FW吉野「人生初のハットトリック」 修正力みせ初戦突破!

ア式蹴球女子
皇后杯第43回全日本女子選手権 1回戦
早大 0-0
4―0
四国学院大学香川西高校
【得点】
(早大)50,58分 吉野真央、60分 三谷和華奈、74分 吉野真央
(香川西)なし

 東伏見から約500キロメートル離れた神戸の地で、ア式蹴球部女子(ア女)の皇后杯がスタートした。1回戦の相手は四国学院大学香川西高校(香川西高)。前半は相手の若さゆえの勢いに押され、予想外の苦戦を強いられた。しかし50分、FW吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)の先制点を皮切りに、終わってみれば4―0の完勝。初戦突破を果たし、石巻で開催される2回戦へと駒を進めた。

 

エリア外からゴールを狙う吉野

 

 「自分たちで焦って沼にはまった」。このDF夏目歩実(スポ2=宮城・聖和学園)の振り返りが前半の全てを表していた。ア女は序盤から相手の強度の高い守備に対して、攻略の糸口を見つけられずリズムが生まれない。消極的なパスミスから相手のポゼッションを許す場面も少なくはなく、あわや失点というピンチも迎えた。17分、相手のFKが直接ゴール隅へ。ここはGK石田心菜(スポ1=大阪学芸)のファインセーブで失点を免れた。31分にも「直前に出場が決まった」(石田)とは思えないセービングを披露。だが、石田も参加したビルドアップで相手にボールを奪われ、ゴール前約40メートルの位置からシュートが放たれる。再び枠を捉えたが、左手一本で何とか掻き出した。一方攻撃では、サイドからのクロスを中心にゴールを狙った。33分、MF三谷和華奈(スポ2=東京・十文字)の弾丸クロスに逆サイドのMF蔵田あかり(スポ4=東京・十文字)が合わせたが惜しくもミートしきない。攻守で課題を残したまま、スコアレスドローで前半を折り返した。

 ハーフタイムが明けた後半はビルドアップの形を変え、特徴であるシンプルなプレーを心掛けたア女。すると開始早々に均衡が破れる。50分、「入らなそうだったから触れた」(吉野)とFW髙橋雛(社3=兵庫・日ノ本学園)の強烈なシュートに吉野がヒールで合わせ、待望の先制点をあげた。ここから怒涛の攻撃が始まった。58分には、MF蔵田あかり(スポ4=東京・十文字)のドリブルを起点とし、左サイドからのクロスに吉野がヘディングで合わせ、早々に追加点を挙げる。続けて60分、ピッチ中央での何人もが絡み合うパスワークから、相手の背後に抜け出した三谷にパスが渡り、そのまま放ったシュートがネットに突き刺さった。ア女は僅か10分で3得点を挙げる集中攻撃で、ジャイアントキリングを狙う相手を一気に突き放す。さらに74分、ダメ押しゴールを奪ったのは吉野。MF並木千夏(スポ4=静岡・藤枝順心)の絶妙なスルーパスを受けると、GKとの1対1を制し「人生で初めて」(吉野)というハットトリックを決めた。後半は45分を通して試合を制し、大量4得点で完封勝利を収めた。

 

皇后杯で初得点した三谷(18番)と祝福する蔵田(奥)

 

 ア女は、絶対に勝たなくてはならないトーナメント、その初戦の難しさを乗り越えた。相手の勢いに飲まれ、ミスが起点となるピンチが目立った前半に比べ、後半は特にビルドアップでの安定感を取り戻し、攻守でリズムがもたらされていた。この修正力は評価されるべきである。また、この試合では90分を通して攻撃陣のレベルの高さが際立っていた。ハットトリックを決めた吉野をはじめとして、髙橋、三谷、蔵田はキレのあるドリブルで四国代表を翻弄(ほんろう)した。香川西高のサポーターからも彼女たちの技術に「エグい」「上手すぎる」など、驚きの声が絶えず聞かれた。

