【連載】『王座奪還』 第5回 萩原美樹子ヘッドコーチ×藤生喜代美学生コーチ

女子バスケットボール

 就任3年目の萩原美樹子ヘッドコーチ(平17二文卒=福島・橘)と、スタッフとして2年目のキャリアを迎える藤生喜代美学生コーチ(スポ4=福井・足羽)。ワセダの頭脳である二人に、今季の戦いの振り返りと全日本大学選手権(インカレ)への意気込み、そしてチーム、選手への思いを聞いた。

※この取材は11月1日に行われたものです。

「もう一つ二つ、成長が必要」(藤生学生コーチ)

柔らかい表情で質問に答える二人

――関東大学女子リーグ戦(リーグ戦)3位という結果に対して、率直な感想は

萩原 もちろん優勝を狙っていたので、3位という結果だけ見れば非常に残念だったなあと。取りこぼす試合があったので、そこをきっちりと勝っていたら、という気持ちはあったんですけれども、内容についていろいろと考えてみると、準優勝だったトーナメント(関東大学女子選手権)の頃と比べるとだいぶ計算できるようにはなってきているのかな、というのが正直なところです。結果は優勝には届かなかったけれども、5月のトーナメントのとき不安に思っていた部分がかなりあったので、インカレで優勝したときからはメンバーがほとんど変わっていますし、今のチームをある程度評価しても良いのかなと思っていますね。

――春から成長されたというお話でしたが、その中心となった学年や選手はいますか

萩原 トーナメントと比べて一番安定したところは、C桂葵(社3=愛知・桜花学園)の成長ですね。今でも足りない部分はあるけれども、トーナメントの時と比べればだいぶ計算できるようになってきたので。そういう意味では桂の成長は大きいかなと思っていますね。

――きょねんまでは丹羽選手(裕美、平25スポ卒=愛知・桜花学園)という絶対的なセンターがいましたが、丹羽選手と比べて桂選手の特徴は

萩原 桂はもともとアウトサイドも兼任していたプレーヤーなので、丹羽に比べればアウトサイドでも使える、そしてディフェンスに囲まれたときの処理とか、あるいは一対一のときにステップで相手をかわすことについては桂の方が評価できるのかなと思いますね。

――藤生コーチは、リーグ戦についてどのような感想をお持ちですか

藤生 優勝を目指していたので悔しい部分はありますね。2ヶ月間の試合の中で目標としては白鴎大戦までは全勝で行きたいね、ということをチームで話していたのですが、序盤の4チームには取りこぼしせずいって、後半戦の上位チームとの試合になってここからだ、というところで自分たちでも思ったようにゲーム展開ができず、初戦を落とすという結果になってしまいました。リーグ戦を終えて思っていることは、インカレ優勝を目指すためにはもう一つ二つ、成長が必要だなと。まだまだ今の段階では、力を発揮しきれたところで優勝は見えてこないな、ということを感じたリーグ戦になりました。

――具体的にどのような成長が求められますか

藤生 何かスタイルを変えるとか、新しいことを始めることはできないので、やはり精度を上げることですね。ディフェンスの部分ではプレッシャーディフェンス、ディナイ、ボックスアウトの徹底。オフェンスで今一番力を入れているのはシュート率です。オーさん(萩原ヘッドコーチ)とも話しているんですけど、限られた時間の中で、厳しいこともあるかもしれないけど最後までもがきたいな、とは思っていて、チームとしてもみんなで課題を持って取り組んでいます。今までやってきたことの粗さを減らしていくことかなと思っています。

――白鴎大戦より前の相手に対して敗戦してしまった原因は

萩原 ことしのチームは非常にメンタル面での波があります。高校まである程度のキャリアがある選手たちではあるんですが、結構自信がない。良い入り方ができると一気にリズムに乗れるんだけども、出だしがだめだとずっとそのままなんですよね。持ち直すためのメンタルの粘りもないんですけど、なんとなく自信がないことが非常に気になるんです。こちらの心づもりとしては全勝で白鴎大当たれればいいなとは思ってはいたのですが、正直なところ、松蔭大と拓大相手には厳しいものがあるな、とは思っていました。今回のリーグ構成としては、下位の4チームと上位の4チームとでははっきりと力の差があったので、下位のチームとの対戦を終えたところで、この後に負けた場合のリスクをどうするか、ということをクールに考えないといけない部分はありました。そういう意味では松蔭大に26点差で負けたことが大きいんですよね。あれが上位チームとの初戦だったので。あの試合への臨み方はちょっと失敗だったのかな、という感じはありますね。

