厳しいシーズンでも常にチームに熱気を与え続けた指揮官
(写真は8月8日、中大戦での外池監督 インタビューはオンラインで実施)
外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)
――はじめにシーズンを終えての率直な今のお気持ちを教えてください
率直に言うとホッとしたなという思いです。長く難しく、これまでにない経験をしたシーズンでした。一日一日を、まさに生み出して行くみたいな空気感がある中で、自粛期間もありましたしリーグ戦に途中参加できない試合もありました。そういった中で試合を通じて色々な経験をさせてもらいました。勝って喜んだ試合もいっぱいあったし、負けて悔しかった試合もあったし。そして今回全国大会へ向けて、こういった中、色々な難しい状況がありながらもしっかりとこの大会を最後まで終われたという点、最後までやり切ったと言う意味ではほっとしているという感じかなと思います。
――大会を最後まで走り抜けることができた事が、一つほっとしている要因なのですね
そうですね。全力で最後まで走り抜くというのが我々としての一つのミッションと言うか、みんなでひとつの合言葉にしてきたような部分なので、本当にシーズンを最後までやりきれたということがとても誇らしいことかなと思っています
――この試合に向けて少し日にちがありました。どのような準備をしてきましたか
約10日間ありました。3連戦明けだったのでしっかりと休養をとり、鍬先が出場停止という事情もありましたし、そういった中でもう一度自分たちのパワーを最大限出せるような、そういう準備をしてきました。また対法大ということで、リーグ戦ではないので引き分けはないということも含めて、どうやったら勝てるのかというところはかなり追求して準備をしてきました。
――一部主力選手を欠くこととなりました。どういった事情があったのでしょうか
準備期間の中でコンディションを崩してしまう選手もいました。非常にチームとしても難しい状況であったなと思います。それでも4年生を中心に、しっかりと顔を上げてやってきたと思います。今日の試合に関してもその中で、現実的な戦い方になってしまいましたが、勝機はあったのではないかと思えるぐらいのチーム状態であったなと思っています。
――選手が欠けてしまうことに対してのチームの雰囲気や「彼らのために」といった面での声がけはいかがでしたか
それはキャプテンという存在も含めてだったので、声がけと言うかみんなの中で強い思いがあっただろうし、それをみんなで乗り越えていこうみたいな、そういった部分もありました。そういった意味では今日かなり現実的な戦術をとったのですが、それに対してチーム全体が向き合って完遂していく、それによる勝機を見つけ出す、というところに関してはチームはひとつに揃っていたのではないかなと思います。
――現実的なサッカーで試合に入られたと思いますが、具体的にどんなサッカーをイメージしていましたか
法大も3週間の離脱から復帰してきていて、戻ってきた時に非常にパワーアップしていて、もともと個の能力が高かった中で、すごくまとまりと言うかつながりというものをリーグ戦最終節に対戦して感じました。分析をすれば、両サイドバックがポイントだなと、また前線の選手はいい形でボールが入るとかなり前に推進力を持てて、全体的にサイドバックを中心に外す力があります。我々のサッカーでは前から圧力をかけてボールを取りに行くという試合もありましたが、法大に限って言えば前から行った方が外される可能性があって、その状況を作られる方が相手にとってのチャンスが生まれやすくて、法大としてのストロングがそこにあるなと思っていました。本来ならば試合を通じてやり切るつもりでしたが、今日に関して言えば前半はコンパクトにある程度ブロックを引いて横のスライドの距離感、そして最後は中で守るという。あまり取りに行かないで入らせて、そこで取るという。そして、攻めの重心が強くなったところでカウンターを仕掛けるというゲームプランでした。かなり想定通りゲームを運べていました。後半の20分までゼロで行っていれば、相手が攻撃にバランスを強める中で攻めあぐねているという感覚にはなっているだろうし、最後は当然ちょっとオープンになるだろうとは思っていたので、そこに対して我々の優位性を作ろうという狙いがありました。
――ある程度リトリートした状態で、中に入ってきたボールは絶対にやらせないというイメージですね
