第36回関東女子大学リーグ戦 第10節 | ||||
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早大 | 2 | 1-0 1-1 |
1 | 帝京平成大 |
【得点】 (早大)32分:廣澤真穂、90+4分:築地育 (帝京平成大)47分:梶原美咲 |
25日、東伏見グラウンドで関東大学女子リーグ(関カレ)前期10節が行われた。今年初の猛暑日を迎えた東京。黒いゴムチップが一面に敷かれ太陽光を遮るものがない東伏見グラウンドは暑さがさらに増していた。炎熱の太陽の下、前年インカレ女王・ア式蹴球部女子(ア女)は前年関カレ女王・帝京平成大と『女王対決』にふさわしい、まさに炎熱の激戦を繰り広げる。
築地の決勝ゴール。高校以来というCBでのプレーは時間が経つにつれ安定感を増し、破壊力のある相手の攻撃を1点に封じ、決勝点まで決めて見せた
先手を打ったのは前年インカレ女王。32分にFW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)が針の穴を通すように密集した相手DF3人をドリブルでかわし、ボールをニアサイドからゴール前に折り返す。これに反応したのがFW廣澤真穂(スポ4=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)だ。「流し込むだけだった」とマーカーを外し冷静にネットを揺らした。この得点は序盤の粘り強い守備が生み出したとも言える。序盤に続けて相手の猛攻を受けるもGK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)のシュートストップを中心に、ここまで5試合1失点とア女が誇る堅守で切り抜けていた。もし相手が決定機を決め切っていれば、また違ったゲーム展開になっていたのかもしれない。
先制シーン。ゴールした廣澤、アシストした髙橋について監督は「もっとできる」とさらなる活躍を期待する言葉を口にした
しかし後半の立ち上がり、この牙城が崩される。相手の変則的なCKからゴール前でもつれあった末に押し込まれた。ここまで7節の神奈川大、9節の山梨学院大と上位相手に接戦の末勝ち切れない試合が続いていたア女。同点に追いつかれた今節もそんな雰囲気が漂い始めていた。猛暑は選手の体力と精神力を削り、試合も避けられないスローダウンを見せていた。それでも81分にDF船木和夏主将(スポ4=日テレ・メニーナ)の強烈なシュートが相手GKの好セーブで阻まれ、両チームから試合展開に影響する好プレーが出たことで女王対決は激しさを取り戻した。そして後半アディショナルタイムにドラマが起きる。右コーナーにボールをセットしたMF宗形みなみ(スポ1=マイナビ仙台レディースユース)がファーサイドにCKを蹴ると、これをMF築地育(スポ2=静岡・常葉大橘)が頭で完璧に捉えた。バックステップを踏んでおり、難しい体勢だったが「自分の強み。狙っていた」と、ボールを額にヒットさせゴールにねじ込んだ。これには部員だけでなく東伏見に駆け付けた観衆からも大きな歓声が上がった。
先制直後のイレブン。相手が強敵ということもあってか、いつも以上に喜びを爆発させていたのが印象的だった
まさしく見事な劇的勝利となった。ここまで接戦をものにできない試合が続いていただけに、今節は今季を語るうえで欠かせない試合になったことは間違いない。特にバックラインに離脱者が続出し、毎週末の連戦の中で非常にタフな戦いが続いている。本来であれば今節が前期最終戦だったが序盤の延期が影響し、戦いは気温が40度を超えるのではないかと言われている7月末まで長引くことになっている。関カレ前期は残すところあと4試合。ア女の暑く厳しい夏は幕を開けたばかりだ。
(記事 前田篤宏、写真 前田篤宏、大幡拓登、渡辺詩乃)
71分にアンカーとして途中出場した井上。後藤監督は「拾うべきところを拾って潰すべきところを潰してくれた」と、井上のプレーを勝因に挙げた
早大メンバー | ||||
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ポジション | 背番号 | 名前 | 学部学年 | 前所属 |
GK | 1 | 近澤澪菜 | スポ4 | JFAアカデミー福島 |
DF | 2 | 夏目歩実 | スポ3 | 宮城・聖和学園 |
DF | 4 | 堀内璃子 | スポ3 | 宮城・常盤木学園 |
DF | ◎5 | 船木和夏 | スポ4 | 日テレ・メニーナ |
MF | 7 | 三谷和華奈 | スポ3 | 東京・十文字 |
MF | 14 | 笠原綺乃 | スポ3 | 横須賀シーガルズJOY |
