保坂が連覇、桑原も3位。下級生は内容に不安残る

レクリング

 フリースタイルの大学日本一を決める内閣総理大臣杯全日本大学選手権(内閣杯)は13日に後半の4階級が行われた。今大会は大学から各階級に1人ずつ出場し、個人戦とともに、個人順位に応じて与えられる得点を合算する大学対抗も行われる。早大は74キロ級で保坂健主将(スポ4=埼玉栄)が貫禄の連覇達成。これまで実力を発揮できていなかった65キロ級・桑原諒(スポ4=静岡・飛龍)も3位に入賞した。しかし残る階級では上位に進出できず、昨年優勝した大学対抗得点では4位。来季へ向けては不安が残った。なお、内閣杯は全学年が出場する学生大会としてはことし最後で、4年生はこれで引退となる。

 保坂主将はこの大会で、主に戦ってきた70キロ級から一つ上に階級を変更。「力負けしないように」という意識はあったが、体重差を感じさせず、順調に勝ち上がっていく。武器であるタックルが勝負どころで光り、相手に攻められても動じない。苦しい場面はあったが、自らのスタイルで勝ち切った。保坂主将は昨年の66キロ級に続き、2階級での連覇を達成。しかし真の目標はこの先にある。2015年はいよいよリオデジャネイロ五輪代表選考の年。ここで五輪実施階級の74キロ級に切り替えてきたのは、選考へ向けて試運転というところか。年末の天皇杯全日本選手権で世界選手権銀メダリストの高谷惣亮(ALSOK)を捉えられるかに注目が集まる。

ローリングで攻める保坂主将

 保坂主将と同じく、あるいはそれ以上に光ったのが桑原だった。高校時代は数々のタイトルを取ってきたが、大学入学以降はなかなか結果を残せず、今大会で競技から離れることになっていた。「最後に出し切る」と気持ちを入れて臨んだ内閣杯は、2回戦で全日本学生選手権60キロ級王者の日体大・中野晶太と対戦。試合は接戦で、何度も得点を奪われそうになるが驚異の粘りで耐える。最後は背後に回られ、膝をつけば敗戦、耐え切れば勝利という状況。必死に体重をかける中野に対し、桑原も必死に耐え、10秒近くこらえて勝利をつかみ取る。試合後はセコンドの太田拓弥コーチとがっちり握手。準決勝で敗れて3位に終わったのはやや残念だったが、「後々語り継がれるような試合」(太田コーチ)を残した。

桑原は3位入賞を果たした

 学生最後の大会に臨んだ4年生は、実力と根性を見せた。ところが下級生に目を転じると「大いに不満」(山方隆之監督、平4人卒=福岡・築上西)という内容だった。学生二冠の多胡島伸佳(スポ2=秋田・明桜)の活躍は際立つが、その他の選手は実績に欠ける。4年生が抜ける来季は、今季以上に厳しい戦いとなるだろう。しかし、勝負は実績でするものではない。三大団体戦の一つ目、東日本学生リーグ戦までは6カ月余りある。取り組み方次第では「どれだけ伸びてくれるか楽しみ」(山方監督)という鍛錬の期間へ入っていく。

(記事 三尾和寛、写真 井上義之、谷田部友香)

左から多胡島、保坂主将、桑原

結果

▽57キロ 藤川聖士(スポ2=埼玉栄)   予備戦敗退

▽65キロ 桑原              3位

▽74キロ 保坂              優勝

▽96キロ 土赤耕陽(スポ2=山形商)   8位

学校対抗得点 4位 35点

コメント

山方隆之監督(平4人卒=福岡・築上西)

――今大会2日間を振り返ってどうでしょうか

多胡島(伸佳、スポ2=秋田・明桜)と保坂(健主将、スポ4=埼玉栄)の勝つべき者はしっかり勝ってくれました。桑原(諒、スポ4=静岡・飛龍)はずっとなかなか結果を残せていなくて、なんとか最後の学生の試合で結果を出してほしいなというところで最低限の3位、もう1つ上の試合(決勝)をやってほしかったのですが、最低限の3位を取ってくれて良かったなと、安心したというのが第一です。全体的に言うと1年間、課題、課題と言い続けてきましたが、まだまだ取り組み方が甘いところがあるのか、今の実力や位置を本当に分かっているのかというところを疑問に思います。また1から取り組んでいかないといけないのかなと思った試合ですね。

