【第2回】浦田幹トレーナー

ア式蹴球特集

 ア式蹴球部には、選手、マネジャーに加え、学生トレーナーが在籍する。選手たちを縁の下で支える学生トレーナーだが、今季学生スタッフながら新人監督に就任した男がいる。苦労の末に早大に入学し、紆余曲折(うよきょくせつ)の末にア式蹴球部に入部を決めた浦田。どのような思いで日々を歩み、新人監督へと就任したのだろうか。

※この取材は4月15日に行われたものです。

自分に対して求めてくれている姿勢がア式の魅力

時折笑顔を交えてのインタビューとなった

――まず大学に到達するまでの道のりを教えてください

浦田  2浪して早稲田に入りましたね(笑)。もともと自分は高校野球出身で、けがが多かったのでトレーナーになりたいと思いました。2浪目でようやく親を説得して、早稲田のスポーツ科学部の受験を許されて、合格をしました。初めはア式を知らなくて、たまたま教養演習というクラスに同期の(ア式の)学生トレーナーがいて、その子に「来てみたら」と言われて行ったら、熱量もそうですし、「ア式すげーな」と思って。ある練習参加に行ったときに、選手の一人が試合中に寝ていたらしくて、それに対する追及ミーティングを目の当たりにしたんです。早稲田のブランドを背負っている自覚はあるのかと。(サッカーは)未経験でしたが、そこからア式にチャレンジしようと思いました。

――もともとア式に入るつもりはなかったんですね

浦田  そうですね。逆に言えば大学サッカーのイメージは、プロに上がれなかった人たちのカテゴリーで、レベルが低いと勝手に思っていたんです。でもギャップを感じました。

――高校時代からトレーナーになろうと思っていたのですか

浦田  けがが多くてトレーナーの方にお世話になることはありました。けがに対するアプローチだけじゃなくてメンタル面(のアプローチ)もあって、人と人との関係の中で生まれる仕事は素敵だなとなんとなく感じてはいました。でもトレーナーになりたいと高校3年間や浪人1年目では感じていなかったですね。

――もともと国公立を目指していたのですか

浦田  そうですね。どこにも受からなくて。自分は何をしたいのか分からない中で、2浪目でギアを上げなければどこにも受からないという状況になりました。自分の過去のエピソードを自己分析して、スポーツや人を支える分野に魅力を感じたのでスポ科に絞って、親にお願いしたということです。

――浪人中はどんな生活をしていたのですか

浦田  高校3年間勉強をしていなくて、弱い学校ながらも野球ばかりしていました。1年目は基礎固めで終わってしまって、あと一押しすれば伸びるという手ごたえはありましたが。2年目は「勉強楽しい!」みたいなゾーンに入っていました。入部した当初は2浪というだけでマイノリティで稀少キャラだったんですが、2年目3年目になると浪人が結構いて、自分のレアリティは落ちてきたなと感じますね(笑)。

――選手で浪人の方もいらっしゃいますよね

浦田  大学スポーツはある意味プロを目指す環境かなと思うんですが、浪人している人たちはそれだけではない何かを求めてプレーしていると思います。大学サッカーや大学スポーツの門戸の広さや価値が詰まっているなと感じています。

――トレーナーを目指すきっかけに、高校時代だけではなくヴィッセル神戸のトレーナーの方が関わっていると伺ったのですが

浦田  自分が2年生の時に、当時コーチだった小柴さん(小柴健司氏、昭52教卒=神奈川・鎌倉)の紹介でヴィッセル神戸のトレーナーさんにお話を聞きました。そこで改めて自分の環境やトレーナーとして学ぶありがたさを再認識できました。自分の中ではすごく良かった経験ですね。

――トレーナーとして入部を決めた理由は結局どこだったのでしょうか

浦田  何を成し遂げるにしても人間性は必要だなと思っていて、トレーナーであったら寄り添う姿勢がすごいな、塾の先生であったら正しい勉強法を教えるだけじゃ付いて行けなくて、その方のホスピタリティが一番大きいですね。あとは、浪人中の真摯に向き合ってくれた親の姿勢が原動力になったので、人間性の育成はなんとなく切り離せないなと考えていました。その中でア式の追い求める「人として一番であれ」という姿勢はどの分野においても必要だなと思っていたので、トレーナーの環境というよりも姿勢に惚れ込みました。

