第8回にはア式・ア女を影から支えるお二人、ア式の佐藤慧一マネジャー(政経4=東京・早実)とア女の菊池朋香主務(政経4=東京・早実)が登場。学生主体で運営される早慶戦において、その運営の中心を担う2人はまさしく欠かせない存在。早慶戦にかける思いも人一倍熱いお二人が、早慶クラシコを前に考えていることとは――。
※この取材は6月12日に行われたものです。
4年生としてどのようにしたら勝利につながる練習ができるかというのを常に考えている(佐藤)
対談中のお二人
――お二人の今の役職についてお伺いします。菊池さんは昨年に引き続き主務をされていますが、どのような仕事をされているのですか
菊池 チームマネジメントに関すること全般をしています。何をやっているかと言われるとありすぎてよく分からないのですが、試合の時は遠征の手配だったり選手のサポートだったりをしていて、試合外だと会計や大学への申請、OB・OGとの対応などに力を入れています。ア女の場合は男子と違ってマネジャーが2人しかいないので、後輩のアイカ(大庭愛叶マネジャー、人3=神奈川・桐蔭学園)と私の2人で、選手のみんながピッチで頑張っていること以外のことをしているという感じです。
――主務2年目ということに関してはいかがですか
菊池 1年目の時は何もかも分からないことだらけで。これまでは主務は毎年4年生がやっていて、4年生が仕切るチームの中に主務がいてチーム運営がされていたのですが、昨年はチームを仕切るのは4年生だけど主務である私は3年生という複雑なポジションでした。それに加えて初めてやる業務も多くて、何をすれば良いか分からない状態の中で突っ走るっていう感じでしたが、今年に関しては昨年の1年間でやるべきことが分かっているので、どこを自分がやってどこを後輩や同期に任せるかという仕事分担ができているかなと思います。
――主務をされていなかった低学年時は、どのような仕事をされていたのですか
菊池 1年生の時は、来年から副務になるということが決まっていたので、先輩たちがやっていることを見ながら関東リーグの運営を手伝うくらいで、本格的にちゃんと仕事をし始めたのは2年生の後半くらいからでした。
――佐藤さんはどのようなことをされていますか
佐藤 今は役職を持っていなくて、言ってしまえばやりたいことをやるみたいなポジションにうまく入り込んでいます(笑)。リーグの運営も自分はやっていないですし、何かの申請をしているわけでもないのですが、一番はグラウンドでのサポートと、早実出身ということを生かしてサークルや大学職員の方などと連携を取って、ア式を盛り上げるプロモーションしていくことに力を入れています。スポンサーやお金集めも含めてア式のためになることを1年生の時からやってきました。
――お二人とも4年生ということで、部活動に対して感じていることはありますか
佐藤 2月から4月くらいは正直プレッシャーを感じていましたし、リーグ戦が始まるとなって自分たちの代で1部に上げなくてはならないという使命感がある中で、個人としてはマネジャーとして何ができるのかということを考えていました。4年生としては、どのようにして下の学年を巻き込んでいくかとか、背中で見せてチームが勝利に向かっていくための方向づけをみんなでできるかという試行錯誤をしています。5月、6月に入ってそのプレッシャーからは少しずつ放たれつつも、結果が出ない時こそマネジャーや選手というのは関係なく、4年生としてどのようにしたら勝利につながる練習ができるかというのを常に考えています。
菊池 私事になるのですが、2月末から1カ月間部活を休んでいました。その理由としては、主務1年目だった昨年は体調を崩すこともあった中、そのくらい自分の中ではめちゃくちゃ頑張れたと思っていて、それでも結果的には目標としていたインカレ(大学選手権)2連覇ができなかった時に、自分の中で頑張り方が分からなくなってしまいました。1月のオフの時点で(気持ちが)落ちていたのですが、シーズンが始まって同期が4年目頑張ろうとなっている中で、自分も最初は気持ちを入れて頑張ろうと思っていました。しかし、いざシーズンが始まって「4年として」とか「4年が」考えなければいけないというのが出てきた時、その部分に耐えきれなくなって。一回部活を離れたいって思ったり、体調も崩しまくって3月はほとんど部屋から出られないっていう時期が続いたりして、監督からも「4年のインカレの時にベンチに戻ってきてくれればいいから、ゆっくり自分の体調を治してくれればいいよ」と言われていました。自分の中では焦りもあるし体調も悪くて心の準備もできていないという中で、その時期は人生一の挫折と言えるくらいだったのですが、その時に同期や後輩、卒業した先輩とかがめちゃくちゃ声をかけてくれて、焦らせることもなく向き合ってくれました。就職活動などを通して年の離れたOB・OGの方とお話しする機会を設けていただいて、ア式に関わる多くの人たちが自分を支えていたというのが分かって、結果的に4月からグラウンドに戻ることができたので、この4年目になって改めて自分は人に支えられているんだなというのを感じました。マネジャーは人をサポートする側に回ることが多いですが、自分もこの組織に入っていろいろな人に支えられているんだなというのを気づくことができました。
