ア式蹴球部には、プレイヤーではない者も所属している。それが『審判』だ。サッカーを行う上で必要不可欠、かつ目立たないことが求められる存在として歩む2人に、レフェリーとしての思いを聞いた。
※この取材は12月28日に行われたものです。
「試合が好きじゃない」(藤間)
チームへの思いを語る藤間
――はじめにプレイヤーとしてのサッカーの競技歴を教えてください
渡邊 小学校の3年生くらいの頃に地元の少年団に入り、エスパルスのスクールみたいなものにも通っていました。中学では普通の中学校のサッカー部、高校でも高校のサッカー部でプレーしていました。
藤間 自分は小学校の年長からフットサルのクラブに通っていました。その際には3年の宮脇有夢(文構3=東京・早実)くんと一緒にフットサルをやっていました。そこから地元でサッカーをやりながらフットサルもやっていました。中学高校では学校のサッカー部に入っていました。
――審判を始めるきっかけとなった出来事を教えてください
渡邊 一番最初は高校1年生の時に、静岡市の小学生の草サッカー大会の審判を、静岡市の高校生で出すことになり全員1年生が資格を取らされたのが本当の最初のきっかけです。4級の審判資格を取った理由です。部活で全員が取らされたという感じです。
藤間 自分たちの部活は4級は絶対に取らなければいけない事になっていました。それで取ることになりました。
渡邊 公式戦の副審をやるために級を取るという人が多いよね。1年生は絶対みたいな。
――そこから本格的に審判をやっていこうという過程にはどのようなことがあったのですか
渡邊 その大会でおだてられて。「うまいね」みたいな。それで審判面白いなと勝手に思っていて。また、チャンピオンズリーグを見ていて、クラッテンバーグ(マーク・クラッテンバーグ、現中国スーパーリーグプロフェッショナルレフェリー)というプレミアリーグのレフェリーがかっこいいと思いました。「俺もこの舞台立ちたいな」と感じました。しかし、選手としてはそこまで上手くなかったので無理ですが、審判ではいけるかなと思ったんです。実際にはチャンピオンズリーグはUEFAのレフェリーが担当するので無理なんですけどね(笑)。でもその時には何も知らなかったので、この舞台に立ちたいなと思っていました。高校3年生の時に3級の資格を、受験勉強しながら取りました。しかし、しっかりとやっていたわけではなかったんです。
――高校の練習試合などで好んで笛を吹いていたりしたのですか
渡邊 いや、全然吹いていないんです。高校生の時は本気で選手をちゃんとやっていました。
――藤間さんはいかがですか
藤間 自分が本格的に始めたのは大学に入って、夏くらいです。それまでは副審などはマネージャーで暇だったので積極的にやっていたりしたのですが、主審は難しい部分があるからためらってしまう部分もありました。ただ、恵太くんがいない時の練習試合の審判は、普段は怪我人がやっていましたが、自分が選手のために貢献できることがないかと考えていた時に、ここで主審をやることが自分なりの貢献の仕方なのでは無いかと考え、審判を始めることにしました。
渡邊 ベクトルが違うんですよね。俺は自分軸だけど、英吉は他人軸というかチームのためにという思いですもんね。
――渡邊さんのア式に来ることになった経緯、昨年の審判部創設についても少し聞かせてください
渡邊 自分は実は1年生の時に少しマネージャーとしてア式蹴球部に入っていたんです。本当に仮入部みたいな形でした。その際に審判をやりたいと当時の古賀監督(古賀聡元監督、平4教卒)やキャプテンに言った際には、それはマネージャーとしての形でしか難しいという話になり部を離れることになりました。しかし昨年の4年生、具体的にはゾノくん(中園健太郎、令2社卒)と大里くん(大里優斗、令2スポ卒)が声をかけてくれて、審判部を作らないか、審判として入部しないかと言ってくれました。それで一緒に早稲田の大盛りの定食屋さんに食べに行き、いろいろな話をしました。その際に、決まったら連絡してという声をかけられ、入部することになりました。
――それまではどのように審判として活動をしていたのですか
渡邊 それまでは、東京都の審判員だったので、東京都サッカー協会からの割り当てを受けていました。あとは関東大学サッカー連盟のエリートコースという審判を育成するコースに入っていたので、それもやっていました。
