【連載】春季リーグ戦開幕特集『進』 最終回 髙橋広監督

野球

 ことしは早大にとって、変革の一年になるだろう。投打に中核を担っていた選手たちが卒業し、監督には史上初めて元・高校教員の高橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)が就任。「早慶戦に勝つ、(東京)六大学リーグで優勝する。そして大学で日本一になる」。目標に向かうその姿は早大野球部の救世主となるか。1年目の抱負を伺った。

※この取材は4月4日に行われたものです。

伝統を背負い、出陣

キャンプとオープン戦を振り返る高橋監督

――きょうの練習はどのように行なわれましたか

 オープン戦の間だったので、軽めにやりました。

――早大の監督に就任されましたが、要請が来たときのお気持ちはどのようなものでしたか

 いままで、私のような現役の時に実績のない人が監督をされていないので、まさか自分にそのような話が来るとは思っていなかったですね。

――現役以来の早大のユニホーム、背番号『30』の着心地はいかがですか

 すごい重責ですからね。110年の歴史と重みを感じますよね。

――還暦での就任を運命づけておられるようでしたが

 あくまでタイミングでね。1年早くても私ではないし、1年遅くても私でない。個人的に年齢や野球を離れるタイミングと早大からの要請のタイミングが合ってね。すごい運命というか縁をすごく感じますね。

――高校監督時代は甲子園を目指す戦いでしたが、神宮での戦いとは雰囲気が大きく違うと思いますが

 甲子園とは勝ち上がって出られる大舞台であって、六大学とは元々神宮でね。元から大舞台ですが(笑)、そこで目指すものはやはりワセダの宿命であります、「早慶戦に勝つ」ということ。これが一番ですし、それで「六大学で優勝すること」これが二番目ですよね。で、三番目に「大学で日本一になる」と。我々のころでしたら、40年前ですから、大学選手権の歴史もまだ20回ぐらいだったので、早慶戦の歴史、六大学の歴史から比べたら短くてあまり評価されなかったんですね。でも、いまでは(大学選手権は開催)60何回を数えますからね。やはりその中でワセダは(優勝が)4回。その中で最近2回というのはちょっと少ないのではないかと感じます。古いOBは大学日本一という感覚をあまり持たれていないんですよ。早慶戦で勝って、六大学を制するというのが最大の目標だったのですが、いまは大学選手権も歴史を重ねてきたので、それからしたらワセダの4回は少ないような気がしますよね。だから1回でも多く(優勝を)積み重ねることが出来れば良いかなと思います。

――早大に就任してから選手たちには「まずは学生である」という部分で指導をされていると思いますが、態度や姿勢といった部分でしょうか

 安部磯雄先生の建部精神にあるように、一番大事なのは学生の本分を全うすることであると。要するに知識は学問から、人格はスポーツから、ということですね。もちろんいまの学生は真面目に授業に出て単位を取って、ちゃんと卒業しますからそれで良いのですが、それが一番の優先事項であって、その上で野球をすると。なおかつ野球で勝たないといけないと言うのがワセダの宿命ですから。

――沖縄キャンプの前半では悪天候などでなかなかメニューをうまく消化できていなかったようですが、後半はどうでしたか

 雨で使えなかったと言いながらも、施設も良かったのでね。屋内もありましたので、外で出来ていなかっただけで、それなりに消化できてはいましたね。そのときには(選手の)状態がどうかわかりませんでしたが、後の同大との定期戦や帰ってきてからのオープン戦での仕上がりは良かったのではないかと思います。

――同志社大との定期戦ではほぼ100点に近いというような評価もされていましたが

 良い試合でしたね。投げて抑えるべき人がちゃんと抑えてくれて、打線では打つべき人が打ってくれて点を取り、ナイスゲームだったと思いますね。

――それを経て、オープン戦が始まりました。監督ご自身はどう感じていますか

 負けているのは社会人だけですからね。大学相手には負けていないですし、社会人でも日本の双璧と言われている、JX—ENEOSとJR東日本、この両方には負けていないわけですからね。相手の投手起用などがベストメンバーなのかはわかりませんが、ネームバリュー的には社会人の強豪には負けていない。状況としては悪くないと思いますね。ただいまのワセダの状況が六大学の中に入って、どこにあるのか、どの辺の位置につけているのかは私も未経験でちょっとわからないのでね。これだけは経験してみないとわかりませんのでね。

――チームに合流してから最初に掲げた目標は何でしたか

 やっぱり「負けない野球」ということですよね。守備力、投手陣も含めてね。まず攻撃力は主軸が抜けていると言われていました。私はきょねんを見ていたわけではないので、そういうことを言われても、私はそこまで悪くはないと思うのですが。まずやはり負けない野球をしようと思いましたね。どちらかと言えば投手力や守備力に主眼を置いていたのですが、悪くないし、そこまで大きなミスで試合を落としていると言うこともありませんのでね。まずまずできてきつつあるのではないかと思います。

――チームの中心である河原右京主将(スポ4=大阪桐蔭)は指名打者での出場でしたが

 やっぱり彼が出ないと打線が大きく違ってきますね。河原は指名打者として出ていましたが、茂木は完全に同大戦の後は出ていなくて。その状況にしては打線がよくカバーしているなと思います。

――得点する際は連打が多いように感じますが、それは監督の狙い通りでしょうか

 打つのだけはそういう風に行きませんからね(笑)。たまたまでしょうけどね、打は水物ですから。投手力と守備力は計算が出来ますが、打つのだけは相手の投手が良かったり、苦手な投手だったりだと全く打てませんからね。昔から打は水物と言われますからね。

