【特集】『コロナ禍で問う 今の大学バレーの在り方は?』第2回 佐藤裕務ストレングスコーチ×村本勇貴メディカルトレーナー

男子バレーボール

 2回目の今日は佐藤裕務ストレングスコーチと村本勇貴メディカルトレーナー 。お二人はスタッフとしてトレーニングや体のケアの指導を行っている。コロナ禍での指導や教育論について伺った。

※この取材は6月23日に行われたものです。

指導者である前に教育者

選手のアイシングをする村本メディカルトレーナー(左)

――お二人はどのようなサポートをされていますか

佐藤 僕はストレングスコーチなので主にトレーニングを教えています。ウェートトレーニングやジャンプ系のトレーニング、走る系のトレーニングを担当しています。早大に入ったのは2014年なので、代としては8代くらい関わっています。松井先生(泰二監督、平3人卒=千葉・八千代)もよく指導者の前に教育者と言われていて、僕たちもトレーニングやコンディショニングを教えますが、それ以外の一般的なことも学生に指導しています。

村本 私のチームの中での役割はメディカルトレーナーです。普段病院で理学療法士として働いていることもあって、けがをしてしまった選手のケアやけがの予防というところでチームに関わっています。けがをしてしまった選手に対してはリハビリメニューを出して、けがの予防に関してはウォーミングアップのところでけがの予防につながるようなメニューをチームに提供しています。

――早大にスタッフとして入った経緯について教えてください

佐藤 最初は早稲田実業高校でストレングスコーチをしていました。そのときに大学と早実とで練習試合や合同練習をする機会が何度かありまして、そのときに松井先生ともお話しました。大学でもコーチをやってみないかというお話を頂きました。松井先生の教育観にすごく感銘を受けたので、一緒に指導させていただきたいなと思いました。

村本 2015年からバレーボール部に関わったのですが、そのとき早稲田大学のスポーツ科学科の大学院に通っていました。私自身理学療法士として働きながらスポーツの現場で働きたいというのがありました。トレーナーの関係者に相談させていただいたところ、2015年に早稲田のバレー部のトレーナーの方が一人辞められるということで、後任として入りました。6年間バレー部に関わっているのですが、最初はバレー部に入ろうと思ってお願いしたわけではなく、結果的にバレー部に入れることになりました。松井監督をはじめ、佐藤さんなど他のスタッフさんたちと一緒に6年間に指導させていただいて、日々成長させていただいています。

――ちなみにお二人は早稲田大学のバレーボール部ではないということでしょうか

村本 そうです。

――バレーボールのご経験はありますか

村本 ないです。

佐藤 ないですね。我々は野球しかやってきませんでした(笑)。

村本 高校まで野球部でしたね(笑)。

――野球の知識がバレーボールに生かされることはありましたか

佐藤 僕も村本さんもピッチャーだったのですが、ピッチャーはたくさん投げてしまうと肩や肘をすごくけがをしやすく、間違った投げ方をするとけがにつながってしまいます。同じところを酷使するという点で、野球選手にとっての肩や肘のけがというのが、バレーボール選手にとっての膝のけがに感覚的に近いのかなと思います。同じところを使いすぎてはいけないことを体感した野球での経験は今に生きているなと思います。

村本 そうですね。肩や肘のけがの予防や、リハビリで自分自身が高校時代にやっていたこと、理学療法士になってから得られた知識が活用できているなと思います。野球ではあまり見られませんが、バレーボール選手は膝のけががよくあります。けがでうまくプレーできない選手がいたときに、自分自身が高校時代に肩や肘を痛めてしまってうまく野球ができなかったというエピソードとリンクするときはあります。

