最終回は海外遠征を経験しているこの3選手にスポットライトを当てた。スペイングランプリで国際大会初のメダルを獲得した多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)、ことしはジュニアの大会だけではなくナショナルの大会にも出場した香山芳美(スポ2=東京・安部学院)、1年生ながら社会人に混ざってニューヨーク遠征で奮闘した髙橋海寿々(スポ1=東京・大森学園)。驚きの海外遠征ならではのエピソードや自身のレスリングに対する熱い思いに迫った。
※この取材は12月8日に行われたものです。
内容に差を感じた国際大会
先日、アゼルバイジャンから帰ってきた2人
――まずはこの一年間の振り返りからお願いします
多胡島 結果だけ見ればなかなか厳しいシーズンになったんですが、いまは4年生で有終の美を飾ればいいかなって切り替えてるんで、きょねん二冠獲ったのにことし獲れなかったことに関しては悲観的にはなってないですね。
香山 国際大会を3つ経験できて良かったのと、世界ジュニア選手権以外の2つのナショナルで出た試合は正直自分も出れると思ってなくてラッキーで出れた大会なので、経験を積めた年になったと思いますね。ただ2年生でここまでこれるとは思ってなかったので、ここからどうやってモチベーションを持っていくかというのが課題です。
髙橋 大学生になって初めての試合でしたが、やったことのない相手や目上の先輩たちとも胸を借りて戦うことが多かったので、すべての大会がいい経験になったかなと思います。
――国際大会を具体的に振り返っていかがですか
多胡島 学生選抜で行ったスペイングランプリは国際大会での初メダルを獲れたんですけど、アメリカの選手とやってすごい差を感じたというか、結果以上に内容で世界と差を感じて、でもまあ結果がついてたからそんなに危機感感じてないというのはあったんですけど、ナショナルというかたちで行ったゴールデングランプリではロンドン五輪で優勝した選手とも戦って、そこでは結果、内容ともにすごく差を感じて、だからすごいいい意味でいい経験できたかなと思いますね。
香山 わたしはアジア選手権と世界ジュニアとゴールデングランプリですね。アジア選手権はナショナルの初めての大会で、遠征の中でも自分が一番年下だったので負けたらどうしようっていうソワソワした気持ちで臨んだんですけど、結果的に銀メダル獲れたので、そこは良かったかなと思います。あとはナショナルチームで行動したっていうのが初めてだったので、オリンピック選手とかと一緒に行動できたっていうのはいい経験になりましたね。世界ジュニアはジュニアとして最後の大会だし、日本人としていくからには優勝して当たり前の試合で、結果としてメダルを獲れなかった選手は1人だけで他の一緒に行ったメンバーもメダル獲ってるんで、欲を言えば銀メダルだったんで優勝したかったんですけど、世代別なんでそこは悔しさが残りましたね。ゴールデングランプリは本来の自分の60キロ級ではなくオリンピック階級の58キロ級で出ることになって、レベルも全然違う中でやってみたのですが、きょねんの自分の階級の世界学生のチャンピオンに勝てたっていうのはすごい自信にはなったんですけど、次の負けた選手は世界選手権でも上位の選手で、その選手に全然歯が立たず、通用した技とかもあったんで課題は見つかったんですけど、思った以上に差があってショックでしたね。けど、いまの時点でその差を知れたというのは自分にとってプラスだと思うので、ここから埋めていきたいなと思います。
髙橋 4月のジュニアの代表を決める大会から全然自分の動きができなくて、代表権を逃したところからことしが始まって。そして4月、5月、6月と大学で練習を重ねていく中で、7月の社会人の大会で優勝することができて、出場人数は少なかったんですけどそこでアメリカ遠征の権利をいただくことができて。その遠征に一緒に行ったひとは4年生や社会人の選手ばかりでわたしが一番年下だったんですけど、その先輩たちも国内外ですごいいい成績を収めているカタたちばかりだったので、その先輩たちと一緒に行動できたというのは芳美さんも言ってたようにすごくいい経験になりましたし、1日に5試合やったのは初めての経験だったのでそれもいい経験になりました。決勝の相手は日本人だったんで、それは別として考えて、準決勝までの外国人選手とはやっぱりそれぞれのレスリングスタイルも日本と違うなっていうのを改めて実感できた大会でしたね。
