【連載】『蹴大成』【第5回】榎本大希×片山瑛一

ア式蹴球特集

 エースとして今季の早大を引っ張ってきたFW榎本大希(スポ4=横浜F・マリノスユース)。長らく苦しんだケガから、ついに実践復帰を果たしたFW片山瑛一(スポ4=埼玉・川越)。闘志を燃やす2人のストライカーが、最終決戦へ向けて思いを語る。

※この取材は12月10日に行われたものです。

一丸となって戦う

片山

――最近のコンディションはいかがですか

片山 5月の半ばからずっとケガをしていて復帰が長引いたんですけど、やっと最近良くなってきました。でも7ヶ月もやっていないので感触の部分ではまだまだ戻っていなくて、体力の部分でも全然だめだなと思っています。これからの努力でどのようにもコンディションを上げていけると思うので、毎日毎日勝負してコンディションを上げて行きたいと思っています。

——―実戦復帰は12月8日の練習試合が初めてですか

片山 そうですね、あれが初めてです。

——―ではリーグ戦を振り返って、改めて2位という結果をどう受け止めていますか

榎本 シーズン立ち上げの前から昨季専大に負けた悔しさを意識してやってきたんですけど、リーグの序盤から最後まで1度も1位になれなかったし、直接対決でも2回とも負けていて、その結果が2位でそれがリーグ戦での自分たちの実力だったのかなという感じです 。

片山 昨季以上にみんながチームのためにハードワークする部分は高まっていたと思うんですけど、昨季ほど競争という部分で足りていなかったのかなと思っています。それは自分が抜けたっていう要因もありますけど、選手同士の競争によるスタメンの入れ替えという部分がことしは少なかったんだと思います。専大の場合は背番号の大きい選手が入れ替わってもやっぱり実力を発揮している部分があると思うので、そういったところをもっと練習から突き詰めてやっていく必要があったんじゃないかと思います。

——片山選手はリーグ序盤の試合に出られていた段階からケガを抱えながらのプレーだったのでしょうか

片山 3月の開幕1週間とか2週間前に違和感を感じ始めて、そのままいつかガタが来ちゃうかなと思いながらやっていたんですけど、まあやれるだけのことをやっていました。

——今シーズンは点が取れている中での敗戦が多かったのですが、攻撃面であえて課題をあげるとすれば何でしょうか

榎本 昨季と比べて、奪ってからの速さを重視していて、前半戦は奪ってからミスなくゴールに結び付いたプレーがたくさんあったと思います。後半戦になって相手もそういう部分を警戒してきて、自分たちの強みを出しづらくなったかなというのは正直感じましたね。相手の監督からそういう指示が出ているのかなと感じることがプレーしていてありましたし、ワセダに対して有利に奪われないようにとかを考えて攻撃してくるチームが増えたのは感じます。それでも得点は奪えていたので、自分たちの理想の形というか、そういう形のゴール数がそこまで多くなかったというか。そういうところが原因なのかと思います。

——片山選手は、試合を見ていてチームにアドバイスしたり、後輩に指導したりはされていましたか

片山底上げの部分では、ケガの間で意識が変わってきました。ケガしている間が結構長かったので、Bチームの練習をすごく見ていました。下からの競争という部分でBチームからの底上げが必要だと思ったので、新しくAチームに行く選手などに積極的に関わっていこうと意識しました。試合に出ている選手にはあんまりアドバイスとかはしていないですね。

——具体的にはどんなことをされましたか

片山 自分がBチームにいたときは前線からの守備がボールを奪い切るためには必要ですし、ワセダのサッカーを体現するためにはそれが必要だと思っていました。自分も1年からずっと出ていたわけではなく、Bチームから積み上げてきて出られるようになった選手なので、そこを成長させれば必ずAチームは近付いてくると思っていました。自分が今まで学んできて1番生かせた部分、守備の部分やボール保持者が良い状況になったときにアクションを起こすということを中心に、Bチームに対しては指導をしていました。