――桑原選手はずっと指導されてきて、うれしい勝利だったのではないでしょうか

うれしいですね。本当だったら決勝に出てほしかったのですが(準決勝で)負けて、諒自身も決勝にという強い思いがありました。しかし最後しっかり3位は守ってほしいなと思っていて、切り替えてやってくれて、泣きそうになっちゃいました(笑)。

――最後の大会で上位進出した要因はどこにあると思いますか

いやいや、実力はあるんです。それを試合で出し切れてなかっただけの話ですが、やはり思いが強かったというのが一番だと思います。勝てる実力があって勝ち切れないというところで彼も相当悔しい思いをしていたと思うので、最後というのがあって今まで以上に気持ちが入っていたと。それが結果に結びついたというだけだと思います。

――優勝した保坂主将、多胡島選手は完勝という印象でした

多胡島はインカレ(全日本学生選手権)からちょっと実力的に伸びたなというのを感じた試合でしたね。保坂については70キロ級でやってきて、1つ階級を上げてというのもあったのですが実力的には優勝しなくてはいけない選手です。試合前の練習であまり練習できていなかったので。大丈夫だとは思っていましたが、内容的にはもうちょっと健らしさを出し切れていなかった試合がいくつかあったと思います。

――一方でその他の下級生には不満が残る試合でしたか

大いに不満ですよ。結果というよりも内容が悪い、悪すぎるというのが大いに不満です。監督、コーチが悔しい思いをして不満に思っていても、本人たちが悔しい思いをしているのかどうなのかは本人たちにしか分からないので。どんなに次に向けて頑張ろうと監督コーチが言っても、取り組むのは本人で、取り組み方を決めるのも本人で、そこは今後に向かって期待する部分も大きいと思います。ただ今回の試合は本当に不満です。

――取り組み方を変えれば期待があるということですか

当然です。伸びない選手に課題と言っても酷だと思うので、伸びると思っているからこそそれぞれの課題がありますし、不満に感じている部分があります。負けて当然だと思う選手だったら、不満だとは思いません。ただ1年生は再来週から新人戦(東日本秋季新人戦)があるので、今回の課題というよりは悔しさをどれだけ試合にぶつけられるかという意味では期待してみようと思います。

――この体制では最後の大会ですが、4年生に向けて声をかけるなら何と言いたいですか

まずは「お疲れ様」ですね。レスリングを続ける者もいます。もうすぐOBになるということで自分たちのことも大事ですが、後輩たちの面倒も引き続き見てやってもらいたいなと思います。まずは本当に「お疲れ様」ということを言いたいですね。

――最後に来季へ向けてお願いします

ことしの4年生は女子の田中亜里沙(スポ4=埼玉栄)についてもそうですが、一人一人がチームの核になる者でした。なので、来季はことし以上に厳しい試合になるのかなとは思っています。その厳しい中でいかに実力を伸ばしていくか、結果を出していくかというのは今まで以上に頑張らないと。やることをやらないといけないし、やり方も考えないといけないし、課題ばかりの1年間にまたなるのかなと思います。不安というよりは、どれだけ伸びてくれるか楽しみな部分もあります。

太田拓弥コーチ

――保坂健主将(スポ4=埼玉栄)は良い内容だったのではないでしょうか

準決勝、準々決勝はちょっと苦戦しましたが、良いレスリングができました。74キロは本来の階級ではないですが、キャプテンがしっかり勝ってチームを引っ張ってくれたかなと思います。

