『WASEDA The 1st』を理念として掲げ、日本をリードする存在として邁進(まいしん)を続けるア式蹴球部。2018年に男子部監督として外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)が就任すると、2020年には女子部監督として福田あや監督(平20卒)が就任。大学スポーツに留まらない視野を持つ両監督は、指導者としてどんなビジョンを持って学生を率いているのだろうか。ア式蹴球部に変革と革新をもたらしている指揮官の胸の内に迫る。
※この取材は4月7日に行われたものです。
昨シーズンの振り返りとこれからにつながる学び
初対談となった外池ア式蹴球部監督(左)と福田ア式蹴球部女子部監督
――昨シーズンの振り返りから聞かせてください
福田 昨シーズン、女子部ではスタッフも一新して、新たなア女としての船出でもありました。そういった中でコロナ禍になり、決して簡単な1年ではありませんでした。それでも女子部にとっては変革の1年であったと思います。難しい状況の中、選手たちも本質を振り返るというか、「早稲田ってなんだっけ、早稲田のア式蹴球部ってなんだっけ、サッカーってなんだっけ、勝つってなんだっけ、日本一ってなんだっけ」といった本質の部分を改めて見直して、そこから4年生を中心として全員が改めてしっかりとマインドセットをしました。これからのア女にとっての基盤とか土台となる、非常に大きな意味のある1年だったと思います。そういった中で5年ぶりに、チーム力が大きな結果の要素となるリーグ戦(関東大学女子リーグ)を奪還できたというのは積み上げがかたちとなって現れたいい成果だったと思います。ただ、逆に少し時間が足りなかったり、少し詰めの部分が行き届かなかったり、トーナメントではなかなか結果が出せずに悔しい思いをしました。そういう意味で2020年は良い部分と難しい部分が混ざり合っています。ただそれを経験した選手たちがたくさんいるので、変革の1年目であり、大きな意味のある1年目であったかなと思っています。
外池 僕は去年が3年目で、2年目の時は優勝した翌年という事で歴史的残留に挑戦するという、なかなかない取り組みをしました。ただもがき苦しみ、本質に到達した中で残留というものを手にして、それを経ての3年目、去年というスタートでした。僕自身は4年生が大学サッカーの全てだなと思っているので、非常にいい入り方をして、チーム作りも上手くいっているなという中でコロナ禍になりました。ただ、そこで我々ア式蹴球部がビジョンとして掲げるものであったり、ピッチ内だけではなくピッチ外というところや、情報発信というところも含めて、試合や勝敗がない中での取り組みが逆に自分たちの真価を発揮できる場面になりました。そこで自分たちの存在意義を見つけ出し、他競技や他大学、社会に向けて自分たちの存在を共有して、つながりをつくりながら取り組み続けられたなと思っています。去年は、アマチュアスポーツである大学サッカーのリーグ戦をしっかりとたくましく運営していく中心に、早稲田も置かせてもらっていました。毎週というか週3回くらい龍ヶ崎に行ったりもしていましたが、全試合全ての行程を全チームがちゃんやり切れました(笑)。iリーグが無かったり新人戦が無かったり、難しい状況となったインカレ(#atarimaeni CUP)もそうですが、大学や連盟、日本サッカー協会との調整の中でしっかりと完遂できたというのは、僕は非常に歴史的な1年であったのではないかと思います。
――昨シーズンではコロナウイルス感染症が大きな話題となりました。それを受けて部員の選手たちに求めていたこと、そして選手たちの取り組みへの評価を教えてください。また他部活で感染者が出るなど、不規則な事態が発生した中でどのようにチームを運営していましたか
