レスリング界の最大の大会である天皇杯全日本選手権(天皇杯)――。この大会を前に今回は新鋭の下級生2人、黒澤翔(スポ2=茨城・鹿島学園)と多胡島伸佳(スポ1=秋田・明桜)にスポットを当てる。内閣杯全日本大学選手権(内閣杯)で5位に入賞した黒澤と、ルーキーながらも結果を残している多胡島。強豪・早大レスリング部内でも存在感を示しつつある2人は、天皇杯にどう挑むのか。今季の振り返りや部の雰囲気を交えながら、天皇杯への意気込みを語っていただいた。
※この取材は11月30日に行われたものです。
成長感じた1年
黒澤は落ち着いた語り口
――今季1年間の試合を振り返ってみていかがですか
黒澤 今まで特にタイトルを持っていなくて、新人戦(東日本学生春期新人戦)取ってその後試合経験を色々させてもらったのですが、やっぱり強い相手にいつも良い試合してぎりぎりで勝ち切れないという点で、結果としてはあまり良くなかったです。ただ内容としてはことし1年というのは成長できた年なのかなと思います。
多胡島 僕の場合は1年間通して試合結果に結構ムラがありました。その良い時と悪い時があるのは全然構わないと思うのですが、全日本(天皇杯全日本選手権)だったりという要所要所でいかに良いところに合わせられるかと、そこが今回の全日本のポイントかなっていう風には思っています。
――特に印象に残っている試合はありますか
黒澤 試合内容で印象に残っていると言ったらあまりないです。しかし、自分は最近ケガが多くて、リーグ戦(東日本学生リーグ戦)は最終日2日出られるか分からない状態で、そんな中一応大差では負けないというか良い内容で試合できたので。内閣もそうだったのですけど、ケガと付き合いながらというのが、結果じゃないのですが印象的ですね。ことし1年の全試合ほとんど印象に残っているのですけど。特にこれが1つ印象に残っているっていうのはないのですが、その試合までの、例えばリーグ戦だったらリーグ戦の時に中日でケガしてという印象が残っていて、内閣杯(内閣杯全日本大学選手権)だったら途中でと。まとめると、1試合に絶対何か1つ思い入れがあるのかなって自分の中では思います。なのでこれ1つというのはないです。
――今ケガの具合はいかがですか
黒澤 普段から腰が慢性化していて、悪くはないのですが、いつもなぜか試合前になるとケガするので。今もあまり芳しくはないって感じです。
――多胡島選手は特に印象に残っている試合はありますか
多胡島 さっきも言ったように僕は結構調子の良い悪いっていうのがあるのですが、その中で8月の世界ジュニア(世界ジュニア選手権)の時は場所もブルガリアで環境も全く違う所で、調子を合わせるのは普通にしていてもすごく大変だと思うのですが、うまいことピークに持っていけました。そこでその結果5位という順位ももらえたので、今まで波がある中であんまり良くない環境でもそういう風に結果を残せたのはすごく自信にはなりました。
――黒澤選手は、春の新人戦で優勝し内閣杯でも5位と結果を残していますが、成長した部分はどこにあると思いますか
黒澤 自分の場合、成長した部分は特に自分では実感ないですかね。周りからレスリングが変と言われていて、成長していても変だ変だと言われるので、その変な部分が更に変になったと思います。あとはメンタルですかね。
――多胡島選手は、入学後すぐにJOC杯ジュニアオリンピックカップ(JOC杯)で優勝されましたが、大学と高校のレベルに違いは感じましたか
多胡島 そもそもレスリングの試合のやり方というのが全く違うとJOC杯で肌で感じて、それを4月に感じられたというのがすごく良かったです。それからの練習にそういう経験が生きてくるので、修正は早くできたかなとは思います。
――その後の世界ジュニアでのブルガリア遠征はどのような経験となりましたか
多胡島 さっきの繰り返しになるのですが、気候が思ったより日本と全く違っていて、日本より乾燥していて気温も高かったです。ブルガリアに行く直前に和歌山で合宿があった関係もあって体重調整が大変で、ブルガリアに入った時に計量前日で5キロオーバーくらいでした。今まで国内の試合でも前日5キロってあんまりなかったので、まず計量パスしないと試合どころじゃないのでそこは苦労したのですが、そういう状況でも体重落とせたのでまた減量の幅っていうかある程度無理してでも体重って落ちるんだなって(笑)。その気になれば体重っていくらでも落ちるんだなって思いました(笑)。