――今季一番印象に残った試合はありますか
多胡島 僕は国体の決勝ですね。全日本選手権で2回も負けてる小島豪臣(神奈川・中川養護学教)さんで。3度目の正直で勝つことができたっていうのは、失点を恐れずに攻めた点だと思うんですよ。いままでの攻め方を変えるっていうのはすごい勇気のいることなんですけど、それが実行できたのが結果につながったと思うので、なかなか普段は試合で勇気のいる決断を躊躇するところをできたっていうのは僕自身で評価してる試合ですね。
香山 わたしは4月のジュニアクイーンズカップの決勝ですね。きょねんの6月の全日本(明治杯全日本選抜選手権)で負けてる二つ年下相手だったんですけど、いままで年下に負けるってことがなかったのですごい悔しい思いもして。ジュニアクイーンズカップは世界ジュニアの出場権も懸かってましたし、5月にアジア選手権も決まってたので直前だったこともあって、自分の中ですごい勝たなきゃいけないプレッシャーもあった中で勝てたっていうのと、そこで勝ったからこそ5月のアジア選手権とか世界ジュニアにつながったかなと。世界ジュニアのあともインカレ(全日本学生選手権)があったりと試合が続いたんで、最初の4月のスタート良く切れたっていうのは良かったです。
髙橋 わたしは10月の女子オープン選手権の準決勝の上原榛奈(法大)さんての試合で、どの試合でも上位に入賞してる方だし国際大会でもいつもいい成績残して帰ってくる方だったので、女子オープンで初めて試合をして勝てたっていうのが自分の中で大学に入ってからの成長を感じることができた試合になりましたね。
「野蛮だし、図太い!(笑)」(多胡島)
海外選手の図太さについて分析する多胡島
――海外遠征の思い出に残っているエピソードはありますか
多胡島 ・・・うーん、とりあえずイラン人は汚ねえな、って印象が強くて(笑)
――どんなところがですか(笑)
多胡島 あの、ゴミ箱に唾吐くんですよ。
香山 アメリカとかも。だって床に吐くじゃんみんな。
多胡島 そうそう、試合会場の床とかに吐くからみんな。だからそこらへんにタオル置いてると勝手に使われるんで、自分のものみたいに(笑)。だからあの図々しさはレスリングにも表れてると思いますけどね。それで自分のペースに持ってってるっていう図太さは、やっぱり海外選手のほうが強いかなと感じますね。
――唾を吐かれて言い合いになったりはしないんですか
多胡島 でも時々、殴り合いとかになってるところもありますよ。
――えー
香山 あと、3年くらい前からナイジェリアに女子選手で二人強い選手が出てきたんですけど、ひとり、たぶん国歌だと思うんですけど、計量のときもアップのときも試合のときも大音量で歌うんですよ。計量のときに会場着いたらもう聞こえてくるんですよ。で、最初誰かがスピーカーかなんかで大音量流してるかと思ってバーって行ったら、すごい歌ってて(笑)。その音量がハンパないんですよ。でも誰も止めないし止められないし。アップ会場でも歌ってて。試合も歌いながら入場してきて試合終わってからも歌ってて(笑)
多胡島 たぶん愛国心が強いんですかね。
香山 たぶん国歌。
多胡島 国歌だよね。
香山 絶対に自分にはできないじゃないですか、そんな人前で(笑)。ある意味すごいな、と。その選手、レスリング始めてたぶんそんなに経ってないんですけど、ナイジェリアの世界選手権で2位になってるんですよ。なんで、たぶん国歌を歌えると・・・(笑)
多胡島 歌える図太さ(笑)。あと愛国心。
髙橋 あと身体能力(笑)、すごいなと。
――髙橋選手はいかがですか
髙橋 2年前にモンゴルにカデットの遠征に行ったときに、次の日が軽量級の試合で。わたしともう一人が違う部屋になっちゃって、そこだけインドの選手が入ったんですよ。洗濯物干してたんですけど、夜中の3時くらいですかね、電気バッてつけられて。なんだと思ったら、着てたサウナスーツを洗濯物干してるところにかけられて。しかも、そのときも大音量で音楽流しながら夜中の3時くらいに歌いだすんですよ。すっごい迷惑で(笑)。次の日試合で朝8時とかに出発だったんですけど、寝れなくなっちゃって。でもなんとか英語で説得して。やめて、って。そしたら相手のコーチが、こっちも練習してんだからいいでしょって言いだしてきて、ちょっと一悶着ありましたね(笑)
多胡島 図太さね。
――野蛮なんですね(笑)
多胡島 野蛮だし、図太い!