――佐藤さんは気持ちが落ち込むことは今までありましたか
佐藤 就活の時期はありましたが、チームのことで落ち込むことはあまりなかったと思います。もちろんイライラしたりすることはありますし、昨年のリーグ降格が決まる前の時期とかはいろんな焦りもありました。マネジャーという立場で結果に直接貢献できないことに、もどかしさはありました。ただ、自分のメンタルが強いとかの話ではなくて、同期が頑張っている姿を見ると自分だけ弱音吐いている場合ではないなというのは感じていました。
(早慶戦は)エンジが輝ける舞台(菊池)
質問に答える菊池
――早慶戦のことをお伺いします。早慶戦の準備はいつ頃から始めましたか
佐藤 今年の早慶戦は男女共同開催ということで一緒にスタートしたのですが、最初のスタートは昨年の10月ですね。10月、11月の2カ月で会場の決定をしました。自分たちの一つ下がア式100周年、早慶戦75周年という節目の年なので、OBとしてもそこで国立に戻して話題性とともに節目を迎えたいということがあり、自分がその立場だったらそう思うというのは重々理解していたのですが、自分たちの代も入学と同時にコロナ禍に入って、等々力での景色に憧れてきた人も多いので少しでも大きな会場でみんなとサッカーをしたいなという思いがあって国立を目指していました。結果的には11月末に西が丘を第一候補で出そうというのが決まって、最終的にサッカー協会から返事がきたのが1月中旬頃ですね。その時は7月8日という話になって、応援部との関係があって7月7日に再決定したのが3月くらいですね。ここで一つ目の準備が終わって、そこから当日までは人を入れるためのきっかけづくりや、人が入った時に問題がないような運営体制をつくるというのが主な仕事です。4月に広報担当や集客担当、当日客担当といった班分けをしたので、それぞれの部隊に分かれてどのような企画をやっていくかという話しあって進めていくということをやっています。自分たちのような運営メンバーは、企画班で具体的に動くというよりは、そこに人を配置してちゃんと動けているかを管理して何か問題があった時に対応します。
――ア女もこのような感じですか
菊池 今年に関しては男子主導でやってくれていたので、女子の子たちには、こういうことを男子がやってくれているから一緒にやろうみたいな感じで募集して参加してもらっています。ここ3年間も一応グループ分けはされていたのですが、これほど統制は取れていなくて(笑)。全部自分や主務が入っていないとぐちゃぐちゃで常にバタバタしていて問題も起きていたのですが、男子と一緒にやるとそんな問題は全く起きず、すごいなと思います。
――班分けは男女一緒にしたのですか
佐藤 そうですね。今までは男子の規模と女子の規模が違ったので、すり合わせが普通ではなかったのですが、今回はすごくフラットになりました。
――今回は4年ぶりの男女共催ということですが、いつ頃から男女共催の話が出たのですか
佐藤 昨年の10月ですね。当時は国立を目指そうとなっていたので、そこで最終的には一緒にやろうという話になりました。1年生くらいの時から自分たちでは男女共催でやりたいという話はしていて。それがやっと実現できたという感じです。
菊池 昨年もできなくはなかったのですが、女子が皇后杯の関東予選と被ってしまって。
佐藤 慶応はやりたかったみたいで。
菊池 そうそう。それはめちゃくちゃ揉めました。関東予選は協会で決めていることなのでずらせなくて。今年はいい感じに男子と日程が合ったのはそうなのですが、コロナの影響で試合がずれるとかがなかったので、コロナが落ち着いたのも大きかったですね。
――早慶戦の準備真っただ中だと思いますが、やはり忙しいですか
佐藤 昨年の方が忙しかったですね。昨年は自分が主導というよりは、平田陸人(令5商卒=埼玉・早大本庄)に動かされてやっていたので、降ってくる仕事がたくさんありました。(昨年は)やったことのない仕事を一生懸命やるという感じだったので、(今年は)その点どこで何の仕事をやるというのは把握していますし、その上でうまく人に分担して自分がやるべきことをしっかりやることができています。忙しさ的には後輩の方が忙しいと思います(笑)。