――ア式に入部した当初、印象的だったことはありますか

浦田  トレーナーだからといって言い訳というか、支える立場だから一歩引いていいということはなくて、逆に自分らしさはどこかを問われています。印象的だったのは、自分が1年生の時に「けがをしないようにアップしよう」と言ったのですが、キャプテンの岡田さん(岡田優希、平31スポ卒=現町田ゼルビア)に、「マイナスから入る発言ってどうなの?」とその場で突き詰められたことですね。何気なく言ったことですし、他の人ならスルーしてもおかしくないけれど、こだわっていてアンテナを張っているんですよね。ある意味何気ない発言ですが、自分に対して求めてくれている姿勢があって、そういうところが他の部にはないア式の魅力なのかなと思います。

――浦田さんが1年生の時は関東大学リーグで優勝したシーズンですが、その時の4年生の姿はいかがでしたか

浦田   自分は4年生によくしてもらっていて、あの時の4年生がいなかったら入部していなかっただろうなと思います。個人的にも素晴らしい方々ばかりで、当時の自分たちは1年生で(優勝に)大きく関われなかったので悔しいという声もあったのですが、自分は心から支えたいなと思う人ばかりでした。微力ながらサポートした達成感よりも、喜んでいる姿を見れてうれしかったです。

――入部までに大きな苦労があった加藤(拓己、スポ4=山梨学院)選手のサポートをしていたのが浦田さんと伺いました。どのようなサポートをしていましたか

浦田  1年目でいきなり先輩から任されて、コーチからも「ほんとうに加藤を頼むよ」と言われて何ができるのかなと考えた時に、マンツーマンでどんな時も寄り添うことしかできないなと思いました。入部当初、彼は練習をさぼったりしていたので、そういう時は叱ったり、ストレートな言葉を投げつけていました。彼自身が正面からぶつかってくれたので、なんとか結果になったのですが、初めて他人の成功に本気で関われたという気がして、本当にア式に入って良かったと思いました。

――加藤選手の状態はどうだったのですか

浦田  けがをしていたというのもありますが、ちょっと走ると「痛い」と言って(練習量を)落としたりしていました。練習中の態度もふまえて、担当の自分が先輩からきつく言われたり、「ランテストに受からないようではだめだ」と言われるのが悔しかったです。あいつは絶対チームに必要だと思っていましたし、絶対見返してやろうと思って、実際彼が入部して残留に導く活躍を見せた時に「ほらみろ」と思うことはありました(笑)。

――厳しい言葉も投げかけたんですよね

浦田  模擬ランテストの後でふたりで座り込んで、「このままランテストに受からなければア式にも入れないし、目指すプロからかけ離れる。」と彼を変えたいという思いだけで発言していました。そこで問題だと思ったのが学年の無関心で、学年としての強固な結びつきが足りないように感じたので、学年ミーティングを行ったりしました。

――学年の色はどんなカラーですか

浦田  去年とは全然違いますね。一言でいうのは難しいのですが、サポーターというか、去年の4年生のように自分が引っ張るタイプはあまりいない。逆に言えば人の気持ちに寄り添える人間が多く集まった学年なのかなと思います。

――ア式生活の中で、ア式から離れた時期があったと伺いました

浦田  加藤のランテストを終えて、僕は1年間そのためにやってきたというか、熱量と覚悟を持ってやってきたので、それが終わった時に虚無感があったんです。自分の目標を他人に依存しすぎた結果、自分は何のためにア式にいるんだろうと思った時に、加藤が劇的ゴールを決めた早慶戦は、たったひとつのゴールだけど、自分にとってはもっと価値のあるものに映りました。苦労した日々や努力が報われた瞬間になったということで、自分がア式にいる中でぼーっとする期間が増えてしまって、自分を見失いました。トレーナーはしんどい仕事でもあるので、活動する意義をもう一回見つめ直さなきゃいけないなと思って部を離れました。

――戻ってくるまでにはどんなことがあったんですか

浦田  実家に戻っていたのですが、知らず知らずのうちにYouTubeでア式のアカウントから試合を観たりして、その時期に改めてア式が好きなんだなと思いました。自分が入部した理由は、日本一の学生トレーナーになることだと思い出して、確かな指標はないけれど日本一のチームに所属する学生トレーナーが「日本一の学生トレーナー」だなと思いました。自分はまだ何も成し遂げていない、何に達成感を抱いていたんだと思ったときに、自分の戻るべき場所はア式なんだなと気づきました。もちろんブランクみたいなものがあって、はじめは気まずい感じもありました。でも今振り返って、部を離れる決断も部に戻る決断も、正しく選択できているんだなと思っています。

