前川、天皇杯2連覇達成!更なる進化を遂げて世界へ挑む

レクリング

 ついに今季最後の戦いが幕を開けた。天皇杯全日本選手権(天皇杯)初日、ワセダからは今大会で引退となるグレコローマンスタイル(グレコローマン)60キロ級・池田圭介(スポ4=群馬・館林)と51キロ級の田中亜里沙(スポ3=埼玉栄)、金子和(社2=群馬・大泉)の3選手が出場。続く2日目、池田と同じく今大会で引退となるフリースタイル74キロ級・北村公平(教4=京都八幡)が惜しくも敗者復活3回戦で敗退していくなか、グレコローマン120キロ級・前川勝利(スポ3=茨城・霞ヶ浦)が天皇杯2連覇を達成。世界選手権代表の強さを見せつけた。

谷田(右)、園田という強敵を脇に、表彰台の中央に登った前川

 天皇杯2連覇――。前川にとって今大会最大のヤマ場となったのは初戦だった。相手は国民体育大会で準優勝し、今、前川が最も警戒視している谷田昇大(ヤマヨテクスタイル)。「事実上、決勝戦が初戦だった」(前川)の言葉どおり、拮抗(きっこう)した試合となった。その数少ないチャンスの中で、1ピリオド(P)後半、前川は相手が受けた警告からの隙を逃さない。ローリングで返して2点を先取。結果的にこれが勝敗を決める「勝負のポイント」(太田拓弥コーチ)となった。国歌斉唱後、会場全体に緊迫した空気が伝わり始まった決勝戦。相手は宿敵・園田新(拓大)、明治杯全日本選手権決勝を戦った相手だ。ここで前川の思いきりの良さが勝ちを呼んだ。1P前半、前川が左を差してそり投げに成功し3点を勝ち取る。前川自身の「絶対に勝ってやろう」という強い思いが決勝の大舞台で大技を決める結果につながった。そして、無失点で臨んだ後半戦が始まる。試合終了のブザーが鳴り響くまで、太田コーチと確認していたという「手堅く」いく方針を忘れずに守り抜き、4−2で勝利。この瞬間、天皇杯2連覇を成し遂げた。

 北村は2回戦でタックルからのバックで点を奪い、1P途中で8-0と圧勝。相手がワセダのコーチも務める佐藤吏(平19スポ卒=現読売千葉広告社)ということもあり苦戦した初戦とは一転し、北村らしさを取り戻す。しかし、続く準決勝では宿敵・高谷惣亮(ALSOK)と対戦。相手のペースで試合を展開され、フォール負けを許してしまう。迎えた敗者復活3回戦。投げ、タックルと序盤から流れをつかみ、一時は同点に追いつかれるも5−3とリードする。ところが、残り30秒に逆襲が待っていた。足をすくわれ、バックでポイントを取られてまさかの逆転負け。北村は「最後30秒でもう勝ったと思ってしまったのが敗因」と語る。引退試合で花を添えることはできなかったが、「自分の納得いくというか、自分の好むかたちで終えられたのですごく良かった」と4年間の集大成となる今大会を振り返った。

北村の敗者復活3回戦。最後のタックルをかわせずに敗れた

 今季最後の大会で天皇杯2連覇という有終の美を飾った前川。来年にはアジア大会や世界選手権が控えている。次に目指すは日本に留まらず、世界での活躍。世界のトップ選手といかに肩を並べて戦っていくことができるか。本人が語る最大の課題「海外と戦える体」作りへ――。来季も前川から目が離せない。

(記事 河野美樹、写真 井上義之、三尾和寛)

★OBの山口剛(平24スポ卒=現ブシロード)も優勝

 2日目はOB選手も3名登場。フリースタイル96キロ級では山口が2連覇を達成した。ことしの世界選手権で8位に入った山口は今大会でも強さを発揮。3試合全てでフォールかテクニカルフォールを奪う完勝を収める。決勝後にはブシロードのコーチで、今回はセコンドを務めていたプロレスラー・永田裕志の代名詞、敬礼ポーズを取るパフォーマンスも見せた。