福田 まずはこういった事態をどう捉えるか、どうプラスにしていくかというのが大きなミッションだとチーム全体で捉えていました。決してネガティブになることはなく、逆に時間ができたことで、サッカー選手としても社会の一員としても、学生としての自分にも向き合いました。自分の存在や立場、周りの環境に向き合うこと。そして、距離が離れている状況でどのようにチームを作っていくのか。オンラインのミーティングやスタッフ間、学生間でのミーティングもしていました。こちらで提供するトレーニングもありましたが、学生が考案してオンラインでやっていることもありました。座学でスポーツ科学の視点から走り方やドーピングについて、生理についての知識も得ました。また、なでしこリーガーとか、元日本代表、サッカー畑で働いている方とかメディカルとしてトレーナーや理学療法で働いている方など、OGのいろいろな分野の方々をオンラインで呼びました。後悔のないように思いつく全てのことをやって、スタッフや学生全員がその時間を有意義にしようとしたので、凄くいい時間になったと思います。以前までは男子部とのつながりが希薄な部分があった中で、『ア式蹴球部』として同じベクトル、同じ方向性で行こうというのは私が就任してから外池監督と話をしていました。コロナの対策や、部としてどうまとまって行くのかというところにおいては、内情の共有なども含めてできた部分がありました。そういったアクションがあることで部員たちも「我々はア式(蹴球部)なんだ」と改めて思いを強くできたと思いますし、一体感が強固となってさらに広がりを作れたのかなと思っています。
外池 福田監督がおっしゃったように、情報共有であったり、大学との向き合い方もかなり共有してできていました。本質を問われる時というのは、共通項と違和感がセットで見えてきます。そこは自分としてもすごく意識したタイミングでした。チームの中では2つのテーマを作ってずっとやってきました。1つはリカバリー。当たり前であったことが当たり前ではなかったからこその取り組み方や、体にいろいろな管理や制約が生まれた中でしっかりと自分を顧みるというリカバリーです。もう1つは感受性。こういう時こそいろいろな人がいろいろな思いを抱きながらやっていることを知れるチャンスになるから、そこに寄り添うということをやって行こうと。部として方向性を示すけれども、同じチームの中でも違う考え方を持っている人はいます。よくビジョンを掲げたり目標設定をしてもそこに付いて来ない、みたいな話もあるわけですが、そういうことではなくて、リーダーシップを持ちながらボトムアップしたいですね。我々はなぜ大学に来てサッカーをやるのか、その先には何があるのか。セーフティーネットで(ア式に)来ている人もいますし、なんとなくサッカーができる環境でそれなりにレベル高いからという人もいます。一方でプロになりたいとかチームを良くしたいとか、いろいろな温度差がある中でチームをまとめていくのは、組織づくりにおいてかなり高度です。ただコロナ禍で、本質というものに向き合わざるを得なくなりました。これまでやってきた2年間の成果というか、体現をする状況になったので、とても意味があったなと思います。それは我々だけではなく大学サッカー、大学スポーツ、社会においても同じ状況下にあると思います。4年生たちがどういう思いを描いて、どういう手応えを持ってこれから社会に向かっていくのかというところは、すごく楽しみにできる状況ですね。
「覚悟を決めて、だいぶ重い覚悟を決めて来ました(笑)」(福田)
昨シーズン、リーグ開幕直後の筑波大戦で戦況を見守る福田監督
――福田監督は昨年、外池監督は3年前に監督に就任なさいました。そこに至る経緯を教えてください
福田 私は卒業した後2009、10年にア女のコーチをしていて、インカレの2連覇が出来た代でした。その2年間が指導者として歩むきっかけになりました。その後、熊本のチームからオファーがあり監督がスタートしたのですが、そこからが指導者人生の始まりです。それ以来いろいろなクラブや環境で指導者としてお仕事をさせていただいていて、ア女の監督のオファーがあったのが2年前の2018年。正直何度かお断りをしていたのですが、昨年度またお声がけしていただきました。私としても母校でもありますし、「これからのア女を新たな歴史として歩みをもうひとつ進めたい」とおっしゃっていただいたので、凄く光栄でした。自分の力が何かしら役に立つことがあれば自分自身としても成長できるということで昨年に至った、というのがざっくりとした就任までの経緯です。(監督就任の)お話をいただいた時に、ア式でも外池さんが監督に就任されてからア式のチームのカラーというか、大学スポーツや社会における位置づけの意味みたいなところからクリエイティブで新たな挑戦をしている姿というのは目にしていました。そういったマインド、アクションが女子も一緒になってやる必要性を感じていたところでした。これからのスポーツやこれからの大学、これからの時代に向けて輩出して行く立場だと思うので、いろいろなアクションを怯むことなくやっていくことというのが凄く面白味があります。サッカーの内容や指導もそうですが、それ以外の部分もあるというのが時代が変わった中で感じるところであったので、そういったことが出来るのであれば自分の中での思いと一致するなと、覚悟を決めて、だいぶ重い覚悟を決めて来ました(笑)。
