【連載】『伝説を刻め~Make Legend』 第7回 小野田俊介

野球

 ラストシーズンを迎えた小野田俊介(社4=東京・早実)のバットが止まらない! 開幕から好調を維持すると、東大戦では2試合連続アーチを記録。ここまで打率リーグトップ、本塁打数と打点数も1位と僅差であり、三冠王も見えてきた。最後の早慶戦を前にする今回は、これまでの大学野球人生を振り返ってもらうとともに、今季の好調の要因、そして天王山への意気込みを伺った。

※この取材は10月22日に行われたものです。

「いい状態でやれている」

今季を振り返る小野田

――今季ここまでの自身の成績を振り返っていかがですか

安打数とかは出ているのですが、落とした明大戦でヒットが出てないというのが一番気になっていますね。

――ラストシーズンということでこれまでと違った感じ、特別な感情というのはありますか

最後ということで、きょねんは本当に4年生のためにというふうにやっていたのですが、そういった意味でことしはきょねんよりも気が楽というか思い切ってやるだけだというふうに感じています。

――打撃が好調ですが、自身でレベルアップを感じているところは

技術的にはそんなにこれまでと変わったところはないんじゃないかなと思っています。ただ思い切りという部分ではきょねん以上にいいんじゃないかなという感じです。

――打点が多いというのは小野田選手にとってはうれしいことなのではないでしょうか

そうですね。やっぱり一番目標にしてきたのが打点(を増やすこと)だったので、そういった点ではうれしいですね

――今季は非常に勝負強いですがチャンスの場面ではどのような意識で打席に入っていますか

「打たなきゃ打たなきゃ」と思うだけ力んでしまいますし良くないので、「ここで打てたらいいな」くらいの感じで硬くならないようにしているのがいいんじゃないかと思います。

――逆に反省点はありますか

ヒットが一日に2本、3本出る日が多い中でも、ムラというか、全くでない日が2試合あったというのが中軸を打っている身としては良くなかったんじゃないかなと思います。

――チームとしては有原航平投手(スポ4=広島・広陵)が万全ではない中で優勝争いに踏みとどまれていますが、チームの戦いを振り返ってみて

有原がいないのはやはり痛いですけど、ただ、だから勝てないのかと言われるとそうでもないと思っていて。みんなで何とかこらえてきた結果がこうして最後の週まで優勝を分からなくしているという部分では、落とした試合もありましたができる限りのことはやっているのかなと思います。

――チームのムードメーカーは誰ですか

柿沼(陽亮、教4=東京・早実)が、ベンチに入ったり入らなかったりしているのですが、いると少し雰囲気変わるなという感じはします。

――早慶戦へはどんな調整をしていきたいですか

これまでバッティングで、力んだりいろいろこうしよう、ああしようとしてきた中で崩してきたというのが一番あります。今季いい状態でやれている要因の一つである『軸』というのを意識してやって、いい形で早慶戦を迎えられればなと思っています。

大学野球は「難しかった」

――ラストシーズンということで、大学野球人生を軽く振り返っていただきたいのですが、まず早実高へ入る際には早大で野球するためというのは考えていたのですか

それはもちろんありました。大学でもやりたいという気持ちは、高校に入った時からありました。

――大学野球へ憧れがあったということですか

そうですね。斎藤さん(佑樹、平23教卒=現プロ野球・北海道日本ハム)の活躍というのも、早実に入ってからも見ていますし、そういった意味でもまたワンランクレベルの上がったところでやりたいという気持ちはありました。

――ほかの強豪の大学にも野球の強い付属の高校というのはありますが、中でも早実高を選んだのは

あまりほかの大学というのを考えたことがなくて。中学3年のときに文武両道の道を選んだというのは間違っていなかったと思います。すごく良かったと思います。

――1年春にいきなりデビューを飾りました。1打席ではありますが初めてのリーグ戦や日々の練習で大学野球のレベルの高さは感じましたか

そうですね。ライトを僕の前に守っていたのが土生さん(翔平、平24スポ卒=現プロ野球・広島東洋)だったので、やっぱりすごいと思いましたし、まだまだだなと自分を感じたことももちろんありました。

――高校から大学に入って、木製バットの適応は苦になりませんでしたか

最初はすごく意識して練習しました。いままで金属で当たればという部分だったのですが、(木製は)しっかりバットを返していかないとボールが飛んでいかないので。最初は指摘されて大変だったのですが、1年間やる中で徐々に打球をしっかり飛ばせるようになったと思います。