――言い合いするときはやっぱり常に英語なんですか
香山 英語・・・ロシア語のが多くない?
多胡島 なんか、あいつらは図太いから意思の疎通する気がなくて、英語も話さないんですよ。母国語でバーって言ってくるからこっちがコミュニケーションとろうとして英語でしゃべっても関係なしに母国語しゃべるから、ケンカになるっていう(笑)
香山 え、でも女子は仲良いよ。
多胡島 きょねん、世界選手権で日本の選手が決勝行ったとき、準決勝かなんかで結構素行の悪い選手がその日本の選手に負けて。それで決勝の前に(その選手が日本の選手に)後ろから熱湯かけたんですって、頭に。・・・なかなかクレイジーですよね。
――英語は普段から海外遠征のために勉強されてるんですか
香山 勉強しなくてもしゃべれますね。
多胡島 その点はだからこっちの人より強いと思いますよ。場数は踏めてるんで。
香山 テストできなくてもコミュニケーションはできます、あっち行ったら。
――わー、それはすごいです・・・
香山 なんとかなります(笑)
多胡島 だから日本人の逆パターンみたいな。
――日本と海外とでのレスリングプレーは具体的にどのような点に違いがあるのですか
多胡島 海外と言っても一口に、アジアからヨーロッパまでいろいろあってその国ごとに全然違うんですけど、ただ共通して言えるのは、勝負に対する貪欲さっていうのが日本人より強いな、っていうのはあって。ただそういうダーティープレーというかズルいプレーを、汚いと言ってしまえばそれまでなんですけど、勝ちに貪欲になるためにそうなってるわけなんで。そこはやっぱり汚いって言ってられないんだけど、日本人ってそういうの敬遠するじゃないですか。練習でそういうことやると小中のレベルだとそれは注意されて、それはやるなってなるわけだから。やっぱりそこはそもそもの文化とか国民性の面から見ても違うのかな、って思いますね。
香山 プレースタイルの面では女子に関しては力が強いですね。ヨーロッパの選手は身長や手足の長さが全然違いますね。同じアジアでも体つきが中国や北朝鮮が日本人と比べ物にならないと思うし、でもそういった中で日本人勝ってきてるんで、なんとも言えないんですけどね(笑)
――不利にはならないと
香山 やっぱりレスリング自体の歴史の差もあると思うんですけど。技術面で。
多胡島 なんか雑だよな。
香山 でもそのさっき(多胡島さんが)言ってた貪欲さっていうのは、日本人は別に海外遠征行って負けてもなにもないじゃないですか、まあいい経験できましたで終わりじゃないですか。でも北朝鮮とか中国の選手ってそこで勝つか負けるかで生活懸かってるんですよね。国からお金もらえたりだとか。自分がオリンピックで優勝したら自分も家族も親戚もみんな一生養ってもらえるんですよ。だから逆に初戦敗退とかで帰ったら、おまえなにやってんの、みたいな感じでポイッてされちゃうみたいなんで、そういった意味で貪欲さがあるんじゃないかなと。他の国もそうだと思うんですけど。やっぱりアゼルバイジャンとかも、自分がもしアゼルバイジャンにスカウトされてそっちの国に行ったらそれだけで2億もらえるんですよ。逆に活躍しても報酬がなにもなしにやってるのは日本くらいじゃないかなって。
――国際大会に出場するだけでは賞賛されないんですか
香山 試合に出るまでの準備をしてもらってるだけで、そこでなにもできなかったらやっぱり国を売れないわけじゃないですか。
多胡島 あといちいち全階級連れてくるの日本くらいですからね。
香山 それだけ余裕があるっていう。他の国は絶対勝てる階級しか連れて行かないし。その代わり貪欲に貪欲に、っていう。
髙橋 わたしもほんとその通りだと思います。わたしが試合した中で感じたレスリングのプレースタイルっていうのは、経験は全然ないんですけど、日本人含めたアジア人はやっぱり力っていうか、同じような体型はしてるんですけど、日本は特別小柄なような気がしますね。小柄なぶんテクニックとかでカバーできてるなと思いますし、アメリカとヨーロッパは手足が日本人よりすごい長いですし、力も比べ物にならないくらい強いので。そこで共通して言えるのは、日本人がテクニックに長けているぶん相手が雑だなって感じる部分は見ててもありますね。
