劇的同点弾も実らず… 皇后杯2回戦敗退

ア式蹴球女子
皇后杯第42回全日本女子選手権
早大 0-1
1-0
延長前半0-1
延長後半0-0
ASハリマアルビオン
【得点者】(早大)90+3’高橋   

ア式蹴球部女子部(ア女)には様々なバックグラウンドを持った選手がいる。中学、高校から名を広く知られ、世代別日本代表で活躍する選手から、あまり有名ではない高校でサッカーを続け、もっとレベルの高い環境でサッカーをしたいとア女の門を叩く選手まで。また、1年生からコンスタントに出場機会を手にする選手もいれば、期待されながらも怪我に苦しみ、思うようなプレーをできず悔しい思いをする選手もいる。DF船木和夏(スポ2=日テレ・東京ヴェルディメニーナ)とDF後藤若葉(スポ1=日テレ・東京ヴェルディメニーナ)も、そのようなバックグラウンドを持った選手たちだ。名門、日テレ・東京ヴェルディメニーナ(メニーナ)出身の彼女たちは、下級生ながら2020年シーズンのア女の守備陣の核として躍動。時にダイナミックな、時に繊細なプレーで“違い”をもたらし、勝利に大きく貢献している。しかし皇后杯第42回全日本女子選手権(皇后杯)2回戦、ASハリマアルビオン(ASハリマ)に延長戦の末敗れた試合後、ひときわ悔しがり、涙を流す彼女たちの姿があった――。

試合に敗れ、涙を流す選手たち

 皇后杯2回戦。1回戦で岡山湯郷Belle(岡山湯郷)を下し勢いに乗る早大は、なでしこリーグ2部に所属し、この日が皇后杯初戦となるASハリマアルビオン(ASハリマ)と対戦した。目標の「なでしこリーグ1部チーム撃破」に向け2つ目の壁に挑んだ早大だったが、試合は序盤から地力で勝るASハリマに苦戦を強いられ、22分に先制点を献上。その後も主導権を握られ続け、前半を0-1で折り返す。しかし後半、運動量が落ちた相手に対し猛攻を続けると、後半ATにFW高橋雛がPA内で倒されPKを獲得。これを高橋自らが沈め、土壇場で試合を振り出しに戻した。延長前半も同点に追いついた勢いそのままに攻め続けた早大だったが、105分にセットプレーから失点。その後も攻め続けたがゴールは奪えず、早大の挑戦は2回戦で幕を閉じた。

 1回戦で岡山湯郷に快勝し自信をつけた早大だったが、この日の相手はもう一枚上手だった。身体能力の高い前線の選手を生かしたロングボール主体のサッカー、3バックと4バックを併用する可変フォーメーションに苦戦。特に攻撃時には3トップ+逆サイドのウイングバックが前線に張り付き4トップのような形になり、DFラインがマンツーマンに近い形で相手攻撃陣に対応。そのため受け渡しの際にズレが発生し、常時後手に回らされた。早大も時よりショートカウンターなどで相手ゴールに迫ったが怖さを発揮することができず、主導権を握られる時間が続いた。それでも何とか守っていた早大であったが、22分に中央を崩され失点。直後にピッチ内で選手が集まり戦術確認を行うなど挽回を期したものの、局面での数的優位を作り出す相手に対しボールを奪いきれず、徐々にズレが生じるという悪循環を改善することができないまま、ビハインドで前半を終えた。