――一昨年は苦しいシーズンだったと思いますが、いかがですか

浦田  苦しかったですね。4年生から「お前がベンチに入ってから勝てなくなったね」と言われたり、遠征の時に「お前が来る意味あるの?」と言われたりして、チームの成績が出ないとトレーナーであっても辛いんだなと、改めてシビアさを知るいい機会だったなと思いますね。

――勝てない時の空気感はいかがでしたか

浦田  どうしようもない、どうあがいても前に進まない感覚でした。所詮トレーナーは支える立場なので、自分で空気を変えることはできないからいかに周りをモチベートするかなので、周りが落ち込んでしまったら自分自身が何をしようと変わらない歯がゆさを感じていました。

――やはり印象的なのは早慶戦だと思いますが、あのゴールはいかがでしたか

浦田  最高でしたし、変な感覚ですが1万5000人ほどの観客がいた中でも、勝とうと自分しかいないかのような。ただ早慶戦の連勝を伸ばすためのゴールじゃなくて、いままでの努力が回顧されましたね。2浪して早稲田に入りましたが、それをはるかに凌駕(りょうが)するもので、人生の中でも忘れられない主運管になったかなと思います。

――間近で見ていて、加藤選手はどんな人間ですか

浦田  自分は、人は努力したらいろいろ叶えられるとは思っていますが、彼が持っているものはそれを凌駕(りょうが)していて、それは残念ながら努力しても得ることができないものだと思います。本当に特別でスペシャルなものを持っているなと、同期として感じますね。おちゃらけた人間ですけど、決めるところは決めるスター性を持ち合わせています。

――反対に、去年は良いシーズンになったと思います。トレーナーとしてこだわりを聞かせてください

浦田  3年目というのは、心技体がある程度整った時期でした。チームが日本一を掲げる組織で、かつ自分が単としているアップは練習の3分の1程度を占めるので、自分自身が日本一のウォーミングアップを彼らに提供しなければいけない。妥協してはいけないと思っていました。たまたまラグビー部のトレーナーが見学に来てくれたことがあったのですが、「ここまで学生トレーナーが踏みこめるということは責任が生じるし、チームの成績にも大きく関わる仕事だね」と言われて、自分の中で自分の活動の大きさを再認識できました。基準がぐっと上がった1年間でした。

――練習前に特に気を付けていることはありますか

浦田  前の週に行われた試合の分析を行って、課題を抽出し、ウォーミングアップに落とし込むことをしています。できないことをできるようにするということを積み重ねていくのが日本一につながるアプローチなのかなと思います。試合前では、自分が何か言うよりもチームの調和であったり、モチベートすることが大事かなと思います。去年はノリノリな選手が多かったので、自分が締める役割を担当してバランスを保つことを意識していました。

――岡田さんのお話もありましたが、かける言葉ひとつひとつ意識されていますか

浦田  悪い部分は直さなければいけないので、練習の時は厳しい言葉をかけるようにしていて、本気で向き合うからこそ本気で言葉をぶつけます。逆に試合前はできるだけ選手をほめたり、ムードに対しても「すごい良い感じだね」といったみんなが乗れるような言葉を心がけています。

――千田さん(奎斗、令3スポ卒=横浜F・マリノスユース、昨シーズン戦術分析を担当)から求められることも多かったと聞きました

浦田  自分が課題として持ってきたこと以上のことを求められるというか、サッカー戦術の課題点をフィジカルトレーニングに入れてほしいという注文が前日の夜に入ったりしました。ウォーミングアップでは、ヨーロッパのチームではボールを使ったトレーニングが多かったりして、サッカー要素を入れてほしいという今までの形式的なウォーミングアップではなくて、リアリティを持ったものを作ってほしいと言われました。自分はサッカー未経験だったので、動画を夜な夜な探しましたね(笑)。でも、探したものをピッチに落とし込むのは自分の仕事じゃないなと思っていて、そこからチームの課題と求められているものは何か統合させて形を変えることが自分の仕事だと思っています。そこは時間をかけながら少しずつやっていきました。