――審判育成のコースがあるのですね
渡邊 今も入っているのですが、iリーグの全国大会もそれで行きました。今年、関東大学リーグ2部の試合を沢山担当しているのですが、それも本当であれば関東大学リーグは関東協会という協会から審判が派遣されます。それが、関東大学2部はエリートコースでやっていいよということに関東大学サッカー連盟でなり、前期は全試合分エリートコースで担当しました。後期は日大の会場とある一定の会場を担当させていただきました。関東大学リーグとかだと十数試合担当し、アミノバイタルカップも3試合くらいやりました。1部リーグも1試合だけ担当しました。
――藤間さんはア式蹴球部にはマネージャーとして入部されたということですが、入部を決めた理由はありますか
藤間 まず自分はサッカーが好きなので、大学に入ってもサッカーを続けようと思っていました。ただ、早大に受かっていなければどこかの社会人チームに入ろうと思っていました。
渡邊 ええ、ガチじゃん!いままでプレイヤー嫌いだとか言ってたのに
藤間 そうですね(笑)。早大に入ると一人暮らしとかになり、社会人などでやるとするならばかなり大変だと思いました。そうなるとア式が選択肢となりました。ただ自分はそこまで試合とかは好きじゃなくて…。ガチでやりたいのですが、こんなにレベルが高いところではできないとも思っていましたし。でもサッカーに関わりたいと思いました。それでマネージャーという選択肢を選びました。
渡邊 でもプレーが好きじゃないって結構特殊だよね?
藤間 いや、試合が好きじゃないんです。ボールを蹴ったりとかは好きなんですけど…試合が嫌いなんです。ミニゲームとかは好きです。でもフルコートは…。
――90分走るのがきついということですか?
藤間 いや、走るのは好きなんです(笑)。
――あれ。確かに審判としても走ることは求められますもんね
渡邊 走るのは好きだから審判やりたいらしいですよ
藤間 試合でボールを触ったりして、周りからワーっていわれるのが…。
――緊張感ということですか
藤間 んー。広いとプレーできないんですよ自分。
渡邊 どういうことだよ(笑)。広い方がプレーできるでしょ。
藤間 試合になるととりあえず憂鬱なんです。走るのがとか疲れるとかではなくて、ピッチの中でプレーするのが嫌なんです。
渡邊 特殊すぎますよね
――試合で気持ちが乗らないんですか
藤間 フルピッチだと乗らないですね。
渡邊 審判やって、初めて90分全部出たと言っていました。
藤間 誰もわかってくれないです(笑)。
渡邊 練習が嫌いとかはいっぱいいますけどね。
藤間 練習はめっちゃ好きです。でもフルピッチがダメなんです。
渡邊 不思議ですよね。初めて聞いた時驚きました。
藤間 だからこそ審判は俺にとってはちょうどいいと思うんです。走るのは好きなので。
渡邊 向いてるらしいです。プレーしてワーワーいわれるのは嫌いなのに、試合の審判していて選手にワーワーいわれるのは気にならないらしいです。
――気になりませんか
渡邊 最初めっちゃ気になりますよ。メンタル萎え萎えみたいな感じでしたもん。
藤間 これは俺の判定が悪いというのと、選手が勝手に怒っているだけというのが審判ははっきりわかるじゃないですか。だから耐えられます。
渡邊 凄いね。だってそれ俺が思ったの最近だもん。ミスとメンタルの分離みたいな。前まではミスしちゃった、という感じで萎えていたもん。それが最初から分離されているのはめちゃくちゃ強い。審判向きだよ。
――上手くいかなくてもそのあと引きずらないということですもんね
藤間 メンタル終わったら続けられないじゃないですか。そう考えたらやるしか無いです。
渡邊 それね、マジでそのメンタルが大事。俺も最近はそのメンタルだけど、一番最初からそれを持っているのは凄い。みんな多分やってやってやって、そういうのが身についてくる。
――ミスが出たら笛が増えなくなりそうです
渡邊 怖いですもん。ミスしちゃったらどうしようとか怖いもん。
――みんな文句はいいますよね
渡邊 もう最近気にならないですもん。文句いわれてもはいはいって。
――ア式日記を拝見した際には渡邊さんは元々文句をいう側だったということでしたが