――1戦目に勝てないことが多かったように思います。2戦目向けて、チームにどのような指導をされたのですか

萩原 もちろん負けたら悔しいですからね。次は勝とうという気持ちにはなると思いますし、同じ相手との連戦となれば負けた理由は分かるんですよ。だから2日目に持ち直すことはそこまで難しいことではないんですよね。でも、やはり1戦目に勝たなくちゃだめなんです。ここ2年ぐらい、一発勝負にはすごく強いチームだったんですが、そのメンバーは残ってるかな…。

藤生 2人ぐらいですね。

萩原 2人だと少ないのかな…。一発勝負に力が入りすぎてしまう、ある意味いい子が増えたな、と。やんちゃな選手がいなくなっているな、という感じはします。そういう意味ではすごく良いチームだけども、優しいが故に弱い部分もあるんですよね。そこの物足りなさはあります。

藤生 刺激が入るとやれるんですよ。望むところとしては、1試合目の序盤にリードされたときに、その刺激を受けて逆のエネルギーにつながっていければいいんですけど、そのスピード感がないのかな、と思う部分はありますね。

萩原 ことしはこっちが常に刺激を与え続けているという感じはあるよね。どうしたら選手たちのお尻に火をつけられるんだろうか、という部分をいろいろと試行錯誤しながらやってきましたね。

――白鴎大戦で連勝しないと優勝はない、という状況となりましたが、白鴎大戦を迎えるにあたってチームにどのようなことを伝えていましたか

萩原 望みは薄いかもしれないけどまだ可能性は残されている、まだ試合が終わったわけではない、ということは伝えていました。あの1週間はそういう意味では刺激があったので選手たちも一生懸命取り組んでいて、メンタル的にどうこう、というよりは戦術の部分を強調して練習していましたね。

――藤生コーチは選手たちの様子を見ていて、何か特別なものを感じましたか

藤生 松蔭大と拓大には初戦で勝てていなかったので、白鴎大との初戦を迎えるにあたって、選手たち自身が火曜日からの練習を、一回戦、二回戦…白鴎大戦が決勝戦、という風にトーナメントだと仮想して練習に取り組んでいました。毎回、試合が終わるとミーティングで反省を話し合っているんですけど、拓大戦後には白鴎大戦に向けて自分たちに足りないことを話そう、ということになったので、白鴎大戦前の1週間は、そのような内容を話し合ってから迎えた1週間ではあったんです。あと、リーグ戦には唯一監督賞があるんですよね。選手たちはそれをオーさんにプレゼントしたい、ということをずっと言っていて、なんとしても白鴎大との初戦に勝ちたいという気持ちがあったと思います。負けたくない、という気持ちと二重になって、さらに強い思いを持っていたんだと思います。

「オーさんへの絶対的な信頼は揺るがない」(藤生学生コーチ)

選手と笑顔でハイタッチする藤生学生コーチ

――選手は萩原コーチにどんな思いを持っているのでしょう

藤生 それは感謝でしかないと思います。本人を前にして言うのは恥ずかしいんですけど(笑)、日頃の練習であったり、選手たちが毎日書いているノートに対して丁寧にコメントを書いてくれたりだとか、オーさんが選手一人一人について真剣に考えてくれている姿を選手自身が一番よく見ているので。コートの中では厳しいし、失敗すれば声を張り上げて怒られることもあるけれども、絶対的な信頼は揺るがないんですよね。自分たちがオーさんのその気持ちに何で返せるのかな、ということを考えたときに、「監督賞」という言葉が出たんだと思います。表向きでは女子部初のリーグ戦制覇を掲げてチャレンジしていたんですけど、選手の心の中にあったメインの部分はオーさんへの強い思いがありました。自分としても、結果的にオーさんに監督賞をあげられなかったことに対する悔しさがかなりありましたね。

