早大相撲部、勝負の秋がついに幕を開けた。靖国神社相撲場で行われた東日本学生リーグ戦。9人制の団体戦だ。早大は昨年、53年ぶりに1部リーグで戦ったが、最下位に終わった。今年は、2回戦で専大に勝利。また、東農大にもあと1点というところまで迫るなど健闘を見せ、8校中7位につけた。堂々の1部残留だ。近づく全国学生選手権(インカレ)へ向け、上位の背中はそう遠くはないことを印象づけた大会になった。
早大の初戦の相手は、強豪・日大だった。二陣戦で佐藤太一(社2=大分・楊志館)、七陣戦で長谷川聖記(スポ1=愛知・愛工大名電)が勝利。いずれも休まない攻めで圧倒する相撲を取ったが、チームは2勝7敗に終わった。意を決して、2戦目の専大戦に臨む早大。しかし、先鋒、二陣、三陣戦と3連敗。その悪い流れを断ち切ったのが、四陣・本田煕誉志(社4=大分・楊志館)だ。激しく動き回る相手をよく見て、押して前に出た。白星をあげ、チームを奮い立たせる。専大のメンバーが1人足りないため、鬼谷智之(スポ4=愛知・愛工大名電)は不戦勝。続く谷本将也(スポ4=鳥取城北)も、相手の足が揃ったところを見逃さず、引き落としで白星。これで3ー3のタイに戻す。七陣は長谷川だ。鋭い立ち合いで低い相手の上体を起こし、はたき込みで相手を下した。しかし、副将・若林魁(スポ3=岐阜農林)は敗れ、勝負は大将戦へ。橋本侑京(スポ2=東京・足立新田)が、塩をまき、土俵に上がる。相手は、160キロの巨体。橋本は、左の上手を求める立ち合いを見せた。頭をつけ、低い姿勢で寄る。相手は無理な首投げを見せたが、全く動じず、前に出た。大きな相手を寄り切り、ガッツポーズ。急成長でチームの中心に躍り出た男が、53年ぶり1部出場の昨年に続き、リーグ戦での「1勝」という歴史の一歩を刻んだ。
対専大、大将戦を制した橋本。拳を突き上げて喜んだ
中大に3ー6、日体大には1ー8、拓大にも2ー7で敗れた早大。しかし、5回戦の東農大戦では見せ場を作った。回転のいい突きから相手の中に入り、佐藤が二陣戦を勝利。一時1ー3と劣勢に立ったが、鬼谷がこの日一番の鋭い立ち合いを見せ、攻めを休まず中堅戦を制した。谷本も、左四つに組み合い、腰の重さを発揮。最後は相手を寄り倒した。この日、チーム最多タイの4勝をあげた谷本。「リラックスして自分の相撲を取れた場面が多かった」と言い、そうした心理面での変化が土俵に現れた。さらに、七陣・長谷川も続いた。四つ相撲の力強さを持つ長谷川だが、この日は「第一に押し相撲を意識して、そこからまわしを取るようにした」という。ここでは突き押しで一気に攻めきり、勝利した。4年生の2人が持ち味を出し、また新人の勝利もあり、強豪・東農大を相手に4ー3とリード。しかし、副将・若林は惜しくも敗れ、勝負はまたも橋本に託された。硬くならないようにと、笑顔を見せる。谷本がその背中を叩き、気合いを入れる。立ち合い、鋭く当たった橋本。たちまち相手は土俵際まで下がった。なおも突いて出る。しかし、相手は左へ体を開き、突き落としを狙った。これに屈してしまった橋本。東農大に勝利することは叶わなかったが、早大は4点を奪い、互角の戦いを見せた。
拓大選手を上手投げで下す谷本。チーム最多タイの4勝をあげた
7位で、リーグ戦の1部に残留した早大。鬼谷主将は試合後、「目標は残留ではなく、上位入賞だった」と述べ悔しがったが、それも上位の背中があと一歩のところにあるからこその言葉だ。一時廃部の危機とまで言われた早大相撲部は、100周年の今年、復活どころか、まだ見ぬ頂を狙える場所までたどり着いた。4年生にとって最後の土俵となる、来月のインカレ。「本当にインカレが最後なので、勝って終われるように」(鬼谷)、「1ヶ月後のインカレで泣き、監督を胴上げできるように」(谷本)。チームを支えてきた4年生の熱い思いを、大阪・大浜の土俵で結実できるか。決戦の時、早大相撲部はチーム一丸となって挑む。歓喜の涙も、決して夢ではない。
(記事 元田蒼、写真 成瀬允、石名遥、吉岡拓哉)
結果
1回戦 対日大 2勝7敗
先鋒 ●松田(押し出し)清家参段
二陣 ○佐藤初段(押し出し)大庭参段
三陣 ●浅田参段(押し出し)竹内参段
四陣 ●本田参段(寄り切り)中島参段
中堅 ●鬼谷参段(はたき込み)木崎参段
六陣 ●谷本参段(押し出し)佐藤参段
七陣 ○長谷川参段(押し出し)片村参段
副将 ●若林参段(突き落とし)廣尾参段
大将 ●橋本弐段(押し出し)古川晴参段
2回戦 対専大 5勝4敗
先鋒 ●松田(吊り出し)加藤初段
二陣 ●佐藤初段(肩透かし)村山弐段
