皇后杯第43回全日本女子選手権 2回戦 | ||||
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早大 | 0 | 0-1 0―0 |
1 | スフィーダ世田谷FC |
【得点】 (早大)なし (スフィーダ)28分 堀江美月 |
試合終了のホイッスルは、90分間の試合、そして同時にア式蹴球部女子(ア女)にとっての皇后杯に終わりを告げるように響き渡った。2回戦の相手は、なでしこリーグ1部で戦うスフィーダ世田谷FC。完全なる格上を相手に宮城県石巻市で行われたゲームは、28分にセットプレーで奪われた先制点がそのまま決勝点となり幕を閉じた。今季のア女が戦う舞台は、全日本大学女子選手権(インカレ)を残すのみとなる。
好セーブでア女の窮地を救った近澤
気温は6度、日差しもなく、冷たい風が吹きつける中始まった皇后杯2回戦。ア女は、前半から相手の激しいプレスに臆することなく、正面からぶつかり合う。「自分たちの特徴である、攻守の切り替えの部分では通用していた」とMFブラフ・シャーン(スポ3=スフィーダ世田谷FCユース)。中盤でのボールの奪い合いも、互角に近い戦いを繰り広げた。しかし1本にとどまった前半のシュート数が示すように、ピッチの幅を使った懸命の攻撃もゴール前まで持っていくことができない。攻撃を完結できず、逆にカウンターを食らい続ける厳しい展開となった。そして28分、ついにスコアは動く。ハーフウェーラインからさほど距離のないポイントからのFK。ファーサイドで待っていた選手にフリーでのヘディングを許し、1点を奪われる。DF加藤希主将(スポ4=アンジュヴィオレ広島)が、「まだ自分たちが話している中で蹴られた。そこの準備の速さ」と不十分だった守備を悔やんだ。戦えていた格上相手に、あるいは「経験」で上回られたのかもしれない。その後もクロスバーを直撃するミドルシュートを食らうなど、攻め込まれる時間も続いた。しかし、GK近澤澪菜(スポ3=JFAアカデミー福島)を中心とした堅守で、追加点を与えないア女。1点のビハインドを背負って前半を終える。
後半の序盤は、前半に増してセカンドボールの回収に手を焼いた。よりシンプルに入れてくるようになったクロスやロングボールの対応に追われ、攻めに転じる時間がつくれない。中盤でのボールの奪い合いで後手に回り始め、56分には素早い攻撃から相手FWの抜け出しを許す。決定機だったが、近澤が見事な反応ではじき出した。「リスクマネジメントの部分を徹底していた」と話す守護神は、このシーンに限らず、多くの局面でチームを救い続けた。するとその活躍に呼応するように前線の選手が次第にリズムを取り戻す。交代でMF三谷和華奈(スポ2=東京・十文字)、MF築地育(スポ1=静岡・常葉大橘)が入ると、右サイドの活性化と中盤での押し返しに成功。瞬く間に相手にとっての脅威となりはじめたア女の右サイドは、加藤、三谷を中心に幾度となくチャンスを作る。86分にも加藤、FW髙橋雛(社3=兵庫・日ノ本学園)、三谷、再び加藤とつないでクロスを上げるが、シュートまで行けず。結局最後まで好守に阻まれ続け、0-1での敗戦。後半は攻める姿勢をより強く見せたア女だったが、3回戦への切符を手にすることはできなかった。
途中出場で攻撃を活性化した三谷
皇后杯は2回戦での敗退となったが、選手たちの顔に絶望の色はなかった。それどころか、にじむ悔しさの中に達成感や、インカレに向けて切り替えたような表情も見て取れた。「小さいながらも確かな差を感じた」(ブラフ)、「1点だけれど大きな差だと思う」(MF並木千夏、スポ4=静岡・藤枝順心)、「一個一個の判断やスピードの差が積み重なり、あの1点につながった」(加藤)。
ピッチに立った選手たちが口をそろえて言うのは、『小さな差』。プロ契約選手を擁するスフィーダと彼女らの間には、確かに差が存在した。しかしそれは、反省と努力、そして覚悟を持ってもうひと段階成長すれば、必ず埋めることのできる差だ。今季ア女に残された舞台はインカレのみ。皇后杯と同様、負ければ終わりのトーナメントである。しかしア女は今日の結果に肩を落とすことはない。敗戦の悔しさをたたえながらも、その眼は『日本一』の冠をしっかと見据えている。