――萩原コーチにお聞きします。藤生コーチはチームにとってどのような存在ですか

萩原 アシスタントコーチという立場で言えば、ヘッドコーチである私の通訳、というところを藤生には求めているので、選手に怒った後のフォローも含め、練習後にちょっと気になったことがあったら藤生に声を掛けておいてもらうとか、そういう細かいフォローをお願いしていますね。その点に関しては本人がもともと選手なので細かく目が届くと思うし、非常によくやってくれていると思っています。選手の様子とかはここ(藤生)に任せておけばいいと思っているので、信頼していますね。ただ、選手と一緒に怒ることもあるけどね(笑)。

藤生 勉強中です(笑)。

――藤生コーチは普段心がけていることはありますか

藤生 今オーさんも通訳という風に言ってくれたのですけれど、オーさんの意図が伝わっていないときには私がちゃんとそこを伝えたいなと思いますし、あとは選手がどう思っているのかなというところとか、納得できているのかな、理解出来ているのかな、というところは実際に話さないと分からない部分も大きいので。オーさんからも、「もっともっと選手と話した方がいいと思うよ」という風に言ってもらいますし。ことしが2年目なのですが、きょねんは正直コーチとして、というよりは今までの選手をしていたところからのアドバイスが多かったのですけれど、方法もわからなかったですし、感覚としてはわかってもそれがコーチの立場としてどうなのかという意味では全然理解できていなかったんです。こういうときは聞いていく、こういうときはちゃんとビシッと言う、とか、むしろオーさんよりも私が言わなきゃいけないとか、そういう面も含めて少しずつ自分も成長させてもらいながら、とにかく選手とコミュニケーションを取りたいなという風には思っています。

――白鴎大との第2戦では4年生の活躍が印象的でした

萩原 ひとつは、第1戦は気持ちの空回りっていうのがすごく大きかったのかな。優勝が一応消えたっていうことで、肩の力が少し抜けたっていうのはあったと思いますね。あとはやっぱり1戦目で気持ちを入れ込んだのに自分の力が出せなかったというところで、彼女たちがすごく悔しかったんだと思うんですよ、プレーヤーとして。そういう部分で、優勝も監督賞もどうでもいいから、プレーヤーとして自分のプレーを思い切ってする、という原点に立ち返れたんだろうなという部分があると思うんですね。あとはことしのインカレは山口なので、4年生にとってはこれが最後の代々木(代々木第二体育館)だったんです。だから加藤(F加藤千尋副将、スポ4=山形市立商業)はちょっと出せなかったんだけれども、本当にこれからの人生であそこのコートに立てるというのは恐らくないだろうから。本多(F本多真実、スポ4=愛知・桜花学園)はあるかもしれないけれど、他の子はもう二度とないだろうから。そういう意味で最終戦は4年生の気持ちがピタッとはまったというか。ああいうときはやっぱり4年生だよね。森(G森仁美主将、スポ4=大阪薫英女学院)にしても小原(F小原みなみ、社4=神奈川・金沢総合)にしても。1戦目は空回った分を1年生の勢いで何とか補っていた部分はあるけれど、ああいうところは4年生の最後に懸ける思いっていうのが強く出た試合だったんじゃないかなと思います。小原は良かったね、あの時は。172(センチ)しかないのに、あそこを無理くりやっている姿っていうのはね。練習では結構怒られるんですよね、私に。「遅い!」みたいな(笑)。

藤生 「進めー!」みたいな(笑)。

萩原 結構、酷いことを言われているんですよ。でも、あの子がゲームに出て誰が喜ぶかって、周りが喜ぶ。ベンチとか応援している子たちが、すごく思い入れを持って彼女を見るので。なんかそういう意味では、行ってこい!っていう風に送り出せる感じですね。今はそういう信頼感があります。多少練習で厳しくしても、この子は絶対大丈夫、という信頼感を私は持っているので。それがいいかたちで出たね。