渡邊 めちゃくちゃ文句いいます(笑)。高校生の一番最後の試合とか、怪我で出ていなかったのに、ベンチで文句いい過ぎて、審判に文句いい過ぎだから退席させますよとかいわれて(笑)。キレてました。
「今シーズン本当に楽しくレフェリーをやらせてもらった」(渡邊)
判定について解説をする渡邊
――日々はこのグラウンドでどのようにトレーニングをしていらっしゃるのですか
渡邊 大体、火曜日が選手たちがフィジカルのメニューなので一緒にやっています。火曜日が走り、水曜日がサーキットトレーニングといった感じなのでそれは一緒にメニューをこなし、それ以外の時はマネージャーたちと一緒にコーンを置いたりボールを拾ったり。やることがない時は別メニューの選手と一緒に走ったり筋トレしたりという感じです。筋トレはよくやっていますね。練習前にもトレーニングルームなどで筋トレをしています。
――練習試合は吹くのですか
渡邊 そうですね、関東大学2部などの試合が入っていない時には絶対に吹いていて、そういうのが入っている時にはそっちを優先させてもらっています。
――では普段の大学リーグの審判運営は派遣されてくる方達がやっているのですね。学生というよりは社会人の方が多いですか
渡邊 主審は社会人の方が多いですね。本来であれば、昨年までは、主審と手前のA1と呼ばれる手前側の副審は派遣されてくる方で、A2と呼ばれる向こう側の副審と第四審は各大学で持ち回りでした。2部は本来であれば主審が派遣で、その他の審判は各大学の割り当てでした。例えば早稲田でも公文などは早稲田の担当になっている試合では行ったりもしていましたし、自分も空いていれば行きます。
――渡邊さんは二級審判員の資格をお持ちですが、二級は取るのがかなり大変ではなかったですか
渡邊 自分は東京都のアカデミーというのが3年生くらいの時に始まり、そこでアンダー22くらいまでの審判員を養成しますという形で入り、そこで合宿とかも行き研修とかも受けて二級審判員としての推薦を受けたという形です。そして僕の際には茨城に行き、筆記試験と体力試験を受けて合否が出るという感じでした。
――二級審判員を持っていればJFLは吹けますか
渡邊いや、JFL、J3、J2、J1は一級で、都リーグとか地域リーグとかは社会人含めて吹けます。
――藤間さんは審判資格を取っていきたいところではありますか
藤間そうですね。
渡邊 二級では三級を取ってからの経験ももちろんですが、推薦がないと取れないのでそれが一番大変だと思います。だからこそ東京都のアカデミーなどに入りやっていくのが近道かと思います。
――アカデミーではどのようにやっていくのですか
渡邊 三級の人がいっぱいいるのですが、夏とかでまとまった大会とかにアカデミー生みんなで行って、そこで研修含め審判実技の合宿みたいな感じで、インストラクターの方とかにいろいろ見てもらって評価してもらってご指導いただいたり、トレセンというのが審判にもあり、三級トレセンとか二級トレセンがあります。そこでオフサイドのトレーニングとかフリーキックマネジメントとかの練習をしたりしていました。
――活動していた中で苦労した経験などはありますか
渡邊 そもそも審判を始めたばかりの時は、自分のレフェリングが上手くないので、選手に迷惑をかけるというか、いろいろいわれることが多かったです。いろいろいわれること自体はそんなには辛くないのですが、上手くいかない不甲斐なさがありました。成長がなかなか可視化できるものではないですし、試合は水ものなので、今の自分の実力でも上手くいく試合もあれば上手くいかない試合もあります。ただ全体的に実力が伴わないと上手くいかないので、選手に迷惑をかけてしまったなとか、選手に申し訳ないなとか。自分の判定で試合が決まってしまうことが多いではないですか。また直接的に関わっていなくても、選手がストレスをためてしまってイエローカードをもらってしまう事もあります。そういったことで申し訳ないなという思いがありました。今もそんなにめっちゃ上手いわけではないですが、始めた頃は大変だなという感じでした。
藤間 俺は苦労したといっても、レフェリングをしているのがこのグラウンド内(東伏見グラウンド)の練習試合とかなので、ちょっとミスっても許されるというか…そういう環境ではあります。なので苦労するのはむしろこの先になるのかなと思います。
渡邊 審判始めるよりマネージャーとして苦労した経験の方が多いんじゃない?