菊池 女子だけでやっていた時、慶大はマネジャーがいなくて選手が主務をやっているので、サッカーに縛られずに動けるのが自分しかいませんでした。その時は運営も広報も含めて全部に入る感じで、試合当日もベンチに入らずに当直するも、試合始まってタイマーが動いていないからスーツに着替えて走っていったと思いきや、受付で何かが足りないと言われて走って行ったり(笑)。メインで入っていた子は早大も慶応も選手が少ない分ベンチに入るけど、ベンチに入らない1年生はメインで企画をやっていたわけではないので、当日の役割として入るのですが、みんな分からないから「朋香さん、朋香さん…」という感じで統率が取れていませんでした(笑)。そういう意味でいうと、こうやって慧一とか山田怜於(社4=神奈川・鎌倉)とかがまとめてやってくれているので、その指示に従いながら、分からないことがありすぎるので、いつも慧一にLINEしちゃうんですけど(笑)。焦る気持ちはなくて、むしろ早慶戦以外の仕事の方が多いかなという感じです。
――まだ余裕はあるといった感じですか
佐藤 23日くらいまでマニュアル作りとかで忙しくなりますね。自分たちが仕事のマニュアルを作ってそれを部員に渡せばその部員は仕事が全部できるという状態をつくらなければいけなくて。後輩に引き継ぎながらやるのですが、パワポを使ったりそれをワードに写したりとかでパソコン使う時間が増えるので、睡魔との戦いですね(笑)。
――今年の早慶戦で新たに取り組んでいることはありますか
佐藤 特にないのですが、昨年よりも来場人数が増えるので、企画面というよりもどのように試合開始時間までに来場させられるかがシビアだなと思います。具体的な話になってしまうのですが、西が丘は会場が小さいですし、柵までのコンコース部分が狭いので、5000人ほどが30分前に一気に来ると入りきらない計算になっています。だからこそ、どのように来場してもらうか考えることが難しいなと思います。
――昨年は大原櫻子さんのライブがあったり、ブースがあったりしましたが、そうしたイベント面での企画を充実させたいという思いはありますか
佐藤 もっと充実させたいという思いはありますが、西が丘だとスペースに限界があるなという思いが正直なところです。
――やってみたい企画は何かありましたか
菊池 男女共同で開催することが早慶戦でやりたかった大きなゴールでした。私が1年生だったころの早慶の4年生主務の先輩に、「絶対に4年目で男女共同で開催します」と1年生ながらに宣言していました(笑)。コロナもありましたし、女子は日程が通年になったので、日にちが合いにくいという問題があった中で、最後に男女共同で開催できることになったのは、非常に大きいなと思います。やはり女子だけでは頑張っても300人ほどしか会場に入らない中で、同じチケットで男子も女子も見ていただけるので、そういった意味でも男子と一緒に開催できることは大きいなと思います。新しい企画ということよりも、男女共同開催できることがありがたいです。
――お二人にとって、早慶戦とはどのような舞台ですか
佐藤 自分にとっては憧れです。今でも憧れはありますし、高校1年生の時から等々力の景色を見てきていますし、自分がマネジャーという選択をしたきっかけでもあります。名前も顔も知らない人たちと一緒に熱狂や感動を共有できる場所があることはすごいなと思いますし、会場を満員の7000人で埋めて、今までにない圧倒的な景色をつくれたらうれしいなと思います。
菊池 私も憧れだったり、エンジが輝ける舞台だなと思います。女子サッカーは伝統的な学校が多いわけではなくて、強豪校でもア式のような100年の伝統などがある訳ではありません。その中で他のチームになくてア女にある部分は伝統だと思います。今年のスローガンでも『誇闘』を掲げていて、エンジの誇りを胸を張って言える歴史があるのなかと思います。エンジのユニフォームは毎週のように着ているものではありますが、早慶戦という舞台でエンジと黄色が戦うのは、伝統のかっこよさを感じますし、私も早実出身で、早稲田の色に親しみがあって、それが輝く瞬間がかっこいいなと思うので、そういった意味でもかっこよさや憧れの舞台です。
――お二人とも早実出身ということですが、早稲田の一員として戦うのは今年が最後になるかと思います。そういった部分を含めていかがですか
佐藤 あまり実感がないですね。あと半年もすればエンジを着ることもなくなる、自分はそもそもエンジを着ていないのですが(笑)。エンジを見る機会が少なくなることについては寂しいなと思います。10年と言うと、人生の半分ぐらいは早稲田で過ごしているので、寂しさはあります。