外池 僕は現役時代に豆戸FCというチームを立ち上げて、そこから指導やチーム作りみたいなことをやっていたんです。もちろん選手生活が中心でしたが、育成年代の課題とか、地域スポーツの問題みたいなものをどうしたら解決していけるかということを考えていました。33まで現役をやらせてもらって、辞めた後に当然指導者というひとつの道はあるなと思っていました。Jリーグを10年以上やった人はサッカー界に残って行く人が多いので、そこを出ることがきっかけ作りになればなと思って、一般企業に勤めようと考えました。その後もサッカーに近い、スポーツコンテンツビジネスみたいな部署にいました。そこでスポンサーやメディアが影響力を持っているなということに気がついて、現職であるスカパーに来ました。Jリーグからどうサッカーを見えるか、選手だった経験からどのようなものを生み出していくかといったところをキャリアとして積みたいと考えていたときに、早稲田から(監督就任の)話をいただいて。今まで自分はサッカーだけじゃいけないと言っていましたが、そういうものを求められる時代になってきているのかなと思いました。大学生なのでいろいろな見方やいろいろな料理の仕方があるはずなのに、(当時の)早稲田は凄く一辺倒になっていると感じて、そこは自分の経験を落とし込めるタイミングなのかなと思いましたし、マネジメントや管理職としてのキャリアも持ちたかったので、凄くいい機会だなと思いました。会社の方に提案をして、辞めて(ア式に)行くのは簡単なんだけど、スポーツと社会をつなぐことを一緒にやって共感や共鳴は生み出したいなという思いがあり、(辞めずに)監督をやらせていただくことになりました。
――サッカー選手を退いた後に外の環境を見たからこそ、という部分もありますか
外池 そうですね、僕自身現役でやっていて、選手ってサッカー界の中でもど真ん中の、もの凄く狭い世界で生きていると感じていました現役の時にインターンに行って、選手のキャリアはとても稀有だし、100人の組織であれば10人はいらないけど、1人2人であればものすごく貢献できるのではないかと感じました。体験を抽象的でも言語化したり、コミュニケーションみたいなこともベースに別のアクションに落とし込んでいくということがスポーツをやってきた大きな価値だと思うので、そういったことを外側のサッカー界じゃないところでつくりあげていくということを自分も体感したかったですし、そういうことがサッカー界全体にも求められているタイミングであったので、頑張ってみたいなという思いがありました。
「何のことを学生主体って言うんだろう?」(福田)
「監督がSNSやっちゃって大丈夫なの?」(外池)
いかに社会に貢献していくか語る外池監督
――お二人は社会に向けてベクトルが向いていると思うのですが、今後やってみたいことがあれば教えてください
福田 女子サッカーにおいては、男子サッカーと少し状況が違って、男子はサッカー自体が確立されて久しくて、ある程度かたちになっていてルートもしっかりできています。高校から大学、Jリーグ、海外の成功例もたくさんあって、より社会とのつながりができていて、今の時代にフィットしていますよね。でも女子は実際、視座はありつつもまだ内省しないといけないと思っていて。ア女の貢献の仕方として、まずはもう少しピッチサイドに力を入れていきたいと思っています。今年からWEリーグが始まりますが、Jリーグのように文化になるためにはさまざまな施策が必要だと思います。でも、まずは指導者としてプレーの質を高めて、選手を輩出することも求められていると思います。本当に欲張りではあると思うんですけど(笑)。学生にはいろんなアプローチをしつつ、プロに手が届くような選手も何人かいるので、その子たちはプレーヤーとして現代的なプロのマインド持ってもらって、プレーヤーとしての質を可能な限り伸ばしてあげたいです。