【連載】Get the glory 第3回 渡部善斗

スキー

3年前からFISワールドカップ(W杯)に出場し、昨年はオスロでのW杯で3位となるなど、名実ともに世界を相手に戦う選手となった渡部善斗(スポ4=長野・白馬)選手。昨年のこと、これまでのこと、ソチオリンピックを控える今シーズンの抱負など様々なことを語っていただいた。

※この取材は7月16日に行ったものです。

「前向きな悔しさ」

笑顔で答える渡部

――昨シーズンはどのようなシーズンでしたか

昨シーズンは、思っていたよりうまくいったことと思っていたよりうまくいかなかったこと両方があって、少し波があるシーズンだったかなと思います。

――具体的にうまくいったこととうまくいかなかったことというのはどのようなことですか

うまくいったこととすれば、自分の予想では10位以内に入ることができればいいかなっと思っていて、20位以内をまずは狙っていたのですが、その中で表彰台に一度上がることができて、総合で15位に入れたというのは予想以上の出来だったというのがあります。逆にシーズン途中で何回か怪我をしてしまったりだとか転倒して練習できない時期があったりして、そういったことがうまくいかなかったことですかね。

――昨シーズン初めてW杯で表彰台に上がられましたがその時のお気持ちは

いやすごかったです(笑)。その前の試合では4位で、4位でもその時の自分のベストの順位だったのですが、4位だと試合終わった後すぐそのまま何もなくクールダウンに行く感じなんです。けど3位になった途端なんかこう囲まれてあっちに行って、みたいになったり、そういう周りの目とかが違いましたし、一回表彰台に乗ったっていうのは他の選手からの評価も少し変わったかなというのはありますね。何より一度表彰台に乗れたっていうのは逆に1位2位も近くに見えたので、まだ2つ上にあるっていうのはすごく今モチベーションになっているし、いい経験だったと思います。

――4位の次に3位になったというのはその時期に調子が上がってきたということかと思うのですが、自分ではなにか感じていましたか

世界選手権がその前にあって、そこでやっぱりいつもと他の選手の雰囲気が違うというか、みんなが勝ちに来ている感じがすごくあって、ビックイベントに飲まれて、あまり力が出せなかったというか、力は出せたんですけど、100%出せてもあそこまでしか行けなかったというのがすごく悔しかったので、世界選手権が終わってから少し考え方をリセットしてもう一回練習する期間があったので、それがその先調子が上がっていった要因かなとは思っています。

――世界選手権の成績についてはどのように思いますか

初出場だったので、まずは自分がどのくらいの位置にいるか、いけるのか挑戦する気持ちで行きました。それでもやっぱり雰囲気も全然違って、みんなが勝ちに行くっていう感じだったので、雰囲気は味わえたのですが、力不足を感じました。その反面、ジャンプでは練習からかなり良い位置につけられましたし、ラージヒルは3番目にスタートできたので、ビックイベントでジャンプの力を出せたというのはいままでなかったので、そこは少し成長できたのかなと思います。

――団体戦は僅差の4位で表彰台を逃しましたが

僕は1走でスタートして、役割としては後ろに追いつかれないか、追いつかれても後ろの速さのあるノルウェー、アメリカには詰められないっていう役割をコーチから言われていました。けれど結果的に同じくらいで次の人に渡してしまうという展開になってしまって、最後アメリカに競り負けてしまいました。コーチからもお前だけの責任ではないとは言われましたけど、僕の走力不足っていうのはチームの中の弱点ではあったので、悔しかったですね。それでもあのチームでメダルを狙えるっていうことはわかりましたし、外れているメンバーにも力のある選手もいるので、チームとしてはメダルを狙えるっていう位置にいるという確認はできて、悔しいですけど前向きな悔しさですね。

――外国のチームと日本のチームの違いを感じることはありますか

まあ背は高いですね。背は高いしかっこいいし(笑)。確かに体格に差はありますけど、逆にこういうどっちつかずの競技というか、どっちもうまくこなさなきゃいけない、ずる賢くやらなきゃいけない競技なので、そういうのは器用な方がいいっていう面では有利な競技なんじゃないですかね。体格差は埋められないことはないと思います。実際上で活躍できている選手もいるので、実力の差は感じていないです。