そうですね。
――前半は危ないシーンはほとんどなかったように思いました
1回ポストに当たったシーンはありましたが、あの場面もかなり混戦の中からシュートを打たれていて、あまり相手にとって良い状態ではなかったです。みんな中で守れるという、ある意味守備のリズムが生まれていたと思うので、そういう意味では前半0−0で終えて帰ってくるというのは、かなり狙い通りでした。
――なんとか後半20分前後まで持ちこたえて、勝負を仕掛けたいというイメージだったのですか
そうですね。そこが本当に全てだなと。今我々として戦えるメンバーでの最大値を出すには、ある程度相手が隙を作りやすい状況というのと、メンタル的に優位性を持てるような、ギアというかスイッチを入れられる状態を作るというのがポイントかなと思っていました。結果的にあれだけ入られて、崩されてやられたので、そこに関しては我々の力及ばずだったなと思います。
――結果的にプランが崩れた後、51分に1失点目をした後はどのようなサッカーをイメージしていましたか
最少失点というのもゲームプランでした。後半の20分まではしっかりとそれをやり切ろうというところでした。そこまではやりきった上で、予定通りの交代をしていったという形でした。ただ、当然守備に回る時間が多いので、かなり疲労も溜まったり、やられ方が良くなかったことによる落ち込みは少しあったのではないかなと思います。
――最少失点で切り抜けて、杉田選手や田部井選手を投入して勝負を仕掛けるというイメージだったのですね
そうですね。田中雄大も怪我明けでしたし、かなり難しい状況ではありました。彼はプレーが10分、15分できるかできないかというところと思っていたので、そういった中で選手交代でリフレッシュしたパワーを投入するというプランではありました。
――守備の際に4ー4ー2になっている場面が見られました。これは事前に想定していたものなのですか
ベースは4ー2ー3ー1のイメージでした。ただどうしても押し込まれると前の2人が横に並ぶ形になって、相手のボランチが下がってセンターバックとの3枚でボールを回してくるようになって、早大のトップとトップ下が並んで見る形になるので、低くなればなるほど4ー4ー2になっていってしまうような状態でした。
――元々は4ー2ー3ー1でイメージしていたのですね
トップ下に植村を置いてというイメージでした。押し込まれていたので4ー4ー2になってしまっていたという形です。
――出場ができなかった選手や、怪我をしてしまった選手などもいました。監督としては不完全燃焼という思いがありますか
僕自身はやり切ったと思っています。本当にこの1年みんな難しい状況、いつになく自己管理などが求められる中で、ストレスを多く抱えたり、ストレスだけではなく不安を抱えたり。また、そもそもの学生生活の難しさを受け入れながらやってきているので、色々な所にそういった歪みみたいなところはあったと思うし、それがあるものだと思って僕も接してきていました。当然活動させてもらえているということに対しての感謝や責任はありつつも、やはり一学生としてであったり、一選手としてのコンディションの部分に関してはリスペクトというか、寄り添って行けるようにしたいなと思っていました。ただただ戦え戦えということではなく、みんな誰しもが難しさを感じながら生きているというご時世、社会情勢です。その中で、どう自分自身を奮い立たせて行けるか。そういう意味では4年生がしっかりと下級生に常に寄り添いながら、責任を持って運営していたというのは、その背中を下級生はかなり見てきているので、悔しさとともに一つ大きな背中を見て育ったという時間でもあったと思います。今後にはとても生きるのではないかなと思っています
――本当にこのシーズン、何度4年生のためにという言葉を聞いたかわからないほどに何回も聞いてきました。下級生の目に映る4年生の姿は大きかったですかね
大きいと思いますし、4年生自身も当然まだまだ人間として完成されているわけではないので、そういった中で試行錯誤をしながら、もがきながらだったとは思いますが、今日最後みんなが終わった後、4年生の同期の存在、自分は1人ではないという、そういう横のつながりをみんな言葉にしていました。これから社会に出るとなかなかその横のつながりというものが作りづらいですが、僕も一番重要視している大学4年生という時間で、組織とかチームを牽引するという役割を担う中で、強いつながりを作れたというか、一生に残るような財産を手にしたのではないかなと思います。