(記事 大幡拓登、写真 前田篤宏、手代木慶)
スターティングイレブン
早大メンバー | ||||
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ポジション | 背番号 | 名前 | 学部学年 | 前所属 |
GK | 1 | 近澤澪菜 | スポ3 | JFAアカデミー福島 |
DF | 2 | 船木和夏 | スポ3 | 日テレ・メニーナ |
DF | 5 | 後藤若葉 | スポ2 | 日テレ・メニーナ |
DF | 22 | 夏目歩実 | スポ2 | 宮城・聖和学園 |
MF | 6 | ブラフ・シャーン | スポ3 | スフィーダ世田谷FCユース |
MF | 7 | 蔵田あかり | スポ4 | 東京・十文字 |
→54分 | 18 | 三谷和華奈 | スポ2 | 東京・十文字 |
MF | 8 | 並木千夏 | スポ4 | 静岡・藤枝順心 |
MF | ◎10 | 加藤希 | スポ4 | アンジュヴィオレ広島 |
FW | 9 | 廣澤真穂 | スポ3 | ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ |
FW | 11 | 髙橋雛 | 社3 | 兵庫・日ノ本学園 |
FW | 15 | 吉野真央 | スポ3 | 宮城・聖和学園 |
→61分 | 30 | 築地育 | スポ1 | 静岡・常葉大橘 |
◎=ゲームキャプテン |
DF加藤希主将(スポ4=アンジュヴィオレ広島)
――率直に試合全体を振り返っていかがですか
そんなになでしこ(リーグ)のチームと大きな差はなかったと思うのですが、一個一個の判断やスピードの差が積み重なったというのが、あの1点につながったのかなと思います。
――なでしこ1部2位ということで、格上ではありました
特に失点シーンなのですが、セットプレーで笛が吹かれて止まっていた時に、まだ自分たちが話している状態の中で相手に蹴られました。そこの準備の速さですね。後半のマイボールにならない時間帯は、セカンドボールを相手に拾われていました。読むスピードというか、競った後に相手の方が「あ、ここにボールが来るな」という準備の位置がすごく良かったと思います。考えるスピードやポジショニングが大きな差だったかなと思います。
――ハーフタイムは活発に議論されている印象がありましたが、どんなことを話し合っていましたか
GKを含めたビルドアップの時に、相手が前から来るというのは分かっていたのですが、そこでなかなかうまくいかない場面が前半は多かったです。もっと流動的に(相手が)下3枚で回すところでポジショニングを工夫しようというのと、ビルドアップで高い位置をとれた時に、相手のラインが高いので(相手)GK(の位置)を外したところの裏を狙っていこうということを話しました。
――意見交換したことで改善されたと感じる部分はありましたか
後半の方が「自分たちが思っている位置で(ボールを)回せる感」がありました。
――三谷さん(和華奈、スポ2=東京・十文字)が投入されてから戦況が変わったように感じました
そうですね。和華奈のスピードもありますし、「裏いくぞ」という意図が分かりやすいので、そこで勢いを持って入ってくれて、うまく順応してくれたなと思いますね。
――もし今日勝つことができたら、古巣との対戦が実現しましたし、アンジュヴィオレ広島はスフィーダ世田谷FCよりもなでしこ1部で下位ということで、WEリーグ所属チームとの試合も射程圏内でした
アンジュヴィオレとの試合は個人的にすごくやりたいという思いはありますね。でもこれがインカレ(全日本女子選手権大会)じゃなくて良かったなという感じです。この負けを次に生かすしかないですし、アンジュとできなかったことよりも、スフィーダに負けたことが悔しかったです。
――この敗戦をどう次につなげていきますか
トーナメントのプレーの重大さ、去年の皇后杯もインカレもセットプレーから失点しているので、改めて思い知りました。セットプレーの練習もそうですし、反応スピードのちょっとした差を最後のインカレに向けて上げていきたいと思います。