完勝で2連覇を達成した山口

結果

▽グレコローマンスタイル

60キロ級  池田圭介(スポ4=群馬・館林)  敗者復活2回戦敗退

120キロ級 前川勝利(スポ3=茨城・霞ヶ浦) 優勝

▽フリースタイル

74キロ級  北村公平(教4=京都八幡)    5位

▽女子

51キロ級  田中亜里沙(スポ3=埼玉栄)   2回戦敗退

       金子和(社2=群馬・大泉)    2回戦敗退

コメント

太田拓弥コーチ ※21日のコメント

――池田選手(圭介、スポ4=群馬・館林)は残念な結果に終わってしまいました

ケガで後半はろくに練習もできていなかったので、取りきれなかったかなと思います。

――これで池田選手は現役引退となりますが、どういう言葉をかけたいですか

4年間一生懸命やってくれましたので、ご苦労さんという言葉をかけたいと思います。

――田中選手(亜里沙、スポ3=埼玉栄)は点を取った後がやはり課題でしょうか

動きが後半悪かったですね。タックル入っても次の足が出なかったり、相手へ踏み込む足が横へ流れたりして、相手が崩れていない中で入ってと全て中途半端になっていましたね。

――前半は良い展開でした

前半は良いかたちでポイント取れていましたけど、ポイントの取られ方が悪かったですね。もう5秒10秒踏ん張れるところをあっさりやりすぎていました。3回の攻撃がありましたが、3回とも粘るところがなかったので、もうちょっと粘るようなかたちを取っていれば。1ラウンド目の最後のポイントは残りが数秒しかなかったですから、時間切れで防げたかもしれなかったので、そういうところの粘りをつけていかなければいけないなと思いますね。

――あした以降へ期待されるところは

きょうの試合では自分がやってきたことを全然出し切れていなかったので、和(金子、社2=群馬・大泉)が少し良い試合をしてくれたかなというくらいで、やってきたことをすべて出し切るような試合をしてもらいたいなということですね。

――今出ました金子選手の試合は評価されていますか

全日本優勝経験者(菅原ひかり、至学館大)とあそこまで良い勝負ができたので、もっと泥臭く取りにいけば勝てるチャンスも無いことは無いかなと。あともう少し踏ん張るところは踏ん張って、取りにいくところはガツガツいけばというところで、手応えは十分に感じていると思います。もう少し練習でのレベルを上げていけばこのレベルで勝てないことも無いかなと思います。リーチがあって相手はやりづらいと思うので、試合でもいい試合をしますし、もっともっと実力をつけていけばこのレベルでも勝てないことは無いですね。

太田拓弥コーチ ※22日のコメント

――前川選手は最高の結果となりました

手堅くいったことが勝因なのと、決勝戦は思いきりの良さが出ました。少しラッキーな部分もありましたが、よく攻めてポイント取って勝ったなと思います。

――谷田昇大選手(ヤマヨテクスタイル)との2回戦がひとつのポイントだったと思います

実力的に谷田と園田(新、拓大)は一緒くらいか、もしくは谷田の方が上という感じですね。よくグラウンドで(ローリングで)返して、あのポイントが勝負のポイントだったかなと思います。

――園田選手との決勝戦では投げが決まって大きくリードしました

押されている場面もありましたが、思いきりの良さもあって、よくあそこで投げたなと。投げに失敗してもリスクでスタンド(リスクをおかして投げた場合は投げに失敗しても両者無得点でスタンドから再開される)になるというルールの影響も多少なりとはあったかと思います。

――結果の出なかった北村選手についてはいかがですか

相手のタックルを意識しすぎて、自分の本来の良いタックルが出ていなかったです。五輪を目指すのなら高谷惣亮選手(ALSOK)に勝てないといけないですね。右を差しての攻めの展開はある程度できていたのですが、まだかたちとしてはポイントにつながっていないので、そこを徹底していけば勝つチャンスは出てくるかなと思います。

北村公平(教4=京都八幡)