――さきほど佐藤さんは「コーチは指導者である前に教育者」だとおっしゃっていました。そういったエピソードがありましたら教えてください

佐藤 いろんな側面がありますが、僕が言われた通りだけのトレーニングで終わってほしくないというのがあります。言われたことをするのは誰でもできますが、そこからトレーニングをしていくと自分の体を理解し、自分の体力がどうなっているのか理解すると思うんですね。自分にとって必要なトレーニングを考えられるところまで持っていきたいと思っています。そうするためには一方的に教えるだけではやはり選手が考えることができないので、ある程度選手に委ねたり質問したり、選手の意見を採用したりとか、そういったところを意識しています。また、これは松井先生もよく言われていますが、報告、連絡、相談をしっかりできるようにするということですね。報連相は社会人になってからすごく大事になるので、最後の教育機関としてしっかりできるようになってほしいなと思います。トレーニングに関してだけでなく、チームのスケジュールやマネジメントなどいろんな場面で心がけてほしいです。

――トレーニングに関してある程度選手に委ねているのは、早稲田が自主性を重んじているからですか

佐藤 松井先生の自主性を重んじる考え方が前提にあって、僕たちも追随している感じではあります。自主性を重んじるというのもありますが、最終的に彼らが社会人になったときに素晴らしい人材になってほしいというのがあります。

――村本さんにお聞きします。体のケアに関して選手にメニューを作ることはありますか

村本 練習前にやってほしいことは伝えますね。例えば膝を痛めた選手がいたとして太ももの筋肉が硬かったとしたら、太ももの前のストレッチをしっかりやるということと、フォームローラーという自分でマッサージする器具を使ってからしっかり練習に入るようにという、ケアのメニューを伝えています。

ユニットを組み選手の体を管理

選手のトレーニングを見る佐藤ストレングスコーチ(右)

――佐藤さんにお聞きします。コロナ禍で大会がなくなり鍛錬期になりましたが、何かトレーニングのメニューを変えたり新たに作ったりしましたか

佐藤 だいたい1か月から2か月くらいでトレーニングのプログラムを変えます。例年では鍛錬期があってリーグ戦の時期があって、東日本(東日本大学選手権)があって秋につながるという流れがあります。ですが去年と今年はそれがなかったので、鍛錬期が続いています。当然時間もありますしトレーニングの量もこなせるので、いろんなことをやっています。2年前までできなかったような新しい種目だったり新しいトレーニングの組み合わせを結構やるようになりました。同じ種目をずっと続けていると学生も飽きてしまいますし、オーバートレーニングになってしまうので、いろんなトレーニングをいろんな形でやるようにしました。新しい種目が増えてくるとどんどんチャレンジしてくれるので、そうした変化を取り入れるようにしました。

――いろんなトレーニングのプログラムを取り入れたことで、選手の体つきやプレーに変化はありましたか

佐藤 去年に関してはトレーニングをしっかり進められました。去年の今頃は全体練習ができなくて個人練習が多かったので、トレーニングがメインになっていました。毎年2月と7月に体力測定をしているのですが、2月から7月にかけての向上率が過去最高でした。普通、試合とか実践的な練習が入ってきてバレーボールの瞬発的な動きでトレーニングの効果がどんどん出てきます。ですが去年は実践的な練習や試合がなかったにもかかわらず、体力がすごく上がりました。自主的に自分たちに必要なことをやり続けた結果、体力測定の向上につながったのだと思います。去年に関しては、選手が自分たちで考えて必要なトレーニングができたのかなと思います。

――村本さんにお聞きします。鍛錬期での選手の体の調子はいかがですか

村本 鍛錬期だから、けがが多くなるというわけではないですね。佐藤さんとは密に連絡を取り合えるので、鍛錬期に入って手首をけがしてしまった選手がいたとしたら、トレーニングのときは少しおもりの重量を減らしてほしいとか、手首に負担がかかるトレーニングは飛ばして他のメニューを提案してもらったりとか、相談するようにしています。こうして佐藤さんと連絡を取りながら、鍛錬期だけどウェートトレーニングは減らさないようにしています。もう一つは、今年は学生トレーナーの堀内(直人、スポ3=愛知・滝)とアスレティックトレーナーの鈴木美和子さんでメディカルユニットを組んで、急に体に負荷がかからないようにモニタリングをしています。先週に比べて活動量や疲労度が上がった選手をモニタリングして、そうした選手には話しかけたりしてケアを多くしたり、佐藤さんに連絡してトレーニングの量を個別に調整してもらっています。

