【連載】『伝説を刻め~Make Legend』 第9回 岡村猛監督

野球

 エースの戦線離脱。開幕前に突如訪れた危機にも、指揮官は動じずピンチをチャンスに変えてみせた。開幕投手にルーキーを抜てきするなど、今季も冷静沈着な采配が光る岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)。今回は、ここまでの戦いぶりを振り返りながら現役生活最後の早慶戦に臨む最上級生たちへの思いをテーマに話を聞いた。

※この取材は10月22日に行われたものです。

変わらぬ姿勢

穏やかな口調で今季を振り返る岡村監督

——あいにくのお天気ですが、けさは練習でしたか

午前中は練習と、あと授業ですね。

——練習の方は室内でやられたのですか

いや、外でやりました。外と室内と両方使ってね。

——立大戦を終えてから2日経ちましたが、いまのチームの雰囲気はいかがですか

負けなかったから悪くはないです。でも、いつもとあんまり変わらないですよ。

——いい意味で平静を保っていると

そう思います。

——ロッカールームからは、春の明大3回戦と似たような熱気を感じました

法大2回戦も随分盛り上がったけど、この間の3回戦も盛り上がりましたね。

——試合後のロッカールームではいつも何か話をなさるのですか

いつもそうなんですが、試合が終わると僕はご苦労さんと一言言って川口(浩部長)先生にお言葉をいただいています。いつも川口先生にお言葉をいただいて、寮に帰って僕の方からミーティングで話をするというスタイルでやっています。

——試合直後はベンチなどでもあまり深く話すことはないわけですね

細かいことはあまりしないですね。この間の3回戦で言えば「ナイスゲーム、チーム一丸での勝利だったな」と。「じゃあ先生のお言葉を」というような感じです。

——川口先生からは普段どのようなお言葉をいただくのですか

「この勢いでぜひ早慶戦も頑張りましょう」と。

——負けてしまったら優勝がなくなるという一戦の中でプレッシャーはありませんでしたか

どうでしょう。選手は意外と伸び伸びとやっていたんじゃないのかな。

——監督自身はプレッシャーを感じられなかったのですか

勝負だから勝つときがあれば負けることもあるし、ベストを尽くして戦った結果が勝つかはわからないし、それは天のみぞ知るということで、我々はできることに最善を尽くすというのが大事なので、そういうプレッシャーは感じませんでした。僕は選手を信じて戦っていくだけなので、あまりそういうのは感じなかったですね。ただ、大事な一戦だったというのは間違いないことでしょう。

——そういった姿勢で一戦一戦変わらずに臨んでいるということですね

僕自身は(試合ごとには)変わらないです。

「ピンチをチャンスに」

——今季は開幕前に有原航平投手(スポ4=広島・広陵)が右肘の違和感を覚えて開幕に間に合わないという状況でした。監督からしてもこれは参ったなといった感じであったのでしょうか

それは痛いですよね。エースが不在というのは非常に痛いんだけれども、それも含めてのチーム力ですからね。過去においても故障した選手や調子の出ない選手がいる中で戦っているわけなので、いまある戦力でどう戦うのかというのかを考えるのが僕の仕事ですから、ないものを追っかけてもしょうがないですからね。

——逆に有原投手を欠く中でチーム内に生まれた意識などはありますか

ミーティングで投手陣が非常に厳しい状況にあるから、野手が頑張って戦っていこうという話はしました。だから、エースがいないというのはピンチ。ピンチだけども、それをどうカバーするかを野手や残った投手が考えるという部分においては、マイナス要素ばかりだけではなくてプラスの要素にも成り得る。チャンスでもあると。逆にチャンスのときは、ピンチが潜んでいるということにも成り得るわけだから、チャンスもピンチも厳しい状況、楽な状況それぞれ見えるかもわからないけど、決してピンチばかりではないしチャンスばかりでもないと僕は思います。

——なすがままにという感じでしょうか

いやいや、ありのままにね(笑)。やっぱりピンチだって捉えている人は、「困ったな、大変だな」と思っていても打開できないわけですし。そういう心のおびえ、ひるむことが最も勝負においてはマイナスのことだと。この状況の中でどうするかを考えれば小野田(俊介、社4=東京・早実)みたいにとにかく打って点を取っていくしかないんだ、となるわけですし、そういったのが法大の2回戦で出たのではないかなと思います。それは個々人がどう考えるか、その考え方においてとにかくプラスに考えていけるように選手たちには話をしているつもりです。

——小野田選手でいえばそういった気持ちの切り換えが好調につながっているのですね

そうですね。

——代わりに主戦を任されている大竹耕太郎投手(スポ1=熊本・済々黌)は春の早慶戦にわずか1回3分の2しか投げていませんが、オープン戦では3勝を挙げ頭角を表しました。先発の候補に挙げたのは監督自身でしょうか

