない日でもそういうところで出塁できているのはいいことだなと思います。
――相手にとって嫌がられる選手を理想として掲げていますが、今季はその目標に近づけていると感じますか
まあ春よりは。ただ、まだまだです。
――より嫌がられる選手になるために必要なことはなんだと考えますか
簡単にアウトにならないことですね。もちろん初球からも打っていきますが、捉えた当たりならいいのですがポップフライや、相手にラッキーと思われるようなアウトのなり方だけはしたくないので、そういうところで捉えた打球を打つことや、単純に球数を投げさせること、2ストライクで追い込まれてから簡単にアウトにならずにファールで粘ることなど、そういったところを突き詰めればもっともっと嫌がられるかなと思います。
――シーズンが始まる前は「いつも通りやるだけ」とおっしゃっていましたが、始まってみて気持ちに違いはありましたか
夏の打率は2割7分ほどしかなかったのですがオープン戦が始まった当初は5試合ぐらいで4割あったので、数字は最後出ていませんが自分の感触としては良かったです。シーズンに入って結果が出て、自分の満足のいく結果が出なくても自分の中で調子は悪くないというのがあったので、心境の変化は特にないです。
――好調の要因はなんだと考えますか
やはり日々の積み重ねだと思います。リーグ戦だからやるとか、練習試合だから頑張るとかではなく、練習の時から日々疲れた体をケアしていることがラストシーズンここまで満足はしていないですが、いいかたちにはなっているかなと思います。
「自分を一番表現させてくれる職業」
――ドラフトの話に移っていきたいと思います。指名された瞬間は驚いたとおっしゃっていましたが、いかがですか
びっくりしました。正直良くて4位ぐらいかなと思っていたので、本当にびっくりしました。
――当日はテレビでご覧になっていたのですか
そうですね。寮は1つのテレビしか映らないので、そこでみんなで集まって一番前で見ていました。
――プロ志望届を出すのはどれぐらいの時期から決めていたのですか
結構迷ったので、夏ぐらいですね。リーグ戦に入る前ぐらいからです。
――当日はそわそわしましたか
それはいろいろな人から聞かれますが、すごく楽しみだったのでそわそわというか、早く始めてくれないかな、みたいな。そわそわとは違った、待ち遠しいという気持ちです。
――読売の球団イメージはどんなものですか
ワセダの岡村前監督(猛氏、平53二文卒=佐賀西)が、日本のヤンキースは巨人、学生野球はワセダとおっしゃっていて、野球を引っ張っていくのはその3チームだと教えられました。ワセダから巨人に指名していただいたのはすごく光栄ですし、すごい球団だなというイメージがあります。
――プロに入って対戦してみたい捕手や投手はいますか
特にいないです。プロの選手はみんな一流ですし1つ走るのもいままで以上に大変だと思うので、どんな選手からも(盗塁を)したいですね。
――プロ相手に走塁面で戦っていく自信はありますか
自信はあります。ただ簡単にはいかないと思うので、技術を磨いていかなければいけないなと思います。
――周囲からの反応はいかがでしたか
LINEはすごく来ましたね。すごく溜まっていて返すのは大変でした。
――全部返したのですか
一応きょうの朝5時頃に200ぐらい返して、一応0になりました(笑)。
――プロ野球選手に憧れはあったのですか
ずっと小さい頃からプロ野球選手を目指していたわけにはないので、憧れの職業というわけではないんですよね。
――プロ野球選手についてはどういったイメージを持っていますか
憧れを持っていたわけではないのですが、いまの僕から野球を取ったら何も残らないので、自分を一番表現させてくれる職業かなと思います。
――意識し始めたのは最近なのですか
意識し始めたのは2年の春です。試合に出始めてからですね。
――きっかけはあったのですか
1年生の頃から代走で出させてもらっていて、試合に出るということは中村さん(奨吾、平27スポ卒=現プロ野球・千葉ロッテ)がいたので正直諦めていました。1年間、盗塁、走塁を磨こうと決めて、2年生になって試合に出させてもらえるようになって、1年間磨いた盗塁、走塁を試合で実践して「自分の足って魅力的なんだな」と気付きました。もともと足には自身がありましたが、こんなに魅力があるんだと気付いてからですね。そこから先が見え始めたのがきっかけでした。