藤間 マネージャーとして苦労したことは…、いままでは選手であったので、マネージャーとしてただグラウンドに立っているというのが、選手とはやはり熱が違うじゃないですか。モチベーションもなかなか上がらないですし。そんな毎日がなんとなくキツかったです。
――やはりキツイですか
藤間 肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方が大きいです。
渡邊 自分も熱量を持ってやっているけど、どうしても選手との壁を感じてしまうということだよね。やっているのとやっていないのとで。そこの難しさはあるよね。
藤間 そこは審判を始めた中でなくなっていった部分ではあります。
渡邊 一緒にピッチに入るしね。一緒に試合を感じられるからね。それはあるよね。マネージャーはそこで悩む人が結構いるのかなというイメージです。男だと特にサッカーをやっていてマネージャーになる人が多いので、そこのギャップみたいなところで悩む人が多いと思います。選手は選手で悩むことがあるでしょうが、マネージャーはマネージャーで悩んでいると思います。マネージャーは選手とはまた違う種類の悩みですし。だからこそ1年生はマネージャーが何人かいて仲間がいるのは大きいかもしれません。
――やはり離脱しちゃう子もいたりするのですか
渡邊 いますね、というかいましたね(笑)。そんなこといったら1年生の時の俺はその1人でした。
――早スポと連絡をとってくださるマネージャーさんは、朝早くであろうと連絡をくださるイメージがあります
渡邊 本当に見えないところで頑張っています。言い方が悪くなるかもしれませんが、選手は練習まえにトレーニングをやったりケアの時間があって、トレーニングをして、その後にストレッチをやって整骨院に行ってってデザインをしていると思うのですが、マネージャーはピッチ内はピッチ内でコーンを置いたりサポートをして。ピッチを離れてもマネージャー業みたいなことを練習前後でやっているから、本当に選手の見えないところでやっていることがめちゃくちゃあるから、本当に大変だろうなと思います。
――では活動をしていて悔しかった経験などはありますか
渡邊 悔しかったという感情よりも、先ほどもいったように不甲斐ないという思いですね。負けて悔しいとかはないので。審判の割り当てについて悔しいという思いの人もいるのかもしれませんが、自分は競争心を持ってレフェリーをやっているわけではないので、悔しいという思いはないです。
――割り当てられた名誉などはあるかと思いますが
渡邊 そうです。それはあります。ただ、割り当てられなかった悔しさとかはないです。割り当てられたからには、自分がその試合で100%の力を持ってやろうとしか考えていないので、試合に優劣とかは考えたことないので。決勝だからとか。だからそういった事で悔しさは感じないです。
――ア式日記を拝見した際には喜ばしい経験はあったという事でした。そちらを教えてください
渡邊 レフェリーの人ってよくいうんです。負けたチームの人から「ありがとう」って挨拶してきてもらったことが嬉しかったとか。それって、最初は、「いやそんなの(笑)」って思っていたんです。別に、みたいな。それって審判の喜びなの?っていう。しかし、今年関東大学2部を通年担当させてもらって、本当に選手と仲良くなって。行ったら「今日もよろしくお願いします」って。「今日は副審ですか?レフェリーやってほしいです」とかいわれて。僕は今シーズン本当に楽しくレフェリーをやらせてもらいました。そんなこといってもらえるレフェリーなかなかいないと思うので。これって本当に選手のためになっていたんだなという。選手のためになっていたからこそそういう言葉がもらえたんだなと思って、本当に僕は嬉しかったです。
「人間同士と考えた時に、どう対応しようかなと考えている」(渡邊)
終始笑顔の絶えない対談となった
――個人としてレフェリングのなかで特に意識していることはありますか
藤間 審判としていいのかわからないのですが、選手の感情を汲み取ることを意識しています。その場に合わせてファールを取るというか。もちろんファールはファールなのですが、選手がそんなにカットしていないときは流してしまうこともありますし、逆にちょっとの接触でもやばいなと思った時は鳴らすようにしています。いい時も悪い時もありますが、上手く選手の感情をコントロールしたいと考えています。