――秋の新人戦では3位でしたが、この結果についてはいかがですか
多胡島 ちょうど調子の良い悪いの悪いところが当たったというのもあるのですが、やっぱり4月で優勝したことで周りの対策の目というのも厳しくなっていると思います。それはもう4月のJOC杯の次の5月の試合(春の新人戦)の時点でもう感じ始めてはいたのですが、試合重ねるごとに自分に対する対策の目が厳しくなっているのを感じていて、その対策を超える修正を自分で加えて練習していなかったというのがありました。結局秋の新人戦が公式戦だと半年ぶりの日本での試合で。その間に世界ジュニアがあったのですが、世界ジュニアはみんな初めてやる相手ということもあって自分の長所を伸ばす練習ばかりやってしまって、それが裏目に出ちゃったかな、というのは試合終わって感じましたね。
気持ちは東京五輪に向かっている(多胡島)
1年生ながらしっかりとした意見を語る多胡島
――レスリングが一度五輪競技から除外され、復活を果たしましたがどのような気持ちでしたか
黒澤 レスリングは第1回大会から続いていた競技なので外されるのはおかしいなと感じていました。ただレスリングがオリンピック競技から外されるからといってテレビでもあまり見かけないし、別に自分が出たいと思っているわけでもなかったので、特に自分には害はないかなと。でも話題からそれるのは寂しいことと感じていました。レスリング協会はこれからもレスリングは五輪でやっていける、第1回から続いている、あって当たり前の競技と構えていたと思います。でもこれを機にレスリング協会もルールを変えたり階級を変えたり、色々手を打ってきたので逆にこれが良い刺激となってレスリングが活性化してきたのではと思います。外されるとなったらたくさん行動できましたし、自分にはあまり関係ないですけど、レスリング界には良い刺激となったと思います。
多胡島 いろんな競技をやっている子供に「将来はどんな風になりたいですか」と聞くと「オリンピックで金メダルをとりたいです」とよく言いますけど、これって実はすごいことだなと。五輪で金メダルをとるっていう状況が恵まれているなと。マイナー競技をやっている人の中にはオリンピックが無くて競技をやっている人がいるなと考えさせられました。特にレスリングの女子は、世界選手権では7階級あるのですが、五輪実施階級は4階級しか無いんです。4階級以外の選手がオリンピックの時に苦労するという話を中学生の頃、メディアとかで見ていたのですが、あまり実感できませんでした。世界選手権はあるけど、オリンピックは無いことを。でも一度オリンピック競技から外されて世界選手権はあるけどオリンピックが無い状況ってこういうことなんだ、モチベーションがこんなにも違うのかと感じました。やはりオリンピックは最高峰の大会で、みんなが目指す価値のあるものだと。オリンピックの価値を再認識させられたと思います。
――2020年に東京五輪が開催されることになりましたが、もし出られるなら東京五輪に出場したいですか
黒澤 いや、いいです(笑)。レスリングがあったら、酒を持ってレスリングを辞めた仲間と見に行きます。それでこいつら出ていたらさらに良いですけどね(笑)。
多胡島 ロンドン五輪で米満選手(米満達弘、自衛隊)が金メダルを取ったのですが、確か25歳で獲得したんですよ。自分は東京五輪の時、ちょうど25歳なんです。この間授業で競技生活のピークについて学んだのですが、レスリングのメダリストの平均年齢を計算すると24.7歳で、自分は東京オリンピックの時に何歳になるか調べたら24.7歳だったんです。これはもう行くしかないです。
黒澤 単純だなー(笑)。
多胡島 行くしかないですよ。だからもう、気持ちは東京五輪に向かっている感じです。
――それに伴って2分3ピリオド(P)制から3分2P制などのルール変更がありましたが、このルール変更には慣れましたか
黒澤 きついです。慣れないですね。2分だったら大体2ラウンドで決着つけられたし、最悪6分って感じだったのですが、実力均衡した相手だと確実に6分戦わなくちゃならないので、自分はスタミナがないので、正直きついです。慣れないですね。