――海外での緊張やプレッシャーはありますか
多胡島 緊張はないですけどプレッシャーはあって。結果に対するプレッシャーもそうだし内容に対するプレッシャーもそうだし、勝ったら勝ったで内容求められるし負け続けたら勝ちにいかなきゃいけないし。団体戦になってくると流れっていう意味で自分がここで勝たなきゃいけないとかここで決めなきゃいけないとか、いろんなプレッシャーがあるんですけど、自分は1年生のときからそういうプレッシャーがかかる場面をいろいろ経験してきて、3年目になって思うのは、わりと慣れというか。3年経ってようやくタフになってきたか、なっていうふうにはことし振り返っても思いますね。
香山 わたしはすべて緊張するはするんですけど、アジア選手権だったら周りの一緒に行ったメンバーが強い選手ばかりだったんで、自分だけメダル獲れなかったらどうしようっていうプレッシャーはあったんですけど、やっぱり国内と国外は違くて。わたしの場合、国内は緊張しちゃって。見てるみんなも全員同じ日本人だし戦う相手も日本人でみんな知ってるじゃないですか。そうすると絶対勝てるってわかってる相手でもポイント取られたらどうしよう、もし負けたらどうしようっていうのを思って試合で緊張しちゃって。逆に海外だとみんな代表で来てるんで、強いから負けてもいいっしょ、っていう気楽な気持ちでできることが多くて。そうするとわりと練習通りの動きっていうのができるんで、もしもう一回試合したら勝てるかな、っていう相手に逆に勝てたりとか、そういうのが結構ありますね。
髙橋 わたしは国内外どっちも緊張もプレッシャーもありますね。高校のときに良い成績収めてた大会とか勝ってた相手とかには特にです。でも大学入ってからの大会はそんなにプレッシャーはありませんでしたし、海外行ったときもそうで、特にことしの遠征は連続で行ってるわけでもないし初めて戦う相手ばかりだったんで、捨てるものもなにもないしとりあえずやれることをやってみよう、と思いましたね。
「やればできるんです、強いひとは」(香山)
香山はプレー同様に力強く語ってくれた
――みなさんは遠征なども多い中、学業との両立はいかがでしょうか
多胡島 僕はそんなに勉強することが嫌いじゃないのでそんなに苦手意識もなく、まあこのレスリングという競技柄もあって、じゃあ将来レスリングで生きていけるかといったらそういうわけでもないので、セカンドキャリアまで考えたらやっぱりいまの時代はただ競技だけやってるだけじゃダメで、そういう危機感も感じながらやってます。
――授業はどういったものをとっていますか
多胡島 ・・・とかなんとかいまエラそうなこと言ったんですけど(笑)、東伏見の寮に住んでるんで近いとことってますね(笑)。けどやっぱりあれですね、授業あったほうが一日のスタートがしっかり切れるというか。授業ないとズルズルズルズル休んじゃうんで。そんな感じで授業は捉えてますね。
香山 わたしは高校のときまったく勉強してこなかったんで、いま苦労してるんですけど、こういう考えのひとと9割型授業一緒なんで(笑)、助けてもらってます(笑)。あとはわたしはトップアスリート入試なんで、チューターさんとかついてもらってて、いざとなったら助けてもらおうと思ってるんですけど(笑)
多胡島 他力本願(笑)
香山 レスリングも頭が多少良くないと強くなれないと思うんで、テストとかもやればできますよ(笑)。みんなやればできるんです、きっと強いひとは(笑)、って、大学入って思いましたね。だから勉強も前日に頑張ればなんとかなりますね。
髙橋 わたしは勉強好きなので、スポ科の授業と、あとは副専攻をとってます。勉強に関しては前期にフル単だったので、いまんところ大丈夫です(笑)
多胡島 だいぶ意識高い系なんでね(笑)
髙橋 いやいや、高くないです(笑)(謙遜)
――仲間や恩師から言われて印象に残っている言葉はありますか
