【連載】早慶女子クラシコ特集 第3回 対談:夏目歩実×堀内璃子

ア式蹴球女子

 ア式蹴球部女子(ア女)は年間40試合、多い時は50もの公式戦をこなす。今季はけが人が相次ぎ、特にDFラインは厳しい台所事情を強いられた。その中、今季ア女で最も多く試合に出場したのがDF夏目歩実(スポ3=宮城・聖和学園)とDF堀内璃子(スポ3=宮城・常盤木学園)。2人の言わば”功労者”が同期や今季のア女について語り合う。

※この取材は10月29日に行われたものです。

スローインを入れる堀内。2選手ともCBだけでなく、両SBも務めてきた

 

「(3年生は)いろんな立場から考えが出てきて、話し合う中でギャップを埋めていけるのが、私は好きです」(堀内)

――まずはお互いの他己紹介をお願いします

夏目 そもそもプライベートではそんなに一緒にいないんですよね。バイトをいつもしているイメージです(笑)。学校でも週一回ゼミで一緒になるくらいでそんなに会わないですね。あとは時間がありそうに見えて、いつも課題に追われてる(笑)。璃子はサッカー中とピッチ外でそんなに変わりないかも。結構ピッチ外でもそのままのイメージはありますね。

堀内 歩美はピッチ外の部分で言うと、「できる子」です(笑)。何事も。

夏目 できる「風」ね。

堀内 できる風もあるかもね(笑)。でもなんでもてきぱきできちゃう。あとは教職の授業を取っていて、学校にもちゃんと行ってる。私はオンライン授業が多くて、所沢キャンパスにもあまり行かないので、歩美はちゃんと大学生という生活を送っているな、という感じです(笑)。

夏目 やることに追われているだけなんだけどね(笑)

――お互いあまり似ていないという感じですか

夏目 似てないよね。

堀内 うん、全然違うと思う(笑)

――それぞれ一番仲の良いチームメイトはいますか

夏目 自分は若葉(後藤、スポ3=日テレ・メニーナ)かな。いつも一緒にいる。学校で言ったら智里(藤田、スポ3=神奈川・大和)ですね。特に平日の日中はほぼほぼ智里と一緒にいるので、ゼミや大学の友達からは「そこずっと一緒にいるじゃん」と言われるぐらいです。

堀内 自分は美月(浦部美月、スポ3=スフィーダ世田谷FCユース)だな。ゼミも一緒だし、授業もほぼ一緒です。

――オフの日はどのように過ごしますか

夏目 自分は月に一回、若葉と智里と3人で「お花を愛でる会」ていうのをしてるんですよ(笑)。単純にお花を愛でに行くんですけど、たいてい自分がインスタとかで行きたい公園とかを探して、「ここ行こう!」って言って行きます。この前は千葉の方のバラを見に行きましたし、夏はヒマワリを見に行ったりとか。今度は紅葉を見に行く予定です。それきっかけでカメラにもはまってます。

堀内 私は、オフの日は予定は基本入れないという感じで、誘われたら行くんですけど自分からは誘ったりしないですね。気の済むまで寝て、お腹が空いたら起きて食べてテレビを見たり、スマホをいじったりして気づいたらまた寝てる、というようなだらだらぐだぐだのオフを過ごしています(笑)

――お互いの尊敬するところはありますか

堀内 それで言うとやっぱり何でもこなせちゃうところですね。たまにいっぱいいっぱいになっている時は、「今はいろいろやりすぎてるなー、この子」という感じだったりもするんですけど、いつもは沢山のタスクがある中で自分のやることを決めて最終的にはやる、という感じで。私はやることを並べられたら「あー!もう無理!」ってなっちゃうタイプなので、そこは尊敬してますし、うらやましいですね。

夏目 璃子はやっぱり気づけるところかな。人のこととか、些細なところに敏感なんですよ。自分のことに集中したい時や、いっぱいいっぱいになることだってあるのに、そんな時でも気づけちゃう。そして気づいた後にはそれに対して何かしようと思ったり、実際にやってくれたりしてくれるところはすごいなあって思うし、学年が上がって変わってきたところでもあるのかなと思います。

――それを聞いていかがですか

堀内 ありがとうございます(笑)。そんなに立派に言われちゃうと私が言ったことが薄くなっちゃうな(笑)

――お二人はどんな経緯でサッカーを始めたのですか

夏目 兄(笑)。お父さんが元々サッカーをやっていて、今小学生のチームで監督をしているんです。そんな父の影響で兄がサッカーをやっていたのですが、兄たちがサッカーに行くと末っ子なので留守番ができない。だから連れて行かれるんですけど、となると行った先で暇なんです。ならやっちゃおう、ということで始めました。