先制点を許してしまった早大

 まずは1点を奪いたい後半、早大ベンチはMF松本茉奈加(スポ4=東京・十文字)に代えてMF三谷和華奈(スポ1=東京・十文字)を投入。再三狙われていた左サイドの守備を補強するのではなく、攻撃で押し返そうという、福田あや監督(平20卒)らしさを感じさせる選手交代であった。その起用に応え、49分、MF村上真帆(スポ4=東京・十文字)のハーフウェーライン付近からのロングパスに三谷が反応。スピードに乗ったドリブルで相手ゴールに迫った。しかし、普段戦っている相手とは格が違うのがこの日の相手。抜け出す直前で足が伸び、突破を許さない。するとその直後、入ったばかりの三谷が負傷。わずか10分ほどの出場で、交代を余儀なくされてしまった。しかし、流れを掴んだら話さないのが早大。その後もDF堀内璃子(スポ1=宮城・常盤木学園)が負傷するなど随所で苦戦を強いられたが、ベンチを含めたチーム一丸となって対応。関東大学女子リーグ筑波大戦(●0-1)以降取り組んできたチーム構築の成果を感じさせた。その後も攻め続け、着実に相手ゴールに近づいていく早大。前がかりになった分、相手に裏を狙われるシーンも増えたが、後藤が完璧に対応し、最終ラインからもチームに流れを引き寄せる。だがゴールは奪えず、このまま試合終了かと思われた。しかし90+2分、高い位置でのボール奪取からFW廣澤真穂(スポ2=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)のスルーパスにFW高橋雛(社2=兵庫・日ノ本学園)が抜け出すと、PA内で倒されPKを獲得。このPKを自ら沈め、土壇場で同点に追いついた。

値千金の同点弾を奪い、喜び合う選手たち

 延長前半、同点ゴールの勢いそのままにASハリマゴールに迫る早大。運動量で相手を圧倒し完全に押し込む時間が続く。延長7分には廣澤のキープからMF阪本未周(スポ4=大阪・大商学園)がクロスを供給。中央で途中出場のMF笠原綺乃(スポ1=横須賀シーガルズJOY)が合わせるが、ネットを揺らすことができない。その後も得点を奪えずにいると延長15分にFKから失点。ワンチャンスを見事にものにされ、再び追いかける展開となってしまった。その後も攻め続け、終了間際にはFP全員攻撃を見せるなど愚直にゴールを目指したが、1点が遠く敗戦。2020年の皇后杯は2回戦で幕を閉じた。

 試合後、選手たちは落胆の色を隠せなかった。特に後半は、なでしこリーグ2部所属チームに対しても物怖じせず“ア女らしさ”を発揮。確かな手ごたえがあったからこそ、勝利を逃したショックも大きかった。一方で、確かな差があったのも事実だ。トーナメントで重要となる先制点を奪いきる力や、流れを奪われても最少失点に抑える粘り強さ、延長戦でワンチャンスをものにする決定力など、ア女にはない強さ、試合運びの上手さを持つチームであった。そして、選手たちにはもう1つ勝ちたい理由があった。絶対王者・日テレ・東京ヴェルディベレーザ(ベレーザ)への挑戦。日本女子サッカー界のトップに君臨するチームとの対戦を、誰もが目標としていた。そして、その目標を誰よりも抱いていたのが、船木と後藤だ。ベレーザの下部組織であるメニーナ出身の彼女たちにとって、古巣との対戦は大きな意味を持ち、かける思いも強かった。それだけに勝利を逃したショックは大きく、試合後の涙につながったのであろう。しかしまだ、この悔しさを晴らすチャンスは残っている。今日の経験を糧に3週間準備を重ね、最高の準備でインカレへと臨みたい。そして、3年ぶりの『頂』へ――。ア女の挑戦は、まだ終わらない。

(記事 稲葉侑也 写真 内海日和)

コメント

FW廣澤真穂(スポ2=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)

――率直な気持ちを教えてください

本当に悔しいというか、次のベレーザと戦いたいという目標があったので、負けてしまって悔しいです。

――どのような対策をしましたか

相手は蹴ってくるだろうという予想をしていて、前からプレスをかけて蹴らせないようにしようという意識ではいたのですが、やはり押し込まれてしまいました。

――可変システムを採用する相手に対してやりにくさはありましたか

相手の陣形が変わることでマークを掴みきれなかったり、スライドしきれずに空いてる人が多くなってしまったので、自分たちのサッカーがなかなかできなかったなという印象です。