香山 わたしはちびっ子時代からずっとレスリングやっているんですけど、そのときの監督が太田拓弥コーチと先輩後輩関係で、そのつながりで小さいときからワセダに練習来てて、さらにそのつながりでワセダに入ったというのもあるんですけど、女子少ないじゃないですかワセダ。高校のときは女子校で、女子ばっかりの環境でやってて、大学選ぶときもワセダから別に声がかかったわけではないんですよ。女子は声かけないので、ワセダは。こっちきていろいろ不安だったんですけど、そのときにその監督から、「どこに行ってもやるのはおまえだから」って言われて。自分が思ってたのとギャップがあって、やめたいなとか思ったこともあったんですけど、練習とかに関しては確かにやるのは自分なんで、自分の思った通りにやってけば強くなれるかなって思ってますね。
髙橋 わたしは小中はクラブチームで。高校も一応は部活に所属してはいたんですけど、練習はクラブチームでやったり高校でやったりで。でも高校の先生から、「どこいくにもなにするにも全部勉強だから」って言われて、学ぶことはやっぱり前提として大事なんだなって思ってます。
――女子は声がかからないとのことでしたが、ワセダに入学を決めた理由は
香山 わたしは中2のときに、わたしのクラブにワセダの大学生が合宿に参加しにきてくれて、そのときに出会ったかたちなんですけど、そのときから中学校のときも高校入ってからも時間あったらワセダに練習しに行ってて。それで中学生のときにOBの田中幸太郎(現阪神酒販)さんと石田智嗣(現警視庁)さんのスパーリングを見たんですよ。すごいかっこいいな、ってなりましたし、ワセダの雰囲気も楽しそうだったので、中2のときから絶対に大学はワセダに入るって決めてましたね。
髙橋 わたしは小学校3年生のときからレスリング始めたんで、わりと遅いスタートなんですけど。その前からワセダの教育学部に入学したいってずっと思ってて。もともと高1くらいまではずっと一般で受ける気でずっと勉強していたんですけど、高3になって自己推薦っていう方法をパンフレット読んで知って、入学しました。
――多胡島選手はいかがですか
多胡島 僕、秋田県出身なんですけど、秋田県が毎年ワセダに合宿に行っていたので3年間ワセダの練習を見ていたんですよ。他にも高校時代はいろんな大学に行ってたんですけど、やっぱりワセダだけ雰囲気がいい意味で異質だったっていうか。まあさっきも言ったようにレスリングだけやってればいいってわけじゃないっていう考えが、僕の場合は高校から強かったんで、人間としての成長って意味で考えても僕が高校のとき見ていたときのワセダはそういう人間としての成長とレスリングとしての成長がマッチした部分が練習に反映されていたんで、それを見て行きたいなって思っていましたね。
――入学してからのワセダのレスリング部の印象は
多胡島 僕が入学したときは4年生にエリートの選手が揃っていたので、本当に毎日尊敬の連続というか。だからそれまで自分が見てきたワセダとそこまで差はなかったですね。
香山 1年生のときはそれまでと練習環境がガラっと変わったので、1年生の最初の頃はわたし全然成績を出せずにいて。そのときはもう、やっぱり男子と練習してたんじゃダメなのかな、っていう印象でしたね。あと、まあ期待してくれてるからってのもわかるんですけど、自分は同期より成績出してるのにコーチからしょっちゅう怒鳴られるのは同期より自分で、それで毎日泣いててっていう中で練習してたんで、最初の半年くらいはずっと高校戻りたいなって思ってましたね。
髙橋 高校はわたしは芳美さんと真逆で、男子の中にポツンと入れられた環境だったので、環境自体はそんなに変わらないんですけど、大学のレスリング部は多胡島さんや芳美さんのような優秀な先輩と一緒にやる中で足引っ張ってるんじゃないかなって思いながらいつも練習してるんですけど、年が近い先輩が優秀なので背中から学べることは多くて。スポーツ科学部に入学できたっていうことで、スポーツ科学部の勉強をしながらいかに競技に反映させるかという意欲も生まれて、毎日毎日学んでばかりですね。
好きだからこそ、追い求めるものがある
しっかりと自分の意見を述べる髙橋
――小さい頃からレスリングを続けられている中、いままでもこれからも続けていく理由を教えてください
