【連載】関東大学リーグ戦開幕前特集『Change before you have to』 第1回 外池大亮監督

ア式蹴球男子

 監督就任初年度ながら、チームを関東大学リーグ戦(リーグ戦)優勝に導いた外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)。学生主体のチーム作りを意識し、「日本をリードする存在になる」ために情報発信などサッカー以外の面にも力を入れてきた。今年は本当の強さを手に入れ、本物になるために変化し続けることだろう。リーグ戦への思いと、チームの状態について話していただいた。

※この取材は3月28日に行われたものです。

今シーズン公式戦初勝利で笑顔を浮かべる外池監督

――チーム始動から約2カ月経ちましたが、今のチームの状態を教えてください
昨年一年間は新体制としてやって、かなり大きな変化をしながら新しいことに取り組んでリーグ優勝しましたし、そういう成果も含めて非常に大きくア式として歴史的にも変わった一年でした。それも踏まえた上で、大桃キャプテン(大桃海斗主将、スポ4=新潟・帝京長岡)をはじめとした新4年生たちがまず何を示して、どこを目指すのかという話をずっとしてきました。「日本をリードする存在になる」というビジョンを継続、継承しながら「さらに変化をし続ける」をこの代の大きなテーマにして、立ち返る場所は昨年ではなく新しく自分たちがつくる姿に向かっていき、そこの基準つくりをすることを決めました。昨年ある程度新しく、ビギナーズラック的なノリと勢いでやってきたようなものをより本物にしていくというテーマ設定でやってきて、学生コーチや審判など一般学生から起用して色んな意味で昨年にはない新しい空気感があります。その中で昨年はどうだったとかあまり気にせず目の前のものに一生懸命にやっているというか、邁進できているというか、目の前にあるテーマに対して皆すごく熱意をもってやれているな、という意味ではいい状態だと思います。

――学生スタッフによる変化を具体的に教えてください
昨年から学生主体ということで、今年5年目でやっている蓮川(雄大、スポ4=FC東京U18)とかを中心にビルドアップ的なものをやってきていたのですが、それを全くサッカープレーヤーではない一般学生が入ってきて、彼らは彼らなりに自分たちの領域でサッカーを研究して、自分たちが所属している大学の体育会という場所で表現をする場が設けられたということで新しい気付きが生まれました。先日はサークルの稲穂キッカーズさんと試合をしたのですが、なんとなくこうかなと思っていたことが、よりお互いに自分の意志を示し、お互いに聞いてまた主張し合うという、より学生だけの空気感が生まれました。そしてそれが部内だけではなく大学内の色んな人を巻き込んで組織を作り出しているので、それの当事者全てが学生にあるというところが今年の大きな変化であり、昨年との大きな違いというか、そこに対して手応えをもっているのではないかと思います。

――昨年一年間を振り返って改めていかがでしたか
昨年は全力で駆け抜けた感じがしますね。大学サッカーを20年間外側からOBとして見ていたり、サッカー選手として学生サッカーのレベルを見ていたりする中で、そこで感じていた色んな弊害とか自分の時代と比べてどうとか、そういったものにとにかく取り組むことが自分としてできることだと思っていました。そのチャレンジは今までにない何かを生み出すというもので、自分がはじめて監督としてやらせてもらうことも含めて自分が生きてきた生き様全てをここに全部落とし込むということをやるのが自分としてのチャレンジだと思っていました。そういう意味ではやり切ったなという感じもありますし、当然新しく見えたものもあります。とはいえ夢のような一年だったなというのも実は思っていますね。気づいたらあっという間で色々新しいことに挑戦して、周りから見ると余裕あるように見えるらしいのですが(笑)。全然そんなことはなくて1つ1つの情報発信は毎日やるのは相当労力がかかるし、色々なアンテナだったりテーマを持って、その軸に合わせてうまく外堀を作っていくことを考えるのはかなり疲れます(笑)。