 『WEリーグ所属チーム撃破』を皇后杯の目標にするア女は、12月5日に最初の山場を迎える。なでしこリーグ1部・スフィーダ世田谷とのマッチアップだ。『大学生ならでは』の勢い、そして1回戦での収穫を1週間で積み上げ、次のステージに臨むだろう。1週間後、石巻で格上相手にどのように振る舞い、勝利へとつなげるのか。ア女の挑戦に注目したい。

(記事 前田篤宏、写真 手代木慶、取材 藤田珠江、水島梨花)

 

スターティングイレブン

 

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK 16 石田心菜 スポ1 大阪学芸
DF 2 船木和夏 スポ3 日テレ・メニーナ
DF 5 後藤若葉 スポ2 日テレ・メニーナ
DF 22 夏目歩実 スポ2 宮城・聖和学園
MF 6 ブラフ・シャーン スポ3 スフィーダ世田谷FCユース
→82分 17 井上萌 スポ3 東京・十文字
MF 7 蔵田あかり スポ4 東京・十文字
→68分 30 築地育 スポ1 静岡・常葉大橘
MF 8 並木千夏 スポ4 静岡・藤枝順心
→82分 20 浦部美月 スポ2 スフィーダ世田谷FCユース
MF ◎10 加藤希 スポ4 アンジュヴィオレ広島
MF 18 三谷和華奈 スポ2 東京・十文字
→68分 26 木南花菜 スポ1 ちふれASエルフェン埼玉マリ
FW 11 髙橋雛 社3 兵庫・日ノ本学園
FW 15 吉野真央 スポ3 宮城・聖和学園
→75分 12 黒柳美裕 スポ4 宮城・聖和学園
◎=ゲームキャプテン

 

FW吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)

――「マオレスの日」でしたが、いかがでしたか

前半は自分たちの攻撃や、やりたいことがうまくできていませんでした。1回戦、初戦は難しい試合だからこそ自分たちで難しくしてしまった部分もあったので、後半しっかりと修正して自分たちの流れに持っていけたのはよかったです。

――難しくしていたとは具体的にどのような部分だったのでしょうか

シンプルに相手のハイプレスやラインが高かったということなど、相手の動きを見ていつもなら裏に簡単なボールなどつけている場面も足でつないでインターセプトされたり、ファウルが多く、危ない場面が見られました。そのような部分が難しかったと思います。

――良くない流れで迎えた後半、ヒールで先制点を決めました

雛(髙橋、社3=日ノ本学園)が思いっきり打ってくれました。入るならスルーしようと思ったのですが、入らなそうだったので、少し触れてヒールで蹴りました。「入った!」という感じでしたね。

――ハットトリックを決めた時はどのようなお気持ちでしたか

人生で初めてでした。変に考えずに試合に集中して、肩の力を抜いてしっかりと決める部分を決められてよかったと思います。

――次の試合に向けての意気込みをお願いします

自分たちがやることは変わらないので、あと1週間、次のスフィーダ戦に向けて全員で頑張っていきたいなと思います。

 

MF三谷和華奈(スポ2=東京・十文字)

――皇后杯初戦の試合全体を振り返っていかかがですか

前半なかなかチャンスはあったものの自分たちのサッカーをできずに、点が決められませんでした。それでも後半しっかりみんなで話して、焦れずにやることは徹底しようとしました。その部分をゲームを通して改善できたのは、チームにとって大きな進歩だと思います。

――前半はいつものように切り込んでいく場面が少ない印象でした。相手の出方を見ていたのですか

イメージしていたのは、切り込んでいってクロスを上げ、シュートを打つということでした。シュートに対する意識は薄かったかもしれません。そこは反省する部分です。結構足元にボールが入っていたので、後半はスペースにボールを流してもらってそこに走り込んでスピードに乗りながらというかたちでした。足元にボールが集まったのでスピードに乗りにくい状態でしたね。そこを使い分けることを自分ができなくてはいけないのでもう少し前半のうちから相手をかわして切り込んでいくということをしたいので課題としてトライしていきたいなと思います。