――憧れの選手が青木宣親選手(平16人卒=現サンフランシスコ・ジャイアンツ)ということですが、メジャーに行ってみたいという思いもありますか
もちろんありますね。やるからには行きたいです。もちろん日本の野球界がすごくないというわけではないですし、WBCで勝つような世界一の野球だと思うのですが、幼い頃から海外に興味があったので、そういう意味でゆくゆくは海外のチームでプレーしたいなという思いがあります。青木さんも行かれているので、ワセダからプロ野球、大リーグという道に憧れがあります。
――対戦したい投手は高校の先輩の斎藤佑樹投手(平23教卒=現プロ野球・北海道日本ハム)とおっしゃっていましたが、早実高出身のプロ野球選手は斎藤投手以来となりますが、その点についてはいかがですか
早稲田実業の存在を知ったのは斎藤さんがきっかけだったので、そういった面でも僕が斎藤さんの次にプロ野球に行くというのはなんだか不思議な気持ちです。
――早実高に入学したのは斎藤投手に憧れてのことですか
つまらないかもしれないですがそうではなくて、祖父が早大の政経(学部)の柔道部の人で、小さい頃からワセダ、ワセダと言われていました。ワセダと言われても分からないぐらいの頃から言われていて、そこから斎藤さんがきっかけで早稲田実業を知って、ワセダってかっこいいんだなと思い始めました。早実は勉強もすごいし野球も強いんだというのが単純にかっこいいなと思って行きたいなと思いました。
――早大で野球がやりたかったのではなく、早実に憧れてのことだったのですね
そうですね。早慶戦に憧れたとかではなく、早実がかっこいいなと思ったからです。
――野球はいつ頃から始められたのですか
小3、小4ぐらいですね。
――野球がやりたくて始めたのですか
いや、違いますね。お母さんが阪神ファンですごく野球が好きで、小さい頃からヤクルト対阪神戦を見によく神宮球場に行っていました。野球がすごく好きだったわけではなく「やってみなよ」と言われて、その時は3歳からゴルフをやっていたので「ゴルフもあるけどなあ」と思いながら初めて体験入部に行って。なんか分からないですけど始めていましたね(笑)。
――ゴルフ、陸上、サッカーなどいろいろなスポーツをやられていたと聞きますが、一番好きなスポーツは何ですか
うーん…アメリカンフットボールが好きです(笑)。
――やるのが好きなのですか
はい、やりたいなと思います。あとはアイスホッケーとか。もちろん見るのも好きですし。そっちに興味があります。
――野球はあまり見られないのですか
ファンとして見ることはないですが、やっぱり自分がやっているスポーツなので配球やランナーの動きや守備位置は勉強になるので、そういうところを意識して見ますね。
――フォームなどを参考にしている選手はいますか
それは特にいないですね。目指すところは青木さんですが、打撃フォームも最初はまねから入ってもいいかもしれないですが、打撃不振になったときに自分で考えたものではないと修正がつかなくなるので参考にしている選手はいないです。
――盗塁でも同じですか
それも打撃と一緒で、走り出す前のフォームはメジャーの盗塁王やプロ野球界の盗塁王を、過去のものもいまのものもいろんな選手を見ましたが、同じような選手がいなくて、本当にそれぞれスタイルが違っていて。ということは自分で探さなければいけないんだなと。もちろん参考にするというか、いろんな選手がやっていることを試してみますが、そこから自分のものをどのようにつくり上げていくかということでやっているので、誰を参考にしているというのは全員を参考にしています。
――足では誰にも負けないとおっしゃっていますが、ご自身の走塁面で特に優れているところはどこだと思いますか
スピードと言いたいところですが、スタートを切る勇気だと思います。中間走、スライディング、いろいろありますが、スタートを切る勇気、度胸だと思います。
――どのような気持ちでスタートを切っているのですか
やっぱり相手も味方もスタンドも「走るぞ」と見ていると思うんですよ。なのでそこでスタートを切ることはすごく勇気のいることで、ただそこで当たり前のように走ってセーフにならないといけないので、そういった面ですごくプレッシャーは掛かりますが、そこを普通にやって普通にセーフになりたいと自分が一番思っているので、そこの葛藤はすごく楽しいですね。