――強敵が続く組み合わせでした

そうですね。でも勝負どころでしっかりタックル取れていましたし、彼には絶対的な信頼をおいているので間違いなくやってくれると思っていました。

――桑原諒(スポ4=静岡・飛龍)選手はいかがですか

諒は特に日体大(中野晶太)戦ですね。いつも勝負所で負けているという内容だったのですが、本当に根性を出してよくやってくれました。その勢いが保坂にも移って、良い試合をしてくれたと思います。彼の実力なら決勝まで行ってくれると思っていたのですが、そこはまあ、大学でチャンピオンになったことがない中で最後に3位に入って全日本選手権(天皇杯)に出られるので良かったと思います。

――最後に上位進出した要因はどこでしょうか

やはり最後にかける思いだと思いますね。気持ちがすごく入っていたのが伝わってきました。

――試合後は握手をしてかなり喜んでいらっしゃいました

そうですね。特に日体大戦で勝った時にはもう、今年度はリーグ戦(東日本学生リーグ戦)から悔しい思いをずっとしてきたので。この間の全日本女子(全日本女子オープン選手権)ではその憂さを晴らしてもらいましたが、男子では悔しい思いをしてきたのでようやく後々語り継がれるような内容の試合でしたね。あわよくば総合優勝してもらいたかったですが、なかなか厳しいかなと。

――その他の2人、下級生は厳しい内容でした

そうですね。来季のことを考えると相当課題の残る試合結果だったので。唯一、多胡島(伸佳、スポ2=秋田・明桜)だけは群を抜いて勝っていたというところです。チームが一つになって戦ってくれたら必ずチャンスはあると思うので、もう一回あしたから新体制なのでしっかりスイッチを入れていきたいと思います。

――土赤耕陽(スポ2=山形商)選手には試合後に強い口調で指導されていました

まあケガというのもあるのですが。他のメンバーにも言っていますが、自分が攻撃をしかけてひっくり返されるという内容だったら次につながるんですよね。土赤の最後の試合はタックル入ったのに止まって、プレッシャーで押されてしまう。何とか勝とうという姿勢が見受けられなかったと。一番良くないのはがぶってバックを取られることと、ローリングで返されることです。気持ちが入っていないということなので、そういうレスリングをやるとチーム全体がこう(下がっていく)なっちゃうんですよ。本当に諦めるような試合内容なのでそれが不甲斐なかったと思います。勝ちたいというのが見えなくて、しぶとくいってほしいというところで簡単にギブアップしているような感じの試合内容だったので。

――きょうでこの体制は最後ですが、4年生はどのような学年でしたか

個性が(笑)。最後にちょっと足並みそろえていけたかなと思いますね。なので、そういったことを考えればよくできたとは思います。個性が強くて、いまスタートだったらリーグ戦(東日本学生リーグ戦)優勝できたかなという内容でしたね。それをコントロールできなかったという反省も含めてあしたからとなるので、しっかりやらせたいと思います。

――4年生に最後に言葉をかけるなら何ですか

「お疲れさん」ですね。

――今後、特に来季へ向けて一言お願いします

課題は山積みですが、一人一人がもっと深く考えればそんなに難しいものではないです。そこをしっかりコントロールしていけばリーグ戦の決勝リーグに上がれると思います。今回優勝した日大はほとんどの階級で上位に入っていて、そういう底上げをしていけばもちろんこの大会でも優勝するチャンスはあります。もう一回コントロールして、もう一回スイッチを入れてやらせたいと思います。

保坂健主将(スポ4=埼玉栄)

――今大会の目標は何でしたか

やはり優勝が、2連覇がかかっていたのでそれを目標にしていました。

――目標を達成して、いまのお気持ちはどうですか

ほっとしています。

――昨年の6キロ級とことしの74キロ級で2階級制覇となりました

相手の体が大きかったのでそこは力負けしないように頑張りました。そのほか意識したことは特にないですね。

――74キロ級は今大会一番の激戦区となった階級でした。振り返ってみてどうでしょうか

下の代の子たちが強い階級でインカレ(全日本学生選手権)も1年生が優勝していたりもしたので、またこれも1年が優勝したら「4年生何やっているんだ」となってしまうので、どうしても勝ちたかったです。