菊池 ア女は早実から入る人がおらず、歴代でもいないので、早稲田に長く在籍している部員は少ない中で、だからこそ私はエンジがかっこいいなと思いますし、それを身にまとっている選手は自分が想像してる以上にかっこいいんだよと思います。早実という部分では、OB会の中でも早実出身の方が多く、自分よりも年次が何年も上の方でも早実というだけでつながることができたり、今までア式とア女でよく話す中ではあったと思いますが、こうしてア式の早慶戦のために早実のつながりで実現できたこともあったので、早実のつながりがあったからこそア式ア女の距離を縮められたり、人ともつながれたので、早実に入ってよかったなと思います(笑)。
――そういった部分を含めて、今思い描いている早慶戦像は何かありますか
菊池 私としては、選手のみんなに楽しんでほしいなというのが一番です。男子が昨年に何千人の前でプレーしてるのを見て、ア女の子たちは「いいな」ということを言っていました。女子の大学サッカーは大きい会場でやれることは少ないので、いろいろな人の前でプレーできることは貴重ですし、いろいろな人の前で早稲田としてプレーできることを楽しんでほしいです。あとは、同期は最初で最後の男女共同の大きい舞台でやれるチャンスなので、楽しんで輝いてほしいです。
佐藤 少し被る部分はありますが、早稲田に関わる人が全員笑顔になってほしいなと思います。昨年、男子は3年ぶりに勝利して、本当に選手が笑顔になっている瞬間や観客が沸き上がっている姿に鳥肌が立ちましたし、早稲田に入って良かったなと思った瞬間でした。このように早稲田に入ってよかったなと思ってもらえる瞬間をつくりたいです。コロナもあって、なかなか人に見てもらう機会も少なかったですし、早稲田を感じられる機会がなかったのではないかと思っていて、体育会に所属していない学生だとサークルに所属していても、「早稲田にいるんだ」という瞬間はなかなかないのかなと思います。その中で、あの景色を見れば実感できると思うので、だからこそ勝って紺碧の空を歌いたいなと思います。
――残り4週間ぐらいですが、ここからどのように完成まで持っていきたいですか
佐藤 運営面では、絶対にミスを起こさないことが大前提としてあります。昨年は少しゴタゴタが多く、直前で問題が多く起こり、部長に怒られたこともありました(笑)。そういった部分は今年はなくしていきたいですし、選手紹介の部分でもアナウンスと曲がバラバラになっていたこともあったので、リハーサルや準備は入念にやっていきたいです。
菊池 男子は西が丘が3年目で慣れていると思います。一方で女子はインカレで使うこともありますが、タイムスケジュールや選手の導線も不安な部分はあります。当日は女子が終わり次第、男子がすぐに始まってしまうので、私たちが遅れると多大な迷惑をかけてしまいます。だからこそ、タイムスケジュールや導線を事前にしっかりと確認して、次の男子に引き継げるようにしていきたいです。
――早慶戦当日に願うことは
佐藤 晴れてくれと願うばかりです。天気だけはどうしようもできないので(笑)。西が丘は屋根がないですし、観客も減ってしまうので、本当に晴れてほしいです。
菊池 私が運営に大きく関わっているという訳ではないからかもしれませんが、すごく楽しみです。金曜日開催ということで授業もあって、学生が来るということは難しい部分はあるかと思いますし、そこに雨が重なってしまうともっと来なくなってしまうので、いい天気で当日を迎えられたらいいなと思います。
――最後になりますが、早慶戦への抱負をお聞かせください
佐藤 絶対に勝つことと、満員で会場を埋めるということ、そして早稲田の選手もスタッフも観客も含めて全員で笑って紺碧の空を歌いたいです。
菊池 ア女としては22年間今まで一度も慶応に負けずにここまで来ているので、もちろん勝って22年間の無敗の歴史を紡いでいくことと、早実のときから勝ったら紺碧の空を歌える文化があるので、西が丘で男女ともに勝利し、紺碧を歌いたいです。
――ありがとうございました!
(取材 髙田凜太郎、大幡拓登 編集 安齋健、森田健介)
早慶戦に向けての意気込みを書いていただきました!
◆佐藤慧一(さとう・けいいち)(※写真左)
2001(平13)年10月26日生まれ。東京・早実高出身。政治経済学部4年。2019年の早慶戦を見たことが、ア式でマネジャーをやるきっかけにもなったという佐藤さん。最終学年となった今年ははたしてどんな早慶戦をつくり上げてくれるのか期待がかかります!
◆菊池朋香(きくち・ともか)
2001(平13)年9月17日生まれ。東京・早実高出身。政治経済学部4年。1年生の頃から男女での共同開催を目指していた菊池さん。4年目にしてかなった、男女共催での早慶戦をどのように盛り上げてくれるのか楽しみです!