MF | 19 | 築地育 | スポ2 | 静岡・常葉大橘 |
MF | 26 | 宗形みなみ | スポ1 | マイナビ仙台レディースユース |
FW | 9 | 廣澤真穂 | スポ4 | ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ |
FW | 10 | 髙橋雛 | 社4 | 兵庫・日ノ本学園 |
FW | 27 | 生田七彩 | スポ1 | 岡山・作陽 |
→71分 | 8 | 井上萌 | スポ4 | 東京・十文字 |
◎=ゲームキャプテン |
スターティングフォーメーション
後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)
――接戦で勝利できたのは初めてだったかなと思いますけど、今日の勝利はいかがですか
最後セットプレーで決めてくれて。あれは本当に大きい勝ち点3だったなと思います。
――後半は追い付かれてから攻めあぐねる時間が多かったですけど難しい45分になりましたか
まずは何より本当に暑かったので、帝京平成大のセットプレーが一癖あって決定力が高いことは分かっていました。ゴールが入って「よしもう一回」という体力が必要になってくるとなった時に、見ていただいてる方もすごく暑かったと思うんですけど、15時キックオフ14時アップ開始で30度を超えていたので、身体的なタフさもあるし精神的な疲労度もありました。暑さだけじゃなくて連戦をこなしているので、後半にもう一度盛り返すための体力や気力を振り絞らないといけない状態ではあったと思います。
――終盤に押し込めたことが最後のゴールにつながったと思いますけど、メンタル的な部分が大きく影響しましたか
選手たちが踏ん張ってくれたのが一番なんですけど、途中で入った井上が拾うべきところを拾ってくれて潰すべきところを潰してくれて、というのを2プレー3プレーやってくれるだけで周りの選手たちも息を吹き返せるので。途中で入った井上が声をかけてそういうプレーをしてくれたお陰というのはあります。
――高校以来となったCBでの築地選手のプレーはいかがでしたか
U-17日本代表でCBをやっていたという情報はありましたし、アンカーでの仕事を見てもらえば彼女の守備力は本当に高いので、守備に関して不安はなかったです。更に帝京平成大が前からプレスをかけてくるというよりある程度の高さで構えているという意味で、CBがアンカーのようにつなげられるのはビルドアップにとって重要なので、築地をあそこに入れたのは攻撃面でもポジティブに表れたかなと思います。
――笠原選手が初めて中に入ってプレーされました。普段サイドでもいい守備を見せてますけど中盤でも相変わらずのプレーぶりでしたけど、監督の目にはどう映りましたか
元々攻撃的なセンスに関しては彼女独特のリズムがあって面白かったんですけど、今年に入って守備力が彼女自身の努力でグッと上がりました。あとは気が利くので1対1の球際だけじゃなくて攻守で空いているところに顔を出して仕事をしてくれるので、外でも中でも彼女らしくいい仕事をしてくれたと思います。
――先制点に絡んだ髙橋選手と廣澤選手についてはいかがですか
もっとできると思っています。ペナルティエリア、アタッキングゾーンに関しては前向き(の体勢)を作ってゴールに向かってくるシーンがこれからも増えるように、チームとしてもまだまだそういうチャンスを多く作れる余地はあるなと思っています。
――6試合終えて9得点2失点と、失点は少ないけど得点は他の上位陣に比べると少ないという点で、課題に感じているところですか
いや、まず一番はこのチームは守備からだと思っているので失点が2だという部分は、全員が意識を持ってやってくれている素晴らしいところだということをまず一番に置きたいです。そのうえで得点というところについてはチャンスを作れていないかというとアタッキングゾーンまでしっかり行けている部分を評価しながら、体の向きやどのタイミングでクロスを入れるのか。ドーンと蹴って行けー、みたいなサッカーではないのでしっかりつなぐ分、相手を揺さぶりながらやらないと結局中央で相手が多い状態になるので。逆に相手がどういう攻撃が嫌なのか、自分たちがやりたいサッカーではなくて相手ありきだと思っているので、そういう部分を突き詰めながら共通認識を作っていけば、自然と点は付いてくると思っています。まだ今は前期ですし、いろんなトライをしながら積み重ねていきたい時期なので、私自身は特にそんなに気にしてはいないです。
――あと先週に宮城に行ってピッチ外でもピッチ内でも刺激を受けた選手は多かったと思います。監督自身が得たものはありましたか
