【連載】『大舞台での逆襲』 第4回 武藤風行

野球

 今季から先発メンバーに名を連ねている武藤風行(スポ3=石川・金沢泉丘)が躍進のシーズンを過ごしている。5番に座ったこの男は、持ち前のバッティングを武器に現在チームトップの打率と打点を記録しているのだ。今回はここまでの秋季リーグ戦(リーグ戦)を振り返るとともに、ワセダに入る経緯、早慶戦の意気込みなどを聞いた。

※この取材は10月26日に行われたものです。

「自分のスイングができれば、結果はついてくる」

現在の状況を話す武藤

――今季ここまでのチームの成績を振り返っていかがですか

走攻守で思うようなプレーができない試合が多かったと思います。打撃ではチャンスで一本が出ない試合が多くて、2戦目で落としてしまう試合もあって、悪い流れが続いてしまったと感じています。

――ご自身の成績について振り返って。チームトップの打率と打点を記録されていますが

最初のほうは割と調子が良かったんですけど、立大戦あたりから状態が除々に悪くなってしまいました。法大戦でも調子が上がらずに3回戦では先発から外されてしまって。早慶戦に向けて状態を上げていけるように、いまは取り組んでいるところです。

――それでは詳細に振りかえっていこうと思います。東大1回戦では公式戦で初めて先発出場を飾り、早速適時打を放たれる活躍も見せました。

先発して最初のほうは緊張していたんですけど、1打席目でヒットが出たことで緊張もほぐれました。このカードで自分の中で平常心を保てるようになったのは大きかったと感じています。

――明大1回戦では猛打賞を記録、2回戦では決勝点となる2点適時三塁打も放たれました。このカードが終わった時点で首位打者に立たれていましたが、かなり手応えを感じていたのではないでしょうか

確かに結果はある程度出ていましたけど、正直なところ自分の中ではすごく良い状態でもないと感じていました。つまりながらのヒットが多かったですし、ヒットが出なかったときの打席の内容もあまり良くなかったので。十分な手応えがあったという感じではなかったですね。

――立大1回戦では適時打を放たれましたが、立大3回戦から法大2回戦にかけて当たりが止まってしまいました。一つカベに直面してしまった時期のように思えますが

立大2回戦から状態が崩れてしまって、それ以降は自分のバッティングというものが出せなくなってしまいました。右足にためる感じでタイミングの取り方を意識していたんですけど、それが上手くいかずに左肩の開きも早くなっていって。法大の船本(一樹)選手も個人的に苦手で嫌なピッチャーということもあり、結果を出すことができませんでした。

――先程もおっしゃっていたように、法大3回戦では今季初めて先発を外れてしまいました。悔しさも強くあったのではないでしょうか

いや、あの時点の自分が出ても活躍できないだろうという思いもありましたし、先発を外されたこと自体には納得していました。調子も落ちていましたし、何よりも優先されるのはチームの勝利なので。チームの勝利を考えたら先発を外されても仕方がなかったと思います。

――結果を残していくにつれて、除々に相手の攻めが厳しくなっていったという感覚はありましたか

そういう部分も少なからずあったかもしれないですけど、やっぱり自分自身の問題ですよね。打てる球がこなかったわけではないですし、捉えるべき球を捉えられなかった場面が多かったと思います

――結果的にチームは3季連続で優勝を逃してしまいました。改めてチームとして見えてきた課題を考えてみると、どのようなものを思い浮かべますか

投打のバランスが良くなかったです。自分たちは打ち勝てるチームではないと思いますが、だからこそ失点を無くして、どういうスタイルで勝ちを積み重ねていくかをもっと考えてやっていく必要があると感じました。

――5番打者を務められていましたが、クリーンアップを任されることにプレッシャーは感じていましたか

打順に関しては過剰に意識することはありませんでしたし、プレッシャーを感じることもなかったですね。どの打順でも自分の仕事をしっかりこなそうという気持ちで臨んでいます。

――一塁手として出場し続けていましたが、ご自身の守備に関してはいかがですか

正直一塁手として慣れていない部分も出てしまったなと感じています。打球を処理する際の投手との連係などでのミスもありましたし、守備に関しても課題が見つかったと思います。