三陣 ●浅田参段(押し出し)岩間弐段
四陣 ○本田参段(押し出し)宇佐美弐段
中堅 ○鬼谷参段(不戦勝)
六陣 ○谷本参段(引き落とし)谷元弐段
七陣 ○長谷川参段(はたき込み)森田参段
副将 ●若林参段(上手投げ)中嶋四段
大将 ○橋本弐段(寄り切り)戸田参段
3回戦 対中大 3勝6敗
先鋒 ●松田(押し出し)山本参段
二陣 ●佐藤初段(勇み足)齊藤参段
三陣 ●浅田参段(はたき込み)植松参段
四陣 ●本田参段(上手投げ)菅野参段
中堅 ●鬼谷参段(寄り倒し)近平参段
六陣 ○谷本参段(突き落とし)是澤参段
七陣 ●長谷川参段(押し出し)西川初段
副将 ○若林参段(押し出し)中村参段
大将 ○橋本弐段(押し出し)高垣参段
4回戦 対日体大 1勝8敗
先鋒 ●松田(押し出し)渡邉弐段
二陣 ●佐藤初段(押し出し)深野弐段
三陣 ●浅田参段(押し出し)石崎初段
四陣 ●本田参段(上手投げ)櫻井参段
中堅 ●鬼谷参段(はたき込み)佐藤参段
六陣 ●谷本参段(寄り切り)西弐段
七陣 ●長谷川参段(押し出し)デルゲルバヤル
副将 ●若林参段(押し出し)西澤参段
大将 ○橋本弐段(寄り倒し)松永参段
5回戦 対拓大 2勝7敗
先鋒 ●松田(寄り切り)中山参段
二陣 ●佐藤初段(送り出し)萩原弐段
三陣 ●浅田参段(寄り切り)山市弐段
四陣 ●本田参段(押し倒し)勝呂参段
中堅 ●鬼谷参段(寄り倒し)黒川参段
六陣 ○谷本参段(上手投げ)志村参段
七陣 ●長谷川参段(はたき込み)松原参段
副将 ●若林参段(送り出し)川本参段
大将 ○橋本弐段(押し出し)寺沢参段
6回戦 対東農大 4勝5敗
先鋒 ●松田(突き出し)志賀弐段
二陣 ○佐藤初段(寄り倒し)加藤弐段
三陣 ●浅田参段(押し出し)石川初段
四陣 ●本田参段(寄り切り)佐藤弐段
中堅 ○鬼谷参段(押し倒し)齋藤参段
六陣 ○谷本参段(寄り倒し)境参段
七陣 ○長谷川参段(押し出し)真野参段
副将 ●若林参段(押し出し)松原参段
大将 ●橋本弐段(突き落とし)冨栄参段
7回戦 対東洋大 1勝8敗
先鋒 ○松田(不戦勝)池田参段
二陣 ●佐藤初段(寄り切り)鵜川参段
三陣 ●浅田参段(寄り倒し)宇佐見参段
四陣 ●本田参段(上手投げ)西野参段
中堅 ●鬼谷参段(はたき込み)白石参段
六陣 ●谷本参段(はたき込み)中嶋参段
七陣 ●長谷川参段(寄り倒し)城山四段
副将 ●若林参段(押し出し)重松参段
大将 ●橋本弐段(寄り倒し)寺沢参段
※最終成績=(7位)早大 1勝17点
※出場選手
先鋒 松田凌人(基理1=愛媛・宇和島東)
二陣 佐藤太一初段(社2=大分・楊志館)
三陣 浅田大介参段(社1=石川・金沢学院)
四陣 本田煕誉志参段(社4=大分・楊志館)
中堅 鬼谷智之参段(スポ4=愛知・愛工大名電)
六陣 谷本将也参段(スポ4=鳥取城北)
七陣 長谷川聖記参段(スポ1=愛知・愛工大名電)
副将 若林魁参段(スポ3=岐阜農林)
大将 橋本侑京弐段(スポ2=東京・足立新田)
コメント
室伏渉監督(平6人卒=東京・明大中野)
――1部残留となりましたが率直な感想はいかがですか
素直に良かったと思います。内容的にもっと他のチームに勝てたというところがあったので、後半に東農大に4-4までもつれて、だんだん体が動いてきたのでエンジンがかかるのが遅過ぎたかなと思います。
――試合の感触はいかがでしたか
まだまだ厳しいかなと思います。拓大などに勝っておかないとダメかなと思います。インカレで上を目指したいのであれば、もっともっとやらなければならないと思います。
――課題はありましたか
自分の相撲を取りきるというか、相手に合わせている相撲が多いので、自分の相撲を取りきって欲しいところがあります。
――谷本将也(スポ4=鳥取城北)選手が好調でした
谷本はいつも緊張していたのが、稽古場の相撲が取れていたことが、すごく良かったかなと思います。
――1年生の活躍もありました
1年生は特に長谷川聖記(スポ1=愛知・愛工大名電)。浅田大介(社1=石川・金沢学院)は団体戦が初めてで負けはしましたが、あと一歩二歩という相撲が取れる様になってきているので、確実に強くなっていると思います。長谷川に関しては、抜けてきている感じなので順調に戦力としてやって欲しいなと思います。
――インカレへの意気込みをお願いします
インカレは集大成なので、部員全員で力を合わせてとにかくチームで上位進出狙えるようにしたいです。
鬼谷智之主将(スポ4=愛知・愛工大名電)
