「リオ五輪の表彰台に上がった瞬間から私はこの選手を倒して東京五輪に出ると4年前に決意してずっと4年間やってきた」(須﨑優衣、スポ2=東京・安部学院)。このように語った相手、登坂絵莉(東新住建)との決勝で須﨑は圧巻のテクニカルフォール勝ちを成し遂げ、表彰台のトップに上がった。これで須﨑は明治杯4連覇を達成し、世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)の出場権を獲得。東京五輪へ一歩前進した。また、グレコローマン72キロ級の敗者復活戦に挑んだ野本州汰(スポ3=群馬・館林)は敗北し、3位決定戦へ臨むことはかなわなかった。
登坂をテクニカルフォールで破りガッツポーズを決めた須﨑
昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)優勝の入江ゆき(自衛隊体育学校)、同大会3位の五十嵐未帆(NSSU KASHIWA)という強敵を倒しついに訪れた決勝の舞台。相手はリオデジャネイロ五輪金メダリストであり、天皇杯3位の登坂。天皇杯で優勝していない須﨑と登坂は互いに東京五輪出場に崖っぷちの状況だ。「やり切ってこい」と吉村コーチに声をかけられた須﨑は口を固く結んで歩きだし、深々と礼をしてマットに上がった。二人は今まで対戦したことがないため、須﨑自身も「厳しい展開を予想していた」と語ったようにどのような試合運びになるかは誰もが予想できなかった。しかし、実際の試合は驚きの展開だった。試合開始の笛が鳴りわずか16秒後、須﨑は登坂の左足に素早く飛びかかりバックポイントを獲得。「組んだ瞬間にいけると感じたのでいきました」と、この時のタックルについて語った須﨑。しかし須﨑の攻撃はここでは終わらず、その左足をつかんだまま右足のアンクルを捉え、登坂の両足をしっかりとホールドするとそのままローリングを3連続で決め一気に8点差を付けた。須﨑は開始早々大量リードを握ったが全く油断することなく、低い姿勢で足元を狙ってくる登坂の動きを確実に処理する。激しい組み手争いが続く中、登坂が須﨑の右手を離した一瞬を突き、またも左足を狙って体勢を崩した後素早く後ろに回って得点。終始登坂が攻め入る隙を全く与えず、10−0と第2ピリオドに折り返すことなくテクニカルフォール勝ちを収めた。勝利後初戦と同様に大きくガッツポーズを掲げた須﨑。試合後すぐに行われたインタビューでは優勝への喜びと安堵から大粒の涙をこぼした。「半年前は怪我をして本当に悔しい思いをしました。その半年間の悔しい思いや経験をこの大会に全てぶつけようという気持ちで挑みました」と涙を手で拭いながら語った。東京五輪への強い気持ちがあるから、この悔しさをバネに誰よりも勝利に執着し努力を積み重ねてきた須﨑。それが今回の優勝を飾れた理由に違いない。
表彰台で涙ながらも笑顔を見せた須﨑
野本はグレコローマンスタイル72キロ級敗者復活戦に挑んだ。相手は天皇杯グレコローマンスタイル72キロ級2位の富塚拓也(育英大)。前日の予選では第1ピリオドで勝負をつけられてしまったため、今回は相手にペースを奪われないようにしたい。開始から1分半互いに牽制しあう展開が続いたが、富塚に一瞬を突かれて後ろに回られ失点。そのままローリングをかけられ4点差をつけられる。第2ピリオド折り返しまで相手の攻めからしっかり守っていく野本だったが、富塚の力強いタックルから場外に押されてしまい、さらにコーションをとられて6点差。その後バックポイントを奪われてしまい、0−8と初戦に続いて無得点のテクニカルフォール負けに終わった。
2戦とも攻撃の糸口をつかめなかった野本