堀内 私は父の影響です。小さい頃だからよく分かっていないながらも父がサッカーをしている姿はよく見ていたし、試合に連れて行かれて端っこでボールを蹴る、みたいな。どうやって始めたのかはあまり覚えていないんですけど、サッカーは常に身近にありました。クラブを探したのですが、女子チームが自分の地元にはなくて。完全に男子しかいないチームというのも難しいし、かといって女の子の友達ばかりというのもなあなあになってしまいそうだということで、各学年に女子が一人いるようなボランティアチームに入りました。

――そこから高校時代までは

夏目 少年団で男子と一緒にプレーをしながら小学校5年生から女子のトレセンに入り、中学からはクラブチームで、高校は聖和に、という感じです。

堀内 今考えると中学のチーム選びが私にとっては大事なポイントで、地元で中学の女子チームがちょうどできた頃だったんですよ。当時入っていた区の女子選抜チームのメンバーも大体そのままそこに入る選手が多い中、私はそこに入るつもりはあまりなくて。チームを探して、結局都の中心部にあるクラブチームに電車で通っていました。そのチームの監督から高校進学のタイミングで「このまま続けるなら常盤木に行った方が良いんじゃない」と助言をいただいて、寮生活とかは全く考えていなかったんですけど、高校は宮城に行くことになったという感じです。なので自分としては、中学高校それぞれの3年間を充実したものにできたのは、その中学選びがきっかけだったかなと今は思います。

――お互い宮城県の高校サッカーということなんですね

夏目 毎年3、4回対戦してましたね。顔は知っているという感じで。お互いディフェンダーなので、マッチアップはしないしバチバチにやり合うわけではないけど、「いるな」ぐらいの感じでした。

堀内 でも大学が決まった時に「歩美ちゃんもいくらしいよ」みたいな(笑)

夏目 そうそう。高校の時はホリコって呼ばれていたので「ホリコも行くらしいよ」みたいな情報が回ってきて。「マジ!?なんでディフェンスが来るの!?」って思った記憶があります(笑)

――確かにポジション的にはライバルになる可能性もあったわけですね。

――現3年生はどんな学年ですか

堀内 比較的「気づける」学年だと思います。

夏目 他に比べたらなおさらね(笑)

堀内 確かに(笑)。周りを気にする、気にしちゃうタイプが多いから、みんなが同じことに気付いてそれについて話し合うということもあります。

――気遣いのできる人が多いという感じですか

夏目 気遣いというより、俯瞰(ふかん)して見られるというか。それこそサッカーのポジション的なこともあると思うんです。自分たちは半分以上がディフェンスの選手で、そうではない和華奈(三谷、スポ3=東京・十文字)、綺乃(笠原、スポ3=横須賀シーガルズJOY)、美南(大森、スポ3=東京・八王子学園八王子)も周りと連携してプレーするタイプの選手ではあるから、そういうところがプレーだけではなく私生活にも出ているのかなと思います。

――学年で集まってどのようなことを話されるのですか

夏目 サッカーの話もするし、そうじゃないことについてもしますね。

――仲が良い、という感じですか

堀内 仲が良い、というかちゃんと話せるのが良いところかなと思います。話すとなったらちゃんと思っていることを言い合えるというか。話を振らなくてもいろんな立場からの意見や考えが出てきて、話し合う中で各々の考えのギャップを埋めていけるのが、私は好きです。あとは学年会もそれなりにしますね。夏にも川に行ったし、そういえば1年生の一番最初にもBBQに行きました。

夏目 よく行ったよねあれ(笑)

 

「学年が上がって背負うものがまた変わってきている」(夏目)

――試合に入る前のルーティンや決まった気合の入れ方はありますか

夏目 最近どんどん減らしているんだけど…。去年までは、CBを組む選手によって着けるヘアバンドの色を変えていました。

堀内 全然知らなかった!

夏目 あまり言ってないかも。ピンクはピンクでも違う色があるんですよ。あとはそれこそ定番だけど、スパイクやソックスは左足から履くとか。試合前にズンバ(※聖和学園高等学校サッカー部が行うアップトレーニング)をやったりもしてます。

堀内 私はあまりルーティンとかはないんですけど、試合前に意識しているのは「挨拶をちゃんとする」ということですね。グラウンドに入るときと入ってからの挨拶で、心を締めるというか、気合を入れるというところはあります。

夏目 あとは、スカウティングしてくれるスタッフが、相手のこの前出ていたメンバーとかを予想フォーメーションみたいにしてまとめてくれるんですよ。アップ前にそれが分かるので、「〇番の選手が出ているから●番の選手がこっちだね」というように確認しています。試合前にはボードをベンチの真ん中において地べたに座ってそれをやってるんですけど、それを復習してみんなに伝えるのももうルーティン化してますね。