多胡島 レスリング始めてことしで13年目ですけど、前のルールがちょっといい加減飽きてたんで(笑)、今のルールがとりあえず今は楽しいです。良い気分転換になったというか、ずっと同じルールでやり続けるのも面白くないと思うので。全員同じルール変更なのですが、ルール変更したおかげで自分のレスリングにも幅ができたと思います。レスリングやるっていう上では幅が広がったと捉えられればルール改正も良かったんじゃないかなって。
――他の選手はこのルール変更についてどう考えているのでしょうか
黒澤 グレコローマン(グレコローマンスタイル)なんかは前の2分3ラウンドのときだと1分30秒はスタンドをやって、残り30秒グラウンドというかたちだったので、今主将の大坂さん(大坂昂主将、スポ4=秋田商)とかはグラウンド得意だったので前のルールだったら、敵なしだったのですが。
多胡島 フリーはそこまで変わらない感じなのですが、グレコローマンとかだとだいぶ痛いんじゃないかなって思ってますね。
――レスリングの魅力はどんなところにあると思いますか
黒澤 魅力かー、特にないんじゃないですかね(笑)。自分は小さい頃からやらされていて、いつの間にか、なんで好きになってるんだろう、なんでだろう…好きなものって特になんで好きとかって説明できないじゃないですか、そういうことです!魅力はあんまり考えたことないですね。でも魅力あったら多分今頃自分らスターになってますよ。世界的に。日本でサッカーとか野球より魅力があったら多分こんな貧しい思いもしてないよね。まあマイナー競技なので。自分の中では特に魅力というか理由がない好きというか。
多胡島 道具を使わないところですかね。結局マット上には自分と相手しかいないし、試合やるといっても道具があるわけでもないし。試合中はセコンドはいるけど、選手は孤独だと思います。でも人間って元々そこから始まったわけじゃないですか。人と人が組み合って、それがあってじゃあ今度道具使ってみようってなって野球とか色んなスポーツができた中で、やっぱり徒手格闘というのは、スポーツの原点だと思いますね。で、その方が見ている人には伝わると思うしそこがまあ魅力というか、今もレスリングが存在している理由じゃないかなって。
――それを聞いて黒澤選手はどう思いますか
黒澤 その通りだと思います(笑)。はい、その通りです。良いこと言った!
団体のレスリングの楽しみ(黒澤)
グラウンドに強みを見せる黒澤
――高校時代からお互いのことをご存知でしたか
黒澤 名前は知っていましたけど顔とかは全く知らなくて、ましてやこんな変人だとは知りませんでした。階級が違うのでほとんど知らなかったのですが、名前を聞くので強いということは聞いていました。
多胡島 僕は知りませんでした。
――お互いの初めて会った時の印象を教えてください
黒澤 こいつは本当にもう印象深かったですよ。もうひとり吉川(吉川航平、社1=秋田商)という秋田出身の1年生がいて。今年度入学した1年生は人数が多くて7、8人いるんです。それで3月に入寮したときに面倒見なきゃなと思ってみんなで一緒に電車で帰ったりしていたんですね。こいつらが座って自分はつり革につかまっていて、多胡島と吉川が知り合いで結構しゃべっていたんですけど、普通にしゃべればいいのに耳元でコショコショしゃべっていて、こいつ気持ち悪と思いました(笑)。実力も1年の中では1番強いと聞いていたし、自分としては怖いなと。実力も顔もイケメンなのにコショコショしかしゃべれない変なやつだなと(笑)。印象は良くはなかったです。
多胡島 こいつ絶対ネクラだと思いました(笑)。レスリングも変だったし、今2年生4人いますけど、1番最後に打ち解けたのが黒澤さんですね。打ち解けてみると見た目と全然違うなと感じました。
――休日は何をして過ごしていますか
黒澤 お金ないので寝てます(笑)。寮飯が休日は出ないので、ご飯食べに行ったりという感じですかね。お金あったら遊びに行きたいんですけどね。
――チームメイトで出掛けたりはしますか
黒澤 多分二人ともそうなのですが、部活生以外でほとんど友達いないので。自分ら多分極端で、こいつもそうなのですが、自分の場合は、とりあえずどこでも寝ていて(笑)。スポーツクラスではホームルームがあったのですが、とりあえずずっと寝て。起きて朝練やって、疲れて学校行って、で部活行ってと繰り返して、基本的に人間関係が部活動の中で形成されているので、遊びに行くっていったらもっぱら部活仲間で。とっていっても高校時代から仲良い奴とかもいるし、レスリング通じてって感じです。でも最近遊びに行くのはやっぱ大学の同期のレスリング仲間とかが多いですかね。あと先輩にご飯連れてってもらったりという感じです、はい。
