【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第60回 江原明徳/少林寺拳法

少林寺拳法

苦悩の末に手にしたもの

 「才能ではなく一番努力した人が勝てると思っている」。そう語る江原明徳(教=神奈川・桐蔭)自身もまた努力の人であった。質問に受け答える穏やかな口調からは、静かな闘志と責任感の強さが垣間見える。中学で始めて以来、ひたむきに少林寺拳法と向き合い、主将としてワセダをけん引した江原の4年間に迫った。

 中学の時、仲の良かった友人に誘われて何気なく少林寺拳法部に入部。高校でも競技を続け、もっと強くなりたいという思いで強豪である早稲田大学を目指した。晴れて第一志望に入学した江原だが、彼を最初に待ち受けていたのは苦難であった。練習は想像していたよりも厳しく、一生懸命にやっていても大会で結果が残せない辛い日々が続く。そんな中、2年の全日本学生大会の演武で初めての優勝を果たす。「本当に嬉しかった」。地道な努力が徐々に実を結び始める

主将としてチームを支えた江原

 最終学年で主将を任された江原は、自身が引退した後も勝っていけるようなチーム作りをしたい、という思いを持って下級生の指導に力を入れた。また、部員とのコミュニケーションを大事にしてチームの一体感を意識することも心がけたという。自分の練習と後輩指導のバランスをとるのに葛藤することもあったが、部活の時間を指導に当てる一方、授業の空き時間などを使って自分の練習をすることでバランスをとった。自分だけでなくチーム全体も勝たせなければいけないというプレッシャーの中で眠れない日が続くこともあった。主将としての経験。それは江原にとって意義あるものであったが、辛いものでもあった。

 中学、高校、大学と少林寺拳法を続けたが、正直なところ辞めようと思ったことは数え切れないほどあるのだという。それでも、高校時代の最後に辛くても辞めなくて良かった、と感じた経験を思い出して競技を続けた。迎えた引退試合である昨年の全日本学生大会。関東大会での反省を生かし、実力差のある人をあえて組ませ、実力が十分でない人を伸ばすなどチーム全体の底上げを図った結果、見事目標であった総合優勝を果たす。「やれるだけのことはやったという自負はあります」。と満足そうな表情を見せた。

 大学での競技生活を通して得たもので一番大きいのは「同期」と江原はいう。辛い経験を共にし、同じ目標に向かって頑張ってきた同期は、敬意を持てる存在であると同時に本当に信頼できる仲間であった。また努力家の下級生の頑張りも彼に刺激を与えていた。「4年間は厳しいことばかりだけど、それを超えたら普通の人には味わえない達成感がある。くじけず最後まで頑張ってほしい」。後輩に向けてメッセージを送る優しげな眼差しの奥にはやりきったという達成感と誇りが輝いていた。

(記事 辻本紗支子、写真 八木美織)