――今大会で苦戦した試合はどこですか

拓大の浅井翼が74キロ級でインカレも2位とか世界ジュニアとかも出ていてすごく強い子なので苦戦しました。

――浅井選手のどういった点に苦戦しましたか

やはり手足がすごく長いので。僕はタックルが得意なのですが、なかなか足が取れなくて難しい試合でした。

――逆にタックルが決まる場面も多く見られましたが

それしかできないですし、それができないと勝てないので(笑)。

――天皇杯全日本選手権(天皇杯)への意気込みをお願いします

階級上げて今回は良いスタートが切れたので、天皇杯でも優勝はもちろん目指しますが、自分のレスリングがどこまで通用するかとしっかりと見極めたいと思います。

――チームとして出場するのは今大会が最後ですが、主将としての1年間を振り返っていかがですか

同期もすごい良い同期でした。今回、桑原(諒、スポ4=静岡・飛龍)がインカレチャンピオンに勝ったりもしましたし、その試合を見て力をもらいました。すごい刺激を受けた同期でしたね。中井(堅太、社4=南京都)に関しても高校ではチャンピオンではなかったのに大学入ってからチャンピオンになったり、田中亜里沙(スポ4=埼玉栄)とは高校から一緒にやってきたのですが、すごい刺激をもらえました。後輩たちも、僕結構理不尽なところがあるんですけど(笑)、一生懸命ついてきてくれていたので、明るく良い1年間でしたね。

――苦労したことはありますか

苦労したことは重量級の選手層が薄いことですね。リーグ戦(東日本学生リーグ戦)とか団体戦で1つタイトルが欲しかったです。僕が1つ2つ上の階級に出て勝てれば良かったのですが、そんなに僕が強くなかったので。チームで1個タイトル獲れなかった、獲らせてあげられなかったことが心残りというか、苦労しましたね。

――逆に良かったことはありますか

このチームは中量級がすごくレベルが高いので僕自身も成長できましたし、重量級でも組手のうまい洞口(幸雄、スポ3=岐阜・岐南工)とかがいて良い練習になります。女子も結構強いので、一緒に試合やっていてすごく刺激を受けました。全体的に見て良いチームだったことですかね。

――最後に後輩に向けてのメッセージをお願いします

僕、大学3年生、昨年の内閣杯で優勝して最優秀選手賞ももらって、すごい気持ち良かったというかうれしかったので、そういう思いを後輩にもしてもらいたいです。そういった思いを味わうためには普段きついことをやらなきゃいけないし、やらなきゃ勝てないので、自分からどんどんきつい方にきつい方に追い込んでいって、試合で結果を残してほしいです。

桑原諒(スポ4=静岡・飛龍)

――表彰台に立ってみての感想はいかがですか

4年間の最後で、何個か最低限のタイトルは取りたいと思って入学してきたのですが結果としてはこういう感じの結果になって、そこは不満です。ただ僕はこれで引退になりますが、悔いはないですね。そこは自信を持って言えます。強いて言えば結果のところでもう少し望むところがあったのかなというのはありますが、やり切ったかと言われたら、「うん」と言えます。今回の3位も価値あるものだったと思います。

――日体大の中野晶太選手との試合はすごい粘りでした。振り返ってみてどうですか

同じ静岡の出身で、高校の時は僕が60キロで彼が55キロ級で、ずっと下でやっていて。いくらインカレ(全日本学生選手権)チャンピオンとはいえ負けられないなというのがあったのでそこは最後粘り勝ちできて良かったです。

――きょうの試合は気持ちが入っていたように見えました

今までの試合に比べて、僕のレスリング人生というのが今回で最後だったので、本当に出し切るというのをモットーにやっていて、そこの違いかなと思います。

――満足いく試合でしたか

結果は結果なので「満足です!」とは言えないですが、4年生みんなで協力して試合ができたのでそこは満足しています。

――天皇杯全日本選手権には出場する予定ですか

内定先が決定していてそちらの研修次第なので、いろいろ相談して決めようと思います

――4年生としての最後の試合でした

うーん、「出し切った!」という感じですね。