そうです。

——どのタイミングでそれを判断したのでしょうか

全早慶戦が終わった辺りかな。あの試合で安定したピッチングをしてくれましたので、ああいう舞台で安定感を持って投げているというのが一番の証拠ですからね。

——開幕前夜に有原選手から大竹投手に「お前がエースだ。頑張れ」といったメールが送られたそうですが、ご存知でしたか

いえ、知りませんでした。

——やはりそういった上級生のバックアップあっての大竹投手の活躍だと

多分そうなんでしょうけどね。有原にしても中村(奨吾、スポ4=奈良・天理)にしてもいまはチームの中心にいますけど、1年で入ったときは上級生から励まされたり、そういうのを受けてやってきたので、それをいま下級生たちに自分が受けてきたことをやっているのだと思います。

——早大の伝統であるわけですね

別に早大だけじゃないとは思いますけどね。やはり学生野球の良さだと思います。

——明大戦、東大戦、立大戦と大竹投手は1カードに2試合投げることが3度ありましたが、体力的には心配はないでしょうか

いや、心配はありますよ。ただ、本人に聞けば「高校のときもずっと連投をやってきた経験があるので大丈夫です」と。でも大学のレベルは高校と違って厳しいものがあって、立大との2回戦では打たれましたけど、3イニングをホームランの1失点だけでしたから、よく投げてくれていると思います。

——早慶戦に向けて竹内諒選手(スポ2=三重・松坂)、柳澤一輝選手(スポ1=広島・広陵)、黄本創星選手(スポ2=千葉・木更津総合)が救援陣の核になってくるのでしょうか

早慶戦はどういうメンバーで戦っていくのかというのは、まだまだ白紙の状態です。

——開幕前と同じくまたゼロベースで考えていくと

はい、ゼロベースで考えていくことになると思います。

——登板は遠ざかっていますが、髙梨雄平投手(スポ4=埼玉・川越東)や吉永健太朗投手(スポ3=東京・日大三)の調子はいかがですか

吉永は故障なので早慶戦には間に合わないですし、髙梨にしても故障明けの内田(聖人、教3=東京・早実)にしてももう一回白紙に戻して、誰をベンチに入れるのかというのは、これから考えたいと思います。

——鈴木健介投手(教4=東京・早実)も一度ベンチ入りしましたが、早慶戦では4年生メンバーはいつもより多めに入ってくるのですか

上級生にチャンスを与えるとか下級生を中心にとかを考えてベンチ入りメンバーを決めているわけではなくて、調子のいい投手、調子のいい野手をベンチに入れるというのが基本的な考えとしてあります。優勝を争っている中で思い出作りとして選手をベンチに入れたり起用したりするというのは、まずあり得ないと思いますので、1年生であろうが4年生であろうが力のある選手をベンチに入れて戦うと。ただ、学生野球ですから最上級生の4年生の力を期待するところは大きくあると思っています。それは客観的に冷静に判断をしたいと思います。

——今季はチームの得点数49、安打数89ともにリーグトップですが、4番の武藤風行選手(スポ4=石川・金沢泉丘)が不振にあえいでいるのがネックです

クリーンアップという一つのくくりで見るという捉え方もあるんでしょうけど、5番を打っている小野田は好調ですしね。だから最終的には4年生でクリーンアップを固めているわけですから、彼らのうちの誰かが打って得点を挙げると。調子のいい選手もいれば調子の良くない選手もいる。これはうちだけじゃなくて、他のチームにも言えることだと思いますし、そういった中でチーム一丸となって戦うことが大事だと。当然最終週の早慶戦では、クリーンアップもしっかり準備をして臨んでくれると期待しています。

——武藤選手でいえば四死球が9個と非常に多いのですが、それほどチームに警戒されていることの裏返しなのでしょうか

僕が相手チームの監督だとしても武藤はマークしますから、当然研究はし尽くされているということだと思います。厳しいところを攻めて最悪フォアボールでもやむなしという考え方だと思います。

——中村選手の場合は不振の原因をヘッドが下がりすくい上げてしまっているからだと分析していましたが、監督も同様の見解ですか

本人がそういうふうに捉えているのであれば恐らく修正をしていくでしょうし、最終的には周りが何と言っても自分の感覚の世界でプレーをしているわけですから、やっぱり自分が気付き、自分で修正するのが大事なことではないでしょうか。

——修正点が分かっているということは、決して悪い状態ではないと思いますがどうでしょうか

いい状態じゃないことは間違いない。だから結果が出ないということだろうし、どこに修正ポイントがあるかは分かっているでしょうから、後はどこまで修正できるかに懸かってくるでしょうね。だからいま言われたように、調子がいい悪いで言えば調子は悪い。だけど、どこが悪いのかというのはわかっていると。それを直せるかどうかは本人次第。

——東大戦前には中村主将自ら3番に志願したとのことですが、それを受け入れた趣旨は何ですか

茂木(栄五郎、文構3=神奈川・桐蔭学園)が故障で試合に出場できない点からオーダーを見直さなければいけないという状況でしたし、本人がそういう決意を持って言ってきたのも一つの要因です。