――昨シーズンは前半のジャンプではW杯でもほとんどの試合で一桁台につけるなどジャンプが好調だったと思いますがなにか要因などはありますか

特にやることは変えていないです。W杯に3年前から出始めて、ジャンプでは通用はするけどもうちょっと上にいかないといけないっていう意識がずっとありました。クロスカントリーの方は練習していけば速くなるなっていう意識はあるので、焦らずにまずはジャンプでしっかり良い位置につけて、上の位置でクロスカントリーに臨んで、試合展開を覚えていく中で、走力をつけていくくらいの意識でやっています。まずはジャンプを完成させるっていう意識をずっと持っているので。コーチと一緒に一番を狙う気で練習しろという風にやっていて、ことしくらいからやっと形になってきたって感じですね。

――昨シーズンジャンプのスーツのルール変更がありましたがその影響はなにかありましたか

なかったです(笑)。浮力がなくなって一気に飛ばなくなるとか、すごくきつくなって飛びづらくなるとか噂がいっぱい飛び交っていて、みんな色々と対策はしていたのですが、僕はそんな道具に影響されるようなジャンプはしていないくらいの気持ちでやっていたので、逆に気にしないでまずは技術の方をしっかりやろうという気持ちでいたのが大きかったのかもしれないです。すっと次のワンピースに移行できたので、苦しまなかった選手の一人ではあると思います。

「毎試合(Wマークを)出します!」

――ナショナルチームの遠征などで兄の暁斗選手(平23年スポ卒=現北野建設)と一緒になることも多いと思いますが

ナショナルチームに上がってからはチームスケジュールで同じように回るので、今更特に何もないですね。まあ3つ違うので中高は入れ替わりで一緒に過ごしていたという感じではなかったので逆に新鮮ですね、ずっと一緒にいるのは。ちょっと面倒くさいときもありますけど(笑)。

――きのうまでの欧州遠征ではどのような練習をされていたのですか

この時期は例年、国内で合宿なのですが、オリンピックイヤーということでコーチ陣も少し考えてくれて、遠征を組んでくれました。ドイツとオーストリアに行ってきたのですが、ドイツにスキートンネルがあって、この時期に雪に乗るのは珍しかったので、集中して良い練習ができたので良い合宿だったなと思います。

――遠征先で食べ物や言葉などで困ったことなどはありましたか

今更何も(笑)。これおいしいなとかおいしくないなとかはさすがに思いますけど。ジャンプ台のある場所とか限られていて、だいたいいつも同じ場所に行って同じ宿に泊まるので、特徴とかも分かるので、自分なりに工夫してやっていて苦労はあんまりしないです。でも帰ってきて最初の米は相変わらずうまいですね(笑)。それだけは変わらないです。

――遠征はどれくらいの期間行かれていたんですか

3週間ですね。1週間ずつ場所を変えて。

――逆に日本にいることが少ないのかなと思うのですが

よく言われますけどそんなことないですよ。半分くらいです。冬は11月から3月くらいまでで、夏場にも合宿があって。半分いかないくらいですかね。そういう競技なので。

――遠征先でのオフでは観光などしたりするのですか

最近はかなり行きますね。コーチ陣が結構提案をしてくれるようになって連れていってもらったりします。まあ元気だったらですけどね。疲れていたら行かないです。

――今回はどこか行かれましたか

ドイツのローデンブルクっていう所に行きました。すごく古い町で日本人にも人気っていうロマンチック街道にある街に行きました。日本人めっちゃいました(笑)。新鮮でした。日本語で案内とかも書いてあって。この先トイレ何メートル、とか。すごくリラックスできる雰囲気の町で良かったです。

――帰ってきてすぐにテスト期間もあって、学業との両立が大変なのかなと思うのですが

3年生まででかなり自分の計画通りに単位が取れていたので、前期はほとんど授業がありませんでした。卒論などが残っている感じですね。テストがある授業も無いので。逆に今年は自分の興味のある授業をのぞきに行ったりだとか自分の勉強に集中できる時間が多かったので良い前期でしたね。

――どういった授業を取っているのですか

オンデマンドのスポーツビジネス入門とかラグビーとか。あとはいろいろな取っていない授業に顔を出したりして(笑)。

――どのような分野に興味があるのですか

全部です(笑)。何にでも興味はあります。基本的に競技に生かせることには興味があるので。広げ過ぎて浅い知識をいっぱい入れてしまっているのかなと。かといってそんなに深くいく時間もないので。だいたいで勉強して、これだって思ったことを覚えて競技に生かすと。

