【連載】インカレ直前特集『伝統』第4回 榊原祥孝主将

相撲

【連載】インカレ直前特集『伝統』第4回 榊原祥孝主将

 この春、早大相撲部は大きな変化を遂げた。相撲部創部100周年を最終学年時に迎える新入生5人が門をたたき、数十年ぶりとなる大所帯でチームが始動した。しかしその人数の変化とは裏腹に、チームとして思うように結果が出ない。そんな中行われる全国学生選手権(インカレ)は今季を締めくくる大会だ。創部100周年時にインカレ1部優勝を狙う新入生たちもすでに最初のシーズンを終えようとしている。あっという間に時間が過ぎていくのは学生スポーツの難しい特徴である。今回はそんな『100周年世代』と相撲部の現状、未来について、誰よりもチームのことを考えている榊原祥孝主将(社3=千葉・専大松戸)に伺った。

※この取材は10月8日に行われたものです。

環境の変化

誰よりも早大相撲部のことを考えている榊原主将


――5人の新入生を迎え入れて半年が経ちました。一番の変化は何ですか

全体的に活気が良くなり、非常に元気になりました。ただそれは稽古場においてであり、試合においては自分の勝ち負けで気持ちが左右されてしまいます。そのせいでチームに波が生まれてしまっています。1年生が多いので、どうしても1年生がチームカラーの中心になってしまいます。なので勢いで勝つつもりでないといけないです。いまは(試合で)少しおとなしいかもしれません。

――活気以外にどんな変化がありましたか

稽古に対する意識も変わりました。いままでは先輩に後輩が付いていくだけでこじんまりとしていましたが、活気もあっていまは部が組織として動いている印象があります。

――数十年ぶりの大所帯となりましたが、良かった点を教えてください

選手を選ばなければいけない、状態の良い選手を選ぶことができるというのは良いことです。人数が増えた分、いろいろなタイプの選手がいるのでチームに多様性が生まれました。自分よりも大きな選手と普段から稽古ができることで、試合においても役に立ちました。

――注目度も増したと伺いました

日頃からデーモン閣下相撲部特別参与(社卒)にお世話になっていたり、早稲田杯や東伏見スポーツフェスタなど相撲部のすそ野を広げたりしてきたことが大きいと思います。それに相撲部員が増えたことと合いまして注目されるようになりました。1年生の出身校からの注目も著しく、市川拓弥(社1=長野・更級農)は東日本学生選手権(東日本)で大きな横断幕が掲げられていました。あんなに大きな横断幕は見たことがありません。やはり注目されるとダラダラできないですね。

――相撲以外でも良かったことがあったでしょうか

料理が美味しくなりました。本田煕誉志(社1=大分・楊志館) が調理師免許を持っていて、時々煮物なんかも作ってくれます。自分ですとあるものを電子レンジで温めるか、焼くか茹でるかぐらいしかできないのでとても嬉しいです。

――逆に人数が増えて難しい面はありますか

やはり意思疎通が難しいです。実力が拮抗した状態で8人もいるチームの主将を務めるのが初めてだからです。皆それぞれに我があるのでそれを一つにまとめるのが大変です。だからと言って主将である自分の言うことを聞かせることが大切なわけではないので、その難しさを痛感しています。

――何か困っていることはありますか

けがが多いことです。1年生だけでなく全員にとって(昨年の2倍の部員数に変化したという)環境が変わったので、対応するのが難しかったのかもしれません。けがはコンタクトスポーツのつきものとはいえ、多かったと思います。


『信じる力』

主将として威厳のある相撲を取る榊原主将


――大物ルーキーたちの加入で期待された相撲部ですが、現在までの大会を振り返っていかがですか

東日本学生新人選手権では良いスタートを切りました。鬼谷智之(スポ1=愛知・愛工大名電)と谷本将也(スポ1=鳥取城北)がベスト8に残りました。東日本では団体戦で勝つことはできませんでしたが、対上位戦ということを考えれば良く戦うことができたと思います。あそこで負けてしまったことが長期的な視野で見て、まだまだ力不足であることを実感するきっかけになれば良いと思います。

――それぞれがカベを痛感したあと、意識の変化などはありましたか

意識の変化はあったと思いますが、やはり環境の変化が大きかったのかもしれません。その後の東日本体重別選手権は自分が欠場してしまったことが結果を残せなかった理由として大きいと思います。東北楽天時代の田中将大投手(現・大リーグニューヨーク・ヤンキース)のように、この人なら絶対勝てるという人がチームに一人いると周りも気が楽に大会に臨めるからです。2年生については、新入生を迎えて意識が変化していますが、まだまだ足りないです。もっと一皮も二皮もむけるような意識で取り組まないと、ますます1年生主体のチームになってしまいます。1年生が右も左も分からない状態で試合をやり続けて負けてしまうと、勝てれば良いですが、負け続けてしまうことが多いです。塚本直紀前主将(平26スポ卒=鳥取城北)も昨年の序盤で思わぬ敗戦を喫したあと、半年間負けが続いてしまいました。大会が少ないので、勝てるチャンスで勝っておかないと悪い流れというのは続いてしまうのだということを実感しました。