——茂木選手の状態を含めても中村主将の気概を買ったということですね

そうですね。

——一方、小野田選手に対して監督自身タイトルを取ってほしいと思っているとのことですが

取れるものなら取ってほしいと僕は思っています。ただ、それを取らせるために何かをすることはないという意味であって、それぞれの選手がタイトルを取れるのなら取ってほしいと。タイトルを取らせるということはしない。取るんだったら自分で取りなさいということですよね。僕が取れるわけじゃないので、取らせるわけでもないし、取ってほしいと思うのが自然な感情だと思います。

——重信慎之介選手(教3=東京・早実)は1番に起用されてからというものの非常に伸び伸びとプレーしているように見えます

2番のときから調子は悪くないと思っているのですが、非常に気持ちが前に出るタイプの選手なので、1番という打順は彼に適した打順なのかなとは思います。残念ながら中澤(彰太、スポ2=静岡)の調子が出ないので、重信を1番にせざるを得なかったという部分もあります。でも重信を1番にすると2番がいないという非常に難しいところだったのですが、河原右京(スポ3=大阪桐蔭)が安定したいい働きをしてくれているので、少し収まってきたかなという感じはします。

——初めは河原選手の2番での起用は迷いがあったということですか

そうですね。下の方であまり制約がないところで自由に打たせた方が右京はやりやすいのかなと思っていましたけど、どの打順でも適応できるという高い能力を持っていると思っています。

逆襲始まる

4年目を迎える岡村監督の采配がカギを握る

——再来週には早慶戦があるわけですが、春に連敗を喫している以上、春以上に気持ちも入ると思うのですがいかがでしょうか

そうですね。秋は4年生にとっては本当にラストシーズンですからね。しかも早慶戦は通常の対抗戦の中でも特別な思いがありますし、春は連敗しているしぜひリベンジしたいという強い思いがあります。

——いみじくも今季の早大と慶大は勝ち点だけでなく、勝った日と負けた日が全く同じという成績です

先週は慶大を一生懸命応援していました(笑)。まあくしくもそういう巡り合わせになっていると。恐らく我々の思いは慶大の選手たちにとっても共通した思いで、とにかく勝ってほしいという同じ思いだったと思います。

——第1戦では加藤拓也投手の先発が予想されますが、現時点で何か加藤拓投手対策なるものを練習に取り入れているなどしていますか

特にないですね。

——警戒しているポイントはどこでしょうか

やっぱり速く強いボールを投げてきますので、そのボールをどう得点していくかこれから考えていきたいと思います。今週は時間帯別の練習になりますので、全員が同じ練習をするという週なので、特に慶大対策といった個別の練習はできない状態なので、特にやっておりません。

——今週末の結果が気になるところです

見てどうにかなるものではないので、試合を見るということはないですね。

——あすはドラフト会議になりますが、2人の選手と何かお話をなさったりはしましたか

ドラフト会議はあるけど、話すことはないですね。

——進路相談というかそういった類の話は以前からやっておられたのですか

もうきょねんからそういった話は適宜やってきているので、別にあしたを控えて何かを確認するというようなことはないです。我々がコントロールできるものではないのでね。指名があることを期待し、どこが指名するかは天のみぞ知るのだから我々にはわからないです。

——結果を受け止めると

それだけですよね。

——ここ数日はマスコミへの対応にも苦労なさったのではないですか

競技スポーツセンターと広報課の方で適切にバックアップしていただいていますので、大変ありがたく思っています。

——では練習などへの影響をほとんどないと

影響がないかといえばゼロじゃないとは思いますけど、先ほど言ったようにピンチとチャンスは隣り合わせということで、そうやって練習に影響が出るのかもわからないけど、注目していただけるのは非常にありがたいプラスのことだと思いますし、粛々と受け止めて対応していきたいです。

——入学時から見てきた4年生との最後の早慶戦になりますが、意気込みは

一緒にいた時間が長いか短いかによって思いが変わるのかと言うと、それは多少は変わるかもわからないですが、やはり4年生にとっては最後のシーズンの早慶戦で勝ち点を取るのか落とすのかというのは全て同じだと思うし、常に僕は4年の秋は早慶戦に勝って送り出したいという思いがありますので、それが4年生であろうが1年生であろうが一緒です。特に春負けているだけに、秋は何としても勝ち点を取って送り出してあげたいという思いです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 小川朝煕)

岡村監督

◆岡村猛(おかむら・たけし)

1955年(昭30)4月1日生まれ。佐賀西高出身。1978年(昭53)第二文学部卒。3回戦にわたる激闘となった立大戦後に、今季一番の盛り上がりを見せた早大ナイン。『猛コール』が沸き起こるなど、岡村監督の信頼度の高さがうかがえる場面となりました。早慶戦2連勝へ、視界は良好です!