藤生 そうですね。1戦目は相手に勝ちたいっていう気持ちが強かったんですけど、2戦目はさっきオーさんがおっしゃったように、もう背負うものがなくなって、次へ向けてのステップアップにつながる試合という風にとらえていて。4年生を見ていてすごく思ったのが、相手うんぬんよりも自分たちのバスケットを出してこよう、自分たちのプレーを出してこよう、という、そこに意識が向いたのかなっていう印象がありました。やっぱり4年生のルーズボールと攻め気ですよね、森と本多のところで。これまではなかなか4年生らしくグイグイ引っ張るというところが表現されなかった部分が正直あったんですけれど。で、オーさんがまとめて言ったのは何のときでしたっけ、白鴎大戦の前でしたっけ。

萩原 そうじゃないかな。

藤生 ですよね。そういう話も含めて、オーさんが練習の後に4年生のもう少し引っ張る部分が欲しい、という話をしてくれたんですけれど、もう少しという部分もあって。でもあの試合は本当に森がルーズボールに絡んでいて、彼女の気迫を感じました。

萩原 最初で最後だね、本当に(笑)。

藤生 (笑)。何度も何度もルーズボールに行きまして。そこに向かっていく姿勢から周りに気持ちが伝わってきて、試合後にオーさんとも言っていたんですけれど、何度もその姿にちょっと涙が出そうになりました。下級生も森の気迫に乗っかって行ってくれたので。だから、すごく頑張りましたよね。小原に関しては恐らく、関根(F関根彩乃、社2=千葉・昭和学院)がけがをしていなければ出る場面がなかったと思うんです。でも、さっき言った通りみんなが喜ぶのは、出る場面がなくても彼女の取り組みの姿勢のひたむきさがあるからなので。試合の出場時間が足りないと、上(コートの上のスペース)で走ったり、そういう姿をみんなが見ていると思うんです。そういう部分があるからこそ、自分たちの期待の星でもあるし、控えの選手が出て活躍できる、という意味では目指したい姿でもあったと思います。ポンって出されたときに仕事をしてくれたことがきっかけで、その後も続いて出る機会が与えられたので、小原は本当に大事なことを示してくれたなと思っています。

萩原 小原はね、怒られていちいち落ち込んだりしないのね。あれが偉い。とにかくひたすら従容としてそれを受け入れて取り組む、という姿勢がすごくいいと思います。

――今のワセダのチームにとって森主将という存在はどういう存在ですか

萩原 私は結構きつく当たります。4年生のことを信頼しているから怒っているんだけれども。個人的にもとっても好きな子なんですが、ミスが多いのね。ターンオーバーが多い。で、そのターンオーバーを連発してしまうと、本人もキャプテンだからみんなをまとめなくちゃいけないし、どうすればいいかわからなくなっちゃって。本人は結構苦しんでいるんですよね。でも、それでも体で示せることは必ずあって。それがようやく表現できたのが、私は白鴎大との2戦目だと思っています。あのゲームで言うと、ターンオーバーもしているんだけれど、ルーズボールに飛び込むだとか、しっかりゴール下でつなぐとか、ちゃんとやり返している部分もあったからプラスマイナスで帳消しになるわけですよ。それがようやく体現できたのが白鴎大の2戦目だったんです。彼女も多分あれで自信を取り戻したと思うんですね。あの一戦からの練習の取り組み方が非常に変わってきているので、そこに気づけたことは十分遅くない。彼女自身の残り少ないバスケット生活のためにも、3年生以下にことしの4年生が何を残していくか、何を伝えていくのかっていうことのためにも、これからの残り少ない時間ですけれどしっかり取り組んでほしいな、という風に今は思っていますね。だから森に関してはまたここで成長したというか、一皮むけたな、という感じがありますね。

藤生 とにかく明るいですね。チームの中でも盛り上げ役ですしムードメーカーですし。外でもそうだしコートの中でもそれをできる子で、やりたい子だと思うので。その中で、自分自身がミスをしてしまっても立場上盛り上げていかなければいけない、という葛藤もあったとは思います。本人も多分辛かったと思うんです。きょねんも、おととしも、彼女はインカレの最終戦の大事なところでベンチなんですね。それを本人が悔しいと思ってくれていると思うので、ことしこそコートの上でプレーしている自分であってほしいなと思います。