――トレーナーとしての勉強はどのようにやっていましたか

浦田  学業はまさにトレーナーの勉強につながっていますし、1年生の時は外部のトレーナーさんの講習会に自分から足を運んだりしました。海外で活躍されているトレーナーさんもいまして、どのようなメニューでどのようなことをされているのかを意識的に調べました。

――メニューは自作なのですか

浦田  自分の味が出せるのはそこしかないと思っていて、そこでこだわらなければ自分がいる意味はないので、メニューは自作ばかりです。ウォーミングアップは選手だけでもできるけれど、そこにトレーナーという役割を担う人間がいるからこそ、そこにスペシャルなものが必要だと思います。去年は毎日練習メニューを変えていました。選手に飽きさせないのもそうですし、選手にリアリティを持ってもらうため、自分が一番こだわった部分かなと思います。

――今シーズンは何を意識していますか

浦田  今シーズンは後輩たちもいるので移行期に入っていますし、試合の中で出た課題を抽出しながら、去年のメニューをベースに今年に合わせて発展させていきながら考案しています。

学年全員がリーダーに

チームへの思いを語る浦田

――昨シーズンはとにかく4年生のためにという思いが強かったとお聞きしました。その心情を教えてください

浦田 まさにその通りです。大好きな4年生でしたし、4年生が何が凄かったのかと今考えるとやはり本気だったな、全員が本気だったなと思っています。例えば主務の西前くん(一輝、令3スポ卒=FC町田ゼルビアユース)であれば試合に勝つためにとことん主務という立場から出来ることを最大限尽くしていました。特にインカレの時には、ある試合前にチームの雰囲気がゆるいというところから、自分から行動をして外池さんにミーティングで喋らせて欲しいと伝えて、もう一回(チームの雰囲気を)締めようと働きかけをしていたり、できることを最大限尽くしているなと思いました。千田に関していえば、深夜遅くまで相手の分析をしているのもそうですし、彼は独りよがりというか自分のことしかやらないような、本当はそういう人なんですけど、そこを消してまで、自分も選手としてやりたいという中でも、チームを支える姿、For the teamで戦う姿を見ていると、自分なんかがそこに乗れていなかったらやはりダメだなと思いますし、そのようにチームを思っている方々ばかりだったからこそ、その人たちのためにと下級生たちもなり、みんな4年生が大好きだったというところにつながるのではないかと思います。

――しかし、そのような4年生がいても頂点に届かなかった。今年は+α 何が必要なのでしょう

浦田 そこは本当に難しいですし、自分達も手探り状態と言いますか。+αという言い方をすると去年のベースの部分ができているような捉え方かと思いますが、実際自分はそうではないと思っていて。もちろん妥協はしませんが、彼ら自身の能力、熱量、リーダーシップ素晴らしかったですし、そこは自分たちの代としては埋めるというよりも自分たちの価値はなんだろうと問いただすしかないとお待っています。そこで自分は去年末からチームビルディングを主体的にやっているのですが、4年生に言っているのは1人では賄えないリーダーというポジションがあるからこそ、自分たちは学年全員がリーダーにならないと彼らを超えることはできないし、日本一を取ることはできないという事を意識しています。ある意味でそこが今年の代の色になるのかなと思っています。

――1人がリーダーではないという事ですね

浦田 もちろん田中(雄大主将、スポ4=神奈川・桐光学園)であったり、須藤(友介副将、スポ4=FC町田ゼルビアユース)、田部井(悠副将、スポ4=群馬・前橋育英)がいますが、彼らだけに任せていては、残念ながら去年の熱量やチームを超えることはできないと思っています。逆に僕たちの代の強みはアベレージの高さがあると思っています。あと2日などとよく言うのですが(昨シーズン、あたりまえに杯を準決勝で敗退したため)、そこを最大限の強みにして、今年は足りなかったあと2日を手にするために活動できたらなと思っています。