——後期はチームが研究されて攻撃が難しくなったとおっしゃっていましたが、何か打開していくための取り組みなどはされていますか。それとも今やっていることを突き詰めていくという形でしょうか

榎本 自分たちの強みに磨きをかけるというのはもちろんですけど、リーグ戦が終わってから今までは特に、フィジカル的にきつい状況や拮抗しているときに冷静で正確な判断の下に自分のプレーができるようにと古賀監督(古賀聡監督、平4教卒=東京・早実)からも言われています。苦しくなってきたときに狙いもなく前線に放り込むだけとかとりあえず走るとか、そういう判断がない状態でプレーしている状態がリーグ戦ではあって、そういうプレーは相手にとって脅威じゃないと思いますし、ボールを失うことで自分達の強みを出せずに相手に攻め込まれるシーンが増えているんじゃないかと思います。そういう1つのアクションに対しての質を上げて行くことや、連携をとるところの質を深めようと思っています。

——いまのチーム状態で期待されるのが、復帰される片山選手のプレーだと思いますが、インカレに向けての手ごたえは

片山 昨季ずっとケガで出ていなかった豪くん(白井豪、平25スポ卒=東京・三鷹)がインカレで大活躍したので、状況は全然違いますけど、豪くん以上に活躍してインカレ優勝に導きたいなと思っています。

——榎本選手はリーグ戦序盤ずっと一緒にプレーされていましたが、戻ってきてほしいという気持ちはあったんじゃないでしょうか

榎本 それはもう常々です。

片山 ありがとうございます(笑)。

——榎本選手から見て、片山選手が他のFWの選手と違うという点はありますか

榎本 違うところ?人が良いっす!

一同 (笑)。

榎本 まあそれは置いておいて、一番ゴールに向かうというかボールを奪う姿勢が強いと思います。サッカーの本質に迫るっていうのを強みとして掲げているうちのチームにとってまさにそれを体現している選手だと思いますし、相手にとって純粋に脅威になれる選手だと思います。

——片山選手は何度かリーグ戦に復帰されるという話を聞いていましたが、その間もケガを繰り返していたのでしょうか

片山 それは今真相を明かしますと、出たい気持ちはあったんですけど、自分の中ではまだきついかなって思っていてもそれをあまり言えなかったので、「もうちょいでできるよ」とか「大丈夫、大丈夫」とか言ってごまかしていた感はあります、すみません(笑)。

——1年間どういった気持ちでチームの試合をご覧になっていましたか

片山チームが勝ってもらうことは嬉しかったですし、負けたときは同じように悔しい気持ちがあったんですけど、その中で自分の考え方が変わったのが後期筑波大に負けたときです。自分が試合に出られなくてピッチで負けた選手を見ていて、自分が思っている悔しさはピッチで選手が思っている悔しさよりもやっぱり全然足りていないなというのを思って。その時はまだ自分の膝が良くなる保証もなかったですし、このまま引退なのかなとかも色々考えていた時期でした。そうしたら最後リーグ戦で優勝したとしてもピッチの選手と同じように喜べるのかなとか、大学生活最後の試合で負けたときにピッチの選手と同じぐらい悔しく思えるのかなと問いかけたら、足りていなくて。それで結構悩んでいた時期がありました。そのためには苦しいことから逃げてはいけないと思いましたし、今まで以上に努力して一生懸命やらないといけないと思って、取り組みの姿勢も変わりました。するとピッチの選手と同じくらいの喜びや悲しさを感じられるようになったので、少し気付くのが遅かったかもしれないですけど、チーム一丸となって戦うという姿勢はこのケガをきっかけに気付かされた部分だと思います。

——チームが勝ち切れない試合を観て、自分が出ていたらと思うことも多かったでしょうか

片山 はい、出たくてすごくうずうずしていました。やっぱりサッカーをやりたくて、イメージばっかり湧くんですよ。でもできない自分がふがいないというか、もやもやしている感じをずっと持ち続けていました。

