【連載】早慶戦直前特集『Strikin’ Back』 第1回 河原右京主将

野球

  これがキャプテンだ――。ここまで8勝1敗1分、全てのカードで勝ち点を挙げている早大。終盤での驚異的な粘りも目立ち、数々の接戦を物にしてきた。その中で、何度も好機で勝利につながる一打を放ち、チームをけん引しているのが河原右京主将(スポ4=大阪桐蔭)だ。誰よりも強い責任感を胸に戦い続ける頼れる背番号『10』。大舞台に懸ける思いを語っていただいた。

※この取材は5月20日に行われたものです。

「全てを懸けて打席に入っている」

立大2回戦で満塁弾を放つ河原主将

――ここまで全カードで勝ち点を挙げての1位ですが、いまのチーム状況を振り返っていかがでしょう

苦しい試合もいくつかありましたが、チーム一丸となって、チーム力で勝っているという感じがしていますね。雰囲気はすごく良いと思います。

――『チーム力』の要因、求心力のようなものはありますか

自分たちが新チームになったときに、去年から戦力が落ちて弱くなっているのだというところから言い始めて。その謙虚さ、自分たちが弱いという思いを一人一人が持っているからこそ、底力が出ているのだと思います。

――開幕前の前評判で言えば、ドラフト候補が揃う明大や強打者揃いの慶大などに比べ、早大の評価は決して高くありませんでした。ご自身はどう考えていましたか

それは自分たちでもわかっていて、常々自分も話していました。周りからもそういう風に言われているので言っている人たちを見返してやろう、と。

――弱いところから始めた、と仰っていましたが、それは同期内で話し合ったりしたのでしょうか

話し合う、というか、自分たちが弱いから、というのはずっと言い続けていて。打線も、こんなに打てると思っていなくて。主軸が抜けるので、チーム野球をしないと勝てないと思って。例えば無死二塁であれば、凡打になるにしても進塁打を打つ、そういう練習もしていたので。ここまで打線がつながっていることに、自分たちでも驚いています。

――成績だけ見れば、きょねんのチーム打率とも同じくらいで負けていないと思いますが

負けてないですね(笑)。みんな、気持ちの問題だと思うので。前評判を見返してやろうと思っていたので、その気持ちの強さがこういう結果に現れたと思います。

――開幕を迎えて最初の試合は東大戦でした。新人戦で東大に負けた学年、というのもおっしゃっていましたが、一時逆転された際は焦りはありましたか

ないと言ったら嘘になりますね。つないでつないで、チーム力で勝ったのかなと思います。

――その後は道端選手の適時打で勝ち越しに成功しました。今季、そのような終盤での逆転や勝ち越しが目立ちますが、その要因は

どんなに点差を離されても諦めないという気持ちですね。どういう形でも、最後に1点勝っていれば良いというチームスタイルなので。そういうところから、全員諦めないという気持ちがつながって、逆転できているのだと思います。

――中でもご自身は好機での強さが目立ちます

自分はキャプテンを任されていて、チームが苦しいときにチャンスで打つというのはキャプテンの役目だと思っているので。いま負けているときに満塁で打てていますが、そのときは全てを懸けて打席に入っています。その結果が良い方向につながっているのかなと思っています。

――打席が回ってきたときに緊張しないのですか

緊張はないですね。どちらかといえば、やってやろう、と。自分が打って流れを変えられるチャンス、くらいに思っています。

――昨季の立大カードでも、当時の主将・中村奨吾選手(平27スポ卒=現プロ野球・千葉ロッテ)の好機での一打で優勝戦線に残るという一幕がありました

そういう場面でキャプテンに回ってくるようになっている、と思うので、そこで打てばチームも乗ってくると思いますね。そういう場面は何試合に一度しかないと思いますが、そういう場面が来たときには集中して(打席に)入っています。

主将としての責任感を胸に

――『責任感』という言葉は常日頃から口にされていますが、それはいつ頃から芽生えたのでしょうか

新チームになってすぐはそういう実感は沸きませんでしたが、オープン戦が始まって、沖縄キャンプ頃からは意識するようになりましたね。実戦が始まってくるくらいから、自分が責任感を持って戦わないと、という意識が芽生えるようになりました。

――そのきっかけになったことはありますか

きっかけは特にありませんが、試合が実際に増えていく中、勝っていくことが求められるようになって。どうしたら勝てるかを考えるようになりました。それからですかね。

――主将になるということはいつ頃から決まっていたのでしょうか

最後の秋の早慶戦が終わってから投票で決まるのですが、それからしばらくオフがあって、その間は自分たちも何も聞かされていなくて。新チームが始まった、朝の集合のときに伝えられました。

――自分がキャプテンになると決まった瞬間は、どのような主でしたか

候補としては挙がっていたので、役職には就くだろうと思って覚悟はしていました。いろいろと準備して気持ちをまとめていたので、呼ばれたときもそこまで驚きませんでしたね。