渡邊 これはめちゃくちゃ本質を捉えていて、競技規則の精神というところに、最高の試合とは競技規則、競技者同士、審判員がリスペクトされて、審判員が登場することのない試合と書いてあるんです。だから、選手がフラストレーションをためていて、ずっと審判に文句を言っているような試合であれば審判員がでざるを得ないじゃないですか。ただ、そこで的確に笛を吹いてあげることによって、ファールの笛だけで選手が納得して試合をしてくれるのであれば審判が余計にでていく必要がないじゃないですか。がからこの考え方はすごくいいことですし、審判界の中では選手のために、というよく使う言葉があるのですがそれに似た様なところですし、僕がいちばんに大切にしているのは選手のためにだし、でも、選手のためにというのは結局、競技規則の基礎があった上で選手のためにというのが乗っかってくるので、まずは競技規則、ルールのところを施行しようとします。ただ、サッカーの審判員って主審の裁量がめちゃくちゃ大きいので、選手のためにという思いを持っていればいい試合になっていきますし、判定もそこの試合にフィットしたものになっていくと思います。
――流してあげられる場面では流してあげた方がいいですよね
渡邊 サッカーの審判にとってファールの基準というのは明確ではないんです。7項目というのがあって、チャージする、飛びかかる、蹴るまたは蹴ろうとする、打つまたは打とうとする、タックルするまたは挑む、つまずかせるまたはつまずかせようとするというこの7個のファールは程度によるファールなんです。不用意無謀過剰な力といって。不用意というのは注意や配慮が欠けて選手がプレーしたという。ただ、注意や配慮が欠けてプレーしたという抽象的な文言しか書かれていないんですよ。それを考えるのは主審なんです。ファールをファールとして取らないというのを正しく言い直せば、基準としてこの試合では、自分は不用意として取らないということになります。関東大学1部とかで些細な接触を取るかといわれたらそれは取らないですが、小学生の試合とかではそれは取るよねという話です。そこに幅があるから審判員は選手の感情であったり試合のレベル、選手のレベルにフィットさせた判定ができるよという話なんです。
――渡邊さんが意識していることとしてはどのようなことですか
渡邊 自分も選手のためにですね。主審が目立つというか審判員が目立つというのは観客としてもつまらないですし、自分が選手をやっていた時には文句をいっぱいいっていて、そうなると結局選手は気持ちよくプレーできないですし。そこで出せる100%の力を出すことしか考えていないですね。それが結局選手のためになるかなと思っています。結局それしかできないですし。
――より高めていきたい部分はありますか
藤間 なんでも高めたいですが…。例えば選手とのコミュニケーションを高めたいと思います。文句をいわれても説得ができるような。試合後であっても自分の判定をしっかりと説明できるように選手とコミュニケーションをとっていきたいです。
渡邊 自分は先日iリーグ決勝の審判をやって、熱量が高い試合をしっかりと収められるようになるのが難しいなと思いました。ある程度はうまくはいくのですが、やはり所々でわちゃわちゃするんですよね。熱くなっているので。それが選手が原因なのか、自分が原因なのかをしっかりと考えて。ただ1級の人とかがやったらもっとピシッとなるんだろうなと考えたら、何が違うんだろうなというところがまだ明確化できていないので。多分大事なところを何個か落としてしまうんですよね。もう少し下手な時な全体的に6割、5割しか対応含めて合っていなかったと思うんですが、今は8割くらいまで正誤としては合っていると思うんです。だから選手たちが落ち着いていたりすれば収まるというか、残りの2割が些細なことであったら大丈夫だと思うんです。ただ結局もっと上に行くには残りの2割を高めていくのが一番大事だと考えています。だからこそ本当に全体ですね。判定と、マネジメントと呼ばれる選手の温度感を調整するところとか。本当にポジショニングとか。そう言ったところをもっと高めていかなければJリーグとか、もっと高いレベルの試合を吹くとなった時にまだまだだなと思います。
――ア式には上川琢(スポ3=湘南ベルマーレユース)が所属していますが、お父様はトップレフェリーとして活躍なさった上川徹さんです。お話をなさっとことなどはあるのですか
渡邊 自分はたまにお話をさせてもらうことがあります。今年は観戦ができないのでというところですが、昨年は琢もスタメンで結構出ていましたし、観戦にいらしていることが多くて、ご挨拶をさせていただきます。また、いいか悪いかわからないですが、難しい判定があった際には琢経由で聞いてもらって、アドバイスをもらうこともあります。FIFAのイエローカードとレッドカードをいただいたこともあります。
――今やジャッジリプレイという番組があり、知らないサッカーファンは皆無なのではというほどです。ジャッジリプレイについてはいかがですか
渡邊・藤間 見ます。めっちゃ見ます。
渡邊 勉強になりますし、あの見解がJFAの見解なのかはわかりませんが見ています。
――「そっち?」という驚きがあったりもするものですか
