FW吉野のヘディングで、悲願の『冠』まであと1勝!

ア式蹴球女子
第30回全日本大学女子選手権 準決勝
早大 1-0
0―0
筑波大
【得点】
(早大)45分 吉野真央
(筑波大)なし

 拳が、冬空に向かって突き上げられた。高く、高く――。

 有観客で開催された第30回全日本大学女子選手権(インカレ)準決勝。今大会は、優勝候補と目されてきた帝京平成大、日体大らが兵庫ラウンドで次々と姿を消す波乱の展開に。そんな中でも順調に勝ち上がったア式蹴球部女子(ア女)は、今季の対戦成績が4勝1敗の筑波大と対戦した。下馬評どおり序盤から主導権を握ると、前半終了直前にFW吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)が待望の先制点をもぎ取る。後半はピンチもあったが、気迫の守備で無失点に抑えることに成功。1-0で2年ぶりの決勝へと駒を進めた。

 

値千金のヘディングゴールを決めた吉野

 

 インカレでは3-4-3の布陣を採るア女は、試合開始直後から流れをつかむ。センターバックのDF後藤若葉(スポ2=日テレ・メニーナ)が冷静な判断で攻撃の芽を摘むと、攻めては右サイドハーフのMF蔵田あかり(スポ4=東京・十文字)が斜めにドリブルを仕掛け、相手ゴールを脅かす好プレーを連発。しかし、あと一歩のところでゴールを奪うことができない。27分には相手プレイヤー二人を抜き去ったFW廣澤真穂(スポ3=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)、37分にはこぼれ球を拾ったFW髙橋雛(社3=兵庫・日ノ本学園)が豪快に右足を振り抜いたものの、どちらも枠を捉えることはできなかった。

 歯がゆい時間を乗り越え、45分に均衡が破れる。MF並木千夏副将(スポ4=静岡・藤枝順心)のサイドチェンジから、ボールを受けたDF船木和夏(スポ3=日テレ・メニーナ)が浮き球のパスを供給。エリア内で待ち構えていた吉野が、絶妙なタイミングでヘディングシュートをゴール左隅に叩き込んだ。「自分たちが普段練習でやってきたことを試合で活かすことができて、とてもうれしかった」(吉野)と振り返る殊勲の先制点にどよめく会場。ピッチには、歓声をあげながら仲間に駆け寄る選手たちの笑顔が弾けた。

 1点リードで迎えた後半は、風下に置かれた影響からか思うようにボールをコントロールできず、何度もピンチを招く。62分にはエリア内に侵入され、シュートまで持ち込まれてしまう。船木が体を投げだして同点弾を阻止したが、その後もカウンターを受けるなど、筑波大ペースの時間帯が続いた。逆襲を期すア女は、途中起用のMF三谷和華奈(スポ2=東京・十文字)が攻撃を活性化。一度目のシュートはポストを直撃し、二度目のシュートはバーを叩く不運に見舞われたものの、相手の一方的な展開を許さない。そのまま時間を使い切って白星を手にしたア女は、歓びを爆発させた。

 

数々の好機を生み出した蔵田

 

 「(ボールを)サイドに振りながら攻略していこう」(後藤史コーチ、平21教卒=宮城・常盤木学園)という共通理解のもと筑波大を撃破し、またもや無失点勝利を収めたア女。自分が止める。自分が拾う。自分が決める。ひとつひとつのプレーから、ピッチに立つ覚悟と日本一への思いがにじみ出ていた。「あの時、あと一歩が出ていれば」という悔恨を、もう二度と抱かないために。

 「この仲間と一緒に1試合でも長く戦いたい」(蔵田)。その一念で、ア女は味の素フィールド西が丘に戻ってきた。「ピッチ上のメンバーだけではなく、ピッチの外から声をからしてくれるメンバーやスタンドから応援してくれるメンバーがいるからこそ、こうしてサッカーを楽しめている」(吉野)。創部30周年にして、頂奪還まであと1勝。感謝を体現し、絶対女王の『冠』を、その手に取り戻せ。

(記事 手代木慶、写真 前田篤宏、大幡拓登)

 

スターティングイレブン(ア式蹴球部女子提供)

 

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK 近澤澪菜 スポ3 JFAアカデミー福島
DF 船木和夏 スポ3 日テレ・メニーナ
DF 後藤若葉 スポ2 日テレ・メニーナ
DF 22 夏目歩実 スポ2 宮城・聖和学園
MF ブラフ・シャーン スポ3 スフィーダ世田谷FCユース
MF 蔵田あかり スポ4 東京・十文字
→59分 18 三谷和華奈 スポ2 東京・十文字
MF 8 並木千夏 スポ4 静岡・藤枝順心
→73分 30 築地育 スポ1 静岡・常葉大橘
MF ◎10 加藤希 スポ4 アンジュヴィオレ広島
FW 廣澤真穂 スポ3 ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
FW 11 髙橋雛 社3 兵庫・日ノ本学園
FW 15 吉野真央 スポ3 宮城・聖和学園
→83分 15 黒柳美裕 スポ4 宮城・聖和学園
◎=ゲームキャプテン

後藤史コーチ(平21教卒=宮城・常盤木学園)

――試合を振り返って感想はいかがですか

筑波大とは関カレ(関東大学女子リーグ)などで何度も試合をさせていただいているので、自分たちの準備してきたところを前半に関しては戦えたかなと思います。ただ後半は風もありましたし、筑波さんらしい攻撃もあり苦しい時間が長かったですが、守備陣とGKが耐えてくれた45分だったなと思います。

