3年4月という異例の早さでのプロ内定。なぜMF安斎颯馬はJ1・FC東京への内定をここまで早くつかみ取れたのか

ア式蹴球男子

 青森山田高のエースで高校サッカー選手権(選手権)得点王――。当時のサッカー界にその名を轟かせ、鳴り物入りで早大に入学した男、MF安斎颯馬(社3=青森山田)。大学進学後も、1年目からリーグ戦6ゴールを奪い新人賞に輝くと、今ではチームの中核を担う存在となっている。そして、3年生の4月という早い時期に、2025シーズンからのJ1・FC東京への加入が決まった。一見、理想的にも見える彼のここまでのキャリア。しかし、昨年は年間通してわずか1ゴール、チームは2部降格という不甲斐ない結果に。安斎自身も、「このままではプロになれないという危機感を覚えた」と、プロ内定とはかけ離れた世界にいた。それでも、つかみ取ったプロの世界への切符。なぜ安斎が異例とも言える早さで、プロの舞台までたどり着けたのか。「安斎颯馬」というサッカー選手の本質に迫った。

 

昨年の早慶クラシコ(9月10日、〇2-0)にてドリブルをする安斎

 安斎颯馬という選手のイメージとして思い浮かぶのは、「チームのエース」や「点取り屋」。これは先述した通り、選手権得点王を獲得したという事実によるところが大きいだろう。高校3年時の選手権では、準決勝でのハットトリックを含む5ゴールを挙げる。青森山田高のエースとしての姿はとても印象的だった。決勝ではPK戦で自らが失敗してしまい、チームを日本一に導くことはできなかったが、当時のサッカー界に「安斎颯馬」の名を確かに刻んだ。実際に早大に来てからもその印象は変わらない。1年目から、6ゴール。しかも全て途中出場によるものと、チームが苦しんでいる時に、救いのゴールを決めてくれる、まさしくエースのような存在であった。

 

1年時の冬にはU20全日本大学選抜として、デンソーカップに出場した

 しかし、実際の安斎のプレーを生で見ると、驚きを覚えることがある。もちろん良い意味でだ。チームのエースとしての風格やオーラというものは間違いなく持ち合わせている安斎。それと同時に彼のプレーからは「ひたむきさ」や「戦う姿勢」がとても感じられるのだ。チームのために誰よりも走る。球際でも絶対に相手に負けないという気持ちを見せる。前線からの守備もいとわず行う。ピッチ上でサボっている姿は全くと言っていいほど見られない。とにかく1プレー、1プレーに全力を注ぎ、ひたむきにプレーするのが安斎の特徴と言える。そして、ピッチ上で輝きを放つことも忘れない。泥臭いプレーでチームを支えたかと思えば、一つのプレーで観衆を沸かせる、見ている人々をワクワクさせてくれる。そんな姿も披露してくれるのだ。

 

 そして、何より安斎のすごさをより際立たせるのがプレー水準の高さである。昨年、早大は開幕からチームとしてかみ合わず、結果としてリーグ最下位に終わり2部降格という屈辱を味わった。安斎自身も年間わずか1ゴール。もちろん本人にとっても納得のいかない結果であったことは間違いない。早大のエースとしての輝きが薄れてしまう時期も見受けられた。それでも、数字には現れないところでの安斎の貢献度は、計り知れないものであった。チーム一の出場時間を誇り、チーム事情で複数ポジションをこなさなければいけない中、どこを任されても遜色なくこなす。しかも高いクオリティで。さらに攻撃では多くの場面で起点をつくり、守備では球際などの1対1では負けない力強さを見せた。実際にFC東京にも、「どんなにチームが苦しい状況でも、コンスタントに試合に出て、一定パフォーマンスを出し続けたことが評価された」という。チームのエースとして見る者を魅了するプレーを見せ、泥臭いプレーもこなし、どんな状況でも高水準のパフォーマンスを発揮し続けることができる。多くのJクラブが求めているものを安斎が合わせ持っていることこそ、早期での内定に至った大きな要因なのだ。

 

 安斎が持ち合わせているこれらの要素。その多くは彼の中高時代から培われている。中学時代は、内定先のFC東京の下部組織、FC東京U15深川に所属していた安斎。当時の自分は「チーム内で一番下手くそだった」と振り返る。だからこそ、「下手なりに球際の部分や戦うってところは、本当に誰にも負けたくなかった」と、今も見せるひたむきに泥臭く戦うというプレーが安斎に強く根付いた。そして、3年時には選手権得点王という輝かしい成績を残した青森山田高時代。安斎が成長できたと感じるのが、メンタルの部分だ。親元を離れ制限された生活や、極寒の中、2カ月間ただ走り続けるだけのトレーニングといった「普通の高校だったら絶対に経験をしないことを3年間やり続けた」という安斎。その内に、自然と強化された安斎のメンタル。3年の頃には今まで以上に我が強くなり、「自分が本当に点を取りたいという思いが強くなった」と、エースとしての自覚が芽生え、結果的に選手権で得点を量産できたことにつながった。

 

インタビューに答える安斎

 

 今回の異例とも言える速さでのプロ内定という決断には、多くの葛藤があったという安斎。周囲から、まだ決めるのは早いと言われることもあり、自身としても大学でまだ何も残せていない中でプロに進んでいいのかと、思案し続けた。それでも、「自分の成長を考えて、高いレベルでサッカーがしたい」。そして、「大学時からプロの試合に絡めるチャンスがあるならそこに挑戦したい」と、悩んでいた気持ちは、最終的に「大学3年生の内からプロのピッチに立つことを本気で目指す」という志に変わった。加えて芽生えたのが、「自分のチームを勝たせる」という今まで以上に強い覚悟や責任。プロ内定ということで、見られ方やマークはより厳しくなってくる。そういった中でも、「結果を出せるのがプロになる選手だと思っている」と、より一層結果にこだわっていくことを誓った。

 4月2日に今季の関東大学サッカーリーグが開幕した。開幕戦で安斎は見事な直接フリーキックを決め、3-1での勝利に貢献。続く第2節では、0-0の後半82分に自らが得たPKを沈め、これが決勝点となった。「チームを勝たせる選手」、この言葉をここまでは間違いなく体現している安斎。昨年はなかなか発揮できなかった、早大のエースとしての輝きも取り戻しつつある。もちろん、チームのために泥臭くひたむきに戦うプレーというのも随所で見せている。プロ内定という事実を気負いすぎる姿は全くといって見られない。きっとこれからも、早期でのプロ内定にふさわしい選手だということを示し続け、早大を勝利へと導いてくれるはずだ。

(記事 髙田凜太郎 写真 前田篤宏、大幡拓登)

加入内定に際して色紙に自由なテーマで一言を書いていただきました!

 

◆安斎颯馬(あんざい・そうま)

2002(平14)年9月29日生まれ。175センチ68キロ。青森山田高出身。社会科学部3年。関東大学サッカーリーグ、1部通算41試合出場7得点。2部通算2試合出場2得点。

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