それが大学基準じゃなくて世界基準で通用するようにして、磨き上げて可能性を広げて輩出できるかも問われているので。まとめるのは難しいんですけど、女子サッカー界に、女子スポーツ界、マイナースポーツ界にいかに貢献できるかということを考えると、女子サッカーはまだマイナースポーツだと思うので、競技のクオリティを上げることと広い視座を持つことの両方をやっていかないと難しいと思います。簡単じゃないんですけど、意識としてはいいマインド、いいスキルを持った選手、スタッフを輩出できるか。社会性、人間性含めて広い視野を持った人材輩出。そこから一歩ずつかなと思っています。
――福田監督は昨年は就任1年目でしたが、学生主体のチームに対してたくさんアドバイスをしていると伺いました。初年度だからこその難しさについてどう考えていましたか
福田 学生主体って言うんだろうっていうことがまず分からなくて、関わっている社会人のスタッフはお手伝いという感覚でした(笑)。何から何まで学生がしていましたが、それが伝統だということを半分理解しつつ半分違和感がありました。言葉だけが先走っているのではないかと。正直1年目はコロナ禍で活動できなくて、いろんな意味で様子見の1年でした。活動がない中でこっちからガンッとアクションをするのは違うなと思っていましたし、どう回していってどこに課題があるのかが見えづらかったので、選手とコミュニケーションをとって変えられるところは変えてきました。私の感覚が全て正しいとは思っていないけれど、いろんな良さに響いているんじゃないかと思っていて、学生スポーツの枠組み自体が分からないことも多くて結構様子見の1年っていうのが正直なところです。そこから少しずつ雰囲気とか学生ひとりひとりのキャラクターとか分かってきました。学生が社会人スタッフに何を求めているのか。いろんな監督像、スタッフ像はあるけれど、何を求めているか把握することは大事だと思っているので、自分たちが成長するために必要な刺激は何だと思っているのか。こっちのスタンスとすり合わせをしながら段階的に進めている感じです。
――外池監督は学生主体ということや、今後やってみたいこと についてどうお考えですか
外池 僕は学生主体というのは違うと思っていて、主体性とは責任とアイデアだと共有しています。サークルの方が確実に学生主体なんですよ。(部は)いろいろ環境を与えてもらって、支援もしてもらっているのに学生主体って嘘っぽいじゃないですか。逆に伝統と歴史、系譜があるので、100周年を迎える中でいろんな変化があって、大学サッカー自体にも変遷がありました。日本のサッカーにも変遷があって、世界の中でもすごく確立されてきている。逆にピラミッドができたことで窮屈になったり弊害もあって、それを変えられる場所が大学しかないなと。だから大学スポーツを取り上げるべきだし、クリエイティブなところやアイデア、どこまで深めて追求できるかという責任の部分が主体性だと思います。歴史を紐解いて、こういう環境で何をしていかなければならないのかを考える力、取り組みの質や成果はどういうものでなえればならないのか、何を目指すのか。そこを整理するのが大事だと思っています。僕も(大学時代にア式蹴球部に)入った時に厳しくされて、理不尽の先にしか未来がない、頑張って耐えて走ったやつにしかゴールは生み出せないと思っていました。全否定ではないですけど、時代は変わりましたよね(笑)。その社会で生きている学生が何を考えて何を望んでいるのか。僕はいろんな鬱憤(うっぷん)というか、世の中に対する批判感といった衝動の上で早稲田で過ごす意味があると思っているので、そこパワーをいかにうまく引き出せるかが仕事だと思っています。部には高校のユースでめちゃくちゃうまい人たちに教わっている選手もいて、改めてサッカーはこうだと教えるのは違うかなと。「あいつに従うしかない」ってなるのだけは、裸の王様になるのは一番かっこ悪い。全体のマネジメントをして『WASEDA The 1st』を一緒に考えて一緒に作ろうとしています。あとは背中で見せること。監督がSNSやって大丈夫なの?と。もちろん賛否はありますが、ぎりぎりのところを攻めていくことに大人の楽しさというか、余力をみせることですね。