――きょうは満足のいかない結果となったと思いますがいかがですか

結果としてはそんなに良い結果を残していないですけど、この前の早スポの特集で言ったように、楽しく最後を終えられたのかな、と思います。自分の中で満足のできる試合で終わった感じがするので、悔いがないわけではないですけど、1つの節目としてこれでいいんじゃないかな、と思います。

――準決勝での高谷選手との試合を振り返っていかがですか

フォールされたという結果は良くはなかったですが、これで自分が攻めたいという技で攻められてましたし、完全に効いてなかったところはありましたけど、もっとこれをこうしたら今後につながるかな、という課題みたいなものも見えたので、トータルとして良かったかなと思います。

――鎌田学選手(自衛隊)との試合の敗因は

最後相手もバテてて、自分の組み手で圧倒していたので、もうこれ勝てるなって思っちゃったんですよね。それで相手が勝ちたい一心で飛び込んできたやつに反応できなかったので、最後30秒でもう勝ったと思ってしまったのが敗因ですかね。油断しました。

――今回でレスリング部を引退となりますが、大学での4年間を振り返っていかがですか

1年生の時から団体とかにも出してもらったので、すごく良い経験をさせてもらった4年間でした。それで最後も自分の納得いくというか、自分の好む形で終えられたのですごく良かったです。色々指導してくれた太田コーチ(太田拓弥コーチ)を始め、監督、OBの先輩方、あとは仲間にはありがとうの一言です。

――後輩に向けてメッセージをお願いします

今季で内閣全日本大学選手権(内閣杯)には優勝しましたけど、まだ全日本大学グレコローマン選手権(全グレ)で初優勝を取ってないので、後輩たちにはそれを取ることと、またそれだけじゃなくて団体の3冠を狙って今後も頑張って欲しいと思います。

前川勝利(スポ3=茨城・霞ヶ浦)

――天皇杯全日本選手権2連覇を成し遂げられた今のお気持ちを教えてください

ことしの最後の試合を優勝で終わらせて気持ち良く終わりたいなというのが一番でしたね。あとは2連覇もかかっていて、来年アジア大会などの選考も兼ねていますし。やっぱりそういうところで絶対負けられないなっていうところがあって、その中で勝てたことはすごく良かったなと思います。

――初戦(2回戦)の谷田選手との試合は振り返ってみていかがですか

谷田選手はすごいレベルの高い選手で、この間の国民体育大会で準優勝していますし、何回か過去にも戦ったことがありまして、向こうブロックにいたら多分谷田先輩が上がってくるだろうなっていうくらいの本当に強い選手でした。事実上、決勝戦が初戦だったということが大きくて、向こうは1回戦挟んでから上がってきましたが、僕は初戦なのでばててしまうなというのは覚悟していたので、その中で勝てたことは良かったと思います。

――準決勝では8−0と圧勝でしたね

準決勝の相手は正直格下で、ことしの春の東日本学生春季新人戦のチャンピオンの大学1年生の子ですね。明らかにレベルの差はあるっていうのは分かっていたので、とりあえず相手をケガさせないようにということに気をつけてやりました。

――決勝はどのような気持ちで臨まれましたか

明治杯全日本選抜選手権では決勝で戦った相手なのですが、1年生ということもあって若いのにはまだまだ負けられないなという気持ちがやっぱり強くありました。やっぱりそこは絶対に勝ってやろうという気持ちがあって、その中で内容的にも大技が決まりまして、大差つけて勝つことができたので、結果的には良かったかなと思います。

――決勝で、1ピリオド(P)から2Pまでの休憩タイムでは何か考えられていましたか

僕が点数取って勝っていたので、後は変に自分がミスをしないようにもう手堅く手堅くと。やっぱり太田コーチともずっと手堅くということを言っていたので、そこに重点を置いていました。コーション取られなければ絶対に負けることはないだろうと思っていたので最後は(無理せず)点数を与えて勝ちました。

――最後に今後世界で戦われることに向けてお願いします

来年度からは130キロ級になって、やっぱり海外の選手はもっと体が大きいですね。僕なんかまだ全然腹もぽにょぽにょなんで(笑)、そして下半身も細い方なのでどんどんどんどんそういうところを強化して海外と戦える体を作っていかなきゃなというのが一番大きな課題です。