――特に前半は苦戦しました

1回チャンスがあれば決めるという気持ちで待ってはいましたが、なかなかチャンスは来なかったので、このような試合になった時に、もっとチームを救える選手になりたいなとあらためて思いました。

――後半は内容が一変しました

相手が疲れてきて、自分たちが取りたいポジションを取って、ボールを受けるシーンが増えていたので、落ち着いてボールを回せたと思います。流れは来てたなと思います。

――終了間際まで得点を奪うことができませんでした

1回のチャンスをものにしないと今日のような大事な試合は勝てないと思うので、守備が頑張って守ってくれた分、攻撃陣が点を取らなくてはいけなかったと思います。

――ご自身の調子は

ボールをなかなか受けることが出来なくて、持つことが出来なかったので、後半は少しずつ関われるようになったと思います。自分のやりたいプレーは意識してやりました。ただ、得点という結果を出せなかったのでチームには申し訳ないです。

――普段よりも引いて受けるシーンが目立ちました

スカウティングでもDFラインとボランチの間が空くというのは分かっていたので、狙っていました。

――PKを獲得したシーンを振り返ってください

自分がフリーだというのは分かっていたので、前を向いて、最初はゴールを目指していました。ただ距離があったので、良い動き出しをしていた高橋選手にパスを流しました。

――皇后杯では悔しい思いをされたと思います。インカレに向けて意気込みをお願いします

この皇后杯での悔しさをインカレで必ず返せるように、チーム一丸となって練習して、優勝したいと思います。

DF後藤若葉(スポ1=日テレ・メニーナ)

――今日の試合を振り返っていかがですか

前半の早い時間帯に失点をしてしまったのですが、それでもまだ時間はあるので焦らずにやっていこうということを話していました。後半の一番最後に1点を取ることができて、そこまでは良かったです。しかし、最後の勝ち切るということがなでしこリーグで戦っている相手に出来ませんでした。悔しい敗戦ではありましたが、まだインカレがあるので、次につなげていけたらいいと思います。

――この試合はご自身に取ってどのような位置付けでしたか

皇后杯2回戦で相手がなでしこリーグ2部ということで、そこに勝つということがまず1番にありました。しかし、自分は日テレ・メニーナ出身でこの試合に勝てば日テレ・メニーナ対日テレ・ベレーザの勝った方と試合ができるということだったので、勝ってどちらかのチームと戦いたいという思いが自分の中にはあったと思います。

――相手チームの対戦前の印象はいかがでしたか

前線の選手が身体能力を生かして収めて裏を抜けてくるという印象がありました。そこの対応をしっかりしようとディフェンスラインではラインコントロールを意識していました。

――ディフェンスのリスク管理を任されていましたが、振り返っていかがでしょうか

最初はかなりアラートにできていたのですが、前に蹴られてしまうことが多くなってそのボールの飛距離も長いということで、試合の中盤ではラインが低くなってしまって押し込まれる時間が長かったです。そこでもう少しラインを押し上げるということができるようになれば、もう少し危ないシーンも少なかったのではないかと思っています。

――マークの受け渡しに苦労されていたように見えました

相手の前線が3枚で、いつも戦っている相手と異なっていた上に頻繁に入れ替わるシーンもありました。そこでもう少しコミュニケーションを取っていかなければさらにレベルが上がった時にやられてしまうと思います。

――最後の涙の理由を教えていただけますか

やはり自分がこの1戦に個人として思いが強かったということが大きいです。もちろんチームとしても勝ちたかったのですが、次の試合に勝ちたいという思いが自分と和夏(DF船木和夏、スポ2=日テレ・メニーナ)は強かったので、それが涙の理由です。

――皇后杯はここで終わってしまいましたが、インカレなど試合は続きます

皇后杯という大会は終わってしましたが、まだ自分たちにはインカレが残っているので、そこで自分たちが積み上げてきたものを存分に発揮して、4年生と戦う最後の大会でもあるので優勝したいと思います。