――余裕を持ってボールを回させてくれない筑波大に対して、どういう対策を考えていましたか

今日も最終的にはDFラインが5枚落ちてくるので、どうしても全部のレーンがふさがれてしまいました。でも、1点目はサイドに振って相手を寄せて逆の展開へ、というところはみんなで準備してきた部分でした。あの得点も難しかったと思いますが、吉野がしっかり頭で合わせてくれました。練習していた形だったので良かったと思います。そうやってサイドに振りながら攻略していこうという話はしていました。

――吉野選手の調子が非常に良いと思いますが、今の吉野選手への評価はどういったものですか

もともとサイドバックだったのですが3年の時にFWになって、そこから試合に出れたり出れなかったりする時期が続いていました。今年に関しては試合の出場時間や出場数が増えていく中で、自分の良さを出せる回数が増えてきました。もともと能力がフィジカル的にもテクニック的にも高いので、それがやっと試合で出せるようになってきたと思っています。

――かなり風が吹いていましたが、試合にも影響しましたか

もともと私たちも下からつないでいくチームですが、どうしても準決勝の雰囲気や圧があって同じ展開を何度もやらせてしまいました。後半はまさに風下で、私たちもそこに関しては選手たちと修正して決勝に臨みたいと思います。

――優勝の景色を見ていない選手が多いですが、どうですか

実際に決勝の舞台に立った選手は少なくて、その時は日体大に負けた準優勝の年で、ベンチに入れなかったメンバーがピッチに立っているので、そこの悔しい思いと、この1年間何があっても選手たちが「日本一のために」と言い続けてやってきてくれているので、そこ(経験)は何も心配していないです。

――中1日ですが、決勝に向けてどのように戦いますか

自分たちが積み重ねてきたものが1番大切ですが、いつものように相手を分析してリスペクトして、その上で自分たちの良さを出せたらなと思います。必ず高いところを見ようとみんなで声をかけ合っているので、あと2日ですがしっかり準備をして臨みたいと思います。

 

MF蔵田あかり(スポ4=東京・十文字)

――試合を終えて、率直な感想をお願いします

まずは、みんなと一緒にあと1試合プレーできるということにほっとしていますし、今日の試合に勝ててうれしい気持ちでいっぱいです。

――ご自身は2年ぶりの決勝ということになりましたが、決勝に対して何か特別な思いはありますか

昨シーズンは初戦で負けてしまって、西が丘に戻ってくることができなかったので、今回戻ってくることができてとてもうれしいです。この仲間と一緒に1試合でも長く戦いたいなと思って今日はプレーしました。

――主に右サイドでのプレーでしたが、手応えはいかがでしたか

相手が引いてきたので、自分の得意なドリブル突破はあまりできなかったのですが、その中でも相手を引きつけて中央を空けるといった自分にできることをやり続けたことが、結果につながったと思います。

――少し苦しむ時間帯もありましたが、課題としてあげるとすれば何でしょうか

今日の試合は全体としてうまくいっていて、課題としてあげることはあまり無いです。ただ試合の終わり方に関しては、攻め込まれる中で大きくクリアするなどといった適切な判断をすることが課題かなと思います。

――西が丘で有観客というのはア女にとっても特別なことだと思います。2年ぶりにプレーしてどのように感じましたか

昨シーズン、今シーズンとコロナの影響もあってなかなか有観客の試合ができなかったので、まずは有観客での試合ができるということに感謝しています。その中で、西が丘という場所で最後優勝して終わりたいと思います。

――ご自身の進路を踏まえても、ここまで良い状態かと思います。今大会でのご自身のプレーをどのように評価していますか

進路などは考えずに、「目の前の相手に絶対勝つ」という思いでプレーしているので、その思いが結果につながると良いと思います。

――いよいよ決勝です。意気込みを聞かせてください

中一日で、コンディションを整えるのも難しいと思います。その中でできることをやって、最後は西が丘のピッチで楽しんでプレーしたいです。

 

FW吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)

――試合を終えて、率直に感想をお願いします

素直にうれしいです。ただここまで自分たちはまだ何もつかんでいないので、今日は喜んで、また明日から決勝に向けて良い準備をしていきたいと思います。

――得点シーン、頭でのゴールというのは思い描いていたかたちでしたか

和夏(船木、スポ3=日テレ・メニーナ) とは、ああいった(得点シーンのような)練習をずっとやってきました。自分たちが普段練習でやってきたことを試合で活かすことができてとてもうれしかったです。

――インカレとしては2試合連続の得点になりました

自分の仕事は点を取ることなので、しっかりと自分の仕事ができて良かったと思います。

――西が丘で有観客、というのは特別な雰囲気だったと思うのですが

今日のように色々な方々に応援していただける機会は、今までコロナなどの理由であまり無かったので素直にうれしいです。だからこそ、より気の引き締まったプレーができたのかなと思います。

――ここまで日本一を目指してやってきて、残すところあと一戦ということになりました。決勝戦に向けて意気込みを聞かせてください

個人的には点を取ることだったり、守備を頑張ることだったりとチームを勝たせられるようにプレーしたいと思っています。また、ピッチ上のメンバーだけではなく、ピッチの外から声をからしてくれるメンバーやスタンドから応援してくれるメンバーがいるからこそ、こうしてサッカーを楽しめているので、全員で優勝できるように頑張っていきたいです。