全日本大学選抜宇佐大会から1ヶ月が経ち、この日は両国国技館にて東日本大学選手権が行われた。団体戦では3年ぶりにBクラスからのスタートとなった早大。しかし、絶対的な強さを誇る精神的支柱・橋本侑京主将(スポ4=東京・足立新田)のけがも響き、ベストの布陣を組めない中で苦杯をなめた。「残念な結果になってしまって悔しい」と室伏渉監督(平7人卒=東京・明大中野)。Bクラス3位通過もAクラスでは10位(12校中)に沈み、不完全燃焼となった。それでも、個人戦では長谷川聖記(スポ3=愛知・愛工大名電)がベスト8入りする快挙。団体戦で沈んだチームに光をもたらした。
先月の選抜宇佐大会で負傷のエース橋本を外して臨んだBクラストーナメントは、1年生を2人入れる苦しい布陣となった。その初戦、まずは東大を相手に4-1で勝ち点を獲得する。続く準決勝では慶大と激突。昨年の全国学生選手権(インカレ)でも実現した『早慶戦』では、先鋒・田太隆靖(スポ1=東京・足立新田)と二陣・長谷川が連勝し最高の滑り出しを見せる。しかし、中堅以降の3人がまさかの3連敗。Bクラスを3位で終えてしまう。それでも準決勝進出4校はAクラスに進めるため、挽回の機会は得た。
けがを抱えている中、チームのために白星を挙げた橋本
対戦校の実力が一気に上がるAクラス。このタイミングで早大は、負傷中の橋本主将をメンバー入りさせる大きな決断をする。当然まだ負傷は完治しておらず、土俵での稽古もほとんど積めていない。それでも「もう入れるしかないと思った」と室伏監督。強豪校に立ち向かうには頼れる主将の力が必要不可欠だった。その起用に橋本も応える。予選1回戦は日体大戦。先鋒に入った橋本は、立ち合いから気迫の突き押し相撲で前に出る。その姿にけがは全く感じられない。取組は終始橋本が攻める一方的な展開で、最後は巨体を土俵外に押し出した。「チームが落ち込んでいる雰囲気だったので、少しでも盛り上げようと思った」(橋本)という主将の姿はチームメイトの目にどう映ったのだろうか。この流れに続きたいところだったが、相手は強豪・日体大。二陣からは4連敗を喫してしまう。続く予選2回戦の東農大戦も先鋒・橋本が盤石の勝利。しかし、後続がまたも勝てず。副将・佐藤が意地の白星を挙げたが2-3で勝ち点獲得には至らなかった。予選3回戦は東洋大戦。この対戦では先鋒・橋本も黒星を喫し5連敗。付け入る隙がなく、Aクラス10位(12校中)に終わり、目標のベスト8入りは果たせなかった。
個人戦トーナメントでは、団体戦でふがいなかった長谷川が躍動。初戦から4連勝し、堂々のベスト8入りを果たした。最後は優勝した田中大介(中大4年)に敗れたが、「ようやく本来の自分の相撲を取れた」と室伏監督も一定の評価を与えた。特に印象的なのは、ベスト8を懸けて臨んだ石岡弥輝也(日大2年)との一番。激しい突き合いとなったが、最後はうまく交わし、冷静に相手を引き落としてみせた。これには長谷川も、「しっかり当たれたので引きが効いた」と納得の表情で白い歯をのぞかせた。
引き落としで石岡を敗り、ベスト8入りを決めた長谷川
橋本主将のけがが想像以上に重くのしかかった今大会。他のメンバーにとって強くなる機会のはずが、結果として精神面での弱さを露呈してしまった。現状では橋本頼みのチームとなっているだけに、「もう一度チームとしてのあり方を考え直さなければならない」と室伏監督も厳しい表情で前を向く。次は7月の全日本大学選抜金沢大会。悔しさをバネに、勝利というかたちで成長した姿を届けたい。
(記事 吉岡拓哉、写真 望月清香)
結果
団体戦
Bクラストーナメント
準々決勝 対東大 4勝1敗
先鋒 ●田太初段(送り出し)須山選手
二陣 ◯長谷川参段(突き出し)益田選手
中堅 ◯浅田参段(寄り倒し)河西選手
副将 ◯佐藤弐段(押し出し)永島選手
大将 ◯鳥居弐段(寄り切り)野口初段
準決勝 対慶大 2勝3敗
先鋒 ◯田太初段(叩き込み)中村隼初段
二陣 ◯長谷川参段(寄り倒し)中村一弐段
中堅 ●二見弐段(寄り切り)北原弐段
副将 ●佐藤弐段(突き出し)胡初段
大将 ●鳥居弐段(寄り倒し)長谷川大参段
Aクラス
予選1回戦 対日体大 1勝4敗
先鋒 ◯橋本参段(押し出し)チョイジルスレン弐段
二陣 ●長谷川参段(寄り倒し)中村弐段
中堅 ●二見弐段(叩き込み)デルゲルバヤル参段
副将 ●佐藤弐段(寄り切り)高橋参段