香山 わたしは高校も大学に入るのにもちゃんとした入試って受けたことなくて、ぜんぶ推薦っていうかたちで、面接しかしてないんですよ。だからはっきり言ってレスリングは学歴のためのひとつのツールっていう意味もあるんですけど。単純にレスリングが好きなので、気づいたらやめられなくなってたっていうのもあるんですけど(笑)。高校はレスリング部しか活動してない学校だったんですけど。9割帰宅部で。他の部活はなかったんで。でも大学に入っていろんな部活の人と接したりだとかいろんなスポーツを見る中で、いまはただレスリング好きだからやってきたんですけど、続けるって言ってもそんな40才、50才になっても選手できるかって言ったら絶対そうじゃなくて。他の競技だったらたぶん卒業してからも続けていく価値はあると思うんですけど、こういうマイナーなスポーツでこんだけ世界で成績残しても脚光浴びないスポーツもレスリングくらいだと思うんですよ。そういうのを大学に入って知ってしまって(笑)、それまでは全然そういうこと思ったことなかったんですけど。好きだからやってればいいや、って感じで。そういうのを知って、今後続けていく意味っていうのは・・・模索中ですね(笑)。ただ好きなのは変わりません。
多胡島 僕もいま(香山が)言ったのと同じ考えなんですけど、目に見える利益っていうのが少ないぶん、いかに自分の中に利益をもたらせるか、っていうのをすごく考えるようになって。まあ恵まれない部分もあるだろうし、身体能力の差とか。いろいろある中でなんとかしようってすること自体は自分の成長につながるだろうし、正直お金なんていうのは別の方法で稼げばいいと思うので、そういうのに最終的につながるように、自分にいい影響をもたらすためにやってる、って感じですね。
髙橋 わたしも何回かやめようと思ったことはあるんですけど、なんだかんだここまできちゃったらやめるにもやめられないし、かと言って嫌いかって聞かれたら好きなので、続ける理由としては好きだからっていう一言に尽きると思いますね。
――好きになるレスリングの魅力というのはなんでしょうか
多胡島 魅力あったらもっと有名になってると思うんだけどな(笑)
香山 たのしいじゃん(笑)。わたしはレスリング以外にもいろいろスポーツやってきてて。水泳とかテニスとか柔道とか。でもレスリングが一番楽しかったので、必然かどうかわかんないんですけど他をどんどんやめていって、最終的にレスリングが残りましたね。レスリングはちっちゃい頃から試合数が多くて。他の競技だとあんまりちっちゃい頃から大会とかないじゃないですか。あとは勝ち負けがはっきり出るというのが好きですね。柔道とかもそうなんですけど。フィギュアとか体操とかは、自分がどんなにきれいにやったって思っても、ひとから採点されるじゃないですか。そうすると、なんでこんなにきれいにやったのに納得いかないじゃん、ってなるんじゃないかなって。レスリングだとそういうのないんで。
多胡島 まあやっぱりオリンピックで最初からある競技だけあって、レスリングって言い換えたら徒手格闘だと思うんで、そういう中でごまかしが効かないんですよ。道具を使わない分、本当に自分だけだから。仲間もいないし。そういうせめぎ合いが一番の魅力かなって。精神的にも肉体的にも本当の強さが求められる競技なんじゃないかなって思いますね。
髙橋 勝ち負けがはっきりしているって部分もそうだし、
リオの正式種目から除外候補されたり、そのためにルールがたくさん改変されたり。そんな感じでまだまだ進化できる競技なんじゃないかな、と。そういうところに魅力があるんじゃないかなと思いますね。
――レスリングを続けていてターニングポイントはありましたか
多胡島 僕は大学1年の6月の全日本なんですけど、1年でいきなり優勝して。そのあとも成績奮わないことが続いた中で、どこかで(全日本で)優勝してるから大丈夫だ、って安心してる自分がいて。2年になってもそれをズルズル引きずってた中で、その年の全日本選手権は出場権すら獲れなくて。観客席で試合観て、それがなによりも負けるよりもその舞台にすら立てないっていう悔しさがあって。そこでようやく危機感を覚えましたね。結果だけ言えばそっから学生二冠も獲れたので、そこはやっぱり大きかったのかな、と思いますね。