萩原 どうかなー(笑)。

藤生 (笑)。ぜひぜひそのプレーを期待したいなとこちらとしては思っていますね。

――次に、加藤選手は副将としてチームの中でどんな役割を果たされていると思われますか

萩原 副将としての役割はほとんど果たしてないですね(笑)。でも、すごく人望が厚い。あの子を嫌いとか、あの子の言う事を聞かない、とかいう子はほとんどいないです。東北人らしく、黙ってコツコツと自分のできることをやっていくっていう子なんですね。それを表現することはちょっと下手くそ、不得手なんだけれども。小原と同じようにコツコツと練習に取り組んでいく姿勢を、一緒にやっている選手は見ていると思うので。そういうところは選手、特に下級生には評価されているんじゃないかなという風に思います。だからけががね、すごくかわいそうだったね。

藤生 コツコツと、絶対手を抜かないんですね。例えば相手チームの得点を取る役割の選手を任せたときに、すごくやれるんです。それを普段から常にやっていけばレギュラーのところに絡んでいける力を持っているんですけど、多くの選手がそれをなかなか続けられない、レギュラーチームに入ると出来ない、というのがあって。彼女自身、ちょっと試合に絡めるかなと、いうところでけがをしてしまったので、本人も相当悔しかったと思います。これまでも意思強くチームを引っ張っていて、「あ、攻めているな」という印象があるので、残りの期間でそれを期待したいです。あと、例年はキャプテンだけが最後のサークルで話をするんですけれど、森と話をして、日替わりでフウ(加藤)にもその場面を作っているんです。そうすると、彼女が思っていることがよりみんなにも伝わるので。公言することでフウがもっとやれるんじゃないかって、リン(森)も考えてくれたりしています。

萩原 着眼点がいいんです、加藤は。

――最後に本多さんについて伺いたいと思います。本多さんがこのチームで果たしている役割はなんでしょうか

萩原 プレーはもちろん、ことしは本多。苦しいところは全部本多ですね。彼女はそれだけの経歴と経験と、能力とを持っているプレーヤーだと思うし、そういう自覚を本人から引き出したいっていう意図もあります。プレーの面ではもちろん申し分ないんだけれども、もうちょっとガツガツと、表面に出て来て欲しいなというところもありますね。だからあえて、「お前がエース、お前のチーム」という風に言っているんですけれども。周りを見て自分の立ち位置を決めるというところがちょっとあって、それがプレーに出てくることもあるんですが、そうじゃない、というところを促していて。その意味では、白鴎大戦の最後に2点負けていたときに本多に預けて、本多がトラベリングしたっていうのは、私たちとしては「もう、お前で負けたのはしょうがないんだ」ということも伝えたし。結果的にターンオーバーで終わってしまったというのは、彼女もとっても悔しかったと思うし、それによって新たな自覚がインカレに向けて芽生えてくれれば結果オーライなんじゃないかなという風に思っています。私のやりたいバスケットを一番体現してくれる選手だと思っているので、すごく信頼しています。

藤生 ユニバ(ユニバーシアード競技大会)から帰ってきてちょっと変わったんです。これまでは周りを見て自分の立ち位置を決める感じで、そんなに点を取ること、攻めることに欲がなかったんですけれど、攻める楽しさを、そこで戦ってくる面白さをユニバに行ったときにすごく感じたみたいで。そこからかなり攻めてくるようになったなと思って。オーさんのバスケットを体現してくれるって言っていたんですけれど、どんなチームに対しても対応力がすごく早いんです。バスケットの部分では能力とセンスを持っているので、信頼は本当に厚いですね。あとは表現のところでいうと、裏でポーンと他の子のお尻をたたいたりとか、円陣でも小さい声で個別に何か伝えたりだとかいうことをたくさんしていて。でも、本多だからこそ、信頼が厚いからこそもっと声を出す場面があってもいいのかなと思います。あと、リーグ終盤にかけて変わってきたのはオフェンスリバウンドとルーズボールですね。そこに絡む回数が増えたことがすごく嬉しいです。