(19日の)午前中に女川の旧女川交番に行って、交番が本当に真横に倒れていてその周りに写真があって、というところから始まって役場で津波の映像を見させていただいて。だけど女川ってそれだけじゃなくて、そこから復興していく上で悲しいとかだけではなくてそこからいかに人間が強く前を向いてもう一度あの場所で、というところも含めて感じることは多かったです。コバルトーレ女川(東北リーグ1部所属のサッカーチーム)のスタジアムで本当に準備してくださっていて、という女川の方々に直接触れて直接交流させていただいて選手たちは本当に疲労感があったと思いますけど、気合を入れてやってくれたなと思っています。彼女たちのその姿を見ていれば得るものは本当に大きかったなと思っています。というところが何より一番ですね。それぞれ何かを感じて帰ってきてくれたと思います。
――連日の試合にも関わらず想像をはるかに超えるパフォーマンスでした
彼女たちの底力もそうなんですけど、やっぱり午前中にそういうお話を聞かせていただいて、スタジアムに着いたらコバルトーレ女川の方々が本当に私たちのために動いてくださっていると。(原動力は)それじゃないかな。そこの力がああいう形になって気合を入れてやんなきゃ、一生懸命やるよ、ってやってくれたと思います。本当に今日もですけど、よく頑張ってくれたなと思います。
FW廣澤真穂(スポ4=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)
――試合を振り返っていかがですか
拮抗した試合だったと思うんですけど、しっかり勝点3を取れたのはすごく良かったなって思います。
――特に前半は非常に暑かったと思うのですがどうでしたか
アップの段階から暑いのはわかっていたので人が走るっていうよりかは、基本はボールを動かしてボールを走らせて相手を先に疲れさせようと思って動いてました。
――チーム全体としてコンディションはいいように見えましたが、実際はどうでしたか
そうですね、連戦続きでけが人とかも多いので人数的にはカツカツなんですけど一人一人の気持ちとかはだんだん一つになってきていい感じになってきてるかなと思います。
――ゴールシーンを振り返っていかがですか
ひな(髙橋)がドリブルを仕掛けた時にここに来るだろうと言う予測はついて、あとはいいボール上がってきたので流し込むだけだったので良かったです
――攻めあぐねていた中、最後の最後で勝ち越せました。神奈川大、山梨学院大相手に接戦をモノにできていなかった中で、この勝利はとても大きかったと思いますがいかがですか。
そうですね、負け引き分けと続いてる中で勝ちっていうのはチームにとってもすごい大事だと思うので、しっかり勝ち切れたっていうのはほんとに大きかったと思います。
FW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)
――今日の試合を振り返ってください
帝京平成大は勢いを持って向かってくるチームだったので、ペースをつかんで先制点を取ることができたところは良かったです。後半は悪い流れから失点を許してしまったのでそこは課題だと思います。ただ最後は逆転してチーム全員で喜ぶことができたのでそこに関しては良かったです。
――気温が高く試合に入るのも難しかったと思いますが
先週は連戦が続いて、今日は暑くて難しい試合になりましたがその中でもチーム内でカバーし合いながら戦い抜くことができました。
――ご自身がアシストした先制点、振り返ってください
自分がボールを持ってゴールを見た時に、シュートを打てる状況ではなかったのでスペースに運びました。ライン際まで良い感じで抜けて、最後はゴール前に走り込んでくれると信じてパスを出したら、しっかりと決めてくれたという感じです。
――後半は入りが良くなかった中でどのようにペースをつかみ直しましたか
前節も引き分けで終わっていますし、やはりどうしても勝ち点3を取りたいという気持ちが諦めない姿勢や得点につながったかなと思います。
――昨週のチャリティーマッチでは2得点されました
久しぶりの2得点でしたし、個人的にも理想的な良い崩しの中での得点だったのでとても嬉しかったです。今日は得点することができませんでしたが、連戦が続く中で今日のような厳しい戦いは増えてくると思います。得点やアシストと明確な結果でチームに貢献していきたいと思います。
――被災地でのチャリティーマッチについて、どんなことを考えましたか
いろいろな思いがつまった試合でした。あそこで自分が感じたことをこれからの糧にしていきたいですし、観てくれた人に勇気を与えることができたら嬉しいです。