――キャプテンの経験はいままで

小学校だけですね。高校では副将だったので。

――チームを束ねるような仕事に就くのは久々だったのですね

いや、高校の時から副キャプテンという役職には就いていたので、キャプテンと一緒にチームをつくっていったつもりだったのですが…。ただ、キャプテンになって実際に思うことは、やはり主将と副将というのは全然重みが違って。主将になってからは本当に、責任感を持つようになりました。

――キャプテンとして、普段の生活での振る舞いも変わりましたか

いえ、普段は何も意識していません。そのままの自分で、という感じです(笑)。

――練習や試合に入ると切り替えて、という

そうですね。チームがだらけているとき、空気が緩んでいるときは伝えるようにはしています。

――プレーで引っぱるタイプ、言葉で引っぱるタイプ、とあると思いますが、ご自身はどちらだと思いますか

どちらかといえばプレーですかね。

――プレー面において、キャプテンに就任してから変えたところはありますか

試合中であれば、視野を広くしていることですね。ミスした選手に声をかけたり、ベンチでも声をかけたり、そういうことは気をつけるようにしています。

――周りの目は変わりましたか

いえ、そこまで感じませんね。プレッシャーも全く感じません。

――先ほど茂木栄五郎選手(文構4=神奈川・桐蔭学園)も「右京はキャプテンになってからチームを先頭に立って引っぱってくれる」と話していましたが、それは自覚的にやっていることでしょうか

え、そんなことを言っていたんですか(笑)。あまりそういうことは考えていないですね。試合中などの自分が感じたことを、できるだけ口にしたりはしていますが。

――プレッシャーはない、と先ほどおっしゃっていましたが、キャプテンとして重圧はそこまで感じない、ということですか

チームを勝たせないといけないという思いはもちろんあって、負ければその責任は自分にあると感じるのですが。きょねん、中村さんからも「キャプテンであることを変に意識し過ぎずに、自分らしくやったら」と言われたので、そこまで重くとらえていません。プレッシャーという風にはとらえていませんね。

――キャプテンとしての河原さんの『自分らしさ』とは何だと思いますか

難しいですね。ふざけるというか、はっちゃけるときははっちゃけることですかね。キャプテンになったら厳しくなったりする人はいると思うのですが、そういうところも必要だとは思いますが、普段の生活では明るく振る舞っています。そういう、本来の自分を変えないようにしています。

――キャプテンならではの大変なことはありますか

自分がチームについて思うことを、ここまでは言うべきなのか、これは雰囲気を悪くしてしまうから言わない方がいいのか、ということを決めることですかね。それを決めるのは難しいです。

――その際に相談する相手は

自分はひとりで抱え込んでしまうタイプなので。あまり話しませんね。最初の方は副将にも相談していましたが、リーグ戦が始まってからは副将にも自分のプレーをのびのびして欲しいので。副将たちには役職にとらわれずにやってほしいと思っています。チームのことは自分が考えるようにしています。スタッフにはたまに相談することはあるのですが、リーグ戦が始まってからはあまりありませんね。

――昨年度は中村主将と新人監督の直原さん(大典、平27人卒)が練習のパートナーを組んでいらっしゃいましたが、河原主将は

後輩の砂田(至、人3=佐賀・東明館)といつも練習をしています。もともとはなんとなくやっていたのが、そのままルーティーンになって。

――満塁の場面でも重圧は感じないとおっしゃっていましたが、それは元々でしょうか、それとも主将に就任してからでしょうか

主将になってからですね。昨年度ももちろん、ランナーを返そう、とは思っていましたが、今ほど重くとらえてはいませんでした。自分の一打はチームに流れを呼ぶと思っているので、意識するようになりましたね。

「流れを呼び込むような一打を」

ベンチのムードメーカーとしても欠かせない存在だ

――現在リーグ1位タイの10打点ですが、その点に関しては

それも前の打者がつないでくれて、自分にチャンスで打席を回してくれた結果なので。そこで、キャプテンとして、どうにかしてでも点をいれたいという気持ちで打席に入っていて。その結果だと思います。

――試合中にキャプテンとして求められる役割は何でしょうか

自分がミスをしたときにも、態度や顔に出したりというのはしないようにしています。みんな見ていると思うので、自分が冷静を保っていなければいけないと思っています。「ああっ」とは思うのですが、ここで引きずったらダメだなと思って切り替えるようにしています。