――チームとしては、一部リーグに残留した形になりましたが、いかがでしょうか
目標は残留ではなく、上位入賞だったので、チームとしても、個人的にも、悔しい試合になりました。
――主将から見て、1年生の2人の活躍はどうですか
三陣の浅田(大介)は、初めての団体戦でしたが、自分の相撲が取れていて、今後につながるいい相撲が取れていたと思います。聖記(長谷川聖記)も、しっかりチームの中心になれるぐらいの力をつけてきていると思っています。
――ご自身の相撲を振り返ると、東農大戦では持ち味が出たかと思います
そうですね。ただ、自分の相撲が取れたのがあの相撲だけだったので、他の大学との試合もしっかり取れるように、自分が柱になれるように頑張りたいです。
――最後に、インカレに向けて、抱負をお願いします
本当にインカレが最後なので、この後1ヶ月間、しっかりチームのみんなでまとまって、稽古をして、勝って終われるように頑張りたいと思います。
谷本将也(スポ4=鳥取城北)
――今大会はインカレ前最後の試合となりましたが、自分の中でこの試合はどのような位置付けでしたか
1部でやる機会というのは限られていますし、1部の相手とインカレ前に戦えるチャンスだったので、ここでいい相撲を取ってインカレにつなげようという気持ちで臨みました。
――今日はチームとして1部残留を決めました
専大に1勝できたというのはよかったのですが、東農大にあと1点で負けてしまいました。インカレでもっと上に行くためにはきょう戦ったチームには勝っていかないと厳しいので、残留できたのはよかったですが、喜びというよりは反省の方が大きいです。
――反省点を具体的に挙げるとしたらどこでしょうか
チーム全体として、負けて流れが悪くなると自分の相撲が取れないというのがあって。きょうも1番2番各自それぞれいい相撲があったと思うのですが、それを毎回コンスタントに出していかないとインカレの予選を突破できないので、自分の相撲をもう一回確認してそれを出せるようにするというのが今のチームの課題だと思います。
――きょうはチーム内最多タイの4勝をあげました
最近自分の相撲が取りきれていませんでしたが、今回は結構リラックスして自分の相撲を取れた場面が多かったので、それがこの勝ちにつながったと思います。インカレでも、チームとして勝てるように自分が点を取っていかなければならないと思うので、気負わず自分の力をしっかり出し切れるようにしていきたいです。
――次の試合であるインカレは、ワセダで過ごした4年間の集大成となります。どのような気持ちで臨みたいですか
まず、自分が勝つというのはもちろんです。そして、僕らの代、つまり4年生の五人が、最後のインカレで優勝するというのを目標にしてやってきて。初めの方は2部でも勝つことができなかったのですが、1部に上がって、そして1部に残って、というのが今できてきています。今度はベスト4入賞、そしてやっぱり優勝を目指して、僕らの良さかつ強みである「チーム一丸となってやる」という姿勢で、1ヶ月後のインカレで泣き、監督を胴上げできるようにもう一度気を引き締めてやっていきたいです。
長谷川聖記(スポ1=愛知・愛工大名電)
――チームとして1部残留を果たしましたが、それについてどう思われますか
最低限の結果だったんですけど、うちは勝てるチームだと思っていますし、自分としても勝てる相撲もあったと思うので、もう少し勝ち切れるようにならないといけないなと感じました。
――全国個人体重別選手権でのベスト8から1ヶ月、どんなことに意識して稽古してきましたか
まあいつも通りだったんですけど、合宿で体の使い方を意識してきて、それを継続できるように意識して練習してきました。
――日大戦と専大戦は鋭い立ち合いが勝ちにつながりましたが、いかがでしたか
そうですね。まわしを取ることも自分の相撲なんですけど、第一に押し相撲を意識して、そこからまわしを取るようにしたので、その結果が鋭い立ち合いにつながった要因かなと思います。
――最後の東洋大戦では敗れたものの強い相手に健闘しましたが、いかがでしたか
自分としても悪くはないと思っているんですけど、結果的に負けたというのは何か悪いところがあると思うので、投げにいったり守りに入ったりせず自分から攻めていかないといけないなというのは本当に思いました。
――最後に、1ヶ月後のインカレに向けての抱負をお願いします
そうですね。まだメンバーに入るかどうかは分からないですけど、今回は100周年なので(メンバーに)入ったら上位に食い込めるように、チームに貢献していきたいと思います。