「あと1点」をつかみ取れず、涙の敗退。失意の準決勝から一夜が明けた。きっと思い返すと悔しさだけでは表せないほどの感情がこみ上げてくるのだろう。だが残酷なのか、はたまた幸運なのか。全日本大学選手権(全日本インカレ)最終日、夢見た舞台ではないが、早大には最後の戦場として3位決定戦が残されている。「後輩を最後に勝たせて終わりたい」(MB岩本大吾主将、スポ4=市尼崎)。「4年生と築き上げてきたものを全部出して笑って終わりたい」(リベロ荒尾怜音、スポ3=熊本・鎮西)。それぞれの想いを抱いて、最後の舞台・3位決定戦へと挑んだ。
対するは粘りが持ち味の日体大。早大は、第1セットからクイック攻撃とサイドからの強打を織り交ぜながら、攻撃を組み立てていく。またブロックタッチからのつなぎ、トータルディフェンスが奏功したディグ、またブロックでのポイントなど、守備でも魅せた。第1セットからリズムを作った早大が、3セットを連取。セットカウント3-0(25-19,25-25-29、25-21)でストレート勝利し、笑顔で締めくくった。
スパイクを打つ重藤、MIP賞を受賞した
第1セットは、OP重藤トビアス赳(スポ4=神奈川・荏田)のディグからOH水町泰杜(スポ3=熊本・鎮西)が相手コート奥に上手く軟打を落とし、幕切れた。その後も、MB伊藤吏玖(スポ3=東京・駿台学園)のクイック、水町のスパイクなどセッター前田凌吾(スポ1=大阪・清風)が多彩な攻撃を組み立てていく。序盤こそは5-6と日体大に先行されたが、MB秋間直人(スポ4=愛知・桜台)と水町が2枚ブロックを決め同点。ここでサーブが回ってきた水町が2連続でサービスエースを決め、4連続ブレイクすると9-6と一気に点差を広げた。その後も、OH大塚達宣(スポ4=京都・洛南)の相手ブロックをうまく利用したスパイクや、3枚ブロック、重藤のバックライトなどで得点を重ねていく。また途中でコートに送り出されたOH芳賀雄治(商4=山形南)がサーブで相手を崩し、重藤のスパイクで得点へつなげた。そのまま早大が流れに乗り、25-19でセットを先取した。
チームを盛り上げるOP中島明良(法4=京都・洛南)
何度も拾い、つなぎ、粘る日体大に対し、早大は第2セットでも攻守で安定感を見せた。開始早々に伊藤と重藤のブロックでポイントを挙げる。ラリー戦となっても、落ち着いて体制を整え、チャンスで秋間がクイックを叩き込んだ。6-6と同点となり、ここでサーブが回ってきたのはまたも水町。ここでもコースを突いたサーブを放ち、2連続でサービスエースを決めると、その直後にはさらに追い打ちをかけるように、秋間と大塚が相手のスパイクをシャットアウト。4連続得点で10-6と序盤に点差を広げた。リードを守ったまま、中盤へ突入すると、18-14の場面で大塚に代わりOH山田大貴(スポ3=静岡・清水桜が丘)がコートイン。その山田が高い打点からスパイクを打ち抜き、20-15とさらに差を広げていく。さらに山田がサービスエースを決めると、早大が勢いそのままに25-19で第2セットも奪った。
サーブを打つ岩本主将
第3セットも山田がそのままコートに送り出されると、山田が立ち上がりから立て続けに打ち切った。序盤から山田のスパイク、秋間のクイック、水町のスパイクと攻撃の手を緩めない。だが中盤までは11-15と日体大を追う形に。ここで水町がボールを叩き込み、12-15。流れを引き寄せ、そろそろ追い上げたいところ。サーバーはまたも水町だ。サーブを起点に山田のスパイクが決まると、次はサービスエース、そして上げるのがやっとの強烈なサーブで相手を崩すと、秋間と山田がスパイクをシャットアウト。ここで同点へと追いついた。だが再び日体大に逆転を許し、20-20と終盤まで均衡が続いた。荒尾の丁寧なレシーブを起点に水町が決め、21-20。後がない日体大はこの局面で2連続ミスを吐き出してしまい、早大が抜け出すと、最後は水町が決め切った。チームメートが駆け寄り、最後は笑顔で全員で円陣を組んで全日本インカレのフィナーレを飾った。
なかなかチームがまとまらず苦しい時間が続いた。あと一歩のところで優勝を逃してきたこの1年。それでもずっと「全日本インカレで優勝する」ことを見据えて、日々課題をクリアし成長を続けてきた。その夢が打ち砕かれた中、迎えた今日の一戦。この1年間築き上げてきたものを「全部出し切れていた」(松井泰二監督、平3人卒=千葉・八千代)。コートには何かから解き放たれたかのように、伸び伸びとプレーする選手たちの姿があった。日本一は達成できなかった。それでも1年間の集大成を発揮し、生き生きとした笑顔で最後の舞台を終えることができた。「笑顔でプレーする姿が1番『早稲田』に似合っているなと思った」(岩本主将)。溢れんばかりの笑顔が、バレーボールを楽しむ気持ちが、全てを出し切った瞬間が、かけがえのない財産として刻まれることを、心から願うばかりだ。
(記事 山田彩愛、写真 新井沙奈、五十嵐香音)
全日本インカレを3位で終えた!
