【連載】『令和元年度卒業記念特集』第67回 内山未悠/女子バスケットボール

女子バスケットボール

『日本一』に挑み続けて

 「見ている人に感動を与えたい」。全日本大学選手権(インカレ)で優勝したい理由を尋ねると、内山未悠(社=愛知・桜花学園)はこう答えた。昨年のインカレでは優勝を期待されながら、2回戦で筑波大に敗れ、夢途絶えた早大バスケ部。そこからチームを作り直し、一年間引っ張ってきたのが内山だ。思うような結果が出ず苦しんだ一年間だったが、最後は「楽しかった」という内山のこれまでの歩みを振り返る。

 小学校からバスケットを始めた内山。中学校で才能に芽が出始め、高校は強豪・桜花学園を選んだ。しかし、そこで待っていた現実は甘くなかった。ハイレベルなチーム内競争が繰り広げられ、まるでプロのような環境。3年生になってやっとベンチ入りを果たしたが、プレータイムはそう長くはなかった。「自分が輝ける場所はもっと他にあるのではないか」と思い悩むことも多かったという。チームは三年間で8回日本一を果たしたが、内山がコートに立ち勝利に貢献した試合は無かった。チームが優勝している中で、心から喜べていない歯がゆさも感じていた。

 大学進学後、バスケットを続けるか迷っていた内山だが、1年生の時に4年生の姿を見て、早大バスケ部に入部することを決めた。チーム全員が意見を出しやすい環境で、1年生の意見も受け入れてくれる姿にとても感銘を受けたという。1年次の関東大学女子リーグ戦(リーグ戦)では、コートには立っていなかったが、早大が優勝した時に心から喜べた自分がいた。コート内、ベンチ、スタンドが一体となって戦っていると感じられたからだ。「こんなチームを作りたい」。まさに理想のチーム像だった。3年生からスターティングメンバーに定着してからは、コートに立っている責任を持ち、みんなの思いを背負ってプレーしようと意識するようになった。そんな中、ターニングポイントとなった試合がある。3年次のインカレだ。9、10月のリーグ戦を優勝し、インカレでも優勝候補筆頭だった。しかし、12月のインカレが始まると、まさかの2回戦敗退。「心のどこかで勝てると思っていたのかもしれない」と今でも苦い思い出だ。

シュートを狙う内山

 筑波大との敗戦の翌日、同期全員でミーティングを行い新主将を決めた。実力のある選手がそろっているため、このチームに必要なのは技術的に引っ張るキャプテンではない。全員の個性をまとめるキャプテンだと感じた内山は、自らキャプテンに手を挙げた。実力の半分も出せなかった筑波大戦から、自身のメンタルの弱さを克服しないといけないと自分へのプレッシャーをかけた結果だった。

 しかし、個性派ぞろいのメンバーをまとめることは容易ではなかった。5月に行われた関東大学女子選手権(トーナメント)では、チームが出来上がっていなかった。中田珠未(スポ=東京・明星学園)が代表選出のため練習に合流できなかったり、けが人がいたりと全員で練習することが難しかった。メンバー内でのリズムが合わなかったが何よりの敗因となってしまった。そこから修正してリーグ戦を迎えると、前半はテンポよく勝ち星を重ねる。しかし、10月には無情にも6連敗。「高校以来こんなにも負け続けたことはなかった。どうしたら勝てるんだろう」(内山)。課題に挙げたのは、4年生同士のまとまりだった。各々が自分のプレーに必死になって、周りを思いやる余裕がなかったのだ。内山自身もギリギリの状態で戦っていた。キャプテンとしてのプレッシャーやストレスで食欲がなくなり、体重も減少。試合をすることは楽しみなはずなのに、体が思うように動かない時もあった。しかし拓大、東京医療保健大に連敗した後、「このままだとダメだ」と最終戦に向けて4年生全員で集まり、腹を割って自分の思いを打ち明けた。ベンチメンバーの思い、スタッフの思い、コートに立つ人の思い…。それぞれが本音でぶつかり合った。みんなが日本一にかける思いは様々だった。「これまでの恩師や両親に感謝の気持ちを表現したい。」「自分たちの姿を見て見ている人に元気を与えたい。」など。何より全員に共通していたことは、日本一になって誰かの心を動かしたいという思いだった。みんなの思いを聞いた上で白鴎大との最終戦に臨んだ。負けてしまったが、最後まで逆転を信じて走り続ける姿はこれまでの試合とは違った。

インカレ時の集合写真(前列左から5番目)

 リーグ最終戦から約1ヶ月後に迎えたインカレ。1年間ずっと目標に掲げてきたインカレ制覇の夢は、残念ながらベスト8で途絶えてしまった。しかし「自分の中ではやりきった」と内山は胸を張って言える。早稲田での四年間はきつい時が8割だった。その分うれしさが何倍にもなるのだという。後輩たちには、大好きなチームメイトと大好きなバスケットができているのだから、どんな時も楽しんでほしいとエールを送る。卒業後はバスケットの世界からは離れ、一般就職の道を進む内山。次の目標は、「世界に挑戦すること」。内山の新たな挑戦がこれから始まっていく。

(記事、写真 瀧上恵利)