ア女、夢散る プロ追い詰めるも一歩及ばず躍進続いた皇后杯はベスト16敗退

ア式蹴球女子
第44回全日本女子サッカー選手権大会 皇后杯4回戦
早大 0-1
0-0
大宮アルディージャVENTUS
【得点】
(早大)なし
(大宮アルディージャVENTUS)2分:山崎円美

 『第44回全日本女子サッカー選手権大会』(皇后杯)4回戦、ここまで激闘を勝ち抜いてきたア式蹴球部女子(ア女)はついにWEリーグ・大宮アルディージャVENTUS(大宮)との一戦に臨んだ。冷え込んだグリーンスタジアムは多くのサポーター、観客が駆けつけ熱気に包まれていた。試合は開始早々、DFラインのミスから失点してしまう。ア女は何度かシュートチャンスを作るが惜しくも決めきれず、0ー1で試合が終了。快進撃を続けてきたア女の皇后杯は幕を閉じた。

悲願のベスト8入りはならなかったがプロ相手に堂々たる戦いぶりを見せた

 

 序盤はハイプレスをかけてくる大宮に押し込まれる展開に。そして開始わずか2分、「コミュニケーション不足だった」という味方へのパスは走りこんできた相手に奪われてしまう。前に出ていたGK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)に対して相手は落ち着いてボールを浮かせ、まさかの失点。「大丈夫、ここからここから」と声でチームを鼓舞する。反撃を試みるア女は6分、DF浦部美月(スポ3=スフィーダ世田谷ユース)のパスからFW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)が相手を振り抜き豪快にミドルシュートを放つも枠を捉えず。11分には右サイドを突破したMF三谷和華奈(スポ3=東京・十文字)がクロスをあげ、相手が頭ではじいたこぼれ球をMF宗形みなみ(スポ1=マイナビ仙台レディースユース)が右足で一蹴。相手の体に当たったボールをMF築地育(スポ2=静岡・常葉大橘)が収めシュートを放つも得点にはならない。最大のチャンスがあったのは37分、髙橋のパスから宗形がクロスを上げ、最後は築地が頭で合わせるが惜しくも枠外。ATにはFW吉野真央(スポ4=宮城・聖和学園)が相手を背負いながらドリブルで前進するが、ホイッスルが鳴り1ー0で前半を折り返した。

前半に惜しいシーンを2度迎えた築地。シュート以外でも中盤で攻守ともに躍動した

 

 なんとか同点に追いつきたい後半、敵陣に深く攻め入り大宮を押し込む時間帯が増える。68分、井上のロングパスからスピードで抜けだした吉野だったが、前に出できたキーパーと接触。惜しくもシュートへは繋がらない。なんとか追いつきたいア女はその後も果敢にゴールを奪いにいく。試合終盤には三谷が右サイドから相手守備陣の牙城を崩し、髙橋へのラストパスに繋げるが得点にはならない。絶対に追加点は献上させまいとDF夏目歩実(スポ3=宮城・聖和学園)を中心に守備でも粘り強さを見せる。相手のクロスにはGK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)が何度も落ち着いて対応。このア女の守備力は後半、大宮にシュートを1本も打たせなかったことにも如実に現れている。しかし刻一刻と残された時間は失われていく。歯がゆい時間は最後まで続き、ついに試合終了のホイッスル。その瞬間、ピッチには悔しさで涙する選手達の姿があった。

井上は中盤でのボール奪取や、深い位置から両サイドへの配球で存在感を放った。

 

 勝利には一歩及ばなかったが後半にはア女ペースの時間帯が続きプロ相手にも自分達の力が通用することを証明した。「受け身にならずにチャレンジできていた」と築地が振り返るように気迫溢れるプレーは多くの観客を魅了しただろう。試合終了後のインタビューで選手達は「悔しい」と口にしながらもそれぞれの課題を見つけより高みを目指す頼もしい姿があった。「悔しさをガソリンに」(後藤監督)。インカレ初戦は12月26日だ。2連覇へ向け、ア女の戦いはここから始まる。

(記事 渡辺詩乃、写真 前田篤宏、大幡拓登)

 