堀内 いつの間に歩美の役割みたいになっちゃったよね(笑)

夏目 自分が納得いきたいからなんだけどね(笑)

――シーズンの中で覚えたり意識するような相手選手はいるのですか

夏目 マッチアップ相手は覚えていますね。あまり毎試合変わらないし、キープレーヤーみたいな選手は各大学にいるので。

堀内 私はプレースタイル的に、相手選手のプレーを体感覚で感じるのが好き、というか得意なんですよ。相手との駆け引きが好きで、対面する選手によって「あ、この人はこれぐらいの距離感だったな」とか思ったりしますね。

――お二人はディフェンスの仕方にも違いはありますか

堀内 私は完全に守備の中の守備という感じなんです。得意なプレーも1対1とカバーリングという守備的な要素で、攻撃面は自分の中で苦手意識があるので。でも歩美はその私の苦手な攻撃的な要素、例えばビルドアップとかが得意な方でもあり、かつ対人能力や守備の能力も劣るわけでもないという。そこらへんが何というか、器用なんですよねー(笑)。私は不器用だから。

夏目 璃子はこんな言い方してますけど、きれいなロングフィードとか蹴れますし、私はどちらかというと下でつなぐタイプなので。それに良いくさびのパスを入れたりとか、攻撃面も出来るんですよ。なのになぜか苦手意識を持っちゃってて(笑)。シンプルにうらやましいところはいっぱいあります。

堀内 でも歩美が一番強みにしているのはコーチング力かも。私は比較的自分の近くの選手を動かすやり方で、自分のためにもなるしそれがチームのためにもなると思っているんですけど、歩実はピッチ全体に指示が出せるので。私はさっき言ったようにやることが増えるといっぱいいっぱいになってしまうので、最低限のことだけやってあとは歩実に任せてます(笑)

夏目 声を出していないと自分のプレーができない、というのはア女に入ってはっきりと分かったことですね。1年生の頃は守備の仕方が(高校時代と)違いすぎて戸惑ってしまって、コーチングもできていませんでした。コーチングをするようになってから試合に出始めたというのもありますし、考えてみると自分が声を出せていない時間帯は大体プレーも悪いんですよ。だから自分のためでもあるし、言えばみんなそれ以上のことをしてくれるのでこっちが困らないで済むんです(笑)。信頼してるからこそ言える、という感じです。

――続いてここまでのシーズンを振り返っていただきます。率直に、どんなシーズンですか

夏目 悔しい、というか苦しい。まだ終わっていないとはいえ、去年みたいな楽しかった試合や手ごたえのある試合があまりないです。試合結果ももちろんそうなんですけど、去年より失点数が多いというのがメンタル的にはきますよね。内容的にも「できた!」という試合が今シーズンあまりなくて。チームとしてよい試合ができたタイミングはもちろんあったと思うんですけど、個人的には自分のプレーも含め「この試合は完璧にできた」という試合があまり思い出せないです。なので悔しい、苦しいという感じですね。でもこれって学年が上がったというのも大きくて、背負うものがまた変わってきているからかなと思います。そういった意味では悔しいというより、苦しいシーズンですね。

堀内 私自身悲観的に物事をとらえてしまうタイプなので、自分に「グッド」を出せることがめったに無いんですけど、今季はそれどころか自分に「バッド」を出すようなシーズンだなと思っていて。去年はケガでサッカーができなかったので、今年はまず試合に出場した上で自分を高めていくというのを今年前提として持っていたんですけど。試合後は何ができたかと考えるというより、今日はあれがダメだったこれがダメだったと考えるばかりになってしまったので、手ごたえは正直あまりないです。試合に出させてもらっている立場なのに、迷いみたいなものがあったのが一番の反省点だと思っています。自分のプレースタイルって、迷ったらなんも良さが出ないんですよ。学年が上がったのもありますが、下級生の頃よりいろいろ考えて自分の中で閉じこもってしまった気がします。

――今後取り組んでいきたいことや改善していきたいポイントはありますか

夏目 チーム内でも言ったのですが、改めて自分が守備の統率をしたいなと思っています。皆言っているようにア女は守備から作っていくチームだという認識がある中で、結局失点を重ねてしまっていますし納得のいっていない状況であることは間違いないです。そこに関しては改めて見つめなおしたいですし、守備のところに力を入れたいなと思っています。攻撃は頼れる4年生がいっぱいいるので任せます(笑)