――盗塁は楽しいのですか
楽しいですね。すごく楽しいです。
――どの瞬間が楽しいのですか
意外かもしれないですが、ピッチャーがセットポジションに入って時間が止まるじゃないですか。その時が一番楽しいです。ピッチャーだけじゃなくキャッチャーとの駆け引きも楽しいですし、スタンドが注目している感じもすごく楽しいですね。さっきもありましたが、みんなが「行くぞ」と見ているので、「行くよ?」みたいな(笑)。それが一番楽しいです。
――楽しさに気付いたのはいつ頃ですか
大学2年生の時ですね。1年生の時はただがむしゃらで、ただ「俺は速いぞ」という感じで走って刺されたりして。
――余裕が生まれたということでしょうか
そうですね。研究したりして。でも次に楽しいのは、キャッチャーが刺したいところで走ってセーフになって、キャッチャーの悔しそうな顔を見るのがすごく楽しいです(笑)。
――その時はどういう気持ちなのですか
なんというか、「刺せなかっただろ?」みたいな、そんな感じですね。六大学のキャッチャーはみんな友達なので、打席とかでも話すんですよ。「今回は刺すからな」とか言ってきて、「やってみろよ」みたいな感じで走ってセーフになって。
――誰と仲がいいのですか
立大の鈴木(貴弘)ですね。すごい肩を持っていますが、彼から走ったら本物だと思っていましたし、そこで走って決めて、彼との勝負が一番楽しいですね。
――立大2回戦では2盗塁を決められましたが、その時の気持ちはいかがでしたか
すごく気持ち良かったですね。「これで対戦できるのも最後だね」と言って打席に入って、走って。後から録画したテレビを見たらその場面がちょうど映っていて、セーフになって僕が鈴木の方を指差したんですよ。そうしたら鈴木もすごく笑っていて。笑いながら「やられたー」みたいな顔をしていて。自分のことですけど、すごくいいなあと思いました。彼とはすごく楽しいです。
――走塁面強化に特別な練習はしていますか
特別なことはやっていないですが、体のケアとかですかね。疲れてきたらやっぱり体は動かないので、キレがなくなると多少ですがスピードも落ちるので、そこは大きな差だと思うので体のケアはすごく気にしてやっています。
『早慶戦男』が挑む、最後の伝統の一戦
その俊足は球界随一と言われている
――重信選手の早慶戦通算打率は4割1分9厘なのですが、ご自身の中で早慶戦では打てるという意識はありますか
ありますね。得意だなというのは意識の中であります。
――小野田選手(俊介、平27社卒=現東京ガス)は「人が変わったように打てる」おっしゃっていましたがいかがですか
人が変わったようにとは思わないですが、やっぱり早慶戦は雰囲気も違いますし別物なので雰囲気を楽しんでいるなと思いますね。
――楽しいから打てるということでしょうか
楽しいし、清々しいし、いろんなことを考えずに無心になれているんですよ。考えずに楽しめているのでいい結果になっているのではないかと思います。
――しびれる場面を楽しめるとよくおっしゃっていますが、しびれる場面とは具体的にどんな場面ですか
さっきの盗塁の場面や、逆転が懸かったところや、チャンスといったところですね。
――早慶戦はしびれる場面ですか
もちろんそうですね。初回の打席からしびれますし、塁に出ればしびれますし、2塁に進んでもしびれますし、逆に守っていてピンチになればしびれますし。やっぱり別物ですよね。
――早慶戦は特別な舞台ですか
そうですね。もちろん一戦必勝ですが、やっぱり違うものはあります。
――特にここ3季連続で優勝が懸かっていましたが、そういったところも大きいですか
やっぱりそうですね。人も入りますし。人が入れば単純にしびれますね。
――注目されるのは好きですか
好きですね。楽しいです(笑)。
――2年春に早慶戦だけ出場できずに悔しい思いをして、そこから奮起してレギュラーを勝ち取ったという話がありましたが、早慶戦はモチベーションになりますか
いま早慶戦がモチベーションかと言われればそうではないですが、当時出られなかった時は、秋は絶対出るぞということをモチベーションでやっていました。ただ、いまは早慶戦に出るというのはモチベーションではないですね。