多胡島 今ちょっと考えていたのですが、きっとレスリングやってる人って心のどこかに野球とかサッカーやっている人に対する憧れがあって、嫉妬してるんですよ。だから、野球とかサッカーやってる奴がみんな大嫌いなんですよ(笑)。必然的にレスリングやっていて仲良くなれるのって柔道部とかしかいなくて不思議と。だからレスリングやってる人は基本的に友達も少ないのだと思います。でまあ、さっきも言ったようにやる時は一人なのでチームスポーツの連帯感という概念を誰も持ち合わしていないという競技性もあって。僕ももれなくあんまり友達多い方じゃないので、部屋で読書とか映画見たりとか、一人でいる方が楽ですね。
――寮で一緒のルームメイトの方はレスリング部の方なのですか
黒澤 そうです。もうこいつなんかは自分の部屋来てずっとゲームやっているので、良い迷惑ですよ(笑)。
――お二人は違う部屋ですか
黒澤 はい、違う部屋です。
――部屋はどなたと一緒なんですか
黒澤 こいつらの一個下の同期なのですが、とりあえず表面上は上手くやっているんじゃないですかね(笑)。
多胡島 花山さん(花山和寛、社4=愛媛・八幡浜工)です。4年生じゃないですか、気は遣うのですが、基本的にレスリング部の先輩ってみんな優しいので、素晴らしい先輩だと思います。部屋はすごく居心地が良いですね。
――でも黒澤選手のお部屋にお邪魔したりするのですね
多胡島 とはいってもやっぱ4年生より2年生の方が(笑)。
――早大レスリング部に入って良かったなと思う点はありますか
黒澤 高校の時は個人だけだったのが、団体で参加できるようになって団体のレスリングの楽しみを知ることができました。なんといってもこの間内閣杯で団体優勝できて、自分も一応5位とはいえそこにポイント加算できたので。自分の目的であった団体のレスリングをちゃんと遂行できたのが良かったですね。まだ内閣杯終わったばっかりで新人戦に出ていないので、今はだいぶ良い気持ちです。このまま終わってもいいかなくらいの気分で心地良いです。
多胡島 高校などに多いのですが、指導者が多い人数を指導する時に一人一人、その人に合った指導をするというのは、すごく大変だし、じゃあ自分で考えてやれと言ってもできないので、みんなに同じことやってるんですよ。そうするとその人の長所短所とかを抜きにしてとりあえず監督が得意なことを覚えるというかたちになって、高校、特に大規模な部活の高校生とかは少なからず不満を持ちながら練習していると思います。大学でもコーチ第一主義みたいなところもあるんですね。そんな中、ワセダの場合は、基本的に自分で考えてやれと言われて、部員もそれができる人が集まっています。自分で考えてやるという練習が成り立っていて、それで仮に負けたとしても完全に自分のせいなのでそれはそれで次に繋がるし、そういう自分で考える姿勢というのが部の環境としてある。その部分が一番良いところかなと思います。
――部の雰囲気はどうですか
黒澤 悪くないという感じですかね。今ちょうど4年生が抜けて新体制に移りつつある状態で。4年生が抜けて3年生が主体となって、2年生がサポートする体制ですね。気がつけばもう自分も3年生になるんだなと。こいつらも先輩になるし。部全体で言ったら、良い雰囲気よりです。自分は完璧に良い雰囲気だと逆に不安要素が大きく感じられて。よく大学で言っているのですが、部は仲良しクラブにはなっていけないと思っています。結局レスリングは格闘技なのでライバルであり仲間でもあって、完璧に仲の良い部活はとても嫌いです。だからサッカー部とかがはしゃいでいるところを見ると、「あーっ」って思いますね。本当にそれが良いのかは分からないですけど、完璧に良い部の雰囲気が自分は嫌いなので、自分の中で今の部は一番居心地がいいです。