堀内 個人の部分はそれぞれ追及していくしかないと思っていて、個人レベルで追及していくことが結果的に組織に貢献することにもなると思うんです。さっきも言ったんですけど、そのためには自分がピッチの上で堂々と自信をもってプレーしなきゃいけない。その追及し続ける姿勢だったり、そこから得たエネルギーや自信で、チームにも勢いをつけていかなきゃいけないなと思います。自分ベクトルの目標になっちゃってるんですけど、そこが私の良さでもあると思うので。

 

「有観客としては初の女子・早慶戦を成功させたい」(夏目)

――3年目の早慶戦ですがかけている思いはありますか

夏目 やっぱり伝統の一戦ですし、1年生のころから、そして今年も運営に携わっていた部分があるので、まずは無事に終わりたいです(笑)。コンセプトとして「魅せろ。」っていうのを置いている中で、ピッチ外でずっと作ってきたものもありますし、今本番に向けて準備しているものもあります。もちろん試合に出られたら自分のプレーをしっかりしたいですし、企画しているものも含め、「早慶戦」を多くの人に見てほしいです。何よりこの伝統の一戦に携わらせていただいていることに感謝して、楽しみたいと思います。

堀内 企画・運営も含め、いろいろな人の力を借りてできるということもありがたいですし、女子部だけで行うのもそれはそれで特別なことだと思います。早慶戦はプライドのぶつかり合いで、お互いが「早稲田」と「慶応」を背負ってバチバチに戦うのが見どころ、魅せどころだと私は思っています。どの立場からも一人一人がやり切る、出し切ることでコンセプトにもあるように「魅せる」ことができると思うので、たくさんの人への感謝を忘れずに、学生という立場でやるべきことをやり切りたいと思います。

――早慶戦の注目選手を教えてください

夏目 うわー悩むなー(笑)。でも和夏(船木主将、スポ4=日テレ・メニーナ)さんかな。早慶戦に合わせて復帰しようと頑張っていますし、きっと戻ってきてくれる。やっぱり4年生にとっては最後の早慶戦なので、新しい試みとかも和夏さん中心にやってくれているところもあるし、何より早稲田の主将として誰よりも早稲田を背負ってプレーしてくれるんじゃないかなと期待しています。

堀内 うーん…、全員見てほしいけどな…。じゃあ雛(髙橋、社4=兵庫・日ノ本学園)さんで。というのもまず攻撃陣を見てほしくて。けが人が戻ってきて攻撃に勢いが出てき始めましたし、何といってもごりごりの選手たちが前にいるのでそこには守備の選手として、何とかしてくれるというような安心感を持っています。そんな中で雛さんは10番を背負っていて、普段は多くを語らないんですけどエースとして得点を取らなきゃいけない使命感や覚悟だったり、内に秘めている熱量みたいなものはすごく伝わってきていて。近くでというわけではないですが、後ろからずっと見てきた中で応援したくなるというか、力になりたいと思います。今までいろいろなことがあって乗り越えてきた中で、生み出してきたエネルギーをきっと全面に出してくれると思うので、そんな生き生きとしたキレッキレの雛さんを見てほしいです。

――最後に早慶戦に向けての意気込みを聞かせてください

夏目 自分は「早慶戦とは」と聞かれたときに「エンジのプライドをかけた戦い」っていつも答えるんです。「早稲田」を背負っているので試合はもちろん負けません。その上で慶応と共に有観客としては初の女子・早慶戦を成功させて、改めて自分たちを、そして女子サッカーを多くの人に知ってもらい、興味を持ってもらいたいです。

堀内 個人としては、プライドをかけてすべてを出し切りたいです。あとは早慶戦に限らずかもしれないのですが、この試合を観ている人に何かエネルギーを与えられたらいいなと思います。もちろん絶対に勝ちたいですし、早慶でバチバチに戦った上でそういったエネルギー的なものを周りに与えたいですね。それを目的にするということではなくて、出し切ったうえで結果として周りの活力になればそれが一番良いと思います。

(取材・編集・写真 大幡拓登、写真 前田篤宏)

早慶女子クラシコに向けた意気込みを書いていただきました!

◆夏目歩実(なつめ・あゆみ)(※写真左)

2002(平14)年2月15日生まれ。159センチ。聖和学園高校出身。スポーツ科学部3年。2年時から2CBの一角として活躍。落ち着き払った攻守両面でのプレーと後ろからの声で存在感を発揮する。

◆堀内璃子(ほりうち・りこ)

2003(平13)年10月25日生まれ。166センチ。常盤木学園高校出身。スポーツ科学部3年。1年時に早速スタメンの座を勝ち取るも2年時で大けがを負う。今季は離脱もなく、爆発的なスピードと対人の強さを生かした守備を見せている。