――夏合宿にも変化がありましたか

夏合宿ではトレーニング中心でやりました。しかしあの合宿は本来は合宿前にやるべき内容で、もっと相撲に取り組む必要があると感じています。相撲の勝ち方を分かっていない段階で体力・筋力系のトレーニングをいくら積んでも勝つのは難しいと思います。強豪校は合宿で相撲を取っているにも関わらず、自分たちが階段の昇り降りをしても勝てるはずありません。そういったトレーニングを逆に息抜きのような形でできたらもっと良かったと思うので、次回以降考えてみたいです。

――合宿を経て行われた東日本学生リーグ戦(リーグ戦)はいかがでしたか

ひどかったですね。数字の上では順当な結果だったと思いますが、内容は非常に良くなかったです。まず先鋒の前川晋作(社2=東京・早実)ですが、チームの勢いを止める相撲をしてしまいました。前川は自分の現状の中でいかに最高の相撲を取ろうかということを考えているので、限界を越えられるように頑張ってほしいです。

――リーグ戦で光が見えた選手もいたと思います

堀越豊輝(スポ1=東京・足立新田)と本田は良かったですね。中大戦では二人とも敗れましたが、中大が2部にいなければ敢闘賞が取れていたくらいの実力があったと思います。本田は大将として自信が付いています。堀越は秘密兵器のような形でずっと試合には出ていませんでしたが、試合に出て勝ったということは自信になると思います。本田については今後も自分の相撲を窮めて、けがなく自分の道を進んでいってほしいです。堀越は他大から注目され、見られる存在になったので、さらに強くなっていかなければいけません。

――本田選手のスタイルとはどのようなものでしょうか

本田は常に全力です。どんな相手にも100パーセントで全力で押しに行く相撲が特徴です。何をするのも全力でできていれば、今後も何も問題ないです。

――インカレでは何を目標にしますか

ことしの目標は『頑張る』です。目標の成績を強いて言うのであれば、団体戦で最低2回勝つということです。昨年国士舘大に敗戦したことによってランクが下がってしまったので、元に戻さなければいけません。もし今季も初戦で負けてしまったら、らいねんはさらに下位トーナメントに参加しなければいけません。とにかく部全体としての目標は『頑張る』。何を頑張るかはそれぞれです。みんなで同じ目標にすると固まる傾向があるので、それぞれの目標にたどり着けるように頑張れば結果はついてくると思います。

――現在のチームはどうでしょうか

将来が明るい非常に良いチームです。今回のインカレである程度の結果が出せれば、それが自信になります。創部100周年の時にはインカレ1部優勝を狙えるかもしれません。いまは誰も想像もできないと思いますが、それぐらいチャンスがあるチームなので、1年生には自信を持ってサクセスストーリーをやっていってほしいです。

――インカレまでに向けて課題はありますか

良いチームではあるのですが、本当のチームになりたいですね。結局いまは自分の殻に閉じこもってしまっているのです。稽古場では仲が良いのに、試合になると寄せ集めのチームに見えてしまいます。まるで国民体育大会の一時的に集まったチームのような感じです。それぞれは強いのですが、個人戦のような空気があるので、もう少し広い視野で考えて、仲間がいるということを心に刻んでやりたいです。1×5で、10くらいの力を出したいですし、それが団体戦の醍醐味です。

――そのために必要なことは何でしょうか

信じることです。仲間を信じるためにはそれぞれがとにかく頑張って稽古をして、仲間も頑張って稽古をすることです。試合では仲間を信じることによってそれぞれが持っているもの以上の力を出し合って、そうすればチーム力はより強固となります。

――最後に、相撲部の未来について教えてください

とりあえずらいねんは結果です。何としても結果を残さなければいけません。目標は東日本で1部昇格です。その時までに信じる力によってチーム力を上げなければいけません。らいねん結果を出して、その翌年は結果の維持が重要になってきます。そのためにしっかりと頑張りたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 佐藤裕樹)

道場の台所でステーキにフランベをする榊原主将


◆榊原祥孝(さかきばら・よしたか)

1993年(平5)8月10日生まれ。175センチ、150キロ。千葉・専大松戸高出身。社会科学部3年。「お腹空きませんか」の一言で冷凍庫を開けるとすぐにステーキを焼き始めた榊原主将。冷蔵庫からおもむろに取り出した白ワインでなんとフランベまで披露してくれました。そんなおもてなしや気配りに長けた榊原主将は、相撲に対して誰よりも真正面に本気でぶつかっています。そんな姿に下級生も信じてついていくことでしょう。インカレでは榊原主将が作り出す『本当のチーム』の活躍が期待されます。