大将 ●鳥居弐段(叩き込み)石崎参段
予選2回戦 対東農大 2勝3敗
先鋒 ◯橋本参段(押し出し)丸山参段
二陣 ●長谷川参段(押し出し)志賀参段
中堅 ●二見弐段(突き出し)日下参段
副将 ◯佐藤弐段(押し出し)石川参段
大将 ●鳥居弐段(寄り倒し)佐藤参段
予選3回戦 対東洋大 0勝5敗
先鋒 ●橋本参段(寄り倒し)干場参段
二陣 ●長谷川参段(下手投げ)深井参段
中堅 ●二見弐段(押し出し)羽出山参段
副将 ●佐藤弐段(突き出し)重松参段
大将 ●鳥居弐段(上手投げ)浅野参段
※早大は予選敗退
個人戦
橋本侑京参段(スポ4=東京・足立新田)
一回戦 ●不戦敗
佐藤太一弐段(社4=大分・楊志館)
一回戦 ●対榎波四段(日大)押し出し
長谷川聖記参段(スポ3=愛知・愛工大名電)
一回戦 ◯対胡初段(慶大)寄り切り
二回戦 ◯対福井弐段(明大)不戦勝
三回戦 ◯対牧園参段(専大)寄り切り
四回戦 ◯対石岡参段(日大)引き落とし
優秀8選手決勝トーナメント
初戦 ●対田中参段(中大)叩き込み
浅田大介参段(社3=石川・金沢学院)
一回戦 ●対佐藤参段(東農大)押し出し
二見颯騎弐段(スポ2=東京・足立新田)
一回戦 ◯対中里弐段(国学院大)寄り切り
二回戦 ●対有瀬弐段(東農大)寄り倒し
コメント
室伏渉監督(平7人卒=東京・明大中野)
――団体戦の目標はどこに設定していましたか
目標はAクラスに上がってベスト8、あるいはベスト4以上だったんですけど、残念な結果になってしまって悔しいの一言ですね。
――Bクラストーナメントでは準決勝で慶大に敗れて3位通過でした。振り返っていかがですか
もう本当にそこが全てですね。橋本(侑京主将、スポ4=東京・足立新田)がけがをしていたのが非常に大きくて、最初から使えませんでした。橋本を使っていれば違う結果にはなったと思いますけど、現状を考えたときに橋本を使うとAクラスでは戦えないと。もし(Bクラスで)敗退してしまえばそこまでのチームだと。結果として慶大に負けて、その後慶大は(Aクラスで)ベスト8に残るほど勢いづいたので、そこは反省点ですね。
――Aクラスに上がるタイミングで橋本選手を起用しました。どういうかたちで送り出しましたか
もう本当に入れるしかないと思ったので。戦略的に中堅に入れるか先鋒に入れるかを悩んでいて、ベストの状態なら中堅、まだ厳しそうなら先鋒のつもりだったんですけど、正直その時点で(戦略が)狂っていたというのが正直なところですね。
――その橋本選手は3戦2勝でしたが、結果的にチームはAクラス10位(12校中)に終わりました。振り返っていかがですか
それはただただ弱いから負けたということだと思います。
――橋本選手のけがの現状はどうなんでしょうか
まだ完治はしていなくて、ベストには程遠いです。それでもあの相撲を取ったことが次につながるのではないかと。そしてそれを見た下級生がどう思うか。そこに強くなる秘訣がありますし、非常に大事だと思います。
――個人戦では、長谷川選手(聖記、スポ3=愛知・愛工大名電)がベスト8まで残りました。どう評価しますか
長谷川は団体戦がふがいなかったと自分で言っていて、そこをどう乗り切るかを話した結果、ようやく本来の自分の相撲が取れましたね。もっと上位も狙えると思います。
――まだ気持ちの部分で求めるところがあるということでしょうか
相撲で心技体というように、心の部分がまだ弱いのだと思います。慶大戦でもガチガチに硬くなっていて、佐藤太一(社4=大分・楊志館)もそうだし、二見(颯騎、スポ2=東京・足立新田)も然りです。やはり本来の相撲には程遠かった。1年生の鳥居(邦隆、社1=愛知・愛工大名電)は負けても仕方ないと思っていたけれど、彼も考えて受けてしまった。そこが良くなかったと思います。
――最後に、今後に向けての意気込みをお願いします
本当にゼロからやり直し。もう一度チームとしてどうあるべきか考え直さなければいけないです。春先に調子が良くて、そこで気が緩んだわけではないけれど、橋本がけがをしてこんなにもチームが変わってしまった。強くなる機会だと思っていたけれど、それが逆の方向にいってしまった。それだけ橋本に頼っていたと分かったので、だったらみんなで強くなろうと。そこを求めたいです。
橋本侑京主将(スポ4=東京・足立新田)
――全国大学選抜宇佐大会の準決勝で右足の親指をけがされましたが、回復具合はどのような感じですか