――今年の4年生は学生スタッフが多いという点もひとつの特色かなと思います。その辺りはいかがですか

浦田 まさにその通りです。自分が強いな、と思うのは、各々が何をやりたいのかが本当に明確になっていることだと思っています。主務の羽田(拓矢、人4=東京・駒場)であればピッチへの関わりはもちろんですし、運営の面で彼は本当にスペシャリストだなと思います。西川(玄記、スポ4=石川・金沢桜丘)であれば早慶戦にかける熱量で彼を凌ぐ人間を見たことがないほどです。林(隆生、スポ4=東京・小石川)はチームの広報活動での部員ブログや学連の活動を通じて、大学サッカー・大学スポーツに課題感を持って行動をしているのが本当に素晴らしいです。高原(歩希、文構4=埼玉・早大本庄)もチームのことはもちろん、早慶戦に関しても、オールマイティに関わってくれています。人数が多いだけではなく、各々がスペシャルな特徴を持ったからこそ、学年にいい影響を与えられているのではないかと思います。

――トレーナーの方はベンチにも入られます。もちろん試合に出ている選手やベンチから送り出す選手がいますが、一方で出られない選手も見ていると思います。彼らの姿はトレーナーの目にはどのように写っていますか

浦田 とても難しいところだと思います。ベンチにも高校まですごい成績を収めていたりという選手がいる中で、本当に苦しいだろうなと思います。ただ逆に、今年の話で言えば、ベンチのメンバーが本当にいい雰囲気を作っているなと思っています。自分が感じる今年の変化は、ベンチのメンバーが途中から試合に出てチームにいい影響をもたらしていたり、ウォーミングアップの時間もそうですし、試合中の雰囲気でも、去年は4年生が圧倒的なリーダーシップでエネルギーを持っていましたが、今年は下級生も巻き込みながら一体感、全体のエネルギーというものを構築できていると感じます。彼らは本当に苦しい思いをしていると思いますが、その思いを頭の隅に置いてチームにコミットしてくれているというところが、今年自分がトレーナーとしての立場から見える彼らの印象です。

――一体感を醸成してくれているということですね

浦田 そうですね。そこは4年生だけというよりも1年生、2年生、3年生というところがうまくそこにコミットしてくれているなと感じます。

――しかしながら選手たちの悔しい思いを聞くこともあるのではないですか

浦田 まさにそういった言葉は聞きますし、自分も失敗したというか、一度部を離れる要因となったのが短期的な目標ばかりに固執してしまったというのが自分の課題であったなと思っています。選手も、その試合に出られないからとモチベーションを落とすのはプロを目指すにあたって、シーズン活躍するにあたってはマイナスなはずですし、そういったところがないように自分としてはどこを目指しているのかの問いかけであったり、そこだけで落ち込まず今後の試合を見据えてという声かけを意識しています。

――トレーナー、学生スタッフとして在籍する上でのやりがいはどのようなところにありましたか

浦田 やりがいはいっぱいあるのですが、やはり実際トレーナーになっている方って選手ではそこまで登り詰められなかった人も多いのかなと。まさに自分もそうなんですけど。その中で支えるという立場ながらも、そういった自分たちよりもレベルが上の環境の人たちの成功に自分も貢献できている、コミットできていると実感できるのはトレーナーのやりがいかなと思っています。まさに加藤の例であれば、自分は早慶戦であのようなゴールを決められるわけがないですし。でも彼と関わる時間が長かったからこそ、出しゃばった言い方のようになってしまいますが自分もゴールを決められたくらいの、そこで本当に喜ぶ事ができるのがトレーナーの魅力なのかなと思います。

――今の浦田さんの目標は日本一のトレーナーになることだと思いますが、将来はどのように考えていますか

浦田 今は一般就職を行っています。それはスポーツを支えるというのはトレーナーだけではないと考えているからで、トレーナーを支える仕組みでさえ作ることができるのが一般企業です。自分たちの活動はスポンサーに支えられ、広告を流すことで明らかに観客動員が増えます。資金という面で貢献できることでトレーナーの賃金をあげることができたり。支える人までも支えることができる仕事が自分はできるのではないかと思っています。そういった取り組みや関わり方をしていきたいと考え、一般企業への就職活動をしています。

1を積み上げる、心に尽くす、を自分が体現する

開幕戦に勝利し涙を浮かべる浦田

――今季、学生スタッフながら新人監督に就任しました

浦田 本当に自分も驚きといいますか。学年ミーティングで新人監督を務めることになりました、浦田幹ですと挨拶をしたのですが、その時の汗の量が尋常ではなくて。まさに自分が入部したときの4年生に小笠原学(平31社卒=青森山田)さんという方がいらっしゃったのですが、グラウンドでは笑わないような人で、ミスに対しては徹底的に追求して、みたいな方で。そんな役職が理想というか自分の頭にある中で、自分がそこにどうコミットできるのかというものは凄く考えました。新人監督が決まる前には学年のマネージメント、学年ミーティングのリーダーや運営をしていたのですが、その中で他人に影響を与える姿というのが重なって他薦を受けたのだと思いますが、それでも自分ができるのかという点で、不安しかないスタートでした。