――4年生、チームに対してどのような言葉をかけられましたか
明日オンラインで解散のミーティングをすることになっているのですが、本当にみんなよくやったし、みんな口々に大事なところで勝てなかったとか優勝が出来なかったとか、そういう言葉もありますが、僕にとっては大事な試合はすべてであったと思うし、それによって積み上がった勝ち点であったり作り上げてきたゴールだったり、守ってきたゴールもそうですが、僕が知る限り過去最高の勝ち点を積み上げてきたチームですし、2年前にはリーグ戦優勝をしましたが、その時にはアミノバイタルカップも2位までは行かなかったですし、全国大会もベスト8で終わっていたので、そういう意味ではこういう成績というのはとても誇るべきものなのではないかなと思っています。
――前期の明大戦(●0−1)や後期の順天堂大戦(●0−5)があっても再び立ち上がってきたチームですし、どの大会でも素晴らしい成績を残しました。そういった意味での強さがあったチームなのではないかなと思います
本当にそういう部分を支えたのはキャプテン副キャプテンもそうですが、主務の西前であったり分析というかチームの戦術を作り上げてきた千田であったり、そういったメンバーがしっかりと軸となって、全方位的にチームを見渡せる力、チームにアプローチできる力があって。苦しい時こそ真価が問われるわけで、そこを何度も乗り越えてこの過密日程の中でも心が折れることなくしっかりとやりきれたというのは本当に素晴らしいチームであったのではないかなと。そして素晴らしい4年生であったのではないかなと思います。
――そういった中で今日は中谷選手(颯辰、基理1=静岡学園)が公式戦初出場となりました。また平松選手(柚佑、社1=山梨学院)も出場機会を獲得しました。少し気は早いですが、来シーズンへの期待も膨らむシーズン最終戦でした
そうですね、少し早いですね(笑)。でも中谷なんかは去年の高校サッカーのスターでしたし、当然能力はあって示してきたものはありつつも杉山工藤監物という存在があったがゆえに機会に恵まれなかっただけで。その中でもいいムードというか明るくて、1年生ながらのパーソナリティを発揮していたし、それは平松も一緒で。今年のチームにあった、チームが苦しい時だけではなく自分が苦しい時にも、苦しい時に自分をさらけ出して課題と向き合って乗り越えていくという、そしてかつ人を巻き込むという力というか、パワーを随所に後輩たちは感じて発揮してくれていたと思うので、今日は中谷も非常に良かったですし、平松もポストに当てたヘディングシュートがありましたし、本当に勇敢に全うしていたというか躍動していたので、4年生にとってもその姿は誇らしいというか、自分たちの思いが伝わったと感じたのではないかと思います。
――今年の4年生が残したものは大きいですね
本当に大きいと思います。明日でみんなとは何の関わりもなくなってしまうというのがちょっと寂しいです。
――明日でチームが解散ということですが、今シーズンのチームを振り返って改めてどんなチームであったか教えてください
去年の歴史的残留の中でも、今の4年生は3年生の時から自分たちの代で2部でやるのは受け入れがたいということで、昨年の4年生たちとぶつかりながらやってきていたんです。そのパワー、エネルギーが昨年の残留にも影響したし、去年の4年生の力を引き出すことにもなったし。それをもってシーズン頭から今年臨んできたので、力強くたくましくそういったものを体現してきて。そしてこのコロナ禍になって、何の戸惑いも停滞感もなく、さらに成長を上積みするということに向き合ってきたからこそ、安定した成績、安定した状況をチームにもたらしてくれました。また先ほども言ったように、不屈の精神でチームを何度も蘇らせてきました。本当にまさに今社会が対面している難しい状況に対しても担っていけるような、そういった精神をしっかりと体現してくれた4年生なのではないかなと思います。こういった難しい時代、この状況でもこれだけのことができました。明大などいろいろなチームが難しい状況を経験して、難しい社会に流されるという状況になっていた中で、僕は今年のチームの中で早大が1番に安定していたのではないかなと思います。
(写真 橋口遼太郎)