――その中で川原孝太選手(文構4=静岡・掛川西)は内野手から左翼手へ、重信慎之介副将(教4=東京・早実)も右翼へ、茂木選手も二塁手へコンバートし守備の面で移動が多かったように思いますが

 旧チームがわからないので現状でこういう形になっているのですが、いまの状態がベストに近いのかなと思います。

――オーダーを組む上でもかなり選手の入れ替えがあったように感じますが、そこは選手の調子などを見ていますか

 まあ指名打者制のあるなし、河原が入る、入らないで全然違いますし。またゲームの数も段々多くなってきてるので、それでアベレージを残しているか残していないのかある程度わかるのでね。調子を落としてきている子は出番が少なくなってきているのはありますね。逆に調子が上がっている子は、オーダー的には変わってないかもしれませんが、例えば石井一成(スポ3=栃木・作新学院)は打線を上げたりしていますしね。

――道端俊輔選手(スポ4=智弁和歌山)をずっと捕手で使われていますが、背番号『6』ということで固まっていますか

 そうですね。いまのチームの状態を見たら、彼が正捕手になるのがベストですね。

――その中でもまだ許盗塁が多いように感じますが、監督はどう感じていますか

 ワセダの投手はけん制もうまいですしね。けん制死もあり、皆でカバーしあって、チームとして戦っているなと思いますね。

――また1番・重信選手、4番・丸子達也選手(スポ4=広島・広陵)はずっと起用され続けています

 オープン戦の数字だけ見たら、丸子は首位打者で安打も一番多いですからね。重信の足ということを考えると1番は外せないですね。

――足を使うという部分で、選手たちにもかなりバントの機会が多いように感じますが、スモールベースボールの徹底ということでしょうか

 打者と走者の状況で使い分けはしていますが、バントは多いのかな(笑)。

――この前見受けられたのは、ノーアウト1塁の場面で5番の石井選手がバントをするという場面でした

 まあその時の点数にもよりますよね。立ち上がりで、ノーアウトで5番だったらまあ先制点が入ってなかったら、バントするかもわからないですからね(笑)。まあそこは臨機応変にですね。

日本一に挑む布陣

試合前には自らノックを行う

――投手陣では大竹耕太郎(スポ2=熊本・済々黌)選手が安定して勝ちを重ねて、新入生の小島和哉(スポ1=埼玉・浦和学院)選手なども期待通りの投球をしていて下級生の活躍が光りました

 まあ竹内(諒、スポ3=三重・松阪)もいいですし、ずっと竹内、大竹が安定してずっといいですけどね。 それに吉野(和也、社3=新潟・日本文理)。下の学年と言えば下の学年ですけど、最初から、1月来たときからそういう調子でしたね。

――投手陣は監督が合流して以降あまり調子は変わらずに

 (調子の良い選手の)順番は変わらずに来ていますね。中心になるのはこの辺だなと。見ていたままずっと来ていますね。

――北濱竣介(人2=石川・金沢桜丘)選手などはワンポイントでの起用が目立ちますが

 彼なんかは逆に、私からしても、練習を見ていてそんなに期待していなかったのですが、試合になるとちゃんと結果を残しますよね。

――良い意味で裏切られたと言いますか

 そうですね。練習の状態よりは試合のほうがはるかに良いですね。

――継投や投手面での想定は監督の中である程度決まっていますか

 ある程度はありますが、基本的にはプロと違いますから、分業制ではないですね。まず基本的に先発完投。ただ終盤に来てボールが悪くなったとか(相手打線に)つかまりそうになったらリリーフに交代と言うのはありますが、5回までで先発、中継ぎ、抑えという考え方は持っていません。

――やはりそこでも臨機応変に対応してという形で

 順番は考えますよ。その試合で次に誰が投げるなど、ね。ただ確定的な要素ではないですね。

――リーグ戦でのチーム全体の共通意識は何でしょうか

 強いて言えば、リーグ戦といいながらトーナメントと一緒で、『一戦必勝』。次があるからいいや、という考え方は持たずに、一戦必勝でやっていきたいと思います。

――沖縄キャンプの際にも少しながらチームの変化を感じておられましたが、また1カ月が経ち、感じる変化はありますか

 良くなっていますよ。正月から比べて、状態としては良くなってきていると思います。

――いまのチームのコンディションは何点と評価されますか

 離脱している選手のことを別として考えれば、80点台であることに違いないでしょうね。

――ただその点数が六大学の中ではまだわからない

 それは無理ですね(笑)。やってないですから。これだけは1年間勘弁してもらわないと、経験が無いわけですからね。

――この春季リーグ戦に期待する選手は

 打線では不動の4番の丸子。あとの連中は実績もあるのでもちろん期待していますが、丸子がいまの数字のまま残してくれたらありがたいですね。

――春季リーグ戦の意気込み、ことし一年間のテーマをお願いします

 最初から言っているように、早慶戦に勝って、六大学で優勝すること。で、日本一を目指す。これは大学選手権でも神宮大会でも、とにかく、日本一を目指す、ということですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 豊田光司)

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955(昭30)年2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977(昭52)年教育学部卒。選手時代は捕手、早大4年時には新人監督を務めた。長年暮らした徳島県を離れ、現在は単身赴任中の高橋監督。「まだ都会の生活に馴れない」と苦笑いをしていらっしゃいました。