――新人監督としての仕事はどういったことなのでしょうか

浦田 大きく分けると2つあると考えています。1つ目が新1年生の入部の判断を自分が主体的に行うことです。もちろん監督やコーチングスタッフの力もお借りするのですが、学生としてのリーダーを自分が務めています。2つ目が、チームが人としてということを掲げている組織ですので、ルールも最低限あります。そういったところをはみ出てしまう、逸脱してしまった選手への対応や指導として、自分がきつく言わなくてはならないというところが仕事かなと思います。

――厳しくやらなくてはならない立場になってしまっていますよね。辛さもありますか

浦田 そうですね。ただ、去年もチームビルディングをして思っていることがあって、それはシーズンが終わった時にみんなが笑顔であってほしいなと思います。そのために自分がチームから少し嫌に思われようが、それがチームのためになるのであれば僕は率先して行いたいなと思いますし、そう思えるような同期に出会え、チームに出会う事ができました。またそういった4年生の姿を見てきたので、ある意味でそういった伝統を自分が還元する立場になっただけで。もちろんきつい部分もありますし、未完成で未熟な自分が人に指導していていいのかと思う時期ももちろんありますが、その思いをグッと堪えて、チームのためにという思いで活動しています。

――今年の1年生はいかがですか

浦田 本当に真面目な子が多いかなと思っています。彼らが4年生の時には100周年を迎えるというメモリアルな世代でもありますし、そこを担うのに素晴らしい人材が多く集まった学年だなと思っています。ア式は1年生と4年生が似るといわれていて、自分たちがある意味優勝した代の1年生ですし、それを受け継ぐ代になってしまったので、そういったいいDNAを彼らに引き継いで、100周年の成績に少しでも関われたらなとも思います。そういった土台をしっかりと持った選手が集まっている代なのかなと感じています。

――トレーニングマッチでもすでに1年生は大活躍です

浦田 1年生ながらここまで活躍されてしまうと、4年生としてもかなりおっ!となります。本当に素晴らしい学年だなと思います。ワクワクします。

――1年生と4年生が似るという点では今年は優勝しなければなりませんね

浦田 間違いないです。今年は本当に関東リーグはもちろん、インカレやiリーグ、社会人リーグ、新人戦まで含めて全カテゴリー優勝する。自分は全員が笑っていてほしいなと思う中で、関東リーグだけ優勝していてもそれは自分の思い描く理想とはかけ離れてしまいます。全カテゴリー、全選手が優勝して、最後は笑顔で終われたらなと思っています。

――少しお話は戻りますが、新人監督として求められていること、また意識していることを教えてください

浦田 これはとても難しくて、自分の追い求めている姿は厳しさ一徹、一貫といいますか、選手に厳しく言わなければならない立場かなと考えています。4年生にはフレンドリーな選手が多いですし、バランスをとるのであれば自分はそういう面に徹しなければならないなと思って活動していました。ただ、外池さんの方から、もう今はそういう時代ではない、寄り添いながらも気付きを与えたりだとか、叱っていればOKみたいな立場ではなく、そこにしっかりと思考を交えてその選手には何が必要なのかを考えるところを解かれた時に、まさにそうだなと思いました。とはいえ自分の理想とする新人監督像があり、板挟みのような、そういったところの難しさはあります。自分の中でもまだ定まりきっていないのかなと思います。

――大里さん(優斗、令2スポ卒=鹿島アントラーズユース、一昨年に新人監督を務めた)など厳しそうなイメージがあります

浦田 そうですね、ある意味で去年のデラくん(小野寺拓海、令3政経卒=岩手・専大北上)とかキング(阿部隼人、令3社卒=現ザスパクサツ群馬)は新人監督のイメージをいい意味で崩してくれたといいますか、彼らも寄り添いながらやっていました。特にデラくんなんかは凄く優しい方で、デラくんにミスの指導をさせるなんて可哀想だと思ってしまうくらいの人です。そういう意味でもう一度自分らしさってなんだろうと、自分が就任するにあたり考えました。