セットカウント | ||||
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早大 | 3 | 25-19 25-19 25ー21 |
0 | 日体大 |
スタメン | ||||
アウトサイドヒッター 水町泰杜(スポ3=熊本・鎮西) アウトサイドヒッター 大塚達宣(スポ4=京都・洛南) ミドルブロッカー 秋間直人(スポ4=愛知・桜台) ミドルブロッカー 伊藤吏玖(スポ3=東京・駿台学園) オポジット 重藤トビアス赳(スポ4=神奈川・荏田) セッター 前田凌吾(スポ1=大阪・清風) リベロ 荒尾怜音(スポ3=熊本・鎮西) |
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途中出場 | ||||
芳賀雄治(商4=山形南) 中島明良(法4=京都・洛南) 山田大貴(スポ3=静岡・清水桜が丘) 岩本大吾主将(スポ4=市尼崎) |
<最終結果>
3位
<個人賞>
サーブ賞 OH水町泰杜(スポ3=熊本・鎮西)
コメント
※松井監督、岩本主将のコメントのみ記載しておりますが、その他コメント及び他の選手、スタッフのコメントは後日、コメント集としてアップいたします。
松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)
――今日の試合前、選手たちにどんな声をかけて臨みましたか
昨日のことを振り返ることはなく、新しい未来を見るために先をみてやろうと。それを言う前から本人たちはその気持ちづくりができていたようなので、学生たちは大人だなと、安心して今日は試合を見ていました。ほんとに良い顔をしてやっていましたね。朝から良い顔をして集まっていたので、大丈夫だろうなって感じていました。
――今日の試合を振り返って
全部出し切れていましたね!
――全日本インカレを終えて、今のチームはどのように映っていますか
優しい4年生がリーダーシップをとって、試合に出ているメンバーも多い3年生と一緒に一つになってできていたのかなと思います。特に今日の試合はあんまり波がなかったですが、それも3、4年生のリーダーシップが発揮できたからなのかなと思います。その3、4年生のまとまりが良いかたちで発揮できたから、こういう結果に表れたのかなと思います。
――山田選手がコートに入ってからは、3年生が中心になりました。3年生にとっても来年に向けて良い経験の場になったのではないでしょうか
そうですね。山田はたつ(大塚達宣副将、スポ4=京都・洛南)がいない時でも試合には出ていました。ですがやはりあの舞台を踏ませてあげないとなとは思っていましたね。いろいろな状況も踏まえて出すべきところだと思いましたし、良く頑張ってくれました。
――やはり「6連覇」へのプレッシャーは相当なものでしたか
今思うと、確かに僕にもプレッシャーはあったのかもしれません。やっぱり学生たちの良さを引き出すという目でチームを見てきたつもりでした。ですが今日の学生たちの表情を見ていると、もしかしたら僕がそういう顔をしていたから彼らもそういうプレッシャーを感じてしまっていたのかなということが頭をよぎりました。そういう部分があったとしたら、まずかったな、プレッシャーをどこかで感じてしまっていたのだなということはあります。
――この大会で来年につながる収穫もたくさん得られたのではないでしょうか
そうですね。やはり実力があるので、少しのところで勝敗は分かれてしまいますし、やはり勝ちを意識するのではなく、全部出すということができれば、今日のように自分たちらしいバレーができることが確認できたのではないかなと思います。
――天皇杯(天皇杯全日本選手権)に向けて意気込みをお願いします
本当に4年生にとって最後の大会になります。勝ち負けよりも、また4年生の集大成として、3年生以下は次のインカレに向けての良いスタートとして、戦ってくれればなと思っています。
MB岩本大吾主将(スポ4=兵庫・市尼崎)
――今日の試合どんな気持ちで挑みましたか
気持ちの切り替えが難しいところはありました。ですがある意味プレッシャーから解放されたというか。最後だからだという気持ちはなかったので、いつも通り試合に臨むことができました。
――今日は楽しんでバレーすることができましたか
出場したのは少しだったのですが、楽しんでバレーボールをすることはできたのかなと思います。
――集大成となりましたが、今日のプレー面振り返って出し切れていましたか
去年のチームからそうですが、サーブはすごくチームの武器になっていたのかなと思います。フローター陣、ジャンプ陣含めて効果的なサーブが打てていたので、そこから理想的なディフェンスができていたのかなと思います。ブロックタッチをよく取って、そこからの切り替えしもできていたので、良かったのではないかなと思っています。
――岩本選手自身はこの4年間の集大成として悔いのないプレーができましたか
この2日間は直接点を取ることができなかったのですが、今日あの1本、思い切ってサーブを打つことができましたし、悔いはないです。
――主将としてこの1年間を振り返っていかがですか
今一番思うのは、やっと終わったなと。最後の大会も結局結果を残せなかったというところでは、後輩や応援してくださる方々には本当に申し訳ないなと思っています。僕なりに1年間やってきて、最後にみんなが笑ってくれるところを見て、笑顔でプレーする姿が1番『早稲田』に似合っているなと思いました。そういう風になれるチーム作りを1年間できたのかなと思うと、良かったのかなと思うところもありますね。
――来年、日本一に挑戦する後輩たちに向けてメッセージをお願いします!
今年負けてしまったので、そこのプレッシャーはないとは思うので、伸び伸びと、1年間苦しんで苦しんで頑張って、最後に笑えるように、うれし泣きできるように頑張ってください!
――天皇杯に向けて意気込みをお願いします
もちろん格上の相手と当たることにはなりますが、最後にまたチーム一丸となって頑張りたいなと思います!