――選手自身が考えを発信する機会が増えましたね
監督がやっているからいいのではないか、というのがベースにあると思います。今まではやっていいのかが見えていなくて、それをやることによるリスクが全面に出てきてしまって、当然監督が否定的存在だったのが、色々なことをやってノリも軽いし緩いし(笑)。いい意味でリミッターが取れて、まずやってみよう、この限られた4年間でしかできないものは意外とあるんだなというのを共有することを狙いとしていました。学生たちが「日本をリードする存在になる」ために1つの行動だったり活動を通じて、今自分たちがいる中だけで完結しないで、いかにそれをさらしてそれに世の中の感度だったり反応だったりの評価を導きだしてほしいです。それが自分たちのバランス感覚や、この先生きていくためのビジネス感覚に紐づいていくことになります。「日本をリードする存在になる」という壮大なテーマでありつつも、そこのものを何かしらのかたちでつかむというか、ただ絵に描いた餅ではだめだしそれが雲のようにふわふわしてつかめないものでも意味がない。でも意外ともうその先に乗り越えた瞬間にすごいものが待っていることを考えると、そこにある程度手をかけて感触をつくりながらやれるのが今の大学サッカーだし、今のア式蹴球部というポジションの価値じゃないかなと思います。そこの本質を皆みえてきたのかなって感じがしますね。伝統と歴史ってめんどくさいと思っていたけど、それがあるから自分たちが注目されているなって気付いていると思います。なんとなく分かってはいたけど、だんだんそういうのを紐解いて解明していって、昨年ずっとテーマにしてきた「自分たちの存在意義は」というのものが皆に見えてき始めたし、僕自身はサッカーで生きるにしても社会人として生きるにしても、そこがあることがこの時間の有効性だと思います。ア式でやってきたものを次の世界に生かせる、そういう世の中になってきました。昔は大学生といえばこう、社会人になったらこう、だから体育会は理不尽なことを受け入れて頑張って文句を言わずにやり切る、というのが必要だった時代でした。でもそれはもうとっくに終わっていて、体育会の新しい姿みたいなものであり、まさに自分たちが何でいるの、ここで過ごすことがどう次に生かせるかをもっと考えないとその先楽しめなくなる。サッカーをやってきたけどJリーガーになれなかったから今までやってきたことが全部無駄、と思ってしまったら不幸だし、サッカーで生きてきた自分としてもサッカーの本質はそこにあるのではないかなと思います。勝った人だけが恩恵を受けるというのはこの時代に合わないし、スポーツ自体が反映しないですね。サッカーをしていてよかったね、楽しいね、となってほしい。意味も意義もあるし、そういう中でどれだけ広げられるか、自分はどこのポジションを担えばいいかの判断力や1つの姿を作り上げられるかというのが皆なんとなく見えてきて、僕はそこに対して動機づけをしていくしかないかなと思いますね。

試合中にベンチから選手に前向きな言葉をかける外池監督

――リーグ戦では打倒早稲田のチームも多いと思いますが
打倒早稲田と言われることが1つの大きな価値なのでやっぱりそここそが本物になるために必要なプロセスだと思っています。ですから打倒早稲田ウェルカムでいいと思います(笑)。ただやっぱりなぜ打倒早稲田なのかというのを自分たちも理解していないと、どういう勢いでくるのかとか彼らはなぜ早稲田を標的にしたいと思うのか、というところを知っておいた方がいいですね。そこの分析をしっかりしていた方が、自分たちが戦う上でもピッチ内外で同じことが意外と現象としてはあって、そういうモチベーションでくる相手に対して自分たちがどう臨めばいいのか。当然最後はその上でどう圧倒するかというところにはもってこられると思うので、僕は楽しみです。もっと広く考えればやっぱりそういう状態で早稲田がいないと大学サッカー自体がそもそも盛り上がらない。正直、アンチの人もいて初めて本物になるというか絶対的な存在になれると思うのでアンチはウェルカムだし、打倒早稲田で向かってきてくれることが1つ大きな成長につながると思います。

――4年生の印象はいかがですか
のびのび3年生と僕は命名していたのでのびのびといい意味で育ってきたのですが、ここにきて色々な部内の課題や事象に対してすごく真剣に向き合って本気で葛藤していることを非常に感じています。やっぱり4年生という時間はすごく濃密だし、就活している部員もいるし、その中で自分がこう本当に大きな一歩を進むとか決断するとかみたいなところにある環境がやっぱり人を成長させるのだと非常に感じていますね。