渡邊 「そうなんだ」というくらいですね(笑)。去年まではJFAの見解だったんですよ。上川さんとかが出てきて。今年とかはJFAの見解ではないのかもしれないです。JFAが扇谷さん(扇谷健司氏、JFA審判委員会トップレフェリーグループマネージャー)なども含めて公式の見解として出している、レフェリーブリーフィングでジャッジリプレイとは違う見解が出ていたので、ジャッジリプレイは最近ではバラエティー番組として見ています。あとは、あの番組はサポーターやプレーヤーの人に見てもらいたいと思います。ルールをもっと知ってほしいというか。審判員としてはDOGSO、決定的な得点機会や考慮事項など、そうだよねという事柄が多いです。例えばペナルティーエリア内でも、つかみにいかずにスライディングでいこうという判断になれば、もしもPKを与えてしまっても自分が退場にならずに済みます。サポーターに見てもらえれば観戦のレベルも上がるでしょうし、選手は最後まで11人でプレーできると思います。選手は10人になることを望んでいないですし、審判員も10人になることを望んでいないですし。だからこそ見てほしいなと思います。
――競技規則の変更なども教えてくれる番組ですよね
渡邊 ルールは1年に1回変わるものなので、あれは見ておくといいと思います。
――VARが入るというのも一つの大きな話題です。
渡邊 そうですね。(藤間に対し)VARには賛成ですか、反対ですか。
藤間 個人的には賛成ですが、使いすぎには反対ですね。先日のACLでもあったじゃないですか。得点前の場面でしたが、サポーターだったら相当怒りますよ。
渡邊 本来ならば明白かつ明らかな間違いと書かれているので、あれはそうではないだろうと思いますね。でも得点に関わる機会だから、戻れるといえば戻れるのかもしれませんが…。適用プロトコルがあって、得点とか人間違いとか、適用できるところは限られているのでいっぱい適用されるわけではないのですが、あれは…やりすぎだよなと思いました。審判員的な目線からすると、助かるというところではあります。それこそVARが介入できるのは誰が見ても明らかな間違いなので、自分達のレベルでは違いますが、Jリーグでは映像を見られないのは審判員だけです(審判団自身の目視での情報以外、外部情報により判定を下すことは認められていないため)。今は監督やコーチも映像を手元で見ていますし、スタンドでもDAZNを見ています。しかし、主審と副審と4審だけ映像を見られません。例えば浦和レッズと湘南の試合では、ゴールインしたものの試合をそのまま試合を続行させてしまいました。あの場面でも、スタジアムの4人だけ映像が見られないんです。それ以外の何万人はゴールと分かっているのに、4人だけ分からなくてゴールになっていない。雰囲気とか含めて絶対に「違った」って分かっているんですよ。あれだけ選手やファンからもいわれれば。それでもVARがないから判定を取り消せず、誰も見えていないから戻せないから、審判員があれだけ叩かれてしまいます。ああいったことは起こらなくなります。結局人間なので、本当に見えない時はあります。そう考えた時に審判員のそういった部分を守ってあげられるのはVARなのかなと思います。ただ、面白味という点で考えれば、マラドーナの神の手ゴールはVARがあれば絶対に起こらないことです。そういうエンターテイメント性も含めてサッカーと捉えてくれる人がいればVARは無くてもいいですが、そういうのは絶対にありえないと考える人がいるならばVARは必要ですね。審判員としては不名誉かもしれませんが、エンターテイメントとしては後世に語り継がれる神の手ゴールです。
――Jリーグでは審判員からの助言があったのでは、という事象もありましたよね
渡邊 あれはオフサイドの場面でしたね。記録上でこの人が得点となっている、ということはオフサイドになるのでは、と4審が助言したのですが、ではその情報はどこから得たの、となった時に公式記録の人です、となって。審判員4人の情報を元にしか判定ができないので、その情報を元には判定できませんとなったシーンです。本当はオフサイド、と分かっているのに、判定を変えられないというモヤモヤ感。ジレンマ。でもVARがあれば変えられます。正しいことを分かっているのに正しいことができないという、ルールに縛られて正しい判定ができないみたいな。この難しさがありますよね。VARがなかったら。
――審判員として活動なさる中でチーム運営にはどのように携わるのですか。
藤間 僕はマネージャーなので、土日とかは練習試合の審判をやっているとマネージャー業務ができないので、平日とかは誰よりもマネージャー業務を一生懸命やろうと思っています。
――レフェリングをしている中でやりやすい選手、気持ちがいい選手はいますか
藤間 やりにくい選手はいっぱいいますけどね(笑)。
渡邊 やりにくい選手はどんな選手?