萩原 ユニバではオフェンスリバウンドもすごい多かったよ。

藤生 本当ですか。先日もインカレで当たる相手のビデオを見ていたときに、きれいなプレーで決めてきているというより泥臭くねじ込んできているっていう印象があったので、そういう部分が本多のような能力のある選手から表現されていくとチームにとってもいいんじゃないかなと思います。コート外では大阪のノリですよね(笑)。ツッコミもスピード感あるし、面白くて。すごいのが、ノリでしゃべっている部分だけじゃなくてかなり人を見ているんですよ。観察力もすごい。だから他の子が少し落ち込んでいる時に自分からコミュニケーション取りに行ける子なので、それが私は素晴らしいなと思っていますね。

――4年生について伺ってきましたが、下級生の活躍と成長についてはいかがですか

萩原 新人戦(関東大学女子新人戦)ですよね、やっぱり。優勝するとは思いませんでした。あれは3、4年生を刺激したことでもあるし、今でもすごく影響し続けているところではあると思います。今の1年生は割と試合に出たい子が多いんですよ。そういった意味では、リーグ戦の序盤で3、4年生がその勢いにのまれてしまったこともあったんですよね。でもそれは、チームを作っていく上では良いこと、競争が生まれるっていうのはいい構図だと思うので。競争しつつ、でも4年生の姿をしっかり見て、4年生と一緒に戦いたい、という風に言っていますのでね。それはすごくいいことかなと思って見ています。

藤生 新人戦で勝てたことが1、2年生の自信になったと思います。「自分たちにもこういうプレーができる」っていうのを確認できる場だったと思うので。「出たいからやってやる!」って思ってくれることで底上げできるというか、それこそ刺激ですよね。そういう意味では本当に大事な存在だなという風に思っています。

「最後にコートで笑っていてほしい」(萩原ヘッドコーチ)

コート上の選手に指示を出す萩原ヘッドコーチ

――インカレまであと3週間ですが(取材日は11月1日)、最近はどのような練習をされているのでしょうか

萩原 今週はもう一度基礎を見直すというか、細かく分解して見直しをしていました。あとはディフェンスとシュートですね。それについては今回のリーグ戦で課題が残ったので。あと3週間弱で何ができるかはわからないですけども、できるだけ最後まで、インカレの前日までじたばたしようねと、いうことは選手と確認をして取組んでいます。

――選手のモチベーションは高まっていますか

藤生 もう、それは高まっています。先週の日曜日にOGの方でビジネスコーチングをされている方がいて、その方に手伝ってもらってミーティングをする機会があったんです。そこでインカレに向けてチームの目指すところをもう一回確認して、自分たちがどういう風にしたいかという気持ちをお互いに確認することができたので。意識がより高まっているのは、練習の場からも感じられますね。

――遠征ということでコンディションなど難しい面もあると思うのですが

萩原 正直お金がかかるっていうのと(笑)、練習会場の行き来がどうなるかまだ予測ができないっていうのはあります。ただ、普段は別々に住んでいて固まった時間を作って練習するのも難しいチームだから、インカレの期間は本当にバスケット漬けになれる時間を確保できると思うので。もしかすると逆に良いかもしれないなという風には思っています。

藤生 傾向として合宿では良い練習ができるので、いい方向に捉えていますね。

――戦ったら負けたくない大学はありますか

萩原 まず拓大ですね。拓大がうちの山に入っているのはわかっているので、拓大にしっかり勝つこと。それから準決勝で大体大が恐らく来ると思うので、今はその2つに照準を当てて練習しています。

藤生 拓大にも負けをつけられていますし、大体大はきょねんのリベンジでもありますし、是非やって勝ち上がりたいですね。

――『王座奪還』について

萩原 今の4年生は2年生のときにインカレ優勝を経験しているので、言葉としては『王座奪還』というかたちになると思うんですが、私は毎年別のチームを扱っているように感じているんです。2年前のチームと、きょねんのチームとことしのチームとまた違うわけですよね。構成も違うし、性格も違うし。そういう意味では私自身は奪還というよりは「王座に挑戦」という感覚でいます。おそらく彼女たちもそうだと思うんですよね。ただ、やっぱり2年前にせっかく味わった優勝ですから、そこにもう一度返り咲くという意味で『王座奪還』という言葉を使っているんじゃないかなと理解しています。