MF並木千夏副将(スポ4=静岡・藤枝順心)
――試合全体を振り返っていかがでしたか
1点が遠かったなという印象です。
――足りなかったところを上げるとしたらどこだと思いますか
足りなかったというよりは、縦に急いでいたなと思います。その速攻も戦術の一つではあったのですが、時間帯によってはマイボールでつないで、相手のコートで揺さぶるのがあってもよかったと思います。でも、最後の5分、10分は急ぎすぎていたのでもう少し落ち着いて、自分たちが積み上げてきた「ゴール前の攻撃」が出せたと思います。
――どのような試合プランで臨みましたか
相手は、前からセンターバックに対して3枚(FWを)かけてくるので、サイドハーフやFWを一人多くしようというのを、逃げ場の共通理解にしていました。そこに対してサポートしていくということですね。あとは、相手はあまりビルドアップをせずに蹴ってくるというのは分かっていたので、セカンド(ボール回収)とコンパクトな守備を意識して挑みました。
――想定がハマったという手応えは感じていましたか
できた部分はあったし、個人的にもひとりひとりが負けていないところもあったと思います。でもセットプレーでの失点は防ぎたかったなと思います。
――失点シーンについて詳しく振り返ってください
自分は中に入らないで、2列目でセカンド(ボールを)見ていました。一番ボールに近かったので、廣澤に左のサイドの開いているところを見させていたら、壁に入りました。
――なでしこ1部2位のチームに対して1失点のみとも言えます
春の練習試合では前半0-0で、後半メンバーが変わって0-5でした。その時の印象を縦に速いということだったので、分かっていながら結局このような(結果になった)。自分たちも「やれる!」という思いはありましたし、引けを取らないと感じていました。リスペクトはしていますが、「絶対に勝てない…」とは思っていなくて、「絶対チャンスはあるから」と思っていました。でも1点だけれど大きな差だなと思います。
――今後にどうつなげていきますか
あとはインカレしかなくて、自分たちで試合数を増やしていくので、今日やってみて感じたなでしこリーグとの差を突き詰めていったら絶対に(冠が)近づいていくと思います。前向きに全員でトライしていきたいと思います。
GK近澤澪菜(スポ3=JFAアカデミー福島)
――今日はなでしこリーグ1部の上位チームとの対戦でしたが、チームとしてどのように立ち向かっていこうと話していましたか
格上相手で、自分たちとしては失うものは何もないという気持ちで、また楽しむというところはみんなで認識して頑張ろうという気持ちで挑みました。戦術的なところとしては、相手が前方向のプレスをかけてくるので、そこをどう交わしていくのかというところを1番メインで考えていました。
――実際に戦ってどういう感想を持っていますか
負けは負けなのですが、個の部分だったり技術の部分だったりフィジカルの部分だったり、勝てていた要素はあったので、そんなに悲観的になることはなく、良い収穫を得られたなと思っています。インカレ前に、この経験を糧に次に進むための準備を続けていけたらなと思います。
――セットプレーからの1失点のみで、崩されたシーンは多くなかったですが、守備ではどういう対策をしていましたか
2列目の飛び出しや相手の9番の選手のポストプレー、サイドからのクロスなどでリスクマネジメントの部分を徹底していました。その現象が起きる前に芽を摘んでおくということをGKとDFを中心にやってきました。
――攻撃ではチャンスも作っていましたが、後ろからの組み立ての面ではどんなことを意識していましたか
どうしても中盤の位置が下がってきてしまっていて、FWに(ボールが)入っても厚みがなかったのですが、相手もハイラインだったので裏抜けをどんどんチャレンジしていこうとしていました。裏抜けした後に全員で(圧を)かけて崩していこうだとか、中にクロスを入れたりといったことです。前はアクションの部分でした。
――今日は特に寒かったですが、GKとしてはどうでしたか
