【特別企画】WEリーグ開幕記念特集 第3回 植木理子選手×遠藤純選手

ア式蹴球特集

  第3回は、現在早稲田大学在学中で日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属のFW植木理子選手(スポ4=日テレ・東京ヴェルディメニーナ)とFW遠藤純選手(スポ3=JFAアカデミー福島)です!学生でありながらプロとしてのキャリアをスタートさせた2人の大学生活の様子、そしてWEリーガーとしての決意とは。若いうちから代表経験を持つ2人に話を伺いました。

 

※この取材は8月18日にオンラインで行われたものです。

 

「早稲田一本でした」(遠藤)

サイドを崩そうと試みる遠藤

――プロサッカー選手であり、学生というのはとても特殊の立場だと思います。お二人にとって大学進学というものは今後のキャリアを考えていく上でなくてはならないものだったのですか

植木 将来サッカー選手を終えた後に女子サッカーを広めるということが小さい頃からの夢でした。そのための選択肢は多い方が良いと思い、大学進学を考えていました。

――サッカーを広めるというのはいつ頃から考えていたのでしょうか

植木 小学校5年生の時になでしこジャパンがW杯で優勝しました。基本的に休み時間は男子とサッカーをしていたのですが、その時にはクラスの女の子たちが優勝を見て「自分たちもサッカーをやりたい」と言ってサッカーをやってくれたのがうれしかったです。そんな経験もあって、自分も女子サッカーを広める立場になりたいと思いました。

――ビジネスとしてサッカーを広めたいとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなことを考えていらっしゃいますか

植木 今は指導者になるつもりはないのですが、コーチングライセンスを取っています。小さい子にサッカーを教えるなど、裾野を広げるということも考えていますね。今は明確に何かやりたいということはありませんが、女子サッカーを広めるために自分ができることがあれば良いと思っています。

――遠藤選手は大学進学についてどのように考えていましたか

遠藤 自分は中学、高校と寮生活で、上(の学年)の人たちが高校卒業をするときに選ぶ進路が、海外か大学かプロという道に分かれていました。自分自身もプロとしてやりたいという気持ちはあったのですが、セカンドキャリアなどを考えた時に大学で何かを学んでそこにつなげられたら良いと考えて、大学進学を選びました。

――大学進学を考え始めたのはいつ頃なのでしょうか

遠藤 かなり遅かったです。元々大学に行きたいとは思っていなかったので、周りが大学に向けて準備している中、あまりそのことを考えずにやっていました。高二の冬から高三の春くらいに上の(学年の)人を見て、自分も考えなければいけないと思い、その頃から具体的に考え始めましたね。

――大学を選ぶ中で早稲田大学に決め1番の理由は何でしょうか

植木 女子サッカーを広めるために、ビジネスのところを学びたかったです。受かったらラッキーくらいの気持ちで、最初に早稲田を受けました。落ちた時のための勉強もかなりしていました(笑)。面接が終わって手応えがとてもなくて、小手指のペガサスの銅像の近くで母に電話をして「次の大学を考えます!」と伝えたのをとても覚えています(笑)。あまり受かったという感触はなくて、気持ちよく終われなかったです。

――遠藤選手はいかがですか

遠藤 中高を過ごした(JFA)アカデミー(福島)の卒業生の中に通っている人が多くて、また理子さん(植木)と代表などで一緒になった時に大学の情報を少しずつ聞いて、早稲田に行きたいと思いましたね。

――他の大学はあまり視野には入れていなかったのですか

遠藤 そうですね。早稲田一本でした。

――大学での勉強がサッカーに生きていると感じる場面はありますか

植木 今まで習ってこなかった体のつくりや法則の知識は、プレーにつながるところがあると思います。授業以外では、様々な競技のスペシャリストと呼べるようなアスリートと話すことはとても刺激になります。そこが早稲田に入って一番良かったことだと思っています。

遠藤 サッカー以外のスポーツのトップ選手たちと友達になって、さまざまな競技のことを知ったり、反対に自分の競技のことを伝えたりする経験を持てたことは良かったと思います。また、自分はメンタルがあまり強くないので、メンタルに関する授業をよく取っています。そこから自分に合った解決策を見つけ出せたので良かったですね。

――特に印象に残っている授業はありますか

遠藤 心理学の授業は1年生の頃から今も履修しています。例えば、大舞台で緊張しない方法を学ぶ回があって、その授業ではさまざまな方法が紹介されました。その中から自分にあった方法を見つけて実践するということを行なったことで、多少緊張がほぐれて自分のプレーを出せている時があると思います。

植木 純って緊張するの?