――ここまで丸子達也選手(スポ4=広島・広陵)、道端俊輔選手(スポ4=智弁和歌山)など、ここまでなかなか出場機会に恵まれなかった同期の方の活躍も目立ちます

彼らも1年生の時から、苦労しながらここまでやってきたので。苦労をしながら努力を重ねて来た分がここで出ているのではないかと思います。

――その他の打撃陣についてはいかがでしょう

カギを握るのは上位打線かと思いますね。自分も『初回』というのをすごく大事にしていて。1イニング目で3人で終わってしまうと、流れも相手側に行きやすくなってしまうので、1回の攻撃で、昨年度からレギュラーを経験している1番・重信(慎之介副将、教4=東京・早実)、2番が自分、3番・茂木、の3人が出塁していかないといけないと思います。重信がアウトになった時は自分が必ず塁に出よう、と思っていますね。初回は3人で終わらない、という。

――明大2回戦の初回の本塁打もそのような思いが詰まったものだったのでしょうか

今季、1回に塁に出る機会が多いのですが、あの試合は前日に負けていたので、ここで自分がまた塁に出れば雰囲気を帰られるかもしれないと思って思い切って振った結果がああなりましたね。ホームランになるとはおもっていなかったのですが。

――守備位置は遊撃手からケガの影響で二塁手に移りましたが、もう慣れましたか

いや、全然慣れていませんね。突然変わったことなので。

――二塁手特有の難しさは

ここまで自分は三塁、遊撃を守ってきていて、それと景色も動きも逆になるので全然違いますね。

――そんな中でも声出しなどは心がけている、と

二遊間と言うのは守備の要だと思っているので、それは昨季までと変わらずにやっていますね。

――守備中に心がけていることは

投手に声を掛けにいくこと、エラーした選手のフォローや外野へのポジショニングの声掛けも心がけながらやっています。

――二遊間を組む石井一成選手(スポ3=栃木・作新学院)とは守備についてお話なさいますか

特に話すことはないですかね。石井もずっとサードをやってきましたが、高校の頃はショートをやっていた経験もあるので。そこは自分も安心して見ていられるというか。

――いまの投手陣をご覧になっていかがでしょうか

4年生があまり出られていないので、自分としたら最高学年が活躍してほしいところではあるのですが。実際には下級生たちが頑張ってくれているので、助かっていますね。小島(和哉、スポ1=埼玉・浦和学院)であったり、大竹(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)であったりは、後ろから見ていて頼もしいですし、安心して見ていられます。4年生が投げられない分本当に頑張ってもらっているので、感謝の気持ちが大きいです。

――投手陣で早慶戦でカギを握るのは

1回戦の先発。となると、大竹ですかね。

――これまでの早慶戦で一番思い出に残っているのは

きょねんの早慶戦は春秋共にすごく印象に残っています。目前にあった優勝を、早慶戦に敗れて逃したということで。

――ことしも優勝の懸かる一戦となります

去年も両方優勝懸かったところで、早慶戦で負けてしまっているので。その経験を生かして、その悔しさを晴らしたいですし、その早慶戦に懸ける思いはとても強いです。

――1つ勝てば優勝、というのはどうとらえていますか

1つ勝って優勝、というようには捉えていません。早慶戦で勝ち点を取って、完全優勝することを目標としているので。

――慶大で警戒している選手は

投手だったら加藤拓也、打者は横尾(俊建主将)、谷田(成吾)ですかね。

――加藤拓投手攻略のために意識していることは

ストレートに力があるので、それに振り負けないようには注意しています。

――早慶戦というと観客も多いですが、歓声は聞こえるものでしょうか

はい、力になりますね。雰囲気も全然違いますし、プレーしていて、リーグ戦の中でも特に楽しいです。

――早慶戦の勝敗を握る要素は

投手陣ですかね。慶大は打線が良いので、それを投手陣がどう抑えて行くか、自分たちがどう守るかがカギになると思います。

――早慶戦で求められるご自身の役割とは

ことしから出場する選手が多いので、早慶戦の雰囲気に飲み込まれて緊張する可能性もあるので。そういう選手には気を遣って声掛けもしないと、と思います。あとは、チームが苦しい時に打つこと。チャンスで自分に回ってきたら、流れを呼び込むような一打を放つだけです。

――意気込みをお願いします

ここまで一戦必勝、目の前の試合だけを全力で戦うということをやってきました。その結果がこの勝ちにつながっていると思うので、そのスタンスは変えません。一勝したら優勝ですが、そういうことを意識せずに、早慶1回戦にチーム一丸となって向かおうと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 芦沢仁美)

◆河原右京(かわはら・うきょう)

1993年(平5)11月4日生まれのA型。身長173センチ、体重76キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。内野手。右投左打。「ご自身にとって早慶戦とは」という問いに悩んだ末、色紙に『華』と書いてくださった河原主将。実は、昨年の秋の特集で当時の中村主将も同じ言葉を選んでいました。キャプテンに脈々と受け継がれる系譜なのかもしれません。学生野球の『華』である早慶戦、頼れる主将の一打に期待がかかります!