多胡島 これまで入学して半年くらいで、見ていて思ったのが各学年に色があるところが面白いなと思っています。真面目という代もあれば、実力主義という代もあって各学年で違うんです。それが逆に良いのかなと感じます。上の言うことを素直に聞いているとそれは1年生から4年生までいる部活ではなくて4年生の部活になってしまう気がして。いろんな人がいて最終的にぶつかってもまとまることがあるべき部の姿ではないかと思います。各学年に色がある、個人でも言いたいことが言えて、ぶつかる環境は、つくろうとしてできるものではないのでこの部分が大きいかなと思います。
――早大は部全員で応援している印象があります。プレー中に応援は聞こえますか
黒澤 大半はガヤガヤしているのが聞こえます。もちろん、ワセダの部員の声だなとは分かります。プレー中にも励みになりますね。苦しい時に「まだいけます」とか聞こえたら、ここで頑張らなきゃとも思いますし。後輩に声かけられたら格好良いところ見せなきゃという使命感も出ますし。この間、早スポの大坂主将の記事を見ていたらだいぶ自分のことを押してくれているなと。自分買いかぶりされすぎだなと感じました。内閣杯の記事で「(黒澤選手が)もっとできる」と書かれていたのですが、自分はあまり欲が無いので。こんかいの内閣杯の時も試合前に計算して「今回は5位くらいかな」と思っていたら本当に5位になって。そこも悪い部分だと思うので、みんなに期待されたら頑張りたいなと思います。声援は良いものですねー、はい。
多胡島 こういうことを言っていいのか分からないですけど、正直応援してくれるのはありがたいですが、うるさいと感じることもあります。振り回されるんです。先ほど言ったように試合中の応援ひとつでも人によって指示することが違うんですよ。自分ではこの場面は様子見て、後半攻めようと思っていても、応援は「攻めろ、攻めろ」と言っていたり。応援一つでも取捨選択する能力も必要なのかなと感じます。今のところ、まだそれはできないので静かに見守っていてほしいなと。実は…
黒澤 分かりました。俺は言わないようにします(笑)。
――部内でライバルや意識している選手はいますか
黒澤 自分は同階級がいないので競り合うことはないですけど、同期の4人の中では一番の結果を出すぞとひそかに思っています。階級が違うので、結果で敵視している部分が少しあります。
多胡島 僕の場合は保坂さん(保坂健、スポ3=埼玉栄)という二冠王がいるので環境面では申し分ないものだと思いますね。やっていても楽しいですし。高校の時がちょっと辛い時期で、僕しか成績を残していなくて若干足を引っ張られている状況でした。そんな状況と比べると常に目標となる先輩がそばにいてもらえるのはありがたいとひしひしと感じながら練習しています。
――保坂選手と一緒に練習されることはありますか
多胡島 そうですね、スパーリング練習とかはお願いしています。JOC杯の時がそうだったのですが、普段これだけ高いレベルの先輩とやっているので、「今自分の目の前にいる相手はどうなのだろう」と考えると強い先輩とやっていたことがすごく自信になります。あんなに強い先輩とやっているから大丈夫だと自信にもなります。それは本当にありがたいですね。
――部内で仲の良い選手はいますか
黒澤 さっきそこにいた洞口(洞口幸雄、スポ2=岐阜・岐南工)と、ご飯とか連れて行ってもらえる先輩は保坂さんとかで最近良くしてもらっています。結構、年下のこいつとも仲良いし。その同期の吉川とかはよく自分の部屋に来るので、(同部屋も合わせて)常に4人見ている感じですね。逆に来ないと『あれ、きょうあいつら来ないの?』となります。
多胡島 吉川とはことしで12年目の付き合いで小学生の頃からずっと一緒にやってきたので、近すぎて距離を置いていた時期もありました。元々、志望校が異なっていたのですが、最終的には同じになってどうしたらいいのかと思っていました。それでも彼は学部が社会科学部なので、いい感じに距離は保てていますかね。そうは言っても一番仲が良いのは吉川ですね。
――部内のムードメーカー的な存在は誰ですか
黒澤 洞口ですね。
――どういった面で彼がムードメーカーですか
黒澤 コーチからも、先輩からも、同期からも、後輩からもいじられています。そうかと言ってアイツも反抗していじり返したりしてくるので、自分の中ではアイツが中心で部を明るくするムードメーカーかなと。
多胡島 僕と一緒にブルガリアに行った藤川(藤川聖士、スポ1=埼玉栄)も相当すごいですよ。何て説明したらいいんだろう?