藤間 何しても文句いってくる選手ですね。ファーとっても取らなくても文句をいってきます。
――渡邊さんはやりやすい選手はいますか
渡邊 やっぱり選手も「えっ」って思うことはあると思うんです。選手を大人だなと思うのは、その時に異議とかではなくて質問できてくれる選手は、やりやすいというかいい選手だなと思います。自分も一応根拠を持って判定をしているので、それをしっかりと伝えられるし、それをしっかりと納得してくれる選手はすごく大人だなと思いますし、すごくやりやすいですね。頭ごなしに「おい」という感じではなく、大人な対応をしてくれるというところです。あとは理解を示してくれる人。少しミスが出た場面でも「見えにくいですよねあそこは」といってくれる選手はありがたいですし、仲間にも「いうな」といってくれる選手はとてもやりやすいです。そういった選手を軸として試合をマネジメントしていくイメージです。サッカーは、レフェリーと選手で接するからうまくいかないのではと思うんです。結局人間じゃないですか、やるのは。人間と人間だし、人間同士と考えた時にどう対応しようかなというのを僕は考えています。例えば、文句とかをいわれて無視する審判員もいるんです。ただ、普段無視をされた時にどういう気分になるのと考えた時に、それは嫌だなと思うんです。無視するのではなく、「自分はそれでファールは取れません」などの声をかける。そしてどこかつかめそうなところで丁寧に対応をする、というところです。痛がっているのであれば「痛いですよね」というような。めっちゃ丁寧に対応して。人と人だから横柄に対応するのではなく、ちゃんとコミュニケーションをとるし、ちゃんとお話をするし、というように考えています。
――サッカー中継を見ていても、中村憲剛選手(元川崎フロンターレ)や中沢佑二選手(元横浜F・マリノス)は審判員の方とコミュニケーションをとっているイメージがあります。
渡邊 ああいうのはすごく上手いなというか。Jリーグのレフェリーってめちゃくちゃ丁寧に話すんですよ。一級の方と組んだりすると、本当に30代の方で大学生の試合を担当していたとしても、「○○さん、そこに止まってください」とか。すごく丁寧だなと感じます。同年代とわかっていて「○○さん、そこに止まってください」といわれたら壁を感じてしまうかもしれませんし、自分は大学生の試合を担当する際にはフランクに接しますが、社会人の方の試合をやるときは年下なのでめちゃくちゃ丁寧にいかないといけない。35歳の審判員が大学生の試合にタメ語でいったら「上からきているな」と思われてしまうじゃないですか。だからその人はめちゃくちゃ丁寧にやっているんだと思うんです。そういう点も含めて考えなければならないですし、僕はそういうのも含めて考えてやっています。
――渡邊さんのこれからを教えてください
渡邊 社会人になって審判を続けて行こうかなと考えています。銀行に勤めることになるのですが、一級の資格を取れたらいいなと思っています。
――将来的にはJを吹いていきたいですよね
渡邊 そうですね、将来的にはJリーグとかにいきたいなと思いますね。
――プロフェッショナルレフェリーになる道は狭いですし、その辺りでは会社の理解も必要ですよね
渡邊そうですね、結局副業という形の人が多いので、やはり会社に理解を示してもらうことが必要ですし、審判員やるから仕事が8割しかできませんというのはナンセンスではないですか。それなら会社に勤めているのだから審判員やめろという話になるので。できるところの仕事は120%の力でやって、その分、審判をやっている以上は土日とかに働けない部分があるので、「普段しっかりやっているからいいよ」と認めてもらえるように頑張っていきたいなと思います。難しさは入ってみないとわかりませんが、このように頑張っていこうと考えています。自分の中学の時の体育の先生がJの副審をやっていて。それも少し影響がありましたね。今も連絡をします。
