東京五輪代表の最終選考を兼ねた大会ということもあり、例年以上にハイレベルな戦いが繰り広げられている明治杯全日本選抜選手権(明治杯)。大会2日目を迎えたこの日、早大からは男子フリースタイル61キロ級に吉村拓海(スポ4=埼玉栄)、グレコローマンスタイル67キロ級に宇井大和(スポ4=和歌山・新宮)、女子62キロ級に小玉彩天奈が出場した。また、前日の準決勝で敗れた松本直毅(スポ4=神奈川・横浜清陵総合)が3位決定戦へ臨んだ。
★吉村、小玉は接戦を勝ち切れず。悔しさの残る初戦敗退
惜敗を喫した小玉
昨年の天皇杯全日本選手権では準決勝で接戦を演じながらも涙を飲んだ吉村は今大会でその雪辱を果たしたいところ。しかし、初戦の相手である但野航(ニトリ)に対し、試合開始直後にバックを取られ主導権を握られると、第2ピリオド(P)半ばにも加点を許し、点差を広げられる。試合終了間際にテークダウンを奪い1点差まで追い上げたものの、その後のローリングを回し切れずに惜敗を喫した。
激戦区の女子62キロ級に臨んだ小玉は初戦で栄希和(ジェイテクト)と対戦。第1P前半に右足タックルから幸先良くポイントを奪った小玉だったが、「最初に良いかたちでポイントが取れたので油断してしまった」と、その後は思うように攻め入ることができず、第2Pに入ると胴タックルからテークダウンを奪われ同点に追いつかれる。それでもラストポイントによる劣勢の中で、試合時間残り20秒を切ったところからもつれながら相手を場外へと押し出すが、ポイントが認められたのは相手。運も味方せず、初戦敗退となった。「最後も自分が攻めていて、相手は逃げていたので勝てる試合だったなという悔しい思いがあります」と話した小玉。「初心に帰ってやり直します。新人戦もアジア・ジュニア選手権も絶対に優勝します」と決意を口にした。
★宇井は自身初の全日本表彰台へ向け3位決定戦へ臨む
初戦、準々決勝と持ち味を発揮した宇井
五輪階級の男子グレコローマンスタイル67キロ級で出場した宇井は、初戦を第1P終了を待たずして投げ技からのフォールで突破。「山場だと思っていた」と話す準々決勝では昨年の天皇杯3位の山本貴裕(日体大大学院)と対戦。試合開始直後にテークダウンからの投げで一挙に7点を先制した宇井だったが、直後に大技を決められ4点を返されると、その後は一進一退の点の取り合いの様相を呈した。1点リードして迎えた試合終盤に場外へ押し出され10−10の同点とされたが、試合序盤のビッグポイントによる判定勝ちで、自身初となる準決勝進出を決めた。しかし、準決勝では前年の明治杯王者の下山田培(警視庁第六機動隊)に対して「相手の方が一枚も二枚も上手で、思い通りに試合を進められてしまった」と第1Pで勝負を決められ、テクニカルフォール負け。全日本トップクラスの壁に阻まれるかたちとなったが、準決勝進出を果たしたことにより、宇井はあす3位決定戦へと臨む。自身最後となる明治杯で念願の入賞を果たし、有終を飾れるか。
★松本、成長を感じる3位入賞!