遠藤 します(笑)。

――植木選手はいかがですか

植木 サッカーの実技授業ではア式(蹴球部)の男子とプレーする機会があります。練習の中でも男の人とプレーをする機会はないので、それはとても良い機会でした。自分はプレー以外のビジネスの方に重点を置いて授業を取っているので「内側からではわからない、外側から見た試合」という側面を学べたのはとても良かったですね。

――ゼミには入られていますか

遠藤 栄養学のゼミに入っています。自分が思い描いていた栄養学は献立などを立てることだったのですが、ゼミではそれを掘り下げて、数値などを分析して体の仕組みとつなげて学んでいます。最初は「え?」となったのですが、学んでいるうちに楽しくなってきました。自分は一人暮らしをしているので、食事の面に学んだことを生かせているとすごく感じています。

――植木選手はいかがですか

植木 スポーツ法の松本(泰介)教授のゼミに入っています。自分のやりたいことをやって良いという方針のゼミで、なでしこリーグやWEリーグを研究しています。

――そのような学校生活の中でア女(ア式蹴球部女子部)の選手と話すことはあるのでしょうか

植木 多いですね。サッカーの話もしますが、それこそ他愛もない話をします。同じ競技をやっているので、分かり合えることも多いですね。早稲田の同期のスポ科の子は授業も同じことが多いので、仲が良いです。

遠藤 自分もスポ科の女子とは仲が良いです。

――プロ活動と学業の両立で大変なことはありますか

植木 プロになったのは今年からですが、今までもクラブ活動と学校との両立をしている中で、テスト期間とサッカーの合宿が被ったことはありました。しかし、早稲田のスポ科はかなり融通を利かせてスポーツの活動を尊重してくれるので、中学や高校よりも両立できる環境を作ってくれていると感じています。

 

「今の子たちに、将来の夢にWEリーガーと書く選択肢を作れた」(植木)

中央を突破し、得点しようとする植木

――チームにいて日テレ・ベレーザらしさを感じる部分はどこでしょうか

植木 『勝ちにこだわる』というところでベレーザらしさを感じます。難しい状況や負けている状況でも、勝利に向けて選手が話し合ったり、プレーを合わせたりすることはベレーザの良さだと思います。

遠藤 オンとオフの切り替えがすごく早いと感じます。また、練習中でも笑顔が絶えないところがベレーザの良さだと思います。

――個の力が強いチーム内で活躍するために意識していることはありますか

植木 自分はポジションが前なので、ゴールにいかに向かえるのかというところが重要だと感じています。得意な部分をどのように見せられるかということは普段から意識してやっていますね。

遠藤 理子さんと同様に前にいるので、ゴールへの意識は一番強く持っていたいと思います。また、自分が決めるということもそうですが、チームが勝つために自分だけではなく、周りの選手をいかに使うのかということは大事になってくるとも思います。そこの使い分けはかなり意識していますね。

――やはりコミュニケーションを普段から取るようにしているのでしょうか

植木 純(遠藤)はクロスの精度が高く、自分は中に入ることが多いです。そこで、「今のクロス〇〇だったね」ということはよく話します。

――プロになったことで環境や意識に変化はありましたか

植木 目に見えて分かる変化はあまりないです。まだ開幕もしていないので、実感はしていません。しかし、今まではサッカーは『ただの好きなこと』だったのが、仕事になるということで責任感が違うとは感じます。

遠藤 その通りだと思います。今までのリーグもお金を払って見に来てくれる方はいました。しかしWEリーグになるということで、見に来てくれる方々をどれだけ楽しませられるか、どれだけ楽しんで帰ってもらうかというところで、『勝ち』という部分にはとてもこだわっていかなければいけないと思っています。