けがをしてしまって試合の一週間前くらいにギブスがとれて、東日本(学生選手権)に出られるかギリギリだったんですけど、何とか団体戦だけでも出場できてチームに多少なりとも貢献できたと思います。
――稽古には参加できていなかったと伺いました
そうですね。足をけがしていて土俵に降りられない状況だったので、自分一人で治療に行ったりしていました。主将なのにチームから離れている時間が多かったのでそこに関してはチームに迷惑をかけたなと思っています。
――団体戦Bクラスは控えからのスタートとなりました。同期、後輩の戦いをどのような気持ちで見ていましたか
2、3年生主体で来年度のようなチームになっていて最初は楽しみではあったんですけど、やはり負けてしまったときは悔しかったです。最近ずっと勝負どころで2勝3敗で負けてあと1点足りないということが多いのでチーム力底上げをしていきたいです。チーム力を底上げをすれば自分が卒業した後も来年再来年と続いていくと思います。
――団体戦Aクラス予選の初戦、2回戦は白星を挙げましたがどのような気持ちで土俵に上がりましたか
チームが落ち込んでいる雰囲気だったのでけがをしていても自分の仕事をしてチームの雰囲気を少しでも上げようと思って、思い切りの良い相撲を(取りました)。足をけがしていて考える暇もなかったのでとにかく前に攻めました。
――けがの状態よりもチームのための白星を優先したと
そうですね。けがで負けたことは言い訳にならないと思うので。
――最後に、主将としてきょうの結果をどのように今後の戦いにつなげていきたいか教えてください
正直な感想を言うと悔しいというのが第一にあって、一昨年にAクラスに昇格したのに去年Bに降格して今年もAに昇格することができなくて、十和田大会の出場も逃してしまい、順位も(昨年の9位から)一つ落としてしまったので本当に危機感をもっていかないといけないと思います。あと半年でどれだけチームを仕上げていけるかだと思うので主将としてやれることは最大限尽くして頑張りたいと思います。
長谷川聖記(スポ3=愛知・愛工大名電)
――個人戦ベスト8という結果を振り返っていかがですか
(組み合わせの)当たりが良かったというのもあるんですが、ベスト8を懸けた戦いでしっかり当たれたので引きが効いたのかなと思います。でも最後の負けた一番は相手が考えるようになってしまったのでそういうところはまだまだ直していかないといけないなと思いました。
――個人戦ベスト8を懸けた一番では納得のいく相撲がとれたと
引いて勝った相撲なので決して褒められる相撲ではないんですけどしっかり当たれていました。ただ、相手も押し相撲で向こうが自分の相撲を取ってきたというのがあったので、それを逆に自分がやらないといけないなと思いました。
――団体戦Bクラスでは長谷川選手自身は2勝したもののチームは慶大に敗れ3位通過となりました。この結果を振り返っていかがですか
ベストメンバーではなかったというのもあるんですけど、B(クラス)でしっかり勝ってA(クラス予選)にいきたいなというのがあったんですけど自分自身もあんまり良くなかったので本当にチームには申し訳ないなと思います。
――それほど橋本侑京主将(スポ4=東京・足立新田)の存在が大きいということでしょうか
そうですね。(橋本)侑京さんが勝って自分が勝つという流れがあったと思うんですけど、(Aクラス予選では)その流れを(橋本選手が)つくってくれたのに自分が勝てなかったというのはまだまだ自分の力が足りないなと感じました。
――Aクラス予選2回戦では立ち合いの変化も見られましたが、プレッシャーなどがあったのですか
緊張とかはなかったんですけど、勝たないといけないというプレッシャーを感じてしまって、逃げる相撲というか普段の自分の相撲ではない相撲を取ってしまって負けたので反省にもなりますし、良い経験になったのかなと思います。
――最後に、きょうの結果をどのようにして今後の戦いにつなげていきたいか教えてください
チームとしての力もまだまだ足りないなと痛感させられた試合でしたし、自分自身も力の差や気持ちの面で負けているなと思いました。普段の練習からそういうところを意識して取り組んでいかないといけないと思ったので、みんなで声をかけあったりして(全日本大学選抜)金沢大会に向けて頑張っていきたいなと思います。