――卒論のテーマはもう決まっているのですか

卒論はもう進めてますよ。ジャンプの床反力を使った研究を、全面協力のもと(笑)。先生にも迷惑かけますけどなんとかしてもらっています。

――スキーという競技を始めたきっかけは

兄が先にやっていて、兄はオリンピックを見てやりたいって言ってやっていたらしくて。

僕は全然興味なかったのですが、兄と周りの友達がやっていて、その影響でジャンプ台にたまたま行くことになって、来たんならお前もスキー履け、みたいになって。もう嫌々無理やりやらされているうちにいつの間にかクラブに入っていて。自分からやろうと思って始めたわけではないです。やっているうちにどうせやるなら楽しくやった方がいいなと思い始めたらそれ以外にやることがなくなったっていう(笑)。

――特にコンバインドを選ばれた理由は

ないです(笑)。最初はスペシャルジャンプでやろうって小学生くらいまで思っていたんですが、長野県のスキー連盟は中学生になると自分がやりたいやりたくないにかかわらずコンバインドに登録されることになっていて。それでコンバインドを嫌々やっていて、コンバインドの方が成績が出るようになっちゃって、コーチがもうそれでスペシャルジャンプにいったらどうなるかわかってるだろうな、みたいな感じで(笑)。中学校2年生の全中(全国中学校大会)でもコンバインドの方が成績が出て、中学校3年生でどっちにするか決める時にやっぱりコンバインドの成績の方がどの試合でも良かったので、これはもうコンバインドだって思ってコンバインドにしました。

――アルペンなどをやったことは

全然ないです。小学校入る前に遊びでやったくらいしかないです。親に連れられて泣きながら滑っていました(笑)。

――コンバインドという競技の魅力はなんだと思いますか

曖昧さじゃないですか。スペシャルジャンプの人よりもジャンプは飛びませんし、クロスカントリーの人よりもクロスカントリーは遅いですけど。求められる技術とか力が全く違う種目を両方やって1番を決めるっていう、シンプルだけど難しいところですかね。あとはやっぱり駆け引きがすごく大事になってくる、力が均衡しやすい競技だと思います。ジャンプだけ飛べても遅かったらダメだし、クロスカントリーが速くてもジャンプ飛べなかったらダメだし、勝ち方が難しい競技なので見ていて面白いなと思います。

大ジャンプを見せる渡部

――早稲田大学に入学を決めた理由は

高校が白馬で、白馬でずっと練習していたんですけど、ワセダの選手も白馬のジャンプ台に練習に来ていて、白馬高校のコーチもワセダ出身で、高校の時からそのコーチに見てもらっていて、大学に進んでもそのコーチに教わりたいなと思ったというのと、あとは先輩を見ていてすごく楽しそうで良い雰囲気だったし、話を聞いても良い環境だなという風に思ったので、4年間やるんだったらここでやりたいなと思って決めました。

――世界選手権でジャンプを着地した後にピースでWのマークを作っていましたが

あれ毎試合やっていますよ。放映はされていませんけど、その国では放送されていたりするのでカメラが来たらWマークを出して。しっかりやります(笑)。昔先輩が兄にWマークやって下さいよ、みたいに言っていたのを高校生の時に聞いていて、映る機会があるなら、兄は卒業してやらなくなったので、僕がやった方が良いかなと思って。見ている人にワセダだぞってアピールできたらうれしいかなと思って。たぶん、忘れてなければ毎試合やるので。

――オフにはどのようなことをされているんですか

身体のケアのためにマッサージを受けたりっていうのと気分転換に外に遊びに行ったりとか色々やりますよ。その時の体調とかによってやることも変わってくるので。あんまりオフとかって決めないんですけど、気分転換に使うことが多いですね。

――最近ハマっていることや趣味は何かありますか

ずっと小さい頃からゲームするのが好きなので、ゲームはめちゃめちゃやりますけど、最近疲れてくるようになったのでダラッとしていることが増えましたね。散歩行ったりだとか寝っ転がってたりだとか。変なオフの過ごし方が増えてきましたね。

――スキーを始めてから一番嬉しかったことと辛かったことは何ですか

基本的に試合で勝てた時は嬉しいです。負けた時は悔しいです。それですね(笑)。

――大きな怪我とかはこれまで無かったのですか

骨折ったことはあります。あとはちょいちょい捻挫とかで1週間2週間休むとかいうことは結構あるんですけど。きょねんも肘を打撲するとか足をひねるとかしたのですが、大きい怪我は無いですね。

――これまでで一番印象に残ったレースはなにかありますか

いっぱいありますね。きょねんだったら3位に入った試合はやっぱり印象に残っています。前にそんなに人がいない状況でゴールするのはあんまりないので。その前の試合もそうでしたけど印象深いのはそれですね。