これまでの大人たちがしていないことをして、それを学生たちが判断すればいいと思うんです。そういう環境やアンテナが社会を知るきっかけになりますし。今は仮面をかぶることが上手くなっているけど、その社会を変えていかなきゃいけないな。これだけ日本に倦怠感があるけど、若者の変化を押さえつけているのは大人の理屈だと気づいたときに、サッカーでチームづくりをするときに落とし込めたらやる気が出るんじゃないかなと。『バンカラ早稲田』。マニュアルではパスだけど「おれはここでシュートを打ちたいんだ!」みたいなことが出てきて、そういうのをみんなが尊重してアイデアと責任が共有されていけば、社会に貢献していくことなのかな、早稲田としての姿なのかなと今でも変わらずに思っています。
「誰よりも愛す」(福田)
「サッカーを通じて人が成長していく、学びの環境になり得る」(外池)
トップアップについて語る福田監督
――お二人の指導者としてのポリシーを伺いたいです
外池 ポリシー!?何だろうな(笑)。
福田 誰よりも愛すことですね。誰よりもサッカーを愛する。選手を愛する。スタッフを愛する。チームを愛する。これが自分の原動力になっています。やっぱり指導者自身が「この人本当にサッカーが好きだよね」と言われないと、サッカーの面白さは伝わらなくて見世物っぽい。自分が選手だったら、誰よりもサッカーが好きで楽しんでいて、サッカーって素晴らしいと思っている人がいい。環境自体にリスペクトがないと監督は務まらないと思いますし、愛情があればそれが伝わって、自分が自然と背中で見せることで何かしらキャッチしてくれて、チームとしてのマインドになればいいですね。勝負を愛するというところも、全部において愛することができなければ自分はチームを去るべきだと思いますね。
外池 めちゃくちゃかっこいいですね(笑)。とてもピュアで。僕は(監督は)役割であり機能だと思っているので、学生よりも偉いと思っていないし。まあ、主体性ですね。自分が選手たちの求めるのは一つの視座を共有して『日本をリードする存在になる』。そこに自分もちゃんと向かっていることしかないですね。「この試合に負けたのは自分の責任です」と言うことが責任ではなくて、やるべきことをやったか、向き合ったか、アイデアを出したかがア式蹴球部の監督をやらせていただいている意味で、自分がここでの取り組みを生かして、この先どういう姿になるのかという思いを持って取り組むのがポリシーだと思っています。別のところになれば、当然僕は会社員ですし、家でも別の立場ですが、同じくサッカーに育ててもらった人間ではあるので「愛す」と言いたかったですね(笑)。言われちゃったので(笑)。
――おふたりは発信してどんどん外向きのベクトルをつくろうとしていらっしゃると思うのですが、今の大学サッカーにはどんな課題や魅力があってどんなことを発信していく必要があるとお考えですか
外池 サッカーを通じて人が成長していく、学びの環境になり得る可能性があるということだと思います。そういう環境をつくるためには自分たちだけでは難しい部分もあるのですが、それに必要ないろいろな要素、仲間などのリソースみたいなものは早稲田大学にはあって、さらにその外側にもいっぱいあります。今、社会からも大学スポーツが必要とされる状況に来ていると思います。大学にはいろんな人がいて、そこで人として革変が起こるじゃないですか。そこが面白い。僕は中学生の時に早稲田大学のラグビーを見て、これが大学の面白さだ、大学生のパワーだ、だから「大学に行け」と言われているんだということに気づいたんですよね。それがきっかけで早稲田に行きたいなと思いました。18歳から22歳をコアとしたこの世代はパワーがあるので、そういったところが可能性かなと思います。あとは、サッカーという切り口から見ても大卒の選手がJリーグでもかなり評価されていますし、早稲田が良ければいいではなくて、大学サッカー全体を巻き込んでいこうとか、その中で早稲田には何ができるのかということを考えてきたことが一つ一つかたちになってきています。そういうビジョンを持って、そこにどう個人個人が関わっていくかということが全体を引き上げるし、個人を引き上げることにもつながると思います。女子の方はマイナースポーツだという話がありましたが、僕自身けっこう女子部から学んでいます。年齢に制限のないリーグもあるじゃないですか。それは、狭いからこそできるみたいなところもあるかもしれないですけど、混在させていくことでいろんな学びや可能性、気づきもあると思います。大学サッカーは歴史と伝統があることによって、すごく狭く考えられている部分があります。だから、2年前に社会人リーグに参戦しましたし、生涯スポーツとしてのサッカーにどう自分たちが取り組むかというところにしっかりと触れたいです。先輩たちと試合するのも、先輩たちにとっても刺激や励みになったりするので、どんどんやっていきたいなと思っています。
