試合終了まで全員で走ってリングを狙い続ける。それでも春の王者・日大の壁は超えられなかった。試合終了後、チームを支えてきた4年生のG萩原圭(先理4=東京・早実)はアリーナの陰で涙を拭っていた。「日本一になってほしい」(萩原)。思いは後輩へと託された。
試合を終えて、涙する萩原
試合の入りはやりたいことができていた。F宮本一樹(スポ4=神奈川・桐光学園)が幸先良くスリーポイントを沈めると、その後もG土家大輝(スポ3=福岡大大濠)やF星川堅信(スポ2=京都・洛南)がオフェンスで存在感を発揮。また、「(日大には)強力なインサイドがいると分かっていて、そこは僕が抑えようと思っていました」と宮本。相手の留学生選手に対して激しくディフェンスをして、リバウンドを守り切った。第1クオーター(Q)終了間際、G神田誠仁(社3=静岡・浜松開誠館)がスピードを生かしたペネトレイトで得点して、22−21の1点リードでこのクオーターを終えた。しかし第2Qは開始早々から日大にペースを握られる。スリーポイント2本を含む3連続得点をされて、一気に7点ビハインドを背負った。ボールマンへのプレッシャーも激しく、思うようなオフェンスが展開できない。しかし、この苦しい時間帯をF小野功稀(社1=新潟・開志国際)のスリーポイントとループシュートで食らいつく。さらに神田のバスケットカウントや土家のスリーポイントが要所で決まり、これ以上の流れを渡さない。第2Q後半は両チームが点を取り合い、34−44で前半を終えた。
第3Qは再び日大のペースで試合が始まる。早大はオフェンスでリズムをつくれず、シュート決定率が下がった。また日大の留学生選手にゴール下を支配され、徐々に点差が離れていく。星川のアウトサイドシュートや神田のペネトレイトで早大に流れが来る場面は何度かあったが、勢いに乗った日大を止めることは難しかった。第3Qを終えて得点板を見ると45−70。厳しい点差だった。それでも最後まで勝ちにこだわる姿勢を貫き続けた。試合終了までオールコートでプレッシャーをかけてリングを狙い続ける。「プレッシャーやめるな」「最後までディフェンスするぞ」とベンチや応援席から声がかけられた。そして試合終了のブザーが鳴り響く。『W奪還』を目指した今年の男子バスケットボール部の戦いは終わりを告げた。会場からはたくさんの拍手が送られていた。
チームを落ち着かせる宮本
F津田誠人主将(スポ4=京都・洛南)は「引退ということに対してパッとしないというか、煮え切らないです」と悔しさをごまかすように少し笑って話した。「どのような場面でも自分が動揺せずに、しっかりと構えてみんなのことを支える」(津田)。コートに立つことはできなくても、主将として最後まで声と姿勢でチームを鼓舞し続けた。涙を浮かべて肩を落とす後輩たちに声をかけ、津田はコートを後にした。
最後まで主将としてベンチから声をかけ続けた津田
「最後はこうして早稲田のバスケットを体現できたので、良かったかな」と宮本は振り返る。春は4年生がケガに悩まされ、チームづくりは大きく遅れた。しかしベンチからチームを鼓舞する姿勢、最後まで自分たちのバスケットを貫こうとする姿勢など、4年生が残したものは多かったはずだ。8人の4年生が築き上げてきた今年の男子バスケットボール部の戦いは幕を下ろした。しかし早稲田大学男子バスケットボール部の戦いはこれからも続いていく。日本一に向けた挑戦はまだ道半ばだ。
試合終了後、応援席に挨拶するプレイヤーたち
(記事 落合俊、写真 大滝佐和、落合俊)
第73回全日本大学選手権 12月8日(vs日大) | |||||
---|---|---|---|---|---|
1Q | 2Q | 3Q | 4Q | 合計 | |
早大 |
22 | 12 | 11 | 22 | 67 |
日大 | 21 | 23 | 26 | 28 | 98 |
◇早大スターティングメンバー◇
F#7 宮本一樹(スポ4=神奈川・桐光学園)