――初打席はレフトライナーだったと思いますがどのような当たりでしたか

割といい当たりで、自分としても悪くはなかったと思ったのですが、結果どうこうよりも緊張したというのが一番ありました。

――2年からはレギュラーに定着し、いきなりベストナインに選出されました。いきなりあそこまでの活躍ができるとは思っていましたか

その時もケガ明けでいきなり出たという感じだったので、どこまでやれるかというのは自分も含めて誰も分からなかったと思いますし、運の部分も強かったんじゃないですかね。

――一転して秋は苦しいシーズンだったと思いますが、カベにぶつかったような感じはありましたか

打てば相手も研究してきますし、いま振り返ってみると、当たり前といえば当たり前の結果だったのかなと思いますね。

――自分が研究されていると感じ始めたのはこの頃からですか

そうですね。明らかに外の変化球が増えて、それを捉えられなくて振ってということばかりやっていたので、そのあたりからは配球などを考えるようになりましたね。

――5番を任されるようになっていましたが、中軸の重責というのも感じていましたか

前(4番)を打っていたのが杉山さん(翔大、平25スポ卒=現プロ野球・中日)だったので…。地引さん(雄貴、平25スポ卒=現東京ガス)のケガがあったりして5番を打っていたのですが、やはりあの優勝したチームの中で中軸を打つというのはもちろんプレッシャーもありましたね。

――しかし、3年春には圧巻の成績でベストナインに返り咲きました。研究されたりというのはどのように乗り越えましたか

乗り越えたというか、その一歩先を読むしかないという感覚であのシーズンはやっていましたね。

――相手について、バッティングについてなどいろいろ考えるようになったということですか

そうですね。いろいろ、配球を含めリードの癖などを考えるようになって、それでボールを狙えるようにというふうにはなってきたと思います。

――そして最上級生となりましたが、意識としては何か変わったことはありますか

そんなに大きく変わったことというのはない気がしますね。自分がチームの勝利に貢献するという気持ちは全く変わらないですし。ただ守備の面では、自分が外野の中でも最上級生となって、センターが中澤(彰太、スポ2=静岡)、レフトが重信(慎之介、教3=東京・早実)なので経験という部分では一番自分ができていますし、守備自体は中澤の方が全然うまいですけど、そういったところではなくて精神的な部分で支柱になれたらいいなというのはずっと思いながら練習していました。

――ポジション別練習などもあるのですか

最初のシートノックの時とかは内野外野が分かれてそのあと一緒にやりますね。

――そういった練習の時はやはりリーダーを買って出たのですか

そうですね。

――まず3年秋からの手術、リハビリがありました。野球人生で一番大きなケガと話していましたが、大学に入ってから一番つらい時期だったのですか

ケガして靭帯(じんたい)が切れたときはやっぱりすごく落ち込みましたが、ただ手術してからというのはそんなに落ち込んだというか…。いままでもそのようなケガはいくつかしてきましたし、しょうがないかなというふうな気持ちの方が大きかったのではないかと思います。

――では一番挫折した経験というのは何かありますか

やっぱり最初にレベルの高さというカベに当たりましたね。

――最後の年は春秋連覇を目標にやってきましたが、最後の最後で春は負けてしまいました。やはり悔しさはこれまで以上にありましたか

3年のころはケイオーに全く負けなくて、そんなにやりにくさというのもない中であっさり負けてしまって、あっさりしすぎていて逆に悔しさというのも…。もちろん悔しい気持ちはあったのですが、「あれ、負けてる」という感じになってしまいました。やっぱり今季はそういうふうにはしたくないですね。

――そしてついにラストシーズンに入りました。オープン戦の中盤から調子を上げてきて、いい状態でシーズンに入れたように思えますが

オープン戦といってもやはり神宮とは全く違う雰囲気なので。いままでもオープン戦で2割くらいしか打てなくても3年の春はシーズン入ってから4割以上のアベレージを残せたりして、そういうことも結構あるのでオープン戦の成績というのは全然当てにはしていないですね。本当に状態が良くなってきたのも明大戦が終わってからじゃないですかね。

――法大戦でもヒットがよく出ていましたが、あのころは本調子ではなかったということですね

自分の中で自信があるものというのがあまりなかったですね。手探り状態だった気がします。

――調子の良さを図るバロメーターというか傾向のようなものはありますか

バッティング練習での打球で、フライにならないというか、バックスピンのかかったライナーがバンバン出るときはかなりいい状態なんじゃないかと思っています。

――2カード目の明大戦では手痛い連敗を喫してしまいました。中村奨吾主将(スポ4=奈良・天理)は、連敗は想定外だったということおっしゃっていましたが、小野田選手にとってもあの連敗はまさかという感じでしたか

そうですね。メイジとの試合で苦戦するというのは分かっていたのですが、接戦勝負を物にしようと思っていた中で2連敗してしまって。もちろんあの2連敗というのはいまでも響いていますし、もっと粘れたんじゃないかというのはいまでも思いますね。

――では連敗のショックというのはしばらく引きずってしまいましたか

いや、でもシーズンを経験するにあたって、そういうのを引きずっていてもいいことないというのをいままでもずっと感じてきたので、そういった意味では残り全部勝とうという気持ちにはすぐになれましたね。

――ラストシーズンの最中にはプロ志望届提出の期間もありました。きょねんのスポーツ紙や春の取材の際にはプロへの憧れのようなことも口にしていましたが、社会人を決意した理由は