福田 私も大学生はすごく独特な時間だと思っています。大学の中でも部活もあればサークルもあり、いろんな分野の学問を学んでいる学生たちが一堂に会していて、いろんなキャリアやバックグラウンドを持っている学生がいます。そもそも大学に通っているだけで、食堂に行ったらオリンピックのメダリストがいたりする環境じゃないですか。それって学生たちにとってすごく刺激になると思うんですよね。そのなかで部活を自ら選んでいるというところで、独自な価値観や世界観をつくれると思います。大学生は一番学びをアウトプットできる期間だと思うので、そこに多少のリスクはあっても勉強したことを実践に生かしてみるとか、企画したものを発信してみるとか。自分を形成するためにもサッカーのプレーのためにも、思ったことをアウトプットしていくことを4年間で培った人が社会に出て行くことが、大学スポーツの価値につながるんじゃないかなと強く思います。だからすごく面白みを感じますし、早稲田大学の学生はすごくアグレッシブで、他の学生から受ける刺激もものすごくあります。そういった力の化学反応がどんどん広がってもっと活発になれば、大学から社会を動かすような大きなアクションや力が出てくると期待しています。そういうことを今までもやっていたとは思うのですが、それを知られる機会が無かったり、知らせる手段が乏しかったり、見せ方が下手だったりしたことでもったいないことをしていたようにも思えます。ア女が発信を増やしているのも、そういったことを知ってほしいという思いからです。見せ方さえ上手にすればもっと届くしもっと波及していって、それがア女から広がってうまく輪になっていけたら、我々の成果になるんじゃないか、地道に横のつながりをつくっていくこともやっていきたいと思っていますし、少しずつ歩を進めてはいます。その中でも、大学スポーツないし大学生の力というのがもっと本当のうねりになって広がっていくことが、滞り感のある世の中にウェーブを巻き起こすようになっていったら、すごく頼もしくてたくましいと思います。縁あって関わらせてもらえているので、大人のアイデアやヒントを出してチャンスやきっかけづくりをし、0から1をつくりだすことが一番大変だと思うのでそこを力を合わせてやって、1になったらゴロゴロッと若者の力やアイデアで進むと思うので、少し時間がかかってもいいからやっていきたいです。未来は私が想像している以上のものが生まれることを期待しています。
――その点で外池イズムみたいなものが軌道に乗り始めているという印象ですか
福田 そうですね。そうなれば良いと思っていますし、先陣を切って男子部がアクションを起こしてくれているということが女子部にとっても励みになるし、学生の中でも杓子定規のつまらない枠は少しずつ解かれているという印象はあります。その中でもやっぱり女子は逆に早稲田、ア式の歴史というところへの関係性が希薄だった部分もあったので、原点回帰のマインドもすごく必要なことだと思います。革新、進んでいく歩みと歴史を知るといった原点回帰は両輪として大事なことだと思っています。歴史を知っていないと新しいものは生まれないので、その両輪をいかに回していくかというところも踏まえてア女のベースを固めながらクリエイティブに歩みを進められるような存在になっていきたいです。早稲田の歴史だけではなく、サッカーの歴史を踏まえて学生のうちに知れることはたくさんあると思います。いずれは学生スポーツ、女子サッカー会、そして女性進出社会といったところのけん引までできればいいなと思っています。
来シーズンに向けて
2021シーズン開幕戦の拓殖大戦で勝利し、歓声に応える外池監督
――ア女は今シーズンで30周年となりますが、どんなシーズンにしていきたいですか
