ア式の『元・守護神』GK上川琢の苦悩と、夢と、プロ内定への道

ア式蹴球男子

 19シーズン後半戦、2年生にして正GKの座を勝ち取ると、関東大学リーグ(リーグ戦)1部の『歴史的残留』に大きく貢献。しかし20シーズン、リーグ戦での出場機会はゼロ。最高学年として迎えた21シーズンも、ここまで公式戦の出場無し。ア式の『元・守護神』は苦境に立たされている。

 上川琢(スポ4=湘南ベルマーレユース)。その歩みと、思いに迫った。

デビュー2戦目、流通経大戦でコーチングをする上川

 最初のチャンスは突然だった。2年生として迎えた19シーズン、Aチームはリーグ戦の開幕以来絶不調。前年度優勝チームながら開幕6戦で1分5敗を喫し、最悪のスタートとなっていた。同年に発足したア式FCで出場機会を得ていた上川に声がかかったのはその時であった。リーグ戦メンバーに登録されるや、第7節の東洋大戦でリーグ戦初出場。「絶対に勝ってやるんだ」という意気込みで臨んだ一戦で、見事にチームはシーズン初勝利を収める。続く流通経大戦でも勝利に貢献し、大きな存在感を示した上川。その後、一時は負傷で戦線を離脱するも、13節からスタメンに返り咲くと、守護神としてチームの『歴史的残留』を呼び込む活躍をみせた。

 新型コロナウィルスによる自粛期間を経て、7月に開幕した続く20シーズン。スターティングメンバーに上川の名はなかった。「2年生の時に試合に出られていたから、3年生でも出られるのでは」。こうした淡い期待を打ち砕いたのは、GK山田晃士(令3社卒=現ザスパクサツ群馬)の存在だ。圧倒的な熱量でチームに向き合う副将が、チームで絶対的なポジションを確立。「最初は焦っていたが、途中からは焦りも感じないくらい引き離されていた」と上川。シーズン半ばにはベンチからも外れることもあった。だが、指をくわえていたわけではない。「もう一度キーパーの技術を見つめ直す期間になった」。周囲からの信頼を勝ち得るには、ピッチ内で存在感を示し自分自身を高めていかなければならない。熱量に加え、日頃の練習からチームの信頼をつかむ山田の姿こそが、上川を鍛錬へと駆り立てていた。

練習から細かい守備の指示を飛ばす上川

 迎えたラストシーズン。春先には福島ユナイテッドFCなど複数クラブに練習参加し、「一つ一つのプレーに対する気持ちが遥かに違う」と、プロの覚悟を身をもって痛感。ベンチを温めた昨シーズンの悔しさも胸に、開幕への準備を重ねていた。そんな矢先の大ケガであった。トレーニング前に、ピッチサイドでの疲労骨折。上川の無念は計り知れない。

 そうした中でも上川の支えとなったのは、仲間の活躍と福島ユナイテッドFCの強化部だったという。

 上川に続き、GK高田侑真(スポ4=京都・東山)が負傷し、開幕のピッチに立ったのはGK公文翔(スポ4=東京・東農大一)。「うれしかった。頑張れ公文と思っていた」。共に切磋琢磨(せっさたくま)をした同期の奮闘は、上川の力にもなり、「公文の功績は順位はもちろん、Bチームや社会人チームに出ている選手へ大きな影響を与えた」と、チームへの貢献も絶大と語る。

 福島ユナイテッドFC強化部との関わりも綿密であった。「半年怪我して試合出られない中でも連絡を取ってくださって。早く復帰したい、とメンタル的な安定にもつながっていた。感謝しかないです」。

 こうした離脱期間、外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)の勧めもあり、セットプレーの分析に取り組んだ。すると、第9節の桐蔭横浜大戦において、上川のピッチ外からの関わりは実を結ぶ。続く法大戦と、2試合連続でセットプレーからの得点が生まれた。「直接的に勝利に貢献ができた。今まで自分が感じたことのなかった達成感がこみ上げた」。『塞翁が馬』とはこのことだろうか。プロ入りへのアピールには大きな障害となった負傷であるが、新たな喜びに触れるきっかけともなった。

FW杉田将宏(スポ4=名古屋グランパスU18)と称え合う上川

 17日、福島ユナイテッドFCへの来季加入内定が発表となった。『「面白くて格好いい」このポジションの魅力を多くの人に伝えたい』(福島ユナイテッドFCホームページより)。こうした上川の思いの原点ともいえる出来事がある。時は19年の明大戦。試合終了後にエスコートキッズからかけられた「キーパーかっこよかったよ」という言葉だ。「嬉しかったし、そういった子たちを増やして伸ばしたいと思った」。湘南ベルマーレユース時代の指導者、ジョアン・ミレッ(現筑波大GKコーチ)からかけられた「琢はキーパーコーチになった方がいい」という言葉も忘れ難いという。上川の将来の大きなビジョンには、キーパーの素晴らしさを広めることもある。

 「まずは試合に出られるように準備をする」。後期への意気込みを聞くと、第一に出たのはこの言葉であった。しかし、上川は止まらない。「琢が試合に出てほしい、と思われるように練習から向き合う」「試合に出たら、自分がリーダーシップを持って他の選手を引っ張りつつ、支える」「目標に掲げたベスト11に入れるよう、残り11試合で余りある実績を残す」「優勝して、インカレの出場権を獲得して、12月までこのチームでサッカーがしたい」「自分自身が後輩に残せることがあれば、全てを伝え切りたい」。

 上川に残された数カ月は、長いようで、とても短い。度重なる怪我や先輩の壁、コロナ禍においてやり残したこと、その全てをやり尽くすべく、後期の日々を積み上げ続けるのだろう。

2年ぶりのリーグ戦での出場を目指す

 早大の後期リーグの再開は9月19日。

 上川の活躍を、スタジアムで、試合配信で。目に焼き付けてほしい。

(記事 橋口遼太郎、写真 大山遼佳氏、早稲田大学ア式蹴球部提供)

 

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◆上川琢(かみかわ・たく)

2000年(平12)2月23日生まれ。179センチ、76キロ。湘南ベルマーレユース出身。スポーツ科学部4年。関東大学リーグで、1部通算12試合出場(9月17日現在)。