ことしで就任8年目を迎える古賀聡監督(平4教卒=東京・早実)。サッカーだけでなく、一人ひとりの人間力を磨き上げる姿勢を貫き、選手たちからの信頼も厚い。古賀監督は自身初となる2部リーグでの指揮を前に、チームの現状をどう捉えているのか。そしてどういった戦いを披露しようと考えているのか。新たな戦いに向けた意気込みを聞いた
※この取材は4月6日に行われたものです。
新4年生は「自分たちが成し遂げるという意志が強い」
試合後笑顔を見せる古賀監督
――関東大学リーグ戦(リーグ戦)開幕まで残り10日となりました。現在のチーム状態はいかがですか
古賀 昨年1月から今に至るまでトレーニングマッチなどを重ねてきた中で、自分たちは決して『勝てるチーム』ではないということを、選手たちも私自身も強く自覚しているところです。勝つためにチャンスで決め切る、ゴールを守り切るというところで、まだまだ力が足りていないというのが現状だと思います。
――リーグ戦では2部降格となってしまった昨シーズンですが、改めて振り返っていかがですか
古賀 (リーグ戦の)前期になかなか結果を出せず、そこから一人ひとりがプライドを捨ててやれることをやったことで、夏場には徐々に結果が出るようになりました。ただ、そのあと勝てなくなったときに、また自分たちで立て直す力が足りませんでした。自分たちのスタイルというのを明確に確立できなかったことで、苦しくなったときに持ち直すことができなくて、それが結果に直結してしまったと思います。
――今オフの取り組みに関しては
古賀 新4年生たちは、何としても自分たちの力で一部昇格を果たして、なおかつ総理大臣杯で日本一になるという意気込みを強く持っています。その中で、組織の運営部分も含めて、誰かに依存するのではなく自立してしっかりやっていこうという気持ちを強く持って、ここまでの時間を過ごしてきていると思います。
――ことしの4年生の印象は
古賀 1年生で入ってきたときから、わんぱくといいますか、少しやんちゃなところはありましたね(笑)。ただ、やんちゃなだけではなくて、自立心がとても強くて、自分たちで何かを成し遂げよう、自分たちがやってやるという意志が強い学年だと思います。いい方向にそのエネルギーが向かえば、チーム全体としても良くなっていくと思います。
――そういった特徴はピッチ内でのプレーにも反映されるものなのでしょうか
古賀 そうですね。そういった自立心や意志が弱いと、どうしても苦しいときに誰かに依存してしまったり、頼ってしまったりということになってしまうと思いますし、一人ひとり主体的に取り組めるということは、ピッチ内で難しい状況になったときでも自ら立ち向かっていけるという姿勢につながると思います。
――鈴木準弥主将(スポ4=清水エスパルスユース)に期待することは
古賀 厳しいことを伝えなければいけないときには、毅然として行動してほしいですし、逆にチームの中でポジティブな要素が出てきたときには、しっかりと拾いあげて、チーム全体が前向きにやっていけるようにしてほしいです。ピッチ内外でリーダーシップと存在感を発揮してくれることを期待しています。
――監督は日頃からチームに対して『人のために努力すること』の重要性を強調されています。その理由を教えてください
古賀 この組織の伝統として『人として一番であれ』という言葉があります。自分が高い志を持って成長していくということも重要ですが、それ以上に『誰かに何かをもたらす』という視点は、これから社会へ巣立っていくにあたっても、とても重要な考え方だと思います。ワセダのア式蹴球部を出たからには、そういった地域のため、社会のため、そして支えてくださる皆様のためにという視点を常に持って、これからの人生を歩んでいってもらいたいと思っています。その礎をア式で築いていってほしいですし、それは私だけではなくて、ア式で教える全ての人の願いでもあると思います。
――監督ご自身もア式の現役部員だったときに、そういったことの重要性を学んだのでしょうか
古賀 そうですね。上級生は自分が嫌われることを厭わずに、自分たち後輩に対して厳しいこと、伝えなければいけないことを包み隠さず伝えてくださいました。それが私の人生の中でも大きな糧になっていますし、だからこそ自分も上級生になったとき、あるいは監督になったときに、そういったことを伝えなければいけないという気持ちになりました。選手たちからは、嫌われてしまっているかもしれませんが…(笑)。ですが今でも、そういった気持ちは変わっていません。
――3月22日(対法大◯2−1)と26日(対国士舘大●1−3)には新体制初の大会となる東京都サッカートーナメント学生系の部予選を戦いました。振り返っていかがですか
古賀 先ほども言いましたように、決して勝てるチームではないということを自覚する結果になりました。例えばチャンスをつくったとしても、最後のところでスコアを動かすことができない。決め切ることができない。守備ではチャンスをつくられたときに、瀬戸際で守り切れる力がない。改めてそういったところがまだまだ足りないと感じた2試合でした。