――皇后杯、昨年10分ほどしか出場できなかったということがありましたが、ご自身としては今回できるところまでやりきれたというところでは自己評価いかがですか

昨年の1回戦はスタメンで出させていただいて、2回戦目で後半から入って3分で交代するという黒歴史を持っているので、それはせめて今回は超えたいなと思っていました。すごい低い目標なのですが(笑)。無事にケガせず戻ってこられたことは個人的にはホッとしました。

――皇后杯初得点でしたが、ゴールシーンを振り返ってください

前半コーチが声をかけてくださいました。遠くて聞こえなかったのでハーフタイムに確認したのですが、「クロスしか見えていないから狙っていけ」と言われました。確かにそうだなと思いました。たまたま雛さん(髙橋、社3=日ノ本学園)からいいボールが来たときにフリーで、GKを見ることができる状態で冷静にシュートを打つことができました。そこは評価してよい部分だと思います。

――次の試合に向けて抱負を聞かせてください

次戦までまだ1週間あります。反省できる点やチーム力、自身も成長できる部分はまだまだあると思います。しっかり準備して、次戦に向けて頑張りたいと思います。

 

DF夏目歩実(スポ2=宮城・聖和学園)

――試合を振り返っていかがですか

トーナメントの初戦ということで、難しい試合になることは想定できていたので、その中でも勝ち切れたのは良かったと思います。

――あまり晴れ晴れした表情ではないですか、何か課題が見つかりましたか

個人的には平均点以下のプレーだったので、納得いきませんでした。前半もチームのリズムを崩してしまった部分がありました。チームとしては、しっかり得点を取れて、勝ち切れたところは評価できると思いますが、個人的にはまだまだレベルアップしないといけないと感じました。来週からはレベルも上がり、格上のチームと戦うことになるので、この一週間で積み上げていきたいです。

――前半に相手の圧力は感じましたか

高校生独自の勢いを感じました。自分たちで焦って沼にはまっていったという感覚があったので、ハーフタイムで意識することを全員で統一して改善できたことが後半の結果に繋がったと思います。

――どんなことを話し合いましたか

主に攻撃の話で、ビルドアップの形を3枚に変えてみようという話や、自分たちの武器である前の崩しをシンプルにやっていこうという話をしました。

――今日の試合を踏まえて、次戦はどのように戦っていきますか

相手がなでしこリーグのチームということもあり、個人のスキルが上だと思います。チームとして戦っていくことが重要になってくるので、みんなで練習をして合わせていきたいです。

 

GK石田心菜(スポ1=大阪学芸)

――試合全体を振り返って、感想をお願いします

まずは勝てたことが良かったです。前半は本当に苦しくて、自分としては、ここで点数を決められたら流れが悪くなると思っていたので、気持ちを入れました。全体としても前半0点で、後半は決められるところで決めて全員の気持ちが入った試合だと思いました。

――ファインセーブも2、3回あり、今までで一番良いパフォーマンスをされたという印象がありました

自分が試合に出るのが直前に決まりました。澪菜さん(近澤、スポ3=JFAアカデミー)がいけないとなり、澪菜さんにもさまざまなことを教えていただきました。絶対に負けられない試合だったので、いつもより気持ちが入っていました。その気持ちがプレーに反映していたかなと思いました。

――相手の9番は脅威に感じましたか

相手の9番の圧がすごくて、正直すごく(脅威に)感じました。前半はびっくりしてしまいました。

――寒くて体が動きにくいかなと思ったのですが、プレーをしてコンディションはいかがですか

すごく寒かったのはあります。前半は思ったより自分もボールが来て、仕事もあり、寒くて体が凍えないようにボールに関わろうと思いました。ビルドアップでも意識していました。寒かったですね(笑)。

――手応えを感じた試合だと思います。次戦に出場するか今の段階では分からないとは思いますが、意気込みをお願いします。

本当にこの1戦にかけていたので、モチベーションを上げていました。次の試合はチャレンジャーとして(臨みます)。格上の相手との対戦になるのですが、自分が試合に出ても出られなくても、圧に負けないようにしたいです。失うものは何もないので、全部出し切りたいです。