――なでしこリーグからWEリーグに変わると決まった瞬間はどのような気持ちでしたか

植木 あまり実感は湧かなかったですね。なでしこリーグがプロリーグではないということを知っているのは、選手とコアなファンくらいでした。「ベレーザでサッカーをやっています」と言うと「プロサッカー選手なんだね」ということをかなり言われていました。自分たちはプロになれるチャンスが増えるというワクワク感がありましたが、世間の反応では「何が変わったのか分からない」という感じだったと思います。

遠藤 自分はサッカーを職業としてやっていくということを考えていたので、リーグがプロリーグになったのは良かったと思います。しかし、先ほど理子さんも言っていたように、その事実を知っているのはコアなファンだけなので、その事実をもっと知ってほしいと思います。

――実感が湧き始めたのはいつ頃ですか

植木 プレシーズンマッチくらいですかね。注目度が少し変わったと思います。しかし、チームの活動としてはあまり変わらないので、開幕が一番感じると思いますね。私が小さい頃は将来の夢にプロサッカー選手になると書けなかったのですが、今の子たちに将来の夢にWEリーガーと書く選択肢を作れたということはとても良かったと思います。

――今後女子サッカーを日本でどのようなスポーツにしていきたいですか

植木 小学生の時に周りの子がなでしこジャパンが優勝するのを見て、(サッカーに)興味を持ってくれたということがありました。その中の一人が中学に入ってフットサル部に入ってくれたのがすごくうれしかったことを覚えています。サッカーは男子のスポーツというイメージが強いので、女子サッカーの存在をもっと知ってもらって、スポーツをする子たちの選択肢の一つに女子サッカーが入ってくれば良いと思っています。

遠藤 自分が本気でなでしこジャパンになりたいと思ったきっかけが、W杯でなでしこジャパンが優勝した時でした。その時に自分が「あそこの舞台に立ちたい」と思ったように、自分たちのプレーやサッカーを見て、そう思ってくれる人が増えれば良いと思います。サッカーには男子というイメージがあると思うのですが、女子もいろいろなところで活躍していることを知ってほしいです。もっと女子サッカーというものを多くの人に知ってもらって、やってくれる人が増えれば良いと思っています。

――結果を残す以外に女子サッカーを広めていく方法について考えていることはありますか

植木 WEリーグ開幕や、この前のオリピック、これからある主要な大会が女子サッカーを広めるきっかけになると思うので、そこで結果を残すことは絶対に必要です。2011年にW杯で優勝したことで、観客数が増えたり、競技人口が増えたりしました。このきっかけをつかむことは絶対に大事だと思います。選手であるうちは個人としても女子サッカーとしても結果を出すということが一番やらなければいけないことですが、それだけで終わらせてはいけなくて、ファンの方々との関わり方や女子サッカーのブランディングの仕方はもっと工夫できると思います。これからWEリーグが開幕するので、きっかけをつかめるようにやっていきたいです。

遠藤 理子さんが言っていたように、大きなきっかけをつかんでいかなければいけませんし、それを継続していくことも必要です。サポーターの方々が多くいるので、そのような方々とのコミュニケーションや、小さな子たちとの関わりをもっと増やしていけば、そのような子たちが大きくなった時に女子サッカーを広めてくれると思います。そのようなつながりが大事だと思いますね。

 

WEリーグ初代女王を目指して

学生でありながらプロになった二人(写真左:植木、中央:遠藤)

――プレシーズンマッチを経て見えたチームの状況を教えてください

植木 プレシーズンマッチの時期には代表活動もあり、代表選手は別日程になってしまうこともあって、チーム全員で積み上げるということは難しかったです。その中で、勝つこともありましたし、負けも経験して課題も見えてきました。積み重ねていくうちに、細かいところの戦術の課題が見えてきたと思います。