――会社の理解があって成り立つわけですね
渡邊 カッコよくないですか?バリバリ働いていて一級審判員としてテレビつけたら審判をやっていてって。プロの選手はプロのサッカー選手としてしか人生を歩めないですが、プロの舞台も経験しながら社会も経験できるのがかっこいいなと思います。大変だとは思いますけどね(笑)。色々な世界が体験できて面白そうだなと思います。
――好きなレフェリーはいますか
藤間 最近なんですけど家本さん(家本政明氏、プロフェッショナルレフェリー)が好きです。ツイッターやっている人ですよね。好きな理由が、経歴が好きなんです。
渡邊 それ俺が教えてあげたやつじゃん(笑)。
藤間 確かJのクラブのスタッフをやりながら審判をやっていたんですよね。俺もJのクラブのフロントに入りたいと思っているので、可能性はあるんだなと示してくれた人です。
――厳しい経験をなさって今がある審判員としても有名ですよね
渡邊 そうですね、家本さんは本当にそうですよね。今はすごく安定感があるレフェリーで、僕も家本さんは好きなレフェリーの1人です。結構タフにやらせるというか、あまりファールを取らずに流れを大切にするレフェリーが好きです。家元さんはその1人ですし、荒木さん(荒木友輔氏、プロフェッショナルレフェリー)もタフにやらせるので、その2人が僕は好きです。あとは表現的なところでは海外の審判の方が表現豊かなので、それこそクラッテンバーグは結構好きでした。かなり破天候なんです。真似はしないですけど、カッコいいな、面白いなと思います。
――最後に、チームは全国への戦いが始まります。チームをどのようにサポートしていきますか
藤間 まずは練習でのサポートでチームの力になれればなと思っています。全国始まってからは応援するのみです。
渡邊 自分はア式入った当初から練習試合だったり、レフェリーでチームに貢献しようと考えていて、選手たちはジャッジに不満も持たず、練習試合も気持ちよくプレーに集中できます。今更具体的になにかサポートするよりも、そういうところで選手が100%の力を出して全国大会戦ってくれればいいなと思います。チームは絶対に勝ってくれると信じていますし、今年の4年生は昨年からチームビルディングをしてきて、コロナで色々変わりながらもここまでこられたし優勝も争えました。4年生っでやってきたところが積み上げられているなと思います。しかし、一個足りないところは大切なところで勝てていないというところなので、この大会で優勝して克服できればなと思っています。
――同期の優勝する姿は見たいですよね
渡邊 見たいです。優勝した代で終わりたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 橋口遼太郎 写真 初見香菜子)
大切にしている思いを書いていただきました!
◆渡邊恵太(わたなべ・けいた)(※写真右)
172センチ。静岡出身。社会科学部4年。人間にとって笑われることはプライドが傷つき嫌なことであるが、そういった気持ちを通り越し、自分のやりたいことにチャレンジし、馬鹿にされながらも自分のやりたいことをしっかりとやれば、人間としても成長できると語る渡邊さん。サッカー選手としての苦闘、勉学での浪人、そしてJリーグのレフェリーを目指すという歩みが、「笑われて、笑われて、強くなる」という言葉に凝縮されているそうです!
◆藤間英吉(とうま・えいきち)(※写真左)
168センチ。神奈川・鎌倉出身。スポーツ科学部1年。マネージャーとして入部して以来、「チームのために 選手のために」という言葉だけを絶対に忘れないようにしているという藤間さん。審判をやり始めて、選手のためにという思いはますます強くなったそうです!