――メディカルユニットについてもう少し詳しく教えてください

村本 佐藤さんで言うとストレングスユニットがあって、私はメディカルユニットを組んでいて、他にも栄養ユニットがあります。メディカルユニットでは堀内学生トレーナーをリーダーにして、重藤トビアス赳(スポ3=神奈川・荏田)、その下に水町(泰杜、スポ2=熊本・鎮西)と山田(大貴、スポ2=静岡・清水桜が丘)がいます。選手の体調管理や選手の疲労度の管理をしています。

――それぞれでユニットを組むようになったきっかけは何ですか

村本 これは去年からはじまりました。きっかけは、立場をしっかり理解してチームにどういった形で貢献できるのかを考えて活動してもらいたいというところです。

――ストレングスのユニットではどのような選手が中心に組んでいるのかと、選手に指導する際に意識していることなどがあれば教えてください

佐藤 ユニットができたきっかけで補足をすると、我々は非常勤スタッフなんですよね。だいたいみんな週に1~2回ほどしか体育館に行けなくて、そうすると学生だけでトレーニングやケアや栄養のことをする時間が多くあります。僕たちがいる時間にそれができても仕方がないので、ユニットの学生を中心に普段からリーダーとなって、トレーニングも栄養もメディカルも大切にしてほしいと思いました。自分たちをしっかり高めていくことができるんじゃないかなということですね。ストレングスに関して言うと、リーダーが平田康隆(スポ4=宮崎・日南振徳)、その下に秋間(直人、スポ3=愛知・桜台)、大塚(達宣、スポ3=京都・洛南)、伊藤(吏玖、スポ2=東京・駿台学園)がいます。だいたいこの4人が普段のトレーニングのときはそれぞれのグループのリーダーになってもらいます。その中にトレーニングが苦手な学生がいたりすると、叱咤激励して声をかけてもらっています。そうするとリーダーの子たちからいろんな情報が入ってきて、トレーニングの提案が出てきます。よほど路線が外れていなければ取り入れたりしています。

――選手全員が何かしらのユニットに入っているのですか

佐藤 チームのマネジメントを担当している主将、副将、主務、副務は入っていないですね。その他の選手をやっている学生はユニットに入っています。1年生は1年間、1年生の活動をしてからユニットに入ってもらいます。

――それは選手にリーダーシップを持たせるためでもあるのですか

佐藤 そうですね。すべてのユニットでリーダーを主将、副将、主務、副務にしてしまうと、彼らがチームのマネジメントに専念しきれないので。いろんな学生がリーダーシップを持った方がいいだろうということですね。

――春季関東大学オープン戦が再開しますが、選手たちに期待することはありますか

村本 コロナ禍で自分たちの練習を発揮する場が少なかったので、トレーニングでしっかり鍛えてきたこととか、松井先生の下で鍛えた技術をしっかり余すことなく発揮してほしいです。そのためには普段のケアとか栄養をしっかりして万全なコンディショニングで臨んでもらいたいなと思います。

佐藤 勝ったらいい、負けたらだめだということではなく、自分たちが半年間積み重ねてきたことをしっかり出してほしいです。また、秋、冬に向けて自分たちの課題や今後改善すべきポイントを見つけてほしいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 西山綾乃)

◆佐藤裕務(さとう・ひろむ)(※写真右)

早稲田実業高でのストレングスコーチを経て、早大でも同コーチになった佐藤さん。選手にトレーニングメニューを作っています。きついプログラムもあり部員たちは悲鳴を上げているそうですが、着実に筋力や体力は上がっているそう。「佐藤さんが作るメニューをこなせば間違いない!」と全員が思えるくらい厚い信頼が寄せられています!

◆村本勇貴(むらもと・ゆうき)(※写真左)

早稲田大学スポーツ科学学術院時代に早大バレー部に誘われた村本さん。普段は理学療法士として働いておられます。丁寧で優しい方であるため、部員からは些細なことでも相談されています。そのおかげで部員たちのけがを抑えられているそうです!