——ケガをされている間は、どのような練習をされていましたか

片山 走ることはしていたので、それで結構「いけるよ」とか言っちゃっていたところはあるんですけど(笑)。ステップとかは長い間できていなかったので、それ以外の部分を中心にやっていたのと、パワーアップのために筋肉とか体幹を中心にやっていました。

あこがれの舞台

榎本

――昨季の対談ではキャンパスでも行動を共にすると話していましたが、ことしも一緒に受けている授業はありますか

榎本 月曜の2限の授業を取っています。僕はその日1限も取っているので大体出るのですが、片山選手は一度も定時に来たことがありません(笑)。いつもえいちゃんのプリントと席を取っておいているのに、遅延とかを言い訳にして30分ぐらい遅れてきますね。

片山 まあバスが遅れることはたまにありますよ(笑)。これからは…心を入れ替えていこうと思います。寮ではなく実家から通っているので、ちょっと遠いんですよね。でも卒業へ向けてあとは卒論だけです。

榎本 えっ!?卒論だけ?

片山 単位は残っているのですが教職の分なので。それで週3通っています。

榎本 ああ、そういうことね。(授業の)取り方ミスったね。

片山 なるべく多く勉強しようと思って(笑)。

――ちなみに卒論ではどのような研究をされていますか

片山 自分は部活動のあり方についてです。生徒が社会に出て行くにあたって、部活動がどうあるべきかみたいな事をやっています。

榎本 僕のテーマは、ア式蹴球部で子ども向けにサッカー教室をやっているんですけど、そこで保護者にアンケートを取って…。あれ、こんな事を発表する場だったっけ?

一同 (笑)。

榎本 大学のスポーツクラブが開くイベントの満足度が、チームへの愛着度や公式戦の観客数にどうつながるかを調査しています。

――ではオフの時間を一緒に過ごされることはありますか

榎本・片山 うーん…。

一同 (笑)。

片山 学校では一緒なんですけどね。教職も4年みんなで取ったりして。途中まで取ってたよね?

榎本 いや、今でも取ってるから!勝手にやめたことにしないで(笑)。オフではこの間『FW会』というものがありました。ア式のFWがみんな集まる会なんです。

片山 FWの絆を深める会ね。

榎本 夏に1回やって、今回が第2回でした。

片山。インカレでの復帰はなるか

――そういった集まりの音頭を取るのはやはり4年生ですか

榎本 それは…あ、堂本(大輝、スポ3=東京・三田学園)!

片山 その前は秋岡(活哉、政経3=FC東京U-18)だったね。

榎本 意外と4年じゃないです(笑)。

――食事などをされるのですか

片山 そうですね、ただ食べる(笑)。FWのことについてはあんまり…。あ、今回は青木奎樹(スポ4=千葉・八千代)被害者の会だったね。

榎本 青木はDFなので、練習中からマッチアップするFWが多いんです。それで被害を…(笑)、マッチアップしてケガしてしまう選手が多いので、被害者の会を作ろうと(笑)。

片山 1年の中山雄希(スポ1=大宮アルディージャユース)が一番根に持ってるよね(笑)。

榎本 『GK会』がけっこう前から伝統的にあるみたいなので。

片山 FWもそれに乗っかって伝統にしようと思っています!

――昨季まで一緒にプレーしていたFW富山貴光選手(平25スポ卒=現J1大宮アルディージャ)がJリーグの舞台でもゴールを奪う活躍を見せました。FWのお二人が感じることはありますか

榎本 この間(富山選手が)寮に来たんですよ。話をしても全然変わっていないですし、「本当にJリーグ出てんのかよ」って思いました(笑)。

片山 寮に来た理由も、後輩の卒論の手伝いだしね。

榎本 そうそう。そのついでに暇だから寮に寄ったみたいな感じだったので、あいさつして、まあ大した話はしてないですけど…。富山選手が近々結婚式を挙げるということで、出席の用紙をその場で渡しましたね。変わらず優しくて、にこにこしていました。あ、こういう事じゃないですよね(笑)。