黒澤 頭おかしい、本当に(笑)。俺はダメだわ。良い時は良いけど、悪い時は悪い。
多胡島 ブルガリアに行った時、良い感じにできたのは彼のおかげもあるかもしれないです。本人はそう思っていないかもしれないのですが、周りから見ると本当にちゃらんぽらんみたいな感じなので。減量やブルガリアの気候が暑くてどうしよう、どうしようとなっている時にちゃらんぽらんなところを見るとこっちも落ち着きました。結構、ムードメーカーではあると思います。
――次期主将には保坂選手が就任されるということですが、現在の大坂主将と比較して印象はいかがですか
黒澤 大坂さんと保坂さんは全然タイプが異なる人ですね。だからこれから1年どんな楽しいことがあるかなとワクワクしています。大坂さんは芯は真面目でそこにユーモアがあって、まとめてくれる感じです。みんなから慕われています。保坂さんも慕われていているのですが、何て説明したらいい?
多胡島 実力主義?
黒澤 実力主義の部分がありますね。だからといって、弱いやつを放っておくことはしないです。弱いやつというか、結果をまだ残せていない選手が保坂さんに刺激されて競技レベルが上がっていくのではないかと期待しています。下級生の気持ち次第だと思うのですが、そこをフォローしていくのが、自分達なのではと勝手に思います。
――現在の北村副将と次期副将の前川選手の印象はどうでしょうか
多胡島 前川さんは高校の時からずっと上にいてレスリングの超エリートですね。ずっと成績残していますし。北村さんも高校で五冠王とかになっていて、二人ともエリートという面では似ていますね。ただ歩んでいる道は同じなのに人間性が違っていて。個人的な考えになるのですが、部というもの3つを1年時、2年時、3年時と先輩から見習うことになって、先輩の部活を引っ張っていくやり方を学ぶことは自分が4年生になった時に役立つと思うので、いろんな人間性に触れることは良いことかなと思います。
――太田拓弥コーチはどのような存在ですか
黒澤 ワセダのレスリング部は自分が主体になってやるスタイルなので、本当に自分勝手な意見ですけどコーチはマスコットキャラクターみたいな存在ですね。教えてくれる部分もあるけど、本当にコーチも変則的だよね?自分の究めた技を教えるみたいな。自分も変なので放っておくことが多いのですが、自分を強くしてくれるマスコットキャラクターみたいです。マスコットキャラクターが主体で、それが自分に指示をくれたり、メニュー考えてくれたりするみたいな。ポジションが難しいな…。あっ、コーチ2のマスコット8みたいな感じです。はい。
多胡島 さっきムードメーカーは藤川だと言ったのですが、一番のムードメーカーは太田コーチですね。このムードをつくっているのはたぶんあの方ですね。オリンピック(ロサンゼルス五輪フリー84キロ級)で銅メダル取っているすごい人なんですけど、僕らと同じ目線からモノを言う。そういう人だからこそ、自分たちが思っていることをぶつけられる。そういう人ですけどオリンピック銅メダリストなので、信じて話を聞けますし。対等に話を聞いてもらえるところが良いところですね。
天皇杯に向けて
多胡島は離れた距離からのタックルを狙う
――天皇杯に向けて集中してやっている練習はありますか
黒澤 特に無いですね。いつもの練習をしています。いつものレスリングの環境を崩したくないので。負けたりすると自分はここが足りないなと感じる部分もありますが、これを大会前にやって試合に臨むというものはないです。いつも通りです。
多胡島 僕の場合は7年後の東京五輪という目標ができたので、先のことなのですがもっと長期スパンで考えていかなければいけないと思っています。だから目の前の大会が全てではなくて、あくまで7年後のための通過点として考えていかなきゃと。勝ったから良い、負けたから悪いではなくて。仮に全日本のタイトルをずっと勝っていたとしても、五輪出場を懸けた大会で負けたら意味がないです。勝たなきゃいけないところで勝つためにはどうしたら良いのか考えながら次の試合を迎えようと思います。常に先を意識しないといけないと思っています。まだ1年生なので全日本レベルで結果を求められる立場ではないので、先を見据えて次につながる内容で試合に臨んでいきたいと思います。