3位に入賞した松本
前日の準決勝で全日本王者の奈良勇太(警視庁第六機動隊)に敗れ、3位決定戦へと回った松本。対戦相手となった白鳥慶樹(日体大)に対しパッシブを奪い優位な体勢へ持ち込むと、グラウンド技を2度成功させ、試合を優勢に運ぶ。第2Pには自身のパッシブのペナルティによる不利な体勢から相手の攻撃を耐え切ると、その後も相手の攻撃を寄せ付けず、5−1で完勝。昨年に続き、3位入賞を果たした。「練習の成果をうまく試合で発揮できた。前進できたかなと思います」と手応えを口にした松本。自身が目標に掲げる全日本学生選手権(インカレ)優勝へ向け、上々のラストイヤーの滑り出しを飾った。
(記事、写真 林大貴)
結果
男子フリースタイル
▽61キロ級
吉村拓海 初戦敗退
●予備選 [3-4] 但野航(ニトリ)
男子グレコローマンスタイル
▽67キロ級
宇井大和 準決勝敗退(3位決定戦へ)
○予備戦 [5(フォール)-0] 松井涼(レスターホールディングス)
○準々決勝 [10(ビッグポイント)-10] 山本貴裕(日体大大学院)
●準決勝 [0−8(Tフォール)] 下山田培(警視庁第六機動隊)
▽97キロ級
松本直毅 3位
○3位決定戦 [5-1] 白鳥慶樹(日体大)
女子
▽62キロ級
小玉彩天奈 初戦敗退
●1回戦 [2−4] 栄希和(ジェイテック)
コメント
太田拓弥監督
――2日目の戦いを総括していかがですか
61キロ級の吉村は少しもったい試合だったかなと思います。宇井は全日本で表彰台に上がれていなかったんですけど、2つ勝ってあした上れるチャンスを得られたのと、松本が去年負けていた相手に勝って3位に入賞してくれたことが収穫だったかなと思います。
――松本選手に関しては成長を感じる部分はありますか
すごい自信を持ってやっている印象です。先に自分から仕掛けて、グラウンド技で返す自分のパターンが確実に出来上がっているので、あとは(目標に掲げている)学生日本一になるだけかなと思います。
――宇井選手は初めて準決勝まで進出しました
最初に大きいポイントを取ったのが良かったですね。そのあとの失点が多かったのは課題ですけど、松本同様に自分のかたちを出してくれたので。全日本でまだメダルを取れていないので、松本が先に取ってくれたので、良い意味で刺激し合って、二人でメダルを取ってくれればなと思います。
――小玉選手の戦いぶりを振り返っていかがですか
ちょっともったいない展開でしたね。最後も取りきれるチャンスがあったので。
――小玉選手に関しては実力が上回る相手にあと一歩勝ちきれない展開が目立ちますが
そうですね、接戦を勝ち切れていないので、そこをしっかり改善していければ。川井梨沙子(至学館大)とも大差ないところまできているので、接戦をものにできるようにしていきたいなと思います。
――小玉選手自身は「メンタルが課題」とおっしゃっていましたが、監督から見た課題としては
宇井だったり松本だったりに比べて、彩天奈の場合は「これ」という自分の持ち味がまだないので。片足タックルはありますけど、それが誰にでも通用するかといえばそうではないので、誰にでも取れるタックルを身に付けていければ、おのずとメンタルも強くなっていくと思います。タックルとグラウンドが課題かなと思います。
――あすへ向けて
今のところは優勝者がゼロなので、まずは決勝進出させたいですね。65キロ級は世界チャンピオン(乙黒拓斗、山梨学院大)がいますけど、米澤圭(平31スポ卒=現住友金属鉱山)も安楽(龍馬、スポ2=山梨・韮崎工)も仕上がってきているので、すごく楽しみですね。
――前半の2日間を振り返って手応えは
松本が表彰台に上ったり、宇井がメダルのチャンスを得たりと昨年の全日本(天皇杯全日本選手権)に比べれば内容は良くなっていると思います。ただまだ優勝者が出ていないので、満足のいく結果が残せているわけではないですね。彩天奈だったり、拓海だったりは勝てるチャンスがある中で勝ち切れていないという課題がまだ残っています。ただそれでも他と比べても遜色ないところまで来ていると思うので、やってきていることは間違っていないと思います。
宇井大和(スポ4=和歌山・新宮)
――今回の明治杯はどういった意気込みで臨んでいますか
自分自身大学の4年間でレスリングには区切りを付けるので、それぞれの大会が人生で最後なので。今大会も悔いが残らないようにという意気込みで臨みました。