――ご自身が一年生の時の新人監督はいかがでしたか

浦田 もう本当に怖くて(笑)。本当に笑わない人で、SNSで笑っている写真がアップロードされていた時には驚きすぎて思わずスクリーンショットをしてしまうくらいの方でした(笑)。 とはいえ、理不尽なことを言われようが小笠原さん自身の行動はそこを体現されていたので、納得せざるを得なかったというか。小笠原さんに言われるならば仕方がないと思えるくらい、本当に人間性が凄かった人でした。そういった人に自分もならなければならないなという思いながら、なれないなとも思いながら。という感じでした。

――なにか主将や選手からかけられた印象的な言葉などはありましたか

浦田 雄大とかから特別言われたことはないですが、自分が逆に言っていたのは、雄大はシンボルであり象徴で、どんな時でもどっしりと、日本一というものを迷わず掲げて欲しいと思っています。逆に自分は汚れ役といいますか、陰から支えてチームがうまく行くようにサポートをする役割だと2人で話しています。それこそシーズン当初はチームに問題が起こることもありましたし、天皇杯も負けてしまってブレてしまいそうになりましたが、そこは改めて雄大と話して確認をしたところです。

――シーズン当初、なかなか上手く行きませんでした。そこにはなにがあったのですか

浦田 一番大きいのは去年の4年生の偉大さ、というところです。下級生からしても4年生のあるべき姿はああいった、DRIVE、どんどんと前進していくものが印象としてあったのかなと思う中で、自分たちの物足りなさ、キャプテンシーの無さがチームの不信感に繋がってしまったのと、自分たちはきっちりとした学年なので、きっちりし過ぎたところの他の学年とのコミュニケーション不足から生まれる違和感、齟齬(そご)みたいなことがあったと思います。どの状況に対しても上手くいかない理由は改めてコミュニケーション不足であったりつながりなのだなと感じました。

――そこで変えて行ったのはどのような部分ですか

浦田 もちろんシーズン前からコミュニケーションは意識をしていたのですが、きっかけとなったのは天皇杯で敗戦した後に、出場したメンバーが練習中に集まって、自分がどのようなものを求めているかであったり、本心をぶつけるということを行い、そこからチームの中でもゲバが終わった後のコミュニケーションや、上手くいかなかったことのすり合わせが、今までならばなんとなくで、4年生に伝えられていなかったりなどもあったかと思うのですが、そこが一気に改善されて、みんな思いをぶつけるようになったと思います。

――それ以降はリーグ戦が開幕2連勝となりました。今のチーム状況はいかがですか

浦田 結果がチームを上手く行かせるという部分あると思いますし、チームビルディングが上手く行っているからこそ勝てるという見方もできると思うのですが、まさに2つとも正しいのではと僕も思っています。ただ、勝っている時こそ自分はもっと疑うべきだと思っていて、まだまだあるリスクに勝っていることで目を背けるのではなく、今がいいからこそ上手く行っていないことを自分たちから探して課題解決をしていくことで、チームとして強固な結びつきが生まれたり、強いチームが作れるのではないかと思います。

――改めて、今シーズン求めるチーム像というのはどういった姿になります

浦田 もちろん4年生が引っ張っていくのは大前提としてありますが、かつ全学年が第一線で活躍していけるような、主体性を出して全員が自分を出せる組織が理想かなと思います。

――ア式は4年生で変わる、とも言われています。その辺りご自身で感じることはありますか

浦田 感じますね。やはり4年生になって感じるのは伝統や歴史、また自分たちの力不足でリーグ降格などをしてしまうと下級生に対して負の遺産を残してしまうという危機感を感じます。学生が主体となってやっているからこそ、そこの結果は4年生の力量に関わってくるなと思いますし、そういった緊張感は毎週試合の結果で正解か不正解かを問われているような感覚で。試合に勝った後も嬉しいというよりホッとするという感覚が4年生たしてあるので、本当に4年生は特別なのだなと思います。

――勝ってよかった、という思いがなおさら強くなるのですね

浦田 そうですね、初戦なんて勝った後、自分も羽田も思わず涙してしまったり。本当に抱えているものは1試合の試合結果、勝ち点3か0か、ではなく、チーム全体を自分事化して見ているからこそ、緊張感が漂うのだなと思います。