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK ◎1 近澤澪菜 スポ4 JFAアカデミー福島
DF 夏目歩実 スポ3 宮城・聖和学園
DF 13 浦部美月 スポ3 スフィーダ世田谷FCユース
DF 15 田頭花菜 スポ2 東京・十文字
MF 三谷和華奈 スポ3 東京・十文字
MF 井上萌 スポ4 東京・十文字
MF 14 笠原綺乃 スポ3 横須賀シーガルズJOY
→79分 18 白井美羽 スポ2 ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
MF 19 築地育 スポ2 静岡・常葉大橘
MF 26 宗形みなみ スポ1 マイナビ仙台レディースユース
FW 10 髙橋雛 社4 兵庫・日ノ本学園
FW 11 吉野真央 スポ4 宮城・聖和学園
→85分 27 生田七彩 スポ1 岡山・作陽
◎=ゲームキャプテン

 

後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)(囲み取材)

――試合を振り返ってみて

ここ3戦で積み重ねてきたものと自分たちが出せるものはしっかり出し切ってくれたと感じています。非常に悔しいですけど。

――どの辺が勝敗を分けたか

気持ちは強かったと思うんですけど、例えばボールを持たせてから奪いに行くのか、それとも先に足が出てしまってファウルになってしまうのか。その辺の違いというのは大きかったと思いますし、奪われ方も危ないところで奪われてしまうのか、それともリスクがないところで奪われるのか、そういった判断の質だったり。ロングボールもここぞの場面でキックミスが起きるのか、それともしっかりスペースに置けるのか。やはりそういうものの積み重なりがつながってくると思うので、おそらく早稲田の選手全員が感じたことだと思うので、それを糧にしていきたいと思います。

――いい試合だっただけにやはり失点が悔やまれる

そこは監督のせいです。監督が入りあぶねぇぞって言わなかったから(笑)。でもそこはミスが起こってしまったのは選手のせいではないと思いますし、その悔しさは本人が一番何より悔しいと思っていますし、試合後も泣き崩れてしまっていたんですけど。ただその時にチームメイトたちは自分が点を取り返せなかったこと、そっちが悔しいと言っていたので、そっちの方が大事かなと。2分にああいう形で奪われてしまった後も彼女はしっかりつなごうとしてたし、そこでビビってしまってただただ蹴るだけになってたわけではないし。そういうことの方が大切だと思っているので、私はよくやった、よく90分戦ったと思います。

――ベスト8とはならなかったが、インカレに向けて

とにかくコンディションを整えることが大事かなと。去年優勝しましたけど、その時のメンバーと同じではないですし、見ていただいた通りやっているサッカーも含め、また今年積み重ねてきたものを出して、まずは神戸ラウンドを勝ち上りたいなと。なにより去年の決勝が雪でとっても寒かった記憶が強いので、しっかり神戸ラウンドを勝ち抜いて、西が丘にもう一度戻って自分たちらしいサッカーをしてもう一度喜べるようにやっていきたいなと思います。

――井上選手や築地選手はWE相手にしっかり戦えてた印象が強いですが、個の強さはどう感じましたか

萌や育は本人も通用すると感じたことがあるんじゃないかなと思ってます。たださっきも言ったんですけど、フィジカル的に戦える反面、巧さやクレバーさという意味で言うと、大宮の乗松選手とかってファウルにならないですよね。結構がっつり真央に行ってるんですけど、もちろんなるところはなるんですけどそれが高い位置とか。プレスをかけて奪い所でファウルになるのは何故なのか。それが先に足から行ってしまっていることなのか、もう一個ボールを持たしてもそのフィジカルがあれば、特に育なんかは通用しますよね。その後に奪える可能性も全然残っているので。そういう部分で、できたことと彼女自身がファウルになって悔しいって思ったことを「ファウルになっちゃった」で終わらせるのか、WEの選手からボールを奪えるようになるためにはともう一個掘り下げるのか、というのは大事かなと。そういうのはWEリーグは絶対に必要です。

――なでしこ1部に3回勝って大宮にも健闘しましたけど、試合後労いの言葉をかけたりはされましたか

とにかく失点は誰かのせいじゃないし負けも誰かのせいじゃないというところを伝えました。自分たちの力が出せずに負けたかと言われるとそうではなかったことは全員が感じていて、でも個々で。例えば三谷が何度チャンスを作れたのか。真央が何度収められたか。1、2、3回戦ではできてたことが封じられてしまった部分もあって。みんなの中で自分の中の悔しさみたいなものがにじみ出ていたので、そんなに労ってはないですね。落ち込んでるというよりとにかく悔しかったと言ってたので。それはいいエネルギーですよね。ここから時間もないですし落ち込んでる暇もないですよね。どうせだったら悔しいをガソリンにしてもう一つうまくなるんだ、絶対負けちゃいけないところで点取るんだ、みたいにガソリンにしてくれた方がよっぽどポジティブなので。そういう意味では大丈夫なのかなと、みんなの顔を見てたら。