遠藤 他のチームに行くなどで、ベレーザの活動から抜ける人が多くいました。そうなった時に今までは(年齢が)上の人に頼っていた部分もあったのですが、そんな方々が抜けてプレシーズンマッチで負けた時に、自分がやらなければいけないと責任を感じましたし、頼っているだけではチームを勝たせることができません。自分たちにはWEリーグで初代女王になるという目標があるので、そこに向けて自分を強くしていかなければいけないと強く思いました。

――具体的に目標にしている選手はいらっしゃいますか

遠藤 ベレーザの選手は本当に上手なので、そのような方々と一緒にサッカーができているということは自分を強くしていると思います。そして、そんな方々と勝って笑えているということが強みになっているので、みんなとサッカーができていることが自分の強みだと思います。

植木 自分は一昨年までチームのキャプテンであり、エースだった、田中美南選手(INAC神戸レオネッサ)と一緒に試合に出たり、交代で試合に入ったりしていて、チームを勝たせるためにゴールを決められる選手は絶対に必要だと思いました。田中さんから9番を引き継いだので、その責任もあると思いますし、今までチームを勝たせてもらっていた分、自分が勝たせたいという気持ちです。しかし田中さんにはなれないので、自分のプレーでチームを勝たせられるようにしたいです。

――ご自身のストロングポイントは何でしょうか

植木 ゴールに向かう姿勢だと思います。ありきたりな言葉ですが『頑張る』という部分では誰にも負けたくないと思いますし、結果的にゴールを決められたら良いと思います。

――プレシーズンマッチの大宮戦ではハットトリックも決められましたが、得点力の部分で自信はつきましたか

植木 自信というほどではありませんが、ポジション的にもゴールを取るということが一番チームにとってプラスになることだと思うので、そこは意識しています。

――遠藤選手はご自身の得点力に関してどのような感触を持っていますか

遠藤 勝つためには得点が必要なので、自分が決めるということもそうですし、仲間に決めてもらうために自分はどのようにパスを出したら良いかというところを考えながらやっています。だからこそ、自分が決める・決めさせるという部分が自分の強みにしているところだと思いますね。

――最後に、WEリーガーになる抱負を教えてください

遠藤 WEリーグで初代女王になるために、1日1日を本当に大切にして、サッカーに向き合いたいです。WEリーグは小さい子も含めて、いろいろな女子サッカー選手が目指している場所なので、その覚悟を持って開幕戦からやっていきたいと思います。また自分自身が上を目指してやるためには、良い舞台になると思うので、自分だけではなくてチーム一丸となって頑張っていきたいと思います。

植木 小さい子たちの将来の夢にWEリーガーと書けるようになるためにも、女子サッカー選手という職業を確立しなければならないと思いますし、その責任もWEリーグ開幕の選手たちにあると思います。チームとしてもWEリーグの初代女王は、これからも1チームしかなれないものなので、そこは目指していきたいです。その中で女子サッカーがもっともっと広まれば良いと思います。

――ありがとうございました!

 

(取材・編集 早稲田スポーツ新聞会 内海日和、手代木慶)

(ア式蹴球部女子部 黒澤舞水)

関連記事

第1回 村上真帆選手×松本茉奈加選手 前編

第2回 村上真帆選手×松本茉奈加選手 後編

第4回 佐々木則夫氏×外池大亮ア式監督 前編

第5回 佐々木則夫氏×外池大亮ア式監督 後編

第6回 小林美由紀氏×福田あやア女監督 前編

第7回 小林美由紀氏×福田あやア女監督 後編

第8回 川淵三郎氏×岡島喜久子氏 前編

最終回 川淵三郎氏×岡島喜久子氏 後編

 

 

◆植木理子(うえき・りこ)(※写真右)

1999(平11)年7月30日生まれ。162センチ。日テレ・東京ヴェルディメニーナ出身。スポーツ科学部4年。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。背番号9番。「小さい子たちの将来の夢になる」と強い責任感と意志を持って語っていました!

◆遠藤純(えんどう・じゅん)

2000(平12)年5月24日生まれ。167センチ。JFAアカデミー福島出身。スポーツ科学部3年。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属。背番号11番。大学で学んでいる心理学と栄養学が自身のプレーや生活にも役立っているとのことです!