――初めて本格的にリーグ戦を戦っていくなかで、ご自身の中で得られた手応えや課題を総括してもらえますか

打撃に関しては自分のしっかりと練習した形でスイングができれば、本番でも結果がついてくるという手応えはつかむことができました。それを持続していけるような継続性という意味では、課題を感じたシーズンになっています。

――その課題を克服するために残り1週間でどのようなトレーニングを積んでいこうと考えていますか

特別に何かを変えてトレーニングしようという思いはないですね。基本的なことを一つずつやり続けていくことが重要だと考えています。打撃だったら素振りなど、いままでやってきたことを突き詰めてやっていきたいと思っています。

「このままでは野球人生を終われない」

リーグ戦序盤の輝きを取り戻したい

――今季の話から少し話題を移したいと思います。まず武藤選手が野球を始められたきっかけを教えていただけますか

あまり覚えてないんですけど(笑)、小学2年生ごろに父親に少年野球チームを紹介されたのがきっかけですかね。そこからは自然と野球をやっていました。

――高校では金沢泉丘高に進まれましたが、決め手になったのは何だったのでしょうか

石川県で野球が有名なところといえば星陵高や遊学館高などがあったりするんですけど、野球だけをやるのは嫌だと思っていました。野球と学業の両立を考えたときには、この学校が良いなと考えて入りました。

――高校3年間を振りかえってみていかがですか

勉強は想像以上に大変でしたね。何とかこなしていく感じでした。野球に関しては2年時から4番を任せてもらって、遊撃手をやっていたんですけど、大会とかも全然勝ち進めなくて。良い成績を残すことはできませんでしたね。

――高校時代を経て、現在は早大野球部の一員です。ここまでに至った経緯を教えていただけますか

高校で野球をやっていた当初は、普通に大学に行くつもりでした。大学で野球をやるつもりは全くなくて。それがいざ引退したときに、もっと厳しくやれたし、何かが物足りないって感じました。このまま野球人生は終われないなと思って。だから野球を続けようと決めました。

――大学で野球をやるというなかで、早大を選んだ理由というものは

どうせ大学で野球をやるなら、六大学野球の舞台でやりたいと思った自分がいました。当時は早慶戦を実際に見に行ったことはなかったんですが、テレビで見て雰囲気というものはすごく感じて盛り上がってもいたので。それで一般受験をして、早大で野球をやろうと決心しました。

――実際に早大野球部に入部してどのような印象を持ちましたか。入る前のイメージとギャップを感じたりはしませんでした

上下関係や規則なども厳しいという話は聞いていて、それを承知で入ったので、思っていたイメージと違うってことはありませんでしたね。特に違和感を感じることはなかったです。

――1、2年生までは公式戦の出場機会に恵まれない日々が続きました。どのような心境で練習をしていましたか

1年生のころは雑用に精一杯だったこともあり、正直どう練習しようって頭が回らない部分もありましたけど、2年生からは徐々に比重をおけるようにもなりました。走攻守ともに全ての面が不足していることは分かっていたので、とにかく技術を上げていこうと思っていました。だから試合に出られないこと自体は納得していましたし、モチベーションは落とさずに練習はできていました。

――3年春の法大2回戦での代打本塁打はご自身にとってターニングポイントの一つになったと思います。信頼を勝ち取る意味では大きい一打だったのではないでしょうか

打った瞬間の感触は良かったんですけど、スタンドに入るかどうか分からなくて二塁まで全力で走っていたら入ってくれました(笑)。ただ大差で負けていたこともあり、そんなに喜べる雰囲気ではなかったですね。特別に監督(岡村猛監督、昭53二文卒=佐賀西)からねぎらいの言葉が直接あったというわけでもなかったですし、どれくらいの信頼を勝ち取れたかは分からないですけど、自信をつける意味では大きい一打だったと思います。

