【連載】『令和2年度卒業記念特集』第15回 石井香帆/女子バスケットボール

女子バスケットボール

積み重ねること

 積み重ねること。これは早大バスケットボール女子部主将・石井香帆(スポ=岐阜女)の強みであり、信念である。「器用なタイプではない」からこそ日々の練習では妥協せず自身の弱点と向き合い続けた。今年度『日本一』という目標に向け、チームをけん引してきた石井のこれまでのバスケ人生に迫る。

 バスケットボールを始めたのは小学生時。「才能はなかった」と謙遜するが、試合に出るにつれバスケの面白さにはまっていったという。着実に力をつけ高校では、強豪・岐阜女子に進学。待っていたのは想像以上にきつい練習の毎日だった。「充実していたと感じる余裕はなくてただ必死」だったと当時を振り返る。だが、懸命に練習に取り組む中で、プレー面での成長だけでなく地道なことを継続する力を身に付けた。不器用だからこそ、練習は妥協せず上達のために全力で取り組んだ。ストイックに「コツコツと積み重ねることで何か生まれる」。そう信じて己と向き合い続けた高校時代だった。

 早大入学後も継続力は衰えなかった。高校と比べフィジカル、スピード、精度など多くの点でレベルが上がる大学バスケ。1年時から試合に出場する機会があったが、石井は高いレベルを前に力不足を痛感する。得意のドライブが大学レベルでは通用せず「自分の良さは何だろうなと思い始めてしまった」。それでも努力を怠らずコツコツと積み重ねた。結果が出ない苦しい時期だからこそ課題と真摯(しんし)に向き合ったのだ。そしてコートに立てば「自分は何ができるか」を考えチームに貢献することに集中した。

リーグ戦でシュートを狙う石井

 3年時まで満足できる結果を残せていなかった石井。「チームに貢献できているか全然わからなかった」と振り返る。だからこそ最終学年では「本当にチームのために何かしたい」という思いが強まった。そして、「日本一になりたい」、全日本大学選手権(インカレ)の決勝に「みんなを連れてきたい」。チームを思う気持ちが原動力となり石井を主将へと導いた。

 新型コロナウイルスによって大きく活動が制限された今年度、石井は主将としてリーダーシップを遺憾なく発揮した。関東学生選手権が中止となるなど想定外な事態が多発。先が読めない状況に不安を感じつつも、「自分たちが置かれている状況でやるしかない」と前を向いた。そして自粛期間にはオンライン上でのコミュニケーションを密に取り、部員全員で『日本一』という目標を意識できるよう心がけた。頼もしい同期もいた。副将を務めた船生晴香(スポ=新潟・開志国際)と主務の鈴木美香(社=東京・早実)だ。部員が少ないからこそ、4年生3人が協力して下級生一人一人を気にかけ、寄り添うことができた。こうした取り組みもあり、例年以上にチームの団結力が高まり、学年関係なく何でも話すことのできる雰囲気が醸成されたのだ。結果としては、関東大学リーグ戦(リーグ戦)から始まった今季は、一勝が遠いシーズンとなった。だが、インカレの最後の試合までチームは一体感を保ち日本一に『挑戦』し続けた。

 石井自身にとってもラストシーズンの結果は「全然満足できるものではなかった」と振り返る。しかし大学四年間で石井が積み重ねた成果は少なからず発揮された。要所でスリーポイントを決めるなど得点力でチームに大きく貢献。そしてリーグ戦やインカレで見られた、劣勢であっても諦めることなく泥臭く献身的にプレーする姿、声でチームを鼓舞する姿は石井が目指してきた選手像そのものだった。

早慶戦でブザービートを決める石井

 主将を経験したことで、「行動と言動に責任を持つようになった」という石井。今後は競技の第一線からは退くが、「誰かの役に立ちたい」という思いから教員の道へと進む。チームに貢献すること、最終学年では一人一人に寄り添うことを強く意識してきた石井だからこそ、「誰かの役に立ちたい」と思うのだ。自らがバスケから得た学びの中でも、積み重ねることは特に伝えたい経験だ。「努力したら必ず報われるとは言えないかもしれないけど頑張ったらいいこと、どういうかたちであれ必ず自分に返ってくる」。早大での4年間で得た財産は今後の人生を支える大きな力となるだろう。

(記事 永田悠人、写真 永田悠人、落合俊)