しっかりとした自信が持てなかったというか、ケガの部分も含めまだこれからもっと高いレベルで経験を積んだ方がいいのではないかなと思ったので。

――自分にはまだまだだと感じたということですか

そうですね。

――将来的には視野に入れているという感じですか

はい、視野には入れています。

――開幕カードの法大戦後に取材した際にはもう決まっていましたが迷いはなかったのですか

迷いはなかったです。

――社会人チームの中でも東京ガスを選んだ理由は

早実から早大と自分は自主性を強く重んじてくれるチームの中でやってきて、それでいまの自分があると思うので、野球部が一番そういう雰囲気にあるチームを選ばせてもらったつもりです。

――明治神宮大会のチャンスなども残っていますが、早慶戦で大学野球生活も一段落となると思います。一番お世話になったのは岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)とおっしゃっていましたが、その理由は

ケガばかりして本当に頼りにならない選手だったと思うのですが、その中でも使ってもらっていろいろ経験させてもらったというのでいまの自分があるわけですし、これからも野球人生が続くわけなので、そういった意味で本当に感謝しています。

――技術的なことというより精神的な面でということですね

そうですね。

――恩師のような存在ということですか

人生の中では絶対忘れない人にはなると思います。

――4年間で一番の野球部での思い出は何ですか

2年の春の時に優勝したというのが一番強く印象に残っています。

――一番印象に残っている打席は

3年の春に白村さん(明弘、現プロ野球・北海道日本ハム)からホームランを打った時ですね。

――本塁打数、長打数ともに現役選手でトップですが、常に長打を狙おうという気持ちがあるのですか

長打は自分のかたちで振れればというのがあるので、長打を狙うというよりは自分のスイングができれば長打は自然に出るくらいの感覚でやっています。

――通算打率も3割を超えていますが、スランプに陥った経験はありますか

大きなスランプはないと思います。2年の秋の打率というのが一番低かったですし、打てたり打てなかったりの起伏はあるのですが、それをいかに小さくするかというのを勉強してきたのがずっと沈み込んだシーズンのなかった要因なんじゃないかなと思っています。

――4年間で失策は1つということですが、守備には自信がありますか

いや、それはないですよ(笑)。有原が投げていればそんなに難しい打球も来ないですし。

――ワセダでの4年間を一言で表すと

難しかったな、というのがあります(笑)。

「勝ちにこだわりたい」

三冠王も射程圏内に入れている

――早慶戦について伺いたいのですが、4年目となりますがやはり早慶戦というのは特別ですか

もちろん毎シーズン、早慶戦というのは特別ですし、他の試合とは違った雰囲気だったりモチベーションというのが自分の中にありますね。いつも楽しませてもらっていますし、やる気をもらっています。

――早慶戦はたくさんの人が詰め掛けますが、観衆が多いというのは意気に感じるタイプですか

観衆の多い方がやはり楽しいですね。甲子園でもそんなに悪い成績は残していないですし、早慶戦でも結果が出ているということはそういうことなのだと思います。

――人が変わったように打てる、というふうにおっしゃっていましたがその要因は分かりますか

何なんですかね。あの雰囲気というのが自分はもしかしたら好きなんじゃないかなと思います。

――ワセダのユニフォームを着て戦う最後の早慶戦となりますが、寂しさはありますか

寂しさはないですね。最後にやってやるくらいの気持ちしか持っていないです。

――春も3ランを放つなど相性の良さを見せていましたが、相変わらず得意なイメージがありますか

苦手なイメージは全くないですね。

――今季の慶大にはどのようなイメージを持っていますか

一発のあるチームで、加藤(拓也、2年)を中心になかなか手ごわいピッチャーもいて。あとはバントが少ないという面では、大量得点も狙ってくる怖いチームだなと思っています。

――先発が予想される加藤投手、三宮舜投手(3年)にはどのようなイメージを持っていますか

2人ともストレートがすごく伸びるので、そこをバットが甘く入ると全部ファールになって捉えきれないので一発で仕留められるかという部分を大事にしていきたいと思います。

――攻略法はストレートに振り負けずにいくということですね

そうですね。

――気をつけなくてはいけない選手は

横尾(俊建、3年)じゃないですかね。先週の試合(明大戦)を見ていてもすごく怖いなと思いました。

――どのようなことが試合のポイントになると思いますか

最初にどっちが流れをつかむかじゃないかなと思っています。

――具体的な目標は

3打点というのを目標にやりたいです。

――早慶戦ではどんなところを見てほしいと思いますか

やっぱり最後なので全力プレーですね。

――最後に早慶戦への意気込みをお願いします

もちろん自分にとっては最後になりますし、優勝の懸かった大事な試合なので、勝ちにこだわって、その中でも自分が打点というかたちで活躍できればと思います。

(取材・編集 伊藤広真)

小野田

◆小野田俊介(おのだ・しゅんすけ)

1992(平4)年10月15日生まれのA型。182センチ80キロ。東京・早実高出身。社会科学部4年。外野手。右投右打。一番仲の良いチームメートは、との問いに鈴木健介選手(教4=東京・早実)の名前を挙げた小野田選手。高校時代はエースの座を争い、大学では投手と打者という別の道を歩んだ二人。その友情はこれからも続いていきそうです!