香山 わたしは思いつくのは二つあって。まずは高校で安部学院を選んだことですね。やめるとしたら、たぶんいままでだったら中学卒業か高校卒業でやめてるんですよ。わたしの高校は入った時点で大学進学したらレスリングしなさいっていうのが絶対の高校だったんで。要はやめさせてはもらえないってことなんですけど。それこそ高校も二つ選択肢があって。だからその二つのどれかに行ってたら強くなれてたかっていうのもわからないし、大学入学の時点でやめてた可能性もあるなって思うので。あと一つはきょねんの天皇杯ですね。大学入ってから全然勝てていなくて、練習でも散々なこと言われて。あとは女子も海寿々が入ってくるまでは重量級もいなくて、軽量級が3人他にいただけだったので、練習で自分がどれくらい強くなってるのかっていうのがまったくわからない状況でずっと練習してきたんですよ。試合でしか結果がわからないわけじゃないですか。勝てないってのが続いたんでやっぱり自分強くなってないんだな、みたいな感じでやってきて、10月の女子オープンで優勝しても、メンバーがメンバーだしな、って思って。練習で男子とやってても男子とはやっぱり差があるので、強くなってるのかなって不安で不安で練習していて。それまで表彰台はとったことなかったんですけど、天皇杯では4月にボロボロに負けた相手に勝ったんです。そこでようやくワセダに来て強くなってるんだ、っていうのを感じたんで、2年生になってもワセダでやっていこうって思えた理由のひとつになりましたね。
髙橋 わたしは高校で大森学園を選んだことが一番のターニングポイントかな、と思います。高校は二つ声がかかってて、一つは全然強くないところで、大森学園と同じような状況ですね。もう一つはある強い女子レスリング部がある学校で。都のレスリングの先生から東京から出るなよって言われたのと、家から近いってのもあって大森学園にしたんですけど。そこではわたしと一緒に入った同期にあと3人推薦組がいたんですが、彼らは成績収めてない子たちで、その中でやっていく、ってなったときにやっぱり最初嫌で、先生にすごい文句言ったりだとか。先輩も男子ばっかで、やってもグレコローマンばっかだし。でもその環境でどうやったら強くなれるかなっていうのを考えながら3年間レスリングをやってきたってことは、その高校3年間そのものがターニングポイントになったかな、って思いますね。レスリングを練習して強くなるのもそうなんですけど、どうやったらこの中で強くなれるかって考えながら練習したっていうのが大きかったかな、と思ってます。
――天皇杯のお話に移る前に、それぞれの来季の目標を教えてください
多胡島 来季は全部タイトル獲りたいですね。もし大学いっぱいでやめるなら最後になるかもしれないんで。一つ一つが人生最後の大会になるかもしれないっていう、背水の陣です。そういう気持ちで一つ一つ臨みたいなと思います。
多胡島 わたしはことしジュニアの最後の年だったので、らいねんから試合数が減るので、いままで全日本の資格だったり海外遠征のチャンスをつかむのにもジュニアの試合ってすごい重要だったんですが、らいねんからはシニアで上位に入っていかないと全日本にも出れないし、国際大会のチャンスもつかめなくなってくると思うので、まずはしっかりシニアの大会で勝つことを目標に頑張りたいです。あとはワセダは男子メインでやってきてるんですけど、女子もいるんだぞ、っていうのを見せていきたいですね。
髙橋 わたしはジュニア最後の年になるんですがまだジュニアの遠征に行ったことがないので、ジュニアの遠征に是が非でも行きたいなというのと、あとまたニューヨーク遠征に行って、今回獲れなかった優勝を獲りたいと思います。
勝ちに貪欲に、勝ちに行く
――お話は天皇杯に移っていきたいと思います。天皇杯に向けて現在どのような点を強化していますか
多胡島 今季一年を振り返ってみて自分が対策される側になったときに、脆いなっていうのをすごく感じて。自分の弱点をついてくる選手がすごく増えたなって思うので、そういうのを念頭に置いた上で弱点をできるだけ減らすっていうのと、相手の対策の上をいくような攻撃力を深めていかないとな、と思ってます。自分がどうするかじゃなくて周りがどういうふうに自分を対策しようとしているのか、どういうふうに自分に勝ちにこようとしているのか。そこまで意識に入れた上で練習に取り組んでいかないとな、って思いながら毎日やってます。