藤生 もちろん最終目標はそこになると思うんですが、一戦ずつ勝ち上がってその先に、という風に私は思っているので、とにかく一戦必勝です。

――チームの中でキーになる選手を一人挙げるとしたらどなたですか

萩原 桂でしょうね。他の選手に関しては大崩れしてもある程度計算はできるけど、桂はインサイドの要なので。そこが崩れるとかなり厳しいところはあると思うんですよね。だから桂じゃないかなと思います。

藤生 同じくです。

――萩原コーチの理想とするバスケットが定着してきているように感じるのですが

萩原 私が理想とするというか、こういうバスケットをするといいと思うよ、というところは共通認識としてだいぶ根付いてきてくれたかなという気はします。ただ、まだ物足りないのは、ヘッドコーチが戦術戦略としてこういう風にするんだよ、と言っていることを彼女たちがするのであり、それは試合に勝つための理由があってそういうことをやるわけだから。そこを、私に言われたからやるんじゃなくて、試合に勝つためにそれに取り組んでいるんだ、という認識にもうちょっとつながってくれるといいと思うんですよね。すごく嬉しいんですけど、あんまりこっちを見られると居心地が悪い、というか気持ち悪いんで。もうちょっと自分たちでやってほしい気持ちはあります。

藤生 今話をしてくれたとおりで、オーさんが言ったからではなく、大事だから伝えている。その内容をやってほしい。でも、ちょっと履き違えると、オーさんが言ったからだ、という風に「オーさん」というところが一人歩きして先行してしまうところがあるんです。そこがもう少し理解できれば、もっともっと可能性として良くなってくるのかなと思います。

――最後にインカレへの意気込みを聞かせて下さい

萩原 すごくクールな見方をすれば、厳しい戦いになると思います。きょねんやおととしみたいに、ある程度丹羽が何とかしてくれるだろう、というところは正直ないです。ただ、ポテンシャルは非常に秘めていると思うんですね。リーグ戦での松陰大との2戦目、拓大との2戦目、それから白鴎大との2戦目みたいなノリと勢いが出てくると、もしかすると勢いでトップに行ける可能性は秘めていると思うので。いかに選手たちをあと何週間かで乗らせるかっていうことを考えています。最後にコートで笑っていてほしい、というふうに本当に思いますね。

藤生 入った時にはこのチームで全国にいけるとは思っていなかったのに、「日本一になりたい」と思っていたら、2年目にオーさんが来てポンって日本一になれて。でも、やはりこの学年が最上級生のときに日本一になりたいという気持ちがあるんです。そのためにも、この残された時間にできる限りのことをやるだけやって、試合になったらそれを出すだけ、という状況までもがき切りたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 市川祐樹、巖千咲)

集合写真ではガッツポーズをしてくださいました

◆萩原美樹子(はぎわら・みきこ)(※写真左)

1970年(昭45)4月17日生まれ。ヘッドコーチ。福島・橘高出身。平17年二文卒。ニックネーム『オー』。チームから厚い信頼を集める萩原ヘッドコーチ。取材の最中には藤生学生コーチの言葉に涙ぐむ場面もあり、選手への深い愛情を感じました。インカレではどのような采配を見せるのか、その手腕に期待しましょう!

◆藤生喜代美(ふじう・きよみ)(※写真右)

1982年(昭57)5月2日生まれ。学生コーチ。福井・足羽高出身。スポーツ科学部4年。コートネーム『シキ』。ベンチで大きな声を挙げ、チームを盛り上げる姿が印象的な藤生学生コーチ。気さくな人柄で、この日の取材にも丁寧に応じてくださいました。同期の4年生とともに迎えたラストのインカレ、コート上で藤生学生コーチの満開の笑顔を見たいものです!