【連載】秋季リーグ戦開幕特集『覇者の挑戦』 最終回 髙橋広監督

野球

 『早慶戦での勝利、リーグ戦の優勝、そして大学日本一』。就任当初、3つの目標として髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)が挙げていたものだ。それらをすべて成し遂げた春を終えて、いま指揮官の胸中には何が宿るのか。さらなる飛躍をめざす秋季リーグ戦の開幕に際して、その思いをうかがった。

※この取材は9月3日に行われたものです。

「優勝できたのは選手のおかげ」

――就任して最初のシーズンで目標をすべて達成されたわけですが、当時を振り返ってどのように思われますか

すべてうまくいって、出来過ぎでしたね。優勝するときはそうなのかもしれませんが。私は経験もないし、初シーズンだったので、それで優勝できたのは選手のおかげだと思いますね。

――優勝、そして日本一になった理由として大きな物はありましたか

主将を中心にして、4年生のまとまりが良かったことですね。そこに大竹(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)とか下級生の投手陣がうまくかみ合った。打線はほとんど4年生ほとんど引っぱったわけですからね。ただ、いわゆる野球をつくっていくことにおいて、バッテリーがまず守りのリズムをつくることが重要で。各校のエースを相手にしてもほとんどイーブン、負けていても1点ほどで後半まで行けたことが大きかったですね。そして向こうの投手が疲れてきた頃に、打線がそのいいリズムを汲んで、球を捉えてきたということ。基本的には投手のリズムが良かったのでしょうね。例えば先発が4点も5点も取られたとしたら、いくら打線が良くても6点をとって逆転するというのは難しい。前半のリズムが良くて同点で推移していて、終盤以降にぽつぽつと点を取って、疲れてきた頃にドッと点をとるということ。守備から、投手からのリズムで打線も快調に回ったと思いますね。秋もそのまま行きたいですが、打つのは水物ですからね。相手投手や調子によってすぐ変わりますから。

――投手といえば、夏季オープン戦では立川尚登選手(社1=東京・早実)や奈須怜斗選手(社2=宮崎・延岡学園)など若手の起用も目立ちました

連日試合をしていると、選手にとってはいい経験になると同時に疲労になってきてしまいますからね。中3〜4日空ける必要があって、そういう時に若手の選手も1軍で投げるようにしていました。

――春季リーグ戦で戦ってみての各大学のイメージはいかがでしょうか

初めての対戦ですので、聞いていた状況と自分が見た判断で少し違いましたけどね。ひとつ言えるのは、各大学ともエース級の投手がとても良いよいうことです。そんなには点取れないですよね。たまたま春はワセダの試合は最終的に点差は開きましたが、エース級の投手からは2〜3点の攻防じゃないですかね。なかなか3点はとれないと思います。だから、どちらのチームに『3』が先にともるかですよね。先に3点目を取った方が、かなりイニシアチブを取れると思いますね。

――先日道端俊輔選手(スポ4=智弁和歌山)にお話を伺った際も、3点以内に抑えるのが目標と語っていらっしゃいました

私もよく言うのですが、3点以内に抑えたゲーム、例えば1−2で負けた試合はバッテリーの責任ではないと。打線の責任だよ、と。3−4で負けるとしたら、これは投手の責任だ、と。もちろんこれは目安なので、全てでは無いですけどね。

――春に優勝してから、周囲からの声や対応などは変わりましたか

春は優勝候補筆頭ではなかったのに完全優勝、そして大学日本一を成し遂げたわけで。それはそれなりに評価していただけたのかなと思いますね。

――それはプレッシャーにはなりませんか

プレッシャーにはなりませんね。私はなりませんけどね。

――一方で、チーム内の雰囲気は優勝してから変わりましたか

もちろん自信にはなっているでしょうね。気をつけなければ行けないのはその自信が過信になって、油断が出ることですよね。それとか、守りに入ること。ディフェンディングチャンピオンのようにね。俺達は強い、と自信を持つことは大事ですけれど、勝たなければいけないと言うようになってくると、意外ともろいですよね。あくまで私はチャレンジャーとして戦う、ということを言っています。春は優勝しているからチャレンジャーと言うのはおかしいだろう、と思われるかもしれませんが、秋に関してはチャレンジャーだろうと。あくまで私たちは春の覇者。秋はまた一からの挑戦者ですからね。連覇とか言われますけど、目標はあくまで秋の優勝ですね。

――夏はどのような目標をもってトレーニングをしてきましたか

当然春に優勝したということは、秋にマークされるということですよね。みんなワセダを倒すことを目標にしているわけだから、データやありとあらゆる手を使って弱点を見つけ、攻めてくる。それを克服して、それを上回るだけのチーム力が無いといけませんよね。弱点を極力カバーするようなことを心がけてきました。レベルを上げる、ワンランク上げないと当然勝てないですからね。オープン戦でも打線はコンスタントに打っていますが、リーグ戦に入れば相手は研究してきているわけですからね。春と同じようには打たせてくれないと思いますね。春はたくさん打っていますからね。