G#12 土家大輝(スポ3=福岡大大濠) F#13 星川堅信(スポ2=京都・洛南) F#14 小野功稀(社1=新潟・開志国際) F#77 石坂悠月(スポ1=東京・国学院久我山) |
コメント
津田誠人主将(スポ4=京都・洛南)
――試合を終えて、率直な気持ちをお聞かせください
自分自身この4年間、選手としてプレーしてきました。最後、自分が試合に出られずに終わってしまったこともあるのですが、やはり引退ということに対してパッとしないというか、煮え切らないです。
――日大戦をどのような気持ちで迎えましたか
自分が試合に出て活躍することや貢献することができなかったので、選手に対するサポートを頑張ろうとは思っていました。試合中や練習でも、そういった声かけをしていました。支えることが自分の役目だと思っていたので、どのような場面でも自分が動揺せずに、しっかりと構えてみんなのことを支える気持ちでいました。
――今日のチームの雰囲気は
集合した時からアップ、1Qの入りまですごく良かったかなと思います。心身ともに充実した状態でプレーに臨めたのではないかなと思っています。
――今季の早稲田のバスケットはいかがでしたか
トーナメント(関東大学トーナメント)からすごく成長したと思っています。倉石さん(倉石平ヘッドコーチ、昭54教卒)が昨年度から就任されて、その指揮に対してしっかりとみんなが信頼して、やりたいバスケットを理解したことが今回のプレーにつながったのかなと思っています。
――後輩たちへ伝えたいことは
どんどんチャレンジしてほしいと思います。バスケットボールのこともそうですし、選択肢がいろいろある中で、積極的にチャレンジしてほしいです。また、その中でも早稲田大学バスケットボール部を選んで活動しているという意味をもう一度考え直してほしいです。
――主将として1年間チームを引っ張ってきて、いかがでしたか
自分自身、キャプテンという役職が初めてだったので、最初は右も左も分からずでした。けれど組織に育てられたなと思っています。
宮本一樹(スポ4=神奈川・桐光学園)
――どのような思いで今日の試合に臨みましたか
(日大には)強力なインサイドがいると分かっていて、そこは僕が抑えようと思っていました。チームとしては、ゲームプラン通りにいっても力の差で上回られてしまうことが予想されたので、そこは気持ちや運動量の差を追求して、最後まで我慢する。そうすれば、昨年のようにどこかで良い流れが来るだろうと思っていました。1ピリは僕らの気持ちが上回ったのか、相手が油断していたのか分からないですが、一歩リードするような展開になりました。しかし2ピリでは、こちらのささいなミスからターンオーバーされてしまい、そこで一気に10点差を与えてしまったことが敗因になったかなと。2ピリが本当に勝負だったと思います。3ピリや4ピリでも何回か流れが来たのですが、やっぱり僕らの力不足で(日大に)追いつくことができませんでした。とても悔しいです。
――試合前はどのようなお気持ちでしたか
昨晩は、4年連続で日大と戦うということで、昨年や一昨年に日大と戦った記憶がフラッシュバックしていました。また日大とやるのかと思う一方で、(日大は)昨年とチームの色がガラッと変わっているので、今までとは違う日大と戦うんだという新鮮な気持ちも持っていました。
――今日のチームの雰囲気は
昨日の練習が試合ムードというか、すごく固くて。緊張感を持っていることは良いのですが、ちょっと固すぎるかなと。もう少しリラックスして思い切りプレーしないと、体も硬くなってしまうと思います。
――4年生として、津田誠人主将(スポ4=京都・洛南)もいない中でチームを引っ張らなければならない立場だったと思います
津田はもともとプレーで見せるタイプで、言葉で示すことは少なかったのですが、ケガをしてからそこが大きく変わったと思っています。練習もリーグ戦も、津田のおかげでチームがまとまっていって。プレー面