――自分の得意なプレーや強みは
黒澤 もつれです。ぐちゃぐちゃになってからですね。自分は変なレスリングで正攻法ではないので、上になるか下になるか分からないという場面でいつの間にか自分が上になっていることですね。自分の場合はタックルとかで点数をとるのではなくて、全日本でもからめたらいいかなと。
――多胡島選手から見て黒澤選手の強みはどこにあると思いますか
多胡島 僕が見ている限りでは黒澤さんは試合で練習以上のことが出ている気がします。正直、「この人こんなに強かったっけ?」と思うことがあります。それがすごいなと。もちろん、もつれとか技術的な面も普段からすごいなと思うのですがそれをレベルの高い人と対戦した時に出せるかというと、それはとても難しいことなので。自分の長所を試合で出せることは本当にすごいことだなと思います。
――多胡島選手自身の強みはどこですか
多胡島 タックルですが、タックルにも色々種類があります。組み手とかタイミングとか。僕の場合はタイミングで飛び込む感じです。僕から見ると組み手からタックルに入るのはある程度練習すれば出来るようになるんですね。でも逆に飛び込んでいくタックルは練習ではなくセンスなのではないかと。組み手無しで飛び込んで点をとるのは僕のレスリングの魅力ではないかと思います。
――黒澤選手から見て多胡島選手の強みはどこにあると思いますか
黒澤 プレーというより1番驚いたのがだんだん打ち解けてきて「次のJOC杯絶対取りますから」と宣言していて。正直な話激戦区だったので無理だろと思っていたのですが本当に取ったので。新人戦の時や他の大会前にはあまり本気では言わないのですが、JOC杯前は異常な程宣言していたので、何かこいつ持っているなと。プレースタイルではないですけど。プレー面では対戦相手によって臨機応変にスタイルを変えられることですかね。そこの差が激しいかもしれないです。みんなの多胡島のイメージは飛び込みのタックルで点数を取る感じで、多胡島が競っている時に様子を見ながら試合しているとみんなが「攻めろ、攻めろ」となるのはそのようなイメージがあるからではないかなと。多胡島の強い部分を見ているから「行け、行け」と言ってしまう気がします。改めて考えると相手によってうまく配分できているのが多胡島の強みかなと思います。
――多胡島選手の体の柔軟性について評価されている太田コーチのコメントもありました
多胡島 それもセンスの一部ではないですかね。練習ではどうにもならない部分だと思います。自分ではあまり柔軟性に頼ってはいけないかなと思っていて。あくまでも自分のしたいことのおまけで体が柔らかいことがあるだけなので。そこを武器にしようとはあまり考えていません。
――天皇杯に向けて意気込みをお願いします
黒澤 まずは1勝でもできるようにです。初出場なのでどの相手にも一矢報いてやるというか、特に自分がまだ入賞できるとかは思えないので1つでも上に行けたらいいなと。チャレンジャー精神でいきたいです。
多胡島 全日本レベルの選手から見れば、僕らは下から突き上げてくる選手と見られると思います。そんな中で少しでも脅威と感じられるように。仮に負けてもその中でも相手に脅威を与えられるような試合をしたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 河野美樹、高畑幸)
最後はそれぞれの意気込みを書いていただきました
◆黒澤翔(くろさわしょう)(※写真左)
フリースタイル60キロ級。茨城・鹿島学園出身。スポーツ科学部2年。取材開始前にわざわざ椅子を運んできてくださった黒澤選手。優しい気配りで記者の取材前の緊張をほぐしてくれました。その人柄の良さで後輩からも慕われているのでしょうね。真っ先に浮かんで書いてくださった『下剋上』にはきっと黒澤選手の思いが込められているのでしょう!
◆多胡島伸佳(たこじまのぶよし)(※写真右)
フリースタイル66キロ級。秋田・明桜高出身。スポーツ科学部1年。部活の日と勉強の日を分けることで、週に2日で所沢キャンパスへ通う多胡島選手。メリハリをつけて部活と勉強を両立する文武両道の姿勢はまさに学生のかがみですね。最後に色紙に書いてくださった『未来を見据えて』は7年後の東京五輪のことも意識されているのでしょう!