寒かったですが、ずっと声を出してましたし、ちょくちょく動きつつやっていたので。表面だけは寒かったですね。
――これで皇后杯は終わりました。ここから日本一に向けて3週間をどういう過ごしていきますか
本当に細かい部分だと思います。今日の試合もそうですが、つけ足とかパススピードです。そういうところを一つ一つこだわって質を上げていければ、インカレで勝ち進める自信はチームとしてあるので、そこはもっと追求していきたいです
――先週からの比較で言うと、特に前半でミスが多く出た1回戦に比べて、今日は入りから相手に向かっていってミスも少なかったです。そういう面でこの1週間、チームとして取り組んでいたことはありますか
比較的いつも通りな部分はありましたが、チームとしてはシンプルにプレーしようということです。相手が前プレをかけてくるし、前プレかけてきているのに後ろでつないだら失う可能性もあるので、シンプルにプレーすることは意識していました。なので、つなごうとか複雑に考えることなく、みんながシンプルにプレーした結果が(この内容に)つながったと思います。
――格上に対して、善戦しました。自信にはなりましたか
めちゃくちゃなりました。本当に得るものが多かったです。
MFブラフ・シャーン(スポ3=スフィーダ世田谷FCユース)
――皇后杯は2回戦で敗戦となりました。率直な感想を聞かせてください
すごく悔しいです。なでしこリーグ一部の相手でしたが、戦えていた部分も多かったので、(今日の試合に勝って)もう一試合やりたかったな、と思っています。
――どのようなプランをもって試合に入りましたか
相手も前から(プレスを)かけてくるチームだったので、前半はシンプルに裏返すようなプレーや、攻守の切り替えの部分で、球際の強い相手に勝れるようにやっていこう、というプランを持っていました。
――球際など負けていなかった部分も多くあったと思いますが
自分達の特徴である、攻守の切り替えの部分では通用していたと思いますし、セカンドボールも拾えていたと思います。こういったチームとしての強みは今後さらに活かしていきたいです。ただ、自分個人のプレーとしては競り負けるシーンもあり、まだまだ課題があると感じています。
――サイズのある相手選手との競り合いが多かったと思いますが
今日のように前半のセットプレーからの失点が敗退につながってしまうこともありますし、トーナメント戦では特に、セットプレーはとても重要になってきます。今日の失点を教訓にして、チームとしても個人としても、セットプレーの部分を突き詰めていきたいです。
――今日の相手であるスフィーダ世田谷FCは、ご自身のユース時代に所属していたクラブで、期する思いもあったかと思いますが
ユース時代に一緒にプレーしていた選手たちも多く、組み合わせが決まり、対戦の可能性があると知った時からわくわくしていました。実際に戦ってみて通用した部分、しなかった部分と多くの収穫が得られる試合になりました。
――通用しなかった部分、具体的にどんな部分でしょうか
判断スピードや、球離れの良さなど、小さいながらも確かな差を感じました。こういった差を埋めていくことで、チームとしても個人としても成長につなげられると思います。
――今季はインカレを残すのみとなりました。どのような準備をしていきたいですか
4年生とできるだけ長く一緒にプレーしたいですし、そのためにも毎日の練習を大事にすることを心がけていこうと思っています。チームとしても一体感のある良い状態にあるので、それを継続できるよう、雰囲気づくりであったり、自分たちの強み、弱みを見直したりしながら良い準備をしていきたいです。
――試合が終わった後、悔しさと同時にどこか切り替えたような表情も見えたように思うのですが
最後にはチャンスも作り、戦えていた部分も多かったからこそすごく悔しいですが、達成感のある、次につながる敗戦だったと思います。
――最後にインカレに向けて意気込みを聞かせて下さい
個人としてもまだまだ成長できる部分も多く、チームとしても未完成なので、インカレまで残り時間は少ないですがこの時間を大切にして、高め合って行こうと思っています。