――インカレがすぐ迫っています。組み合わせを見ると戦いやすいのかなと思いましたけど、展望を聞かせてください

学生のサッカーとなでしこ、WEのサッカーって違っていて、逆に言えばなでしことかWEの方がやりたいことが分かるので対策も取りやすいですし。でもそうじゃなくてただドーンと蹴ってくるとか。そうすると今日の失点のような可能性も生まれてきますし。戦いづらさで言えば、格下格上とかという感覚はないです。別の戦いではない、違う準備というか。皇后杯には皇后杯の難しさがあるし、インカレにはインカレの難しさがある、それは選手たちも分かっているので気を引き締めて、誰一人として去年優勝したとかそういうことを引っ張っている選手もいないですし。そもそも去年のインカレ決勝に立っている選手がそんなにいないので(笑)。そういう意味でも気を引き締めて悔しさをピッチで晴らしたいと思います。

 

GK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)

――今日の大一番、試合を終えて率直にいかがですか

悔しいです。通用してる部分はあったし、いいチャンスが作れてる部分もあったけど、決め切れなかったですし、ああいった形で失点もしてしまいました。そういった意味で悔しいです。

――内容を見ててもあと少しで手の届くところだったと思いますが、自信みたいなものはつきましたか

自信ついたなっていう感じはしないですけど、自信をもって90分間戦えたことは確かな事ですし、なでしこリーグ1部相手を3チーム倒してきてWEまでやってこれたという部分では大学生と違った強さという意味でも、自分たちの強さを試すことができたので、そこはひとつ自身にはなりました。

――ご自身にとってこれが最後の皇后杯となりますけど、これまでの皇后杯を振り返ってみていかがですか

自分が高校の時から出てますけど、ここまでしっかり勝ち進んできたのは初めてのことなので、そういった部分ではすごくここまでこれたことが嬉しかったです。でも目標としていたのはベスト8だったので、そこはやっぱり倒したかったという気持ちが大きいですけど、後悔とかはないです。

――インカレがすぐ近づいてますけど、インカレに向けてはいかがですか

もうやるしかないって感じなんで、自分たちがこれまで1年間やってきたことをしっかり出し切れば結果はついてくるはずというのはみんなも自覚しているとは思うので、今日の試合の修正点をブラッシュアップしてチーム全員でインカレ優勝に向けて頑張っていけたらなと思います。

 

DF井上萌(スポ4=東京・十文字)

――今季ここまでで1番大きな試合だったと思いますが、振り返って率直にいかがですか

 正直勝てると思っていたので、チャレンジャー精神で行った分悔しい気持ちでいっぱいです。

――ロッカールームや監督からの言葉など、どのような話をして試合に望みましたか

 戦術的に言うと相手のFWが食いついてくるので、その裏や2枚目をしっかり使って厚みのある攻撃をしようと話していました。また大学生らしく、勢いよく攻撃していこう、全員で戦おうというのを声かけしていました。

――試合を分けた失点シーンを振り返っていかがですか

 コミュニケーション不足から、CB間で事故が起きてしまいました。立ち上がりは特にああ言った部分はしっかりやらなければいけない、ということをインカレ前に突きつけられた感じです。

――プロチームを相手取った一戦でしたが、ご自身の手応えはいかがですか

 120%できたと思いますし、「全然通用するじゃん」と前向きに捉えられました。

――実際後半は特にア女ペースの時間もあった中で、得点に結びつかなかったというところに関してはいかがですか

 やはり2列目以降、(相手のプレスを)剥がした後にどうやって点をとるのか、サイドからなのか中盤からなのかというところは、もう少しチームとして約束事があった方が良いかなとは思いました。

――終盤は特に裏へのパスをかなり通していたと思います。どういった狙いがありましたか

 両サイドに振ることでピッチの幅を使って、ボールを隠しながら雛(髙橋)に縦パスを入れるという、相手がどこを狙ったら良いか分からなくなるようにできたのは自分の良さが出た部分じゃないかなと思います。

――残すはインカレのみになります。今日の試合や大会を通して得たものから、何かインカレに持っていきたいものはありますか

 なでしこリーグのチームに3連勝して、今日もVENTUSと試合ができたことは自分たちの1つの自信にしようと思っています。自分は今のシステムで、ビルドアップの逃げ道になる部分でもっと精度を上げていきたいなと思いました。自分が最終ラインに落ちるのか、それとも早い段階で両サイドにつけるのかというところはもっと細かくやっていきたいです。