「悲観的にもならず、楽観的にもならず」

――今シーズンはソチ五輪がありますが、五輪に向けて特に強化したい部分や力を入れている練習はありますか

今更練習量を増やすとか、何かを変えるとかいうことをしても、一年でどうこうできるものではないと思うので、それはもうずっと前からやってきていることを継続していますね。オリンピックというのもそんなに意識しているわけではないので。力が付けば選ばれるだろうし、くらいの意識でいたので。何を変えていくつもりはないのですが、結果が確実に求められているとは思うので、上で戦える準備をしっかりしたいと思います。まだメダルを獲りますとか言える位置にはいないと思うので。メダルを獲るチャンスが来た時にしっかり戦える準備をしっかりしていかなくちゃいけないっていうのはずっと思っています。

――ジャンプとクロスカントリーとどちらに特に力を入れますか

クロスカントリーは周り比べて劣っている自覚はあるので、そこは重点的に強化していかないといけないとは思うんですけど、ジャンプも良い位置ではスタートできていますけど、後ろの速い選手を離さないといけませんし、1番でスタートした試合がたくさんあるわけではないので、やることはたくさんありますね。そういったことをクリアしていければいいなと思います。

――先日までの遠征の記録会では1位でしたが調子は良いのでしょうか

まだ全然わからないです(笑)。この時期はまずローラースキーでスキーとは全然違うので。まあ1番ではあったけれど周りの選手も勝ちにいっているような記録会ではないですし、素直に喜べる1位ではないですね。良い練習にはなりました。ジャンプで1位になれたっていうのはそこは負けたくないと思っていますし、勝つ経験っていうのはしていかないといけないのでそういう意味では良い経験にはなりました。

――世界選手権とオリンピックで試合に対する気持ちは違いますか

特には何も考えていないです。ずっとW杯を回っていて、一期間大きな試合があって、その次もまた回らないといけないという感じなので。シーズン中にある一つの大きな試合っていう意識付けでずっとやっています。まずどういう試合なのかも分かっていませんし、きょねん世界選手権に出てみて雰囲気とかが全然違ったので、どういうものかも分かっていないです。ことしは注目度もかなり変わってきていますし、注目してもらえる年だからこそ、悲観的にもならず、楽観的にもならずやっていきたいですね。0の状態で挑みたいなとは思います。

――きょねんのW杯でソチに行かれたと思いますが印象は

練習で怪我して試合には出ていないのですが、とりあえず係員の人が英語が喋れなかったですね。それがすごくやりづらかったです。ジャンプ台が新しくてちょっと特徴はあるなと思いましたけど、苦手ではなかったです。電車とかもまだ作っている途中だったりしたんですけど、選手たちにはストレスがかからないように組織委員会がやってくれていたのでさすがオリンピックだなと思いましたね(笑)。

――オリンピックに対する強い思いなどはあったりしますか

そんなに強く意識しているわけではないですけど、これだけ注目してもらっているということは期待もかけてもらっていると思うので、結果が求められている以上、力を出しにいくことが必要かなと。それでもやっぱり実力的にはメダル獲りますとかいう風には言えないので、楽観的すぎず悲観的すぎず、いまいる自分をしっかり見てフワフワしないようにいつも通りにやれれば良いかなと思います。まだ出られるとも決まったわけでもないですし。

――ことしの目標と今後の目標を教えて下さい

ことしの目標は、チームでメダルを獲るっていうことはきょねんからずっと意識していかないといけないことのひとつだと思っています。きょねん一回W杯で表彰台に乗ったのでまぐれだとは思われたくないです。一回乗っている以上、まだ2位1位と上がありますし、総合という順位で見れば15位でしたし、まだまだ上はたくさんいるので、ステップアップの年になればと思います。それは逆に将来的にW杯の総合優勝とかオリンピックの金メダルとかそういう1番上を狙える選手になって日本複合界を引っ張っていけるエースになれればいいかなくらいに思います。

――ありがとうございました!

今季の抱負は「真ん中」

(取材・編集 荒巻美奈、辻玲乃)

◆渡部善斗(わたべ・よしと)

1991(平3)年10月4日生まれ。ノルディック複合競技。全日本ナショナルチームランクB。長野・白馬高出身。スポーツ科学部4年。
昨季はW杯、全日本選手権で兄の暁斗選手と兄弟で表彰台に登った渡部選手。その感想を聞くと意外にも「向こうが上にいるので悔しい」とおしゃってました。兄弟で切磋琢磨する渡部選手の五輪での『兄弟で表彰台』にも期待大です!