福田 30周年はすごくア女にとっても光栄な歴史の1ページだと思うので、何かしらのかたちで記録や記憶に残るものにしたいと思っていますし、その節目に恥じないようなパフォーマンスも見せたいなと思っています。去年のベースがしっかりあり、1,2年生で試合に出場していた選手も多くいますし、そういった中で新戦力との融合もあるので今年は去年のベースからもう一段レベルを上げていきたいです。去年はチーム全体をどうまとめていくかというところで、けっこうボトムアップに力を入れて、チーム一丸というところが特にマインドとして育ってきた部分だと思います。そこでもう一段階上げるためにトップアップしていこうというのが我々の合言葉になっているので、いかに自分たちに満足せずにトップアップし続けられるかだと思います。「不変を徹底し可変を厭(いと)わない」というのも一つの合言葉にしました。不変を徹底すること、そのなかで可変を厭わずに挑戦していくこと、そういったマインドを強く持っている4年生でもあるので、引き上げてやっていこうというところに全員が同じベクトルで引き上がっていけるようなチームづくりを目指しています。4冠という大きな目標もありますので絶対に達成するという強い気持ちを持って頑張っていきたいと思っています。
――ア式はどんなシーズンにしたいですか
外池 「日本をリードする存在になる」というビジョンが浸透してきた中で僕がすごくうれしかったのが、『WASEDA The 1st』という言葉が廃れていくのかなと思っていたら、学生たちのほうから「それも良い哲学ですね」と言い出して。新しくなると同時に、選択肢を持つことができていると思います。僕らの時代は『WASEDA The 1st』しかなくて、よく分からなかったんです。雲の上の言葉過ぎて。人として一番になれと言われても、大学生がどうやって一番になれるのかなと違和感しかなかったんです。そこで、自分たちの行動に落とし込めるビジョンって何か考えたときに、天皇杯で優勝しない限り日本サッカー界の1番にはなれない。であれば、チャレンジャーとして挑戦の場に立たせてもらってそこから自分たちをつくり上げていくということを認識しました。そういうのが生まれて初めて形骸化したものをみんなで考えるようになったし、そこで融合感が生まれてきたなというのがあって、地に足がついてきた感触がありました。そういう意味でしっかり積み上がってきている実感はとてもあるので、もちろん変化はありますけど、常に新しい4年生たちが運営責任を担う中で、自分たちで何かを生み出していく。当然それによって、これまでやってきた4年生たち、その前の3年間で見てきたものの重さを知ることにもなります。今年はほんとに多くの入部希望者がいて、もちろん選手もそうですけど、マネジャーとか、大学院の人までも入部させてほしいと言ってくれたりとか。ほんとにいろんな可能性をこのチームに感じてくれる人が増えてきたので、逆にそれをしっかりマネジメントしていくということがとても大事な責任で、まさに主体性の発揮のしどころだと思います。そういう調和をつくり出すというところに改めてチャレンジしたいですし、もちろん日本一やリーグ制覇といった目標があると思うんですけど、そういう日々をしっかりと積み上げていった先にしかないと思っています。そこを漏らさずに一日を積み上げていくということを目指したいと思います。
――ありがとうございました!
(取材、編集 橋口遼太郎、手代木慶、吉岡直哉)
2021シーズンの抱負を書いていただきました!
◆外池大亮(とのいけ・だいすけ)
1997(平9)年社会科学部卒業。1997年にベルマーレ平塚(当時、現湘南ベルマーレ)に入団。その後横浜F・マリノス、大宮アルディージャ、ヴァンフォーレ甲府など、計6クラブを渡り歩いた。現役引退後は電通に入社。その後スカパーに転職し、現在もスカパーに所属しながらア式蹴球部監督を務める。J通算183試合出場、29得点。
◆福田あや(ふくだ・あや)
2008(平20)年スポーツ科学部卒業。ア式蹴球部女子部コーチとして指導者の道に。インカレ2連覇達成後、益城ルネサンス熊本FC監督を経てノジマステラ神奈川相模原アカデミー監督就任。さらに同トップチームコーチとしてなでしこ1部昇格、皇后杯優勝に貢献。合同会社Wetanz代表をしながら2020年度からア式蹴球部女子部監督を務める。