――ポジティブというのはもともとポジティブだったのでしょうが、それとも意識してポジティブでいようということなのでしょうか
小さい時はすごくシャイボーイでした。小学校の時に学校の代表で、交換留学でオランダに派遣されて、その時に違う文化に触れて。外国の人ってすごくフランクに接してくれて、ホームステイだったのですが知らない子なのにすごく温かく受け入れてくれて。自分を表現することはすごく大事だなとか、していない自分はすごく損だなと思いました。あとは、大きくなってからいろんなスポーツに触れたので、スポーツは体で自分を表現しますし、シャイなところはいまでもありますが、目立ちたいとかそういったところは短期留学といろんなスポーツに触れたところが大きいと思うので、もともとポジティブかと聞かれたらそうではないですし、いまポジティブを意識しているか言われたらそうではないです。ポジティブになろうと思っていまこういう考えになったのではないので、いろんな人に触れたりいろんなスポーツに触れた結果だと思います。
――六大学の中で仲のいい選手はいますか
立大の鈴木と、慶大のショートの山本(泰寛)は仲がいいので、いつも慶大戦や立大戦が楽しみです。
――山本選手とは同じチームになりますが、連絡は取りましたか
すごくうれしかったですね。一応2件くらい連絡を取りました。彼も忙しいと思ったので、「一緒だね、頑張ろう」くらいにしました。
――もう少しで大学野球生活も終わりますが、四年間の野球部生活を軽く振り返っていかがですか
いろんな人に出会えましたし、本当に野球をやるために早稲田大学に来ましたし、そういった面でいろんなことを吸収した四年間だったと思います。学ぶことの大切さや、感謝の気持ちはすごく大切だなと感じた四年間でした。
――早大野球部のいいところはどんなところだと思いますか
世間をにぎわしている先輩がたくさんいますし、1年生から考えると3歳上までいますが、現役の時も素晴らしい先輩がたくさんいて、いろんなことを教わって、時には叱られて。そういう先輩に巡り合える素晴らしい場所だと思います。
――副将としての1年間はいかがでしたか
河原主将(右京、スポ4=大阪桐蔭)は大変だったと思うので、僕として全うしたなとは思わないですが、河原主将が少しでも重信がいてくれて良かったと思える瞬間があればうれしいなと思います。
――アンケートで早慶戦の注目ポイントは「脚」と書いていましたが、打撃よりも脚に注目してほしいですか
そうですね。毎回それは1年生の時から脚と書いていますが、もちろん足です。打撃も向上しなければいけないし、打撃がないと駄目だとも思っているのですが、やっぱり自分を表すのは足だと思うので、そこは打撃ではないですね。脚を見てほしいです。
――早慶戦には首位打者も懸かっていますが、首位打者を取りたいという意識もありますか
もちろんあります。きょねんの秋も首位打者が懸かっていて、早慶戦の3戦目で急に茂木(栄五郎、文構4=神奈川・桐蔭学園)に取られたので。盗塁王は公にはならないので、1つタイトルが欲しいなというのはあります。
――最後の早慶戦、どんな活躍を見せていただけますか
守備でも走塁でも脚は見せられると思うので、とにかく脚で魅了するようなプレーをしたいです。
――最後に、早慶戦に懸ける思いをお聞かせください
絶対負けたくないとかは言うまでもなくて。別物とは言いましたが、でも一戦一戦戦っていくうちの一戦には変わりないので、懸ける思いは正直一緒なんですよ。でも矛盾していますが絶対に負けたくない相手ですが、明大に負けるのはいいのかと言ったらそうではないですし。違うですが一緒なんですよ。最後まで、全力疾走ですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 谷田部友香)
早慶戦で注目して欲しいところを書いていただきました!
◆重信慎之介(しげのぶ・しんのすけ)
1993年(平5)4月17日生まれ。身長173センチ、体重70キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。右投左打。早大学生会館内にある弊部の部室で行われた今取材。重信選手は四年間で初めて建物に入ったそう。部室の入口で、学生証をスキャンして暗証番号を打ち込むシステムに感心していました。