【連載】『令和2年度卒業記念特集』第17回 村上真帆/女子サッカー

ア式蹴球女子

エースで、副将で、10番

 苦しい1年だった。コロナウイルスによって新チーム結成後も満足に練習できず、迎えた関東大学女子サッカーリーグ(関カレ)は無観客。全日本女子選手権(皇后杯)ではあと一歩のところで勝利を逃し、関カレ優勝決定戦でも勝ち切ることができず、『頂』を目指した全日本大学女子選手権(インカレ)は初戦敗退。獲得できたタイトルは1つだけだった。例年のア女の栄光と比べれば、満足のいく結果だとは言い難い。エースで副将、そして10番のMF村上真帆(スポ=東京・十文字)はどんな思いでこの1年を過ごしたのか。村上にとって早大で過ごした時間はどのような時間だったのだろうか。エースの軌跡を振り返る。

 『早稲田』への憧れを抱いたのは中学生の頃。理由は覚えていない。ただ憧れていた。どんなことが起こっても早大に行けるように、サッカーだけでなく勉学にも励み、高校は部活動と勉強の両方に力を入れている十文字高校に進学。在学中も、サッカーの練習だけでなく、机にも向かい続けた。村上が高校3年生の時、十文字高校は全日本高等学校女子選手権大会で初優勝という快挙を成し遂げる。その結果、見事スポーツ推薦というかたちで早大に合格し、村上は憧れを現実に変えたのだった。

 「自分は頑張るだけで良かった」と村上は1年時のことをこう振り返る。ルーキー時代から活躍してきた村上だが、入学当初は先輩らのレベルの高さに圧倒されていた。それでも、学年を重ねるごとに、自分だけでなくチーム全体にも目を向けるようになる。4年間を通してボランチとして試合に出続ける中で、「チームのみんなとコミュニケーションを取った方がチームの勝利につながる」と意識して声を出すようにもなった。最初はぎこちなかった同期との関係も、同じ時間を共有することで頼り頼られ、刺激しあえる関係へと変化していく。「自分の中で同期の存在は本当に大事」と村上は微笑んだ。

気迫のこもったシュートで攻守に渡る活躍を見せた村上

 迎えたラストイヤー。「いまだに自分が最高学年だという状況があまり信じられない」と話すように、最後の1年は驚くようなスピードで過ぎていく。村上はエースとして10番を背負うことの意味を考え続けていた。4年生が素直な思いをつづる『ア女日記』には「10番を背負う覚悟と責任をもって」という言葉が記されている。
さらに、「自分が1年生の頃は最高のパフォーマンスを出すことでチームの勝利に貢献するという環境が整っていた」という理由から、村上は環境づくりに力を入れた。全体を見て方向性を定める主将のGK鈴木佐和子(スポ=浦和レッズレディースユース)に対して、副将として村上は一人一人にフォーカスした声かけを意識。下級生が多くスタメンに名を連ねる中で、「後輩にはチームを背負うことよりも自分が頑張って自分の最高のパフォーマンスを出すことによってチームの勝利に貢献してほしい」という思いが強くあったのだという。そんな後輩たちに、これだけは伝えたいと笑った。「卒業しても仲良くしてね」。

 「人生の一部じゃなくて大半かな」。村上は自身にとってのサッカーをそう位置づける。4年間を振り返ると「サッカーをただ楽しくてやるのではなく、勝利や自身の上達などいろいろなことを考えた」と得られたものが多い。これから、彼女の活躍の舞台は新設されるWomen Empowerment League (WEリーグ)に移る。新天地の名前は『大宮アルディージャVENTUS』。総監督は元女子日本代表監督の佐々木則夫。DF鮫島彩、MF阪口夢穂ら2011年のW杯優勝メンバーらとチームメイトとして肩を並べ、一気に環境は日本トップレベルへ。「相当の覚悟が必要」と話す彼女の目にはすでに未来が映っている。多くの尊敬する先輩と、大切な同期と、大好きな後輩と過ごした早稲田大学でのかけがえのない4年間を経て、村上は立ち止まることなく前にだけ進んでいくのだ。

(記事 内海日和、写真 稲葉侑也)

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