――シーズン目標の一つがついえたことになりました。どんな試合になりましたか

 終わった瞬間に思ったのは、「自分はもう皇后杯を戦えないんだ」ということで、そういった喪失感は今もすごく大きいです。心がぽっかり空いてしまったような感じがします。ただ自分のプレーに関してはベストを尽くせたと思っているので、そのギャップがすごく大きいです。

 

FW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)

――今季最大のゲームになりました。振り返っていかがですか

 ここまでみんなでやってきて、3回戦も突破してもうあと一歩だったんですけど、それが越えられなくて。もっとみんなと試合をしたいし、このチームならWEリーグのチームにも通用するという自信があったからこそ、悔しい気持ちでいっぱいです。

――通用している部分、上回った時間も多かったと思いますが、何が勝敗を分けたとお考えですか

 寄せの強さとか、対応してくる部分だったり、少しの当たり前の基準の高さはやはりすごいなと感じました。

――試合前、髙橋選手自身はプロチームへの練習参加や対戦経験などをどのようにチームに還元してきましたか

 やはりWEリーグチームに対してリスペクトをするのは当たり前なんですけど、リスペクトし過ぎてもよくないというか。みんなでここまでWEリーグチームと対戦する場を目指してきて、本番でリスペクトのしすぎで萎縮してしまうのももったいないと思っていました。それこそ自分も含め4年生はWEリーグチームに練習参加させてもらう機会があったので、その経験を言葉でも伝えましたし、気持ちの部分ではこちらがチャレンジャーという気持ちでぶつかっていくこともできたと思います。だからこそこういう結果になってしまってすごく残念です。

――ベスト8進出はなりませんでしたが、なでしこリーグチーム相手に3戦3勝し今日もかなり惜しいゲームでした。大会全体を振り返っていかがですか

 負けたら終わりというトーナメント戦の中で、皇后杯はWEリーグチームと対戦できる特に貴重な機会ですし、一戦一戦に対する大切さは改めて感じました。今日大宮と戦って、自分がまだまだ足りていないということを痛感したので、これを忘れずに頑張っていきたいと思います。

――最後の大会であるインカレが迫っていますが、今日得たものからインカレに生かしたいことはありますか

 やっぱりWEリーグチームと試合ができた大学は自分たちだけなので、これを基準に練習から高めていってもっと強いア女を見せていけるように、残りの日々の中で成長していきたいと思います。

 

MF築地育(スポ2=静岡・常葉大橘)

――率直に試合を振り返っていかがですか

 チーム全体で、これまでの積み上げを出す場としてちょうど良い舞台、という認識をしていました。受け身にならずに、チャレンジしていけたという面では良い試合だったと思います。

――ア女ペースの時間もあった中でやはり悔やまれるのは失点シーンだと思います

 声掛けの部分でミスが起きて、ビルドアップを相手にとって前向きな形で奪われてしまいました。ただそこだけではなくて、攻撃の時間帯に決め切らなくてはいけないチャンスもすごく多くて、自分自身も何回もチャンスがある中でなかなか決め切ることができませんでした。相手に先制点を取られた中でもしっかり得点して、勝ち切るというところが今必要なのかなと思います。

――なでしこリーグのチームとの3戦と比べて、今日の試合ではそこまでシュート機会は多くはなかったと思いますが、そこは守備面を意識してという感じですか

 そもそもゴール前までしっかりと攻め切るという部分がチームとしてなかなか作れなかったので、それがなでしこリーグとWEリーグとの差なのかもしれません。あとは前半特に、自分のいる右サイドにはなかなかボールが来なかった中で攻め上がることはできていたので、最後自分に出してもらえるような信頼を、もう一つ積み上げなくてはいけないと思いました。

――多くの面でWEリーグチームを相手に通用していたと思いますが、手応え的にはいかがですか

 気持ち的にもWEだからといって引くことなくプレーできましたし、内容としては守備面やデュエルのところでは通用した部分が多かったと思います。中盤でボールを奪って、攻撃のスタート位置を高くするだとか、しっかり競り勝ってセカンドボールを回収するといった部分は自信を持ってインカレに臨みたいと思います。

――結果的にはベスト8進出という大きなチーム目標を達成することができなかったということになります

 1年間目標として頑張ってきたので、それに関してはみんなすごく悔しいところではあると思います。ただ自分はインカレがあると思っていますし、時間も短いので次をしっかり見て準備していきたいです。