須﨑は今大会優勝したことにより7月6日に行われるプレーオフに出場権を獲得し、そこで天皇杯王者の入江と世界選手権代表の座をかけて争う。「私が五輪に行くことを応援してくれる人がたくさんいて、その人たちを五輪に連れていきたい。また、小さい頃に五輪に出て金メダルを獲るって決めた時からブレずにやってきた自分のためにもやりきりたいな、五輪に行きたいなという思いが今回の優勝に繋がりました」と、周りの人々や自分のためにも必ず五輪代表は自分がなるという強い決意を示した。昨年のプレーオフと今大会の初戦では入江に白星を挙げているが、実力差はほぼなく全く油断はできない。日本のレスリング界の層はとても厚く、日本で一番になることは極めて険しい道だ。今までで一番のプレッシャーが須﨑に襲いかかってくるだろう。プレッシャーをはねのけ、けがの中でも着実にレベルアップをしてきた自分の実力をしっかりと発揮できるか。残り3週間気を引き締めなければならない。また、今大会表彰台に上ったのは優勝した須﨑と3位入賞の松本直毅(スポ4=神奈川・横浜清陵総合)の二人。宇井大和(スポ4=和歌山・新宮)は3位決定戦に破れ、惜しくも5位。その他の6名は全員初戦敗退となった。早稲田のチームとして今大会は芳しい成績とは言えない。このそれぞれの悔しさを次戦で晴らせるか。8月には全日本学生選手権が控える中、さらなる跳躍を期待したい。
2年連続明治杯優秀選手賞を受賞した須﨑
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(記事 北﨑麗、写真 林大貴)
コメント
須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)※囲み取材より抜粋
――まずは優勝おめでとうございます
ありがとうございます。
――率直な今のお気持ちは
本当に東京五輪に出場するためにはこの大会で何が何でも優勝しなければならない自分の状況だったので、絶対に東京五輪に行くために絶対私が勝つんだという強い気持ちを持って3試合挑みその強い気持ちがあったから今回優勝につながったと思います。
――決勝を振り返って
はい、決勝戦では本当に自分が練習してきた流れで勝つことができたのでよかったです。あとは勝つためにはやりきるしかないって強く思っていたので、そういう強い信念を持ってやりきれたことが今回の優勝につながりました。
――登坂選手について
リオ五輪までずっと憧れている選手で、リオ五輪の表彰台に上った瞬間から私はこの選手を倒して私が東京五輪に出ると4年前に決意してその思いでずっと4年やってきた。でもなかなか対戦する機会がなくて、今回東京五輪の予選の中でできたことは神様が与えてくれた試練だと受け止めて憧れだった選手を倒すことができて嬉しかったです。
――プレーオフに向けて
本当に東京五輪に出るための最後の戦いだと思うので東京五輪への強い執念を持って必ず勝って世界選手権の代表になって東京五輪の代表になりたいと思います。
――ケガがあってから色んな思いがあったと思うのですが、どんな気持ちでこの試合に臨んだか、今自分のコンディションはどれくらいのレベルにまで戻ってきているのか
半年前はケガをして本当に悔しい思いをして出られなくて。その半年間の悔しい思いだったり経験をこの大会に全てぶつけようという気持ちでやりました。自分のコンディション的には、ケガをしたからこそ習得できた技とかもあるし、鍛えられた部分もたくさんあったのでケガをする前よりかは進化できたと思います。
――絶対に自分が五輪に行くんだと言っていたが、その気持ちを思い起こしたものは
自分の「思い」ですね。たくさん応援してくれる人がいて、家族であったり吉村コーチであったり早稲田の仲間であったりいつも一緒に練習している仲間であったり、私が五輪に行くことを応援してくれてて、そういった人たちを五輪に連れて行きたい。あと小さい頃に五輪に出て金メダルをとるって決めた時からブレずにやってきた自分のためにもやりきりたいな、五輪に行きたいなという思いが今回の優勝に繋がりました。
――プレッシャーとはどう向き合ったか
プレッシャーはありましたけど、ここで勝つために厳しい練習をしてきたのにプレッシャーに負けて何もできなかったらそっちの方が今までやってきた自分が可哀想だし周りの人たちも悲しませてしまうなと思ったので。やるべきことは全てやってきたから思いっきってやってこようと振り切っていました。
――意気込みをお願いします
あと3週間プレーオフまで期間があるので、気を引き締めて。東京五輪に行くためにはあともう一つ勝負があるので、さらに進化してプレーオフにしっかり勝って世界選手権に出られるように準備していきたいと思います。