――自身初めて準決勝まで進出しました
いつもベスト8止まりだったので。正直2回戦が山場だと思っていたので、そこを勝てたのは一つ壁を超えられたかなと思います。ただ決勝に進出する選手との差は大きいと感じました。
――2回戦を振り返っていかがですか
一気に7点取って、あと1点でテクニカルだったので、狙えばよかったんですけど。そのあとすぐに4点を返されてしまったので、そこは良くなかったですね。あとは四つ組に行ったんですけど、守りに入って序盤のように失点するなら四つ組にいって五分五分の状況を作ったほうがいいかなと思いました。結果的にそれがうまくいったので、良かったですね。
――準決勝は実力者が相手でしたが、実際に戦って見ていかがでしたか
相手のスタイルは分かっていたので、その対処も考えていたんですけど、試合になると相手の方が一枚も二枚も上手で。相手の思い通りに試合を進められて、何もできなかったですね。
――具体的に力の差を感じた部分は
最初にグラウンドを取れなかったのと、そのあとのグラウンドを守れなかったところですね。最初にパッシブを取ってグラウンドを取るというのを突き詰めていく必要がありますね。
――あすの3位決定戦へ向けて
今まで目の前に表彰台に上るチャンスなかったので、このチャンスをものにして、最後の明治杯を良いかたちで終わらせたいですね。
松本直毅(スポ4=神奈川・横浜清陵総合)
――3位入賞おめでとうございます
ありがとうございます。
――今大会全体を振り返っていかがですか
自分の力は出せたかなと思います。そういった点では内容的にも良かったかなと思います。
――具体的に成長を感じる部分というのはありますか
冬からずっとグラウンド技を強化してきたのを、そのまま試合にも出せました。練習の成果をうまく発揮できたので、前進できたかなと思います。
――最後の明治杯で3位という結果は、率直にどう感じていますか
素直に嬉しいですね。
――今大会の結果は今後にどう生かしていきたいですか
結果は残せたんですけど、準決勝では完敗でしたし、1回戦も競った内容だったので、良いところはそのままに、出た課題を改善してインカレで優勝したいと思います。
――ラストイヤーでの意気込みをお願いします
絶対にインカレ取ります!
小玉彩天奈(社2=高知東)
――今大会へ向けてはどういった意識で臨んでいますか
この大会で優勝しないと世界選手権や五輪に出られないということが決まってしまうので、何としても勝とうという気持ちではいました。どんな苦しい戦いになっても絶対に自分が勝つという気持ちで臨みました。
――女子の62キロ級は全体を見渡しても激戦区の階級ですが、そこへ対する意識はありましたか
上からも下からも強い選手が集まってきていて。組み合わせが決まるまでは不安な自分と、頑張れば勝てるっていう自分の間でストレスを感じてしまう部分もあったんですけど、それでも天皇杯でも伊藤さんに競って負けていて。強い選手が集まっていても、そこまで差はない、勝てない相手ではないという思いはありました。
――今大会を振り返っていかがですか
初戦は勝てる試合だったなというのがあります。最初にきれいにタックルに入れた中で、「この感じだったらまた取れる」と油断してしまって。アンクルの練習もしてきたんですけど、それが出せなくて。ただ相手よりも自分の方が攻めていたと思いますし、最後の場外側の展開も自分が攻めていて、相手は逃げていたので勝てる試合だったなという悔しい思いがあります。組手も重視してやってきたんですけど、周りから見れば崩し切れていなかったというもありますし、頭の位置とかも課題が出たので、初心に帰ってやり直します。
――接戦をものにできなかった要因というのは
結構弱気なところがあるので(笑)。自信が持てなかったり。強い人って絶対に勝つっていう気持ちがあるじゃないですか。自分は試合をしながらも「負けるかもしれない」っていう意識がよぎることがあるので、気持ちの面でも差が出ると思います。練習でも追い込み切れていなかったりだとか、そういうところの積み重ねの差だと思います。
――今後に向けて
新人戦は絶対に優勝します。アジア・ジュニアも絶対に優勝します。アジア・ジュニア選手権には出たことがないんですけど、アジアの選手はやりにくい印象がありますし、環境もヨーロッパとかとか違うので不安はあるんですけど、そういった要素に左右されずに、今回出た課題を改善して、自分の力を出しきりたいと思います。