香山 わたしは気持ちづくりですね。やっぱりどうしても国内は緊張しちゃうので。そこでどう上手く気持ちを乗せられるかっていうのが課題ですね。ことしの6月の明治杯なんかは気持ちが乗らなくてそれで負けたようなもんなので。天皇杯はどう気持ちのピークを持っていくか。海外で試合するときのように自分の動きができるようにやりたいですね。
髙橋 わたしはとりあえず自分のできることをやりたいですね。ことし一年負けた負けない関わらず、自分のできることをやってきたので、結果はもちろんなんですけど内容重視で。ことし勝ってできたことを自信を持ってやりたいな、と思ってます。
――髙橋選手はオリンピック階級の63キロ級での出場ですが
髙橋 ことしの世界選手権の代表で、東京オリンピックの代表に内定したのが自分と年の近い選手で何回も試合したことのある選手なんですよ。わたしもオリンピックに出られるとか国際大会に出られるとかの年齢に近づいてきたんですけど、逆に実力が全然追いついてきてないなと思うので、オリンピックを視野には入れたいですけど、入れてもいいかってところだと思うんですよ、自分の中で。だからまずは勝てる試合勝って、行ける遠征行ってそれも勝って、それで自分の力と考えが合ってきたら視野にも入れたいなと思いますね。
――最後に天皇杯に向けて、目標と意気込みをお願いします
多胡島 一昨年やきょねんは、まだ、みたいな言い訳できたんですけど、勝てたらいいじゃなくて勝たなきゃいけない試合になると思うので、また別の意味でプレッシャーになると思いますね。やっぱりことしちょっと不甲斐ない成績が続いてるぶん、ここでなんとか仕事して、来季全タイトル獲るっていう目標に気持ちよくつなげたいですね。まずはしっかり優勝したいです。
香山 わたしは同じ階級に63キロ級のオリンピック代表が出るので、実力的にまだそこには絶対届かないと思ってるので、組み合わせがどうなるかまだわかんないんですけど、その人と当たるまでは負けたくはないですね。あと、今回のゴールデングランプリの遠征は日本人枠があったんですが、出場枠を60キロ級で獲ったのは自分ななのに58キロ級で出場させられて、それには大人の事情があると思うんですけど、だから国内で絶対に勝たないといけないんだなっていう悔しい思いがあるので、その人と当たるまでは絶対に勝ちたいです。あと今回勝っておかないとらいねん以降の全日本の出場も危うくなってくるので、しっかり勝ちたいですね。
髙橋 わたしはやれることをやるのが一番の目標です。オリンピック代表の選手は60キロ級に階級を落としていて、いま伸びている選手は同じ階級にいない、と階級を見て思いました。なので、表彰台にあがるチャンスはあると思うので、とにかくやれることやって、できることやって、自分にとってプラスになる大会にしたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 杉野利恵、寺脇知佳)
写真だけでもタレントオーラを感じます
◆多胡島(たこじま・のぶよし)(※写真左)
フリースタイル70キロ級。秋田・明桜高出身。スポーツ科学部3年。強い眼力で語ってくださった多胡島選手。その考えには毎度学ばされることばかりです。ダーティーな海外選手のように勝ちに貪欲に、きっと『名誉挽回』を果たしてくれることでしょう!
◆香山芳美(かやま・よしみ)(※写真中央)
フリースタイル60キロ級。東京・安部学院高出身。スポーツ科学部2年。海外経験を多く積み、実力十分の香山選手も、やはり最後の決め手となるのは『気持ち』のようです。女子レスリングを引っ張っていく存在として、天皇杯でもぜひその輝きを放ってください!
◆髙橋海寿々(たかはし・みすず)(※写真右)
フリースタイル63キロ級。大森学園高出身。スポーツ科学部1年。 受け応えや言葉の至る部分に知的要素が見受けられた髙橋選手。色紙には論語の一説、「學而時習之(学びて時に之を習ふ)」と書いてくださいました。この一年で学んだことを存分に発揮してください!