来たる明日、年に一度の伝統の一戦であるサッカーの早慶戦、通称：早慶クラシコが開催される。大学サッカー界でも屈指の知名度を誇るこの早慶クラシコは、運営の多くが学生の力によって手掛けられ、まさしく「学生主体」で成り立っている。この「学生主体」という環境において、試合を滞りなく円滑に進行するためには、運営の中心となる人々、特に試合全体を把握し、運営の一種の責任を負う「主務」の存在を欠かすことはできない。そんな重要な役割を今年のア式蹴球部（ア式）で担っているのがＧＫ山田怜於（社４＝神奈川・鎌倉）だ。主務という大きな役職に就く一方、今季はアミノバイタルカップなどで先発出場を果たすなど、選手としても一躍成長を遂げ、その活躍の幅を広げている山田怜。主務の激務をこなしながら、選手としてピッチに立つという二足の草鞋を履く男が、自身の一つ集大成となる舞台、早慶クラシコをどのようにつくり上げていくのか――。主務・山田怜於のピッチ内外の挑戦に迫った。
試合後に味方と喜びを分かち合う山田怜
山田怜が主務を志すようになったのは、３年の５月頃。Ｂチームでプレーしていた当時、シーズン途中で膝のケガをしてしまったことがきっかけだ。チームの勝利のために何もできない自分にもどかしさを覚えていた中、同期のマネジャーが勝敗には直接関わらない部分で懸命に活動している姿を改めて見た山田怜。「チームスポーツをやってきて、チームに対して１人の人間として貢献できるってことに、自分自身が喜びを感じるというところを再認識した」とピッチ外での活動に目を向け、「チームが目標に向かって一つになる土台をつくる」ために主務、３年時はそのサポート役である副務になることを決めた。
そんな山田怜の主務としての理想の姿に「選手との両立」という思いがあった。「自分自身、選手ありきというところはあった」と主務として選手として、今季であれば「１部昇格」や「日本一」という目標が達成できる。いわゆる「スーパー主務」として活躍をすることを目指したのだった。ただでさえ忙しい選手としての部活動、そこに主務としての多くの仕事を並行してこなさないといけない。両立は簡単にはなしえなさそうだが、「自分で決めたことだから、嫌だというネガティブな感情はない」という山田怜。加えて、ア式の外部との関わりを多く持つ主務という立場にいるからこそ、外の仕事で得たスキルや知識をピッチ内でも生かし、「自分自身が運営側でやれているという思いを持った状態でピッチに入れるから、自信を持ってプレーができる」と、ピッチの内外のつながりという部分も誰よりも感じ取ることができているのだ。
その結果、今季の山田怜はピッチ上でも素晴らしい活躍を見せている。特に６月末から行われ、ア式が３位に終わったアミノバイタルカップ（アミノ杯）では、５試合中４試合でフル出場。特に目覚ましい活躍を見せたのが３位決定戦の順大戦だ。相手の決定機を前にことごとく立ちはだかり、まさしくピッチ内でもチームの勝利に貢献する姿を体現。アミノ杯が始まる前のリーグ戦で３連敗、その間に10失点という悪い流れを断ち切るという意味でも、大きな活躍を見せた。
ビルドアップに参加する山田怜
山田怜にとって早慶クラシコとは一言で「夢の舞台」。高校時代、等々力で行われた早慶クラシコの光景に憧れを覚え、ア式へ入部をすると心を動かされた山田怜にとって「夢」を与えてくれる場所であるのがこの早慶クラシコだ。そして４年生となった今、今度は自身がその夢舞台をつくり上げる立場にいる。「自分が夢を与えてもらった舞台だからこそ、夢を与えられる舞台をつくりたい」と山田怜。主務として早慶クラシコをピッチ外からかたちづくり、選手としてプレーでピッチ内から見に来てくれる人たちに感動を届ける。目指すのは主務と選手という両輪を追いかける山田怜にしかできない、最高の夢舞台を多くの人に味わってもらうことだ。
加えて山田怜が意識するのは「繋ぐ」こと。これには主務・選手としてピッチ内外の両面を「繋ぐ」、ア式にいる後輩たちに早慶クラシコという舞台をつくり上げていく上での可能性を「繋ぐ」、会場に見に来る早稲田に関わる全ての人を「繋ぐ」、そして山田怜同様、早慶クラシコに「夢」を感じ、将来ア式を大学サッカーを日本のサッカーを担う人が誕生するかもしれない未来に「繋ぐ」。本当に多くに意味がきっと込められているのだろう。今年の早慶クラシコのテーマでもあるこの『繋ぐ』。テーマをより深く受け取ることで、また一味違った早慶クラシコの姿を楽しむことができるかもしれない。
（記事・写真 髙田凜太郎）
インタビュー終了後に、中学時代に同じユースだったＭＦ小倉陽太（スポ４＝横浜ＦＣユース）と写真に納まる山田怜
◆山田怜於（やまだ・れお）
2001（平13）年６月７日生まれ。177㌢、72㌔。神奈川・鎌倉高出身。社会科学部４年。早慶戦での注目選手は平松柚佑主将（社４＝山梨学院）だという山田選手。自身が憧れた早慶戦で、山梨学院高出身の加藤拓巳選手（令４スポ卒＝現清水エスパルス）が活躍されていたからこそ、同じく山梨学院高出身の平松選手に期待したいそうです！