――富山選手のプレーを見る機会はありましたか

榎本 あまり見ることができていないんですよね…。

片山 左足でもすごいシュートを決めていたのが印象的です。

榎本 やっぱり彼はすごかったということですかね(笑)。2トップを組んで一緒にプレーしていたのが懐かしいです。

片山 自分にとってはお手本にしている選手です。ゴール前の動き方もたくさん見て参考にさせてもらいました。そういった先輩がプロの舞台で活躍しているのを見るとすごいなと改めて感じます。

――片山選手は子どもの頃など思い入れのあるJリーグクラブはありますか

片山 やっぱり埼玉に住んでいるので、浦和レッズの試合は小学校の頃に見に行きましたね。だんだん部活が忙しくなって試合を見に行く機会はなくなりましたが、土地柄で浦和レッズでしたね。

――榎本選手は長年横浜F・マリノスの下部組織で育ってきましたが、今季のJリーグ優勝争いを見ての思いは

榎本 (F・マリノスが目前で優勝を逃し)キツいっすよね、あれは…。でも最終節の前の試合で、J1リーグ戦史上最多の入場者数(62632人)を記録したじゃないですか。日産スタジアムが満員になるなんてめったにないことですよね。本当にW杯とかそれくらいじゃないと…。それがF・マリノスのサポーターばかりで埋まったというのは、尋常じゃないなと思いました(笑)。選手のバスを大勢のサポーターが待ち構えているのを見て、こんな中でできたらどんなにモチベーションが上がるだろうかと思いましたね。(齋藤)学くんなどユースの時に一緒だった選手も試合に出ていますけど、早慶戦の1万人でもすごいのに、6万人の中でプレーするなんてどんな感覚なんだろうと思います。うらやましいですね。

プライドに懸けて

榎本。エースとしてインカレでも期待がかかる

――いよいよ最後のインカレがやってきます。初戦へ向けての心境は

片山 相手がどこでもやる事は変わらないので、今まで積み上げたことを出すのみだと思っています。

榎本 昨季よりも初戦へ向けての緊張感というか、懸ける気持ちは強いです。一つひとつの試合は厳しくなるだろうという覚悟はしています。本当に勝ちたいし、優勝したいです。やっぱり昨季優勝しているので。

――注目してほしいプレーはどのような点ですか

片山 ゴールに大胆に向かっていくプレーがFWとして求められると思うので、そういった部分を見てほしいのと、出られれば久しぶりの試合なので、泥くさくやっていこうと思います。全試合得点を狙います。

榎本 自分も、全試合ゴールで!

――最後の舞台へ向けての抱負をお願いします

榎本 4年間の集大成ですし、今までの人生で胸を張れるものがサッカーです。そのプライドに懸けて絶対に優勝したいです。

片山 ケガしている中で気に掛けてくれる人、応援してくれる人の存在をたくさん感じることができました。そういった人たちのためにも必ず優勝という結果で恩返ししたいです。インカレに出るためには限られた枠があって、それを勝ち取ってくれた仲間がいるからこその舞台です。自分の活躍で恩返しして、最高の形で締めくくりたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 佐藤拓郎、森田夕貴、松下優)

左から片山、榎本

◆榎本大希(えのもと・たいき)

1991(平3)年5月25日生まれ。174センチ、69キロ。神奈川・横浜市立金沢高出身。前所属・横浜F・マリノスユース。スポーツ科学部4年。色紙に力強く記した言葉は『誇』。エースのプライドが、相手ゴールをこじ開けるに違いない!

◆片山瑛一(かたやま・えいいち)

1991(平3)年11月30日生まれ。180センチ、72キロ。埼玉・川越高出身。スポーツ科学部4年。長引いたケガのため、リーグ戦は不完全燃焼のまま終えた片山選手。インカレでのゴール量産に期待大です!