――ポジション争いはどう見ていますか
新一年生たちももうすでに20人ぐらい参加していて非常に優秀な能力の高い選手たちも多く入ってきてくれているのですごく楽しみです。上級生にとってみればそれはそれで非常にやりがいというか本当に層の厚さができて欲しいし、出てくるのではないかなと思います。

――リーグ優勝が選手獲得につながったのでしょうか
そうですね。後はもともと情報発信をするということの意味は高校生とか大学生は情報の取り方は自分たちでも取れるので、自分たちがこうやって発信していくことでそのままリクルーティングになっていくと考えていました。当然勝ち負けもあるけれど、勝ったから行きたいということよりもどんなことやっているのかな、ここは楽しいのかなとか意外とそっちの方が重要視している気がします。そこまでちゃんと見極められる力を持っているしそういったものへの感度はあると思うのでそういったところで昨年の取り組みというのは入ってくる人たちからも良い評価をされていますね。

――メンバー選びの基準を教えてください
基準は昨年もそうでしたが、やっぱりその時その時によって相手基準というところがあるのでこういう相手だからこういうメンバーの方がいいというのもあるし、こういう戦い方をするためにはこういう特徴があったほうがいいというのもあります。そういう基準も当然あれば、軸となってくれるメンバーもつくっていかないといけないですね。昨年は45人ぐらい出るという他の大学ではありえない位の人が出て、普段だったらなかなか試合には関われないような選手らが熱量を持ってピッチに立ちました。同じトレーニングをする中でそれぞれの強みというかその大学への帰属意識だったり貢献度というのはピッチ上だけでは測れないものがあるし、人間力というかそこの熱量が多い選手が出て行くというのも僕は1つの大きな基準にしているのでそういったものも含めた総合的なチームのパワーを各学生から引き出していきたいなと思っています。

――天皇杯予選を振り返って改めていかがでしたか
あれだけギリギリの試合をさせてもらったという事は青学さんにも感謝しているしその中で自分たちが乗り越えられた場面もあったので、そこはチームを進める上では大きな手ごたえになったかなと思います。あそこは1つの大きな基準になってきたと思います。様々な選手が出てきていて、1つの基準の中から色々な切磋琢磨が明確に出てきているのでそこは非常に大きかったです。

――シーズン初の公式戦で今後にも大きく影響する一勝でした
本当にそうですね。東伏見でできたという事にもすごく意味がありました。普段の練習ではない雰囲気だったり、そういう中でサッカーをやれる喜びというのもそうだし周りへの感謝だったりが間近で見ることができました。そこに関わる人たちも多く早稲田の中にいたので試合だけではなく、チーム全体としてもいよいよ始まるし、自分たちが場づくりも含めて担えたというのは非常に大きいのではないかなと思います。

――試合中にフォーメーションを変えることが多かったですが
昨年の反省でもあるのですが、メンバーだったりフォーメーションだったり配置だったりを変えていたのですが自分たちが主導で替えられるかというのが結構そこに優位性があるのではないかなと思っています。相手が替えてきたから替えます、ではなくて自分たちが替えること自体が相手にとって優位に立っているみたいな。自分たちがうまくいっているのに替えると言ったらなんかどうしてもリスクを考えたり臆病になったりしますが、今年はもういとも簡単にできますね。変化することで優位性を出せて、自分たちが崩れない新たな境地に立てるような取り組みをこの2カ月間でやってきています。このままいけばこじあけられるかなと思いつつも、もう一歩変化を加えればもっと先が見えるのではないかなとか、そういうのに対して腰の引けた感じもなくみんなそれぞれが出た中で特徴を出してくれていたので、たくましくなってきたかなと感じますね。島原遠征に行ってきた時も前半と後半で4バックと3バックを替えたりとか、結構その中でも右をやっていた選手が左にいったりと配置も含めて替えていました。選手としての能力の1つだしチームとしての武器にできるかなというのがあります。そこも1つの基準にはなってくるかなと思いますね。むしろどんどん替えていきたいというのがあります。うまくいっていていいよそのままでと言われても、いやいやでも替えるんですということで相手の的を外していくとかそういった効果もあります。後はやっぱり色々なチャンスや引き出しを自分たちが持っているという事は絶対に有効だと思うし、相手も分析してくるので的を外すというのはとても大事なことだと思います。これは1つ今年の早稲田の狙いかなと考えています。あとはとにかく圧倒していってほしいなというふうに思っていますが、戦い方とか進め方に関しては全く不安定ではなかったし、常に可能性がある戦い方を知ったと思うので相手はすごく嫌だったと思います。