――欧州でプロとして活躍している選手たちとの試合でしたが、ご自身の将来になにか刺激になったことはありますか
今のタイミングで体感できたことは、地震にもつながりましたが、気づきもたくさんありました。今後の練習に活かしていきたいと思います。
――具体的にはどんな気づきがありましたか
体の使い方が独特でとても参考になりました。ただその中でもやれた部分は多くあったので手応えは大きかったです。
――今後の試合に向けて意気込みをお願いします
連戦は総力戦になってくるので、全員でカバーしながら戦っていきたいです。
MF築地育(スポ2=静岡・常葉大橘)
――まず何といってもあのゴールは振り返っていかがですか
コーナーのヘディングは自分の強みだと思って狙っていたのでやっと、しかもいいところで決めれて、そう(宗形)もナイスボールを上げてくれたので合わせるだけで、決め切れてよかったです
――入った瞬間はどういう気持ちでしたか
ちょっと弱かったかなと(笑)。でも「行け」って思ってラインを割ったのが見えたときは、すごい苦しい状況が続いていたのでそれが一気になくなった感じがして嬉しかったです。
――今日はCBで出場されましたけど、相手も強力なFWがそろっている中でどういう感触を得ましたか
対人は自分の武器にできるなと思ったのと、それでも普段やっていないポジションをやってちょっとしたミスとか危ないシーンもある中で、他の最終ラインの人とかプレスバックをかけてくれる中盤の人とかが自分のフォローに入ってくれたので、久しぶりにやった中でも思いっきりやれたかなと思います。
――CBはいつぶりでしたか
高校生ぶりです。今週は紅白戦もなく、合わせるタイミングがない中で、今日他の人と組んでやるとなりました。それでも高校の時にやってた感覚が少し残っていたので助かったなと思いました。
――具体的に意識したポイントはありましたか
最終ラインはラインコントロールが失点につながって命とりなので、他の3人をしっかり見るところとビルドアップの部分で、チャンスがあれば縦につけられるように攻撃的な部分は忘れないで守備を、自分の仕事をしっかりこなせるように意識していました。
――特に前半は暑くて、体調管理やコンディションはきつかったですか
(普段やっている)中盤ほど動かなかったから、まだ暑さでバテバテということもなく攻撃の人たちもゴール前まで攻め上がってくれるシーンが多かったので、前線の人に比べたら温存できたかなと思います。
――神奈川大戦、山梨学院大戦と、接戦になったところで勝ち切れない試合が続いた中で、今日は最後の最後に勝ち切ることができた、というのはチームとして非常に大きいことだと思いますけどいかがですか
勝ち点3をとって勢いを付けられたというのと、でもやっぱり攻撃の部分で決め切る部分やビルドアップで自分たちのミスでピンチが起きたりする部分があるので、勢いを持ちつつもそこはちょっとずつ修正できるかなと思います。
――CBをやって、今後また中盤でやっていく中で新しい気付きなどは見つかったりしましたか
自分も守備めの真ん中で守備を頑張っていると思っていたんですけど、やっぱり最終ラインの人たちのカバーとか声掛けがあって、思い切り前が動けているんだなって。今日自分も最終ラインに入って前の人に思い切りやってもらいたいという思いがあったので、そこがどこのポジションをやっても、キーパー含め後ろの人たちが安心して自分たちをプレーさせてくれているというところを忘れないようにしたいなと思います。
――先週プロタゴニスタとやって、新しい経験を得たりはしましたか
自分たちは勢いのあるサッカーですけど、プロタゴニスタの方々は余裕を持って回していたり、あとは球際のところで海外のサッカーを感じることができたので、選択肢の中に海外に行きたいというのを入れてた時にああいう基準があるんだというのを知れた機会になったので、いい体験ができたなと思います。
――その試合前の午前中は被災地について学んだりされましたけど、そういう部分で刺激を受けた部分はありましたか
震災の時は日本にいなかったんですけど、アメリカにいて、アメリカから見ていた時に本当に起きていることのように思えなかったんですけど、実際に被災地を見て復興して街もすごいきれいで街にいる人たちもフレンドリーに話してくれて、人が協力して集まって復興するという目標に向くというパワーを感じることができました。その場でサッカーをやらしてもらって、小さい力かもしれないですけど自分たちのプレーを見て頑張ろうとかちょっとでもプラスの方に心が動いてくれればうれしいなと。そんなにできない経験だと思うので、いい機会を頂いて。またチャンスがあれば積極的に参加したいなと思います。