――今季のレギュラー争いに関しては
古賀 現状は、ディフェンス、サイボランチ、サイドハーフ、フォワードと、各ポジションに2つずつ枠があるといえる中で、それぞれ3人でその枠を争っているという状態だと思います。それだと合計15、6人でのレギュラー争いということになりますが、実際それでは去年と変わらない。ここからもっと勝てるチームになるためには、少なくともひとつのポジションでふたりが争っている状態、なおかつそのどちらが出ても、それぞれの持ち味を発揮できるというレベルになっていかないといけないと思います。けが人が出たりもするでしょうし、まだまだ競争は足りないなと。ただ、ここからシーズンが進んでいき色々なことを経験していく中で、選手たちも力をつけていくと思います。新人も含めどれだけ争える選手が出てくるか、楽しみにしていますし、期待しています。
アシックスからのサポートについて語る
この日は全身アシックスのウェアに身を包んでの取材となった
――昨年から早大はアシックスと組織的連携を結んでいます。ア式蹴球部はどういったサポートを受けていますか
古賀 ことしは、ウェアなどの支給を始め、昨年以上に様々な面でサポートしていただいています。その分私たちに求められるものも大きくなると思いますし、結果を出していかなければいけないと思っています。私たちが大会で勝ち進んで、全国の舞台まで進んでいくことで恩返ししていきたいと思っています。
――選手の皆さんにとっても好影響はあると思いますか
古賀 そうですね。そうやって支えてくださる方々の思いを背負って戦えるということは、いい意味でのプレッシャーにもなると思いますし、いいことだと思います。
――大学スポーツと企業が協力関係を築くことについてはどういった印象をお持ちですか
古賀 昨年ありがたいと思ったことは、陸前高田市で復興ボランティアの一環として大会を開催させていただいたのですが、そこにアシックスの社員の皆様も来てくださって、一緒に大会を盛り上げてくださったことです。私たちだけでやるよりも、そういった企業の方々のバックアップがあるほうが地域貢献にもつながるのではないかと思います。あとは先進的な研究もされていて、戦術面でも、例えばGPSを使って走行距離をデータ化してそれを活用したりですとか、そういった取り組みのためにもアンケートにも協力させていただいていて、将来的にそういったものをア式でも実際に活用できるようになれば、チームにとってすごく力になると思います。
「昨年以上に厳しい戦いになる」
一年での1部復帰を誓った古賀監督
――監督はことしのチームを『大いなる挑戦者』と表現しました。その理由を教えてください
古賀 2部では1部とは違う難しさのある戦いになると思っています。相手はこちらが嫌がること、こちらの強みを消すということを徹底的にやってくると思いますし、これまでとは全く違った戦いを強いられるだろう、そういった意味で自分たちは『大いなる挑戦者である』と思います。
――2部リーグでは対戦経験の少ないチームとの試合が多くなるかと思います
古賀 1部と2部の垣根を超えたトーナメントも開催されている中で、2部のチームも1部と比べて力の差はほとんどなくなってきていると思っています。試合によっては1部を上回る力も発揮できるチームが揃っていると思いますし、1部にいた昨年以上に、一試合一試合が厳しい戦いになると思うので、それに挑むだけの覚悟を持って臨みます。
――どういったサッカーを展開して一部昇格を成し遂げたいとお考えですか
古賀 私たちの伝統である前線からボールを奪う、そして相手の守備が整わないうちに素早く攻める。そういったスタイルに変わりはありません。それをやるうえで、昨年は攻守において雑になったり粗くなったりということがあったので、ことしは一人ひとりがギリギリの判断を伴いながらプレーをして、しっかりと結果に結びつけていくという取り組みをしていきたいと思います。
――たくさんの方々がア式蹴球部のことを応援しています。最後に改めて今シーズンの意気込みをお願いします
古賀 昨年は歓喜をもたらすことができませんでした。ことしは一試合一試合、支えてくださる皆様にあすへの活力をもたらすことができるような戦いがしたいと思っています。そして1部昇格を必ず成し遂げます。引き続き応援よろしくお願い致します。
――ありがとうございました!
(取材=栗村智弘 写真=加藤耀)
伝統のチームスローガンを力強く書いていただきました!
◆古賀聡(こが・さとし)
1970(昭45)年2月12日生まれ。東京・早実高出身。平成4年教育学部卒。Jリーガー時代、鹿島アントラーズやサンフレッチェ広島などでプレーした経験を持つ古賀監督。『WASEDA the 1st』を体現し続ける指揮官は、再出発を図る新チームでどういった手腕を見せてくれるのか、注目です!