――春を終えてオープン戦ではレギュラー組に混ざることも増え、今季は先発で試合に出ることも多くなりました。友人や家族からの反応も大きかったのではないでしょうか

それはありましたね。地元からの反響は大きくて、びっくりしました(笑)。両親からは結構メールが送られてきたりします。

――早大野球部で特に仲が良かったり、一緒にいることが多い選手をあげもらえますか

二人だけで飯を食いにいったりすることはあまりないですけど、有原(航平、スポ3=広島・広陵)や小野田(俊介、社3=東京・早実)とかと一緒に遊びに行ったりはします。ボーリングとかしますね。特に有原が一番上手くて、全然かないませんけど(笑)。

――3年生のお二人を挙げられていましたが、3年生はどのような学年だと思いますか

一人ひとりの個性が強くて、能力の高い選手もいると思います。ただまだ一体感という意味では弱いと思いますし、最高学年になったときにはもっと一体感を意識しないといけないと感じています。

――下級生についてはいかがですか

一年生は雑用をやっていることもあり、そこまで分からない部分もあるんですけど、先輩の顔色をうかがっている感じはします。2年生も少し大人しい感じはしますね。

――4年生についてはいかがですか

4年生に関してはすごい一体感を感じます。試合に出られない、メンバー外になってしまった人たちもいるなかで、練習から本当に声を出して率先して引っ張ってくれます。4年生のことは尊敬していますね。

――岡村監督の下で3年間を過ごしてきました。技術的に、精神的に、それぞれ特に成長できたと思える点は何ですか

技術的なところは間違いなくバッティングです。スイングスピードや飛距離に関してもそうですし、打撃面はあらゆるところを伸ばすことができたかなと思っています。精神的な面は、うまくいかなかったときにやれることをやれるか、そういう粘り強さは入学前に比べて培えてきました。

――「勝ったもん勝ち!」を好きな言葉をあげられていました。この言葉が好きな理由を教えてもらえますか

やっぱり自分のやってることは勝負事だからっていうのはあります。勝負の分かれ目で一本打てるかどうかが重要ですし、たとえ試合で自分が活躍できなくてもチームが勝つことが全てだと思っています。

ここぞという場面での一打を

――早慶戦について話を移したいと思います。早慶戦までちょうど1週間となりましたが、チームの雰囲気はいかがですか

リーグ戦の優勝をチーム一丸となって目指していて結果的にはできなかったんですが、ただリーグ戦と早慶戦は別のものだと考えていますし、早慶戦で結果を残せるように練習しています

――完全に気持ちは切り替わっているということでしょうか

そうですね。完全に切り替えられている状態ですし、早慶戦のみに集中しています。

――慶大に対する印象はどのようなものですか

投手陣は1、2年生を中心とした若い選手がそろっていて、勢いのあるチームだと思います。加藤選手(拓也、1年)や加嶋選手(宏樹、2年)も良い投球をしていると思いますし、特に白村選手(明弘、4年)と対戦してみたいなとは思っています

――白村選手がドラフト6位でプロ野球・北海道日本ハムに指名されたという影響もありますか

そうですね。プロになる選手がどういう球を投げるのか楽しみで、一番に対戦したいなと思っています。

――武藤選手にとって早慶戦の魅力はどのようなものだと感じていますか

やっぱり伝統ですかね。大学野球のなかでこれだけの伝統が続いてきた対戦はないと思います。そのような伝統が築き上げられてきたなかで、自分たちがこうしてプレーできることを幸せに感じています

――それでは最後に早慶戦に向けての意気込みをお願いします

リーグ優勝も逃してしまいましたし、もう早慶戦で勝つしかないと思っています。何が何でもチームとして結果を出したいです。個人的には打率にこだわるのではなく、ここぞという場面で打って、打点を挙げられるような活躍をしたいです!

――ありがとうございました!

(取材・編集 松坂和之進)

武藤

◆武藤風行(むとう・かざゆき)

1992年(平4)9月3日生まれ。178センチ、80キロ。A型。石川・金沢泉丘高出身。スポーツ科学部スポーツ医科学科3年。内野手。右投右打。色紙には「勝つ!」の二文字。お話を聞いていくなかで、とにかくチームが勝つことのみを求めている武藤選手の勝負にこだわる姿勢が印象的でした。武藤選手の一打で、『紺碧の空』を響かせてくれることを楽しみにしています!