――夏季オープン戦をご覧になっていて、秋に向けてこの選手に期待できるという選手はいらっしゃいますか

みんなコンスタントに打っているからね。誰ということはないですね。春と同じような、どこからでも点の取れる打線が強みがあると思いますのでね。

――この夏に伸びた、という選手はいらっしゃいますか

中澤(彰太、スポ3=静岡)はオープン戦が始まった期間は非常に低調だったのですが、ここに来て回復の状態がいいですね。調子を上げてきている。

――春には下級生の選手も終盤に調子を上げていたように見えました

石井(一成、スポ3=栃木・作新学院)はコンスタントに重要なところで打ってくれていますからね。ちょっと彼も調子を落としていましたが、オープン戦終盤にはホームランも打ってね。

――4年生にとっては秋がラストシーズンとなりますが、期待している選手は

春に代打や指名打者で出ていた藤田(恭輔、商4=埼玉・早大本庄)はオープン戦でもスタメン起用していて、もともと打撃の良い選手ですからね。

――吉永健太朗選手(スポ4=東京・日大三)も最後の秋を迎えます

春が終わって、取り組み方も変わって一皮むけたような感じになって。とても期待しているんですけどね。福井のオール早慶戦は良かったんですよ。練習の様子も、最後の秋に懸けるんだという気迫を感じましたけどね。

――渡辺琢也選手(教4=東京・早実)は捕手だけでなく一塁手としての出場もありましたが

ケガや故障以外では道端を交代することは無いので、また、一塁手の控えをしていた佐藤晋甫(教2=広島・瀬戸内)を外野に回したりしたので一塁手の控えがいなくて。渡辺はどっちでもできるからね。

「秋もあくまでチャレンジャーとして」

――秋にやりたい野球はどのようなものでしょうか

春の通りでしょうね。まず投手からリズムを作って、守って、負けない野球をするというね。そんなにいつも点を取れるわけではないですから、少ない点で勝つというね。1点差で3−2とか2−1とか、勝つならそういう試合が良いですよね。もちろん大量得点で勝つのはいいけど、そんなにいつも点が取れるわけではないですから。

――その点では、春に優勝したからという変化はありませんか

考え方は変わりませんね。打線には、打って打って打ち勝ってくれとかは思っていません。結果的に春は打っただけで。要は最後に1点勝っていれば良いわけです。

――守備に重きを置く、という

守備というよりはバッテリーですね。投手が良かったら、打球も難しい打球は飛びませんから。詰まった当たりはぼてぼてになって、それはエラーもしにくい。コントロールが甘ければ長打になって、野手陣にも鋭い打球が飛んでくるわけでしょ。ですからすべて投手の責任ですね。もちろんどこへ来ても捕るのが野手の仕事やけど、それでも捕りにくい球より捕りやすい球の方が良いですからね。

――ここまでのオープン戦を振り返って点数にするとしたら、何点でしょうか

投手力に不安があるぶんを差し引いて、6〜7割ですかね。雰囲気は悪くはないですね。

――夏場の東京六大学オールスター戦などで間近に他大の選手をご覧になって、どなたか警戒している選手はいますでしょうか

法大の選手はみんな状態がいいですね。ピッチャーもキャッチャーも、打つ方も、それぞれが状態が良い。状態が上がっている感じですね。法大とは10月中盤に戦うということで、少し時間があるのでまだ良かったけれど。いまの状態は怖いですね。出ている選手みんなが良かったし、雰囲気もいいですね。春も良かったけれど、さらに良くなっている。

――法大野球部はことし創部100周年ですしね

だいたいそういう、何周年という時は優勝するんですよね。まわりからも言われるし、それを目指してというのは強くなりますからね。

――モチベーションという点で言えば、リーグ史上初となる『四冠』への期待もかかります

それは言っているだけでね(笑)。目の前の秋の優勝、そして明治神宮大会も優勝、となれば、気がついたらグランドスラムを達成しているわけじゃないですか。それだけを見て固くなるのは良くない。なったらいいな、とは思いますけどね。秋もあくまでチャレンジャーなわけですから。

――最後に秋の目標をお願いします

とにかく優勝ですね。リーグ戦で優勝しないと明治神宮大会には行けないわけですから。

――ありがとうございました!

(取材・編集 芦沢仁美)

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955(昭30)年2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977(昭52)年教育学部卒。選手時代は捕手、早大4年時には新人監督を務めた。先日行われた侍ジャパン高校代表対大学代表の試合の解説を担当した髙橋監督。高校野球にも大学野球にも精通した監督ならではの視点で、試合をご覧になっていたのですね。ちなみにイチオシの高校球児は、仙台育英高の平沢大河選手だとか。