――その点今年の4年生は田中主将が怪我で出られなくて、逆に公文選手(翔、スポ4=東農大一)はチャンスを掴んで。今年の4年生はいかがですか

浦田 まさか雄大がこんなに離脱するとは思ってもみませんでしたし、田部井に関しても怪我で離脱したりというところで。第2節の試合後に4年生で写真を撮ったのですか、10人が写っていて5人がスタッフ登録というおかしな状況だったのですが、逆にある意味でシーズン当初から雄大がいればやはり雄大に依存していた面も強かったかと思うんです。しかしフィールドからいなくなってしまって、もっともっと全員がリーダーシップを出さなければならないという思いに変化をできたという面で僕はポジティブにも捉えています。もちろん彼自身がプロを目指す上ではマイナスですが、チームとして公文もそうですし、新たなものが出てきているのはひとつポジティブな面でもあるかなと思います。

――杉田選手(将宏、スポ4=名古屋グランパスU18)が今季はキャプテンマークを巻くことが多いです。学年リーダーは杉田選手でしたが、杉田選手はどんな方ですか

浦田 マサは本当に凄いですよね。献身性を見てもらえればわかりますが、チームのために嫌なことでも率先してやってくれるような人間でして、学年からの信頼は相当厚いですし、彼はそれに加えて自分の思いを正直にぶつけてくれる選手でもあります。学年にとって彼無しでは本当にやっていけない選手です。

――大学リーグにおいて4年生はチームの顔となります。4年生に必要なこと、求められることはどのようなことですか

浦田 難しいのが、何をすればいい、というものが無いというのが難しさだと思っていて、それこそチームビルディングをやり、下級生に寄り添っていればいいのかといえばそうではないですし、逆に下級生の意向を無視して突き進んでこれが俺たちのやり方だと示すのも違うなと思う中で、そこにこれが正解だと言えないのが難しさであり、4年生の面白さなのかなと思います。年によって全然違うチームが出来上がるのがまさにそういったところなのではないかと思います。また、一歩千金という言葉がありますが、将棋は金銀や飛車角が大事になる中で、意外と戦局を作るのは歩だという話があります。まさに自分は歩だなと思っていて、それこそ歩の力を借りなければチームは勝てないですし、言い方が悪いですが1年生や下級生を巻き込むというのはそこに繋がっているのかなと感じています。自分は一歩ずつここまで歩んできましたが、歩兵は前へ進んで行けば、『と』に成ることができて、金の役割をする事ができます。そういった役割を自分が果たしたいと考えています。だからこそ、チームビルディングを行い、チーム一体でありたいですし、それを体現するためにまず自分が一歩ずつドライブして、金の働きをしたいです。

――今シーズンは最高学年となり、最終学年ともなります。浦田さんの今シーズンにかける思いを聞かせてください

浦田 かける思いはやはりリーグ制覇、日本一、FCの昇格、iリーグの優勝、新人戦優勝はもちろんですし、個人としても最終学年として意識しているのは、自分の発言というのが1年生が4年生になった時に少しでも生きるような発言を残すことが伝統だと思いますし、自分自身が4年生から与えてもらったような考える機会や思いを彼らにも還元して、いい伝統、早稲田の強さを体現するようなものを自分が、そして4年生として植えつけていく、残していくということが今年やらなければならない使命だと考えています。

――最後に今シーズンへの意気込みを聞かせてください

浦田 やれることはやらなければならないと思いますし、心に尽くす、1を積み上げるというところは自分が体現しなければならないところだと思います。そして1を積み上げるのであればなにを積み上げるかにしっかりと拘った上で、それを来年の財産にも残してもらえるような。強いチームはその年だけが強いのではなく、何十年も強いからこそ強豪として認められるわけで、自分たちが入学する前には降格をした中でまさに今伝統を築く新たなステージに入った段階です。そういったものの継承という意味でも1を積み上げる、心に尽くす、を自分が体現して、今シーズン最後には全員で笑えるようにやっていけたらなと思います。

――ありがとうございました!

(取材、編集 橋口遼太郎、手代木慶 写真 永田悠人)

 

大切にしている思いを書いていただきました!

◆浦田幹(うらた・もとき)

兵庫・夢野台高出身。スポーツ科学部4年。野球部出身の浦田トレーナー。練習中のピッチサイドでは、トレーニング用のポールをバット代わりに素振りをしていることもあるとか。『心に尽くし』、コンディショニングから選手を支えます!