限られた4年間
2月12日、わずか27秒の出場時間だったが、宮本一樹(スポ=神奈川・桐光学園)が初めてBリーグの舞台に立った。中学生の時から全国区で経験を積んだ宮本は、カテゴリーが上がるにつれて、プロに行きたいという気持ちが強くなっていったという。しかし、大学ではけがに悩まされる時期もあり、順風満帆だったわけではない。それでも、大学生活を通じて「学生バスケって本当にいいな」と思うことができた。宮本は今、早稲田での4年間を糧に、さらなる高みを目指している最中だ。
日大戦でドライブする宮本
強豪校である横浜市立原中に進学した宮本にとって、中学バスケはまさに「地獄のような毎日」だった。朝6時から練習が始まると、授業中も顧問の先生が見回りに来て、また夕方から練習が再開する。しかしそのような日々が、宮本をさらに上へと押し上げた原点と言える。「中学で全国を見て、上を見たからこそ、やるからにはプロを目指してやりたい」。この時から、大学までバスケットボールを続ける意志はあったという。その後、桐光学園高に進学すると、1年時から試合に出場し、3年時にはエースナンバーの7番を背負った。U16日本代表、U19日本代表候補にも選出されるなど、高いレベルでプレーしてきた。
高校卒業後は、「オファーを頂いた大学の中で一番熱意があった」という早稲田に進学を決めた。また、高校生の時に見に行った試合で、「一番気持ちを前面に出してプレーしていたのが早稲田」だったことも理由の一つだ。入学後初めての全日本大学選手権(インカレ)で、早稲田は6位という成績を残し、宮本も1年時から出場機会を与えられた。「インカレで結果を残せたのもうれしかったし、チームの一体感も感じました」と当時を振り返る。その後、2年生、3年生ではスタートとして試合に出場する機会も増え、バスケをやっているだけで楽しかったという。
しかし、3年時のオータムカップ2020で、宮本は足の大怪我を負った。その影響は大きく、4年生の前半は、ほとんどプレーすることができない期間が続いた。他大学と比べてチームづくりが遅れたことで、4年生としての立ち振る舞いが難しく、チームのバスケットボールも遂行できなかったと話す。しかし、復帰してからの半年間は、「それだけで1年間に感じるくらい凝縮されていた」。関東大学リーグ戦(リーグ戦)の神奈川大戦で初めて勝利すると、そこからチームとしてのスタイルをつかんできた。宮本自身も、初めは留学生とのマッチアップに慣れず、あまり得点することができなかった。しかし、次第にマッチアップにも慣れ、大東大戦では25点を取るまでに成長を見せる。リーグ戦での大きな進歩は、達成感があって、やりがいも感じていたという。
今年度のチームは、けが人が重なり、復帰してからもコート上に4年生が宮本しかいない場面が多かった。当初は、1代上の主将を務めた小室悠太郎(令2社卒=現三井住友海上)のように声やリーダーシップでチームを引っ張っていくことを目指していた。しかし、「やはりタイプが違うので、自分が目指すリーダーシップを探していた」という。その中で、宮本は自分がプレーで示そうとした。インカレの日大戦では、「1ピリから僕がやってやろうと思っていて。(次第に)下級生もガチガチなプレーではなく、いつも通りにできるようになってきました」と、宮本自身のプレーに下級生がついてきてくれたことを明かした。インカレに向けての対談では、4年生のために頑張りたいと話す1年生も多く、宮本の思いは下級生に伝わっていたようだ。また、宮本を尊敬していたのは、下級生だけではない。今年度の主将を務めた津田誠人(スポ=京都・洛南)は、「バスケの取り組み方や考え方、プレースタイルも真逆にいる人間だと思っていて。自分にはないものを持っている選手なので、同期だけどすごく尊敬していた」と話す。シーズン前半はけがに悩まされ、復帰しても4年生が少なく、辛い時もあったはずだ。それでも宮本は、下級生やチームを最後まで引っ張ってきた。その背景には、大学バスケへの思いがあった。
現在はプロの舞台に立つ宮本に、早稲田での4年間を振り返ってもらうと、「学生バスケって本当にいいなと思います」と語った。「限られた4年間だから、4年生のために後輩はやってくれて、4年生になった時には、後輩に何が残せるかなと思ってやってきました」――。このような思いで、学生バスケは代々受け継がれていくのだ。宮本が入学前に見に行った早稲田の試合で感じた「一番気持ちを前面に出してプレーしていた」ことは、下級生に受け継がれたはずだ。それは、宮本自身が泥臭さや熱い気持ちをプレーで示してきたからだ。インタビューの最後に、「学生バスケにしかない感動や儚さを感じながら頑張ってほしい」と後輩たちに向けて言葉を残した。
大東大に勝利し、笑顔を見せる宮本
宮本が契約しているファイティングイーグルス名古屋は、B2リーグに所属しているチームだ。現在はB1昇格を目指しており、「僕はそこに絡んでいきたい」と宮本は意気込む。目指していたプロの舞台にたどり着いた宮本の挑戦は、まだ道半ばだ。
(記事、写真 落合俊)