【連載】『令和4年度卒業記念特集』第9回 神田誠仁/男子バスケットボール

男子バスケットボール

『より良い組織を目指して』

 「組織と個人の同時的発展」。今年度のバスケットボール男子部で主将を務めた神田誠仁(社=静岡・浜松開誠館)が、チームづくりをする上で目標に掲げてきたことだ。その原点には、16年間の部活動人生で感じてきた、もどかしさがあった。

日体大戦でレイアップする神田

 神田がバスケットボールを始めたのは小学校1年生の時。父親が中学校でバスケットボール部の顧問をしていたことや2つ上の兄が先にミニバスケットボールに入っていたことがきっかけだった。神田は小学校の時から県大会優勝や県選抜など高いレベルを経験してきた。その後も浜松開誠館中で全国大会ベスト8入り、さらに高校時代には浜松開誠館高や静岡県選抜で主将を務めるなど、チームをまとめる役割も担ってきた。

 しかし、バスケットボールに打ち込む中で「個人の感情が重要視されていない」という問題意識があった。中高で部活動をしていた時、先輩がバスケットボール部を辞める姿を見た。「めちゃくちゃ能力が高かったのに、バスケ辞めちゃうんだって感じた。勝ちに執着するあまり、組織の中でぶつかってしまうことにもどかしさがあった」。また神田自身も「言葉のかけられ方1つで自分のパフォーマンスが変わることを感じていた」という。

 その経験があったから、早稲田大学で主将を務めた時には「個人の感情を大事にしたい」と思い、チームづくりに励んできた。まずはチーム理念を掲げ直した。「4年生がこうしたいっていうのを上から押し付けるのではなく、みんなそれぞれがこの1年間をどういう風に過ごしたいか、どういうチームにしたいかっていうのを考えてもらった」。理念を掲げ直すことで、一人一人にモチベーションを持たせることを意識したと話す。それが実ったのは、昨年の早慶戦。「チームの練習に向き合う姿勢はすごくよくなっていると感じていた」という。試合結果としても、歴代最高の119点をとって、慶應大学を圧倒した。

 その後も「個人の思いをちゃんと聞けるように」との思いから、メンターを通して部員の意見を聞いたり、ミーティングの時間で4年生が考えていることをみんなに共有したりしていた。しかし、秋の関東大学リーグ戦(リーグ戦)にかけて、主将としてのチームづくりに限界を感じ始めた部分もあった。

 「キャプテンというのは学生の中でのリーダーで、組織のリーダーではない。その難しさをすごく感じていた」。主将として個人の思いを大事にしたいという気持ちがあっても思うようにいかず、もどかしく感じた。また秋のリーグ戦にかけては、下級生の活躍などもあり、神田自身が試合に出場する時間も限られていた。「自分への期待や信頼が失われているんじゃないかって感じて、結構悩んだし、精神的にも追い込まれた時期だった」

大阪産業大戦でベンチから声をかける神田

 それでも主将という立場から逃げることはなかった。「自分はバスケットを離れることを決めていたから、16年間の集大成として最後までやり切る」という思いで、気持ちを保っていたと話す。一方、主将を経験したことで「個人を大事にできない組織はうまくいかない」という学びもあったという。

 一人一人の思いに寄り添う。それはバスケットボールに限らず、全ての組織づくりにおいて重要なことだろう。その大切さに気づかせてくれたのは、学生バスケットボールという場だった。神田は4月からコンサル系の一般企業でのキャリアを歩む。「人の生きるを面白くしたい」という思いで、これからは社会人として組織づくりに関わっていくつもりだ。

(記事、写真 落合俊)