――リーグ戦の目標を教えてください
目標はもちろんタイトルです。あとは、改めてですけど大学サッカーや早稲田の注目度を高めるということも同列の目標になっているのでやっぱりただ試合をやって勝ち負けだけではなくて、そこに対してしっかり自分たちの取り組みや結果も含めてより発信力を持てるような、かつそれを実際発信していくというところをより本物になるための取り組みにしていきます。もっと大学生とか大学サッカーに関わる人たちだけに届くものだけでなく、もっと先のより一般化されるようなところまで自分たちを持っていけば本当に本物になってくると思います。一般の世の中の人からなんか元気のいい大学生ね、サッカーもすごく勢いがあって、とか色々なことにチャレンジしてサッカーやっているとこんなに人として可能性が生まれるんだ、とかこういう人材が欲しいよね、とか期待されてほしいです。世の中的にも閉塞感で、サッカー界もそうですけどピラミッドができすぎてしまっていい意味でも悪い意味でも枠が作られてしまっているので、そういうところを突破してブレイクスルーするのが大学生の醍醐味であり時間だし、そういう存在だと思っているのでそれをやっていけるような存在になっていってほしいなと思います。

――応援してくださっている方々にメッセージをお願いします
チームの一員として「日本をリードする存在になる」というのは学生たちだけではなくスタッフも一緒です。僕はそれが監督というポジションでマネジメントをする役割の中で機能していてそこは意識しています。それは選手も一緒だし、サブだから主役になれないのかといったらそうではないし、ベンチ外だったらダメとかもありません。僕自身もピッチには立てないけど、自分のブランディングというのは当然しています。それを主役として認めてもらえるのだったらそれはそれでアリでしょうという話を先日選手としました。今の応援してくれる人もそうです。例えばウルトラスみたいな存在も彼らは我々のためだけにやっているのではなくて、自分たちのためにやっているし自分たちがどう楽しめるかとか自分たちが何かに向かう先に対してアクションの1つがやっぱりあのかたちになっています。でもそれはうまく接点を持ってお互いのテーマを共有したり、それぞれの機能や意識をちゃんとすることでよりパワーを発揮したりそれぞれの恩恵を受けて、より強固なコミュニティになっていきます。そう考えると別に選手であり学生であるのが全てではないしスタッフもそこに加わり、ウルトラスや応援部のメンバーを巻き込めるのがオール早稲田の力だと思っています。先日のサークルの彼らも彼らの価値観でそこにポジションをとってやっているわけで、でもそれも1つのサッカーの楽しみ方ですよね。もしかしたら我々が知らない1つの姿かもしれないし、でもそういうものも含めてサッカーはこういうことで、やっぱり試合をしたら楽しかった、やっぱり悔しかった、とかそういう熱量が生み出されることがやっぱりピッチがある意味です。その熱量が多ければ多いほどすごく大事だと思うので、ぜひそこに加わってほしい。自ら熱量を持って向かってきてほしいというか温かくもただ厳しくも何か一緒に進めるものを作っていきたいと思っています。オール早稲田の本当の魅力というかその総合力というのは本当に他の大学を全く寄せ付けないと思うので、そういうことを我々はサッカーを通じて発信はしていきたいなというふうに思うのでぜひ関わっていただけたらと思います。

――ありがとうございました!


◆外池大亮(とのいけ・だいすけ)
1975年(昭50)1月29日生まれ。東京・早実高出身。1997年(平9)社会科学部卒。大学時代は、4年時に関東大学リーグ戦で優勝を経験。卒業後、ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)に入団。Jリーグでは11年間プレーをし、計6クラブで活躍した。2018年(平30)より、早大ア式蹴球部監督。就任初年度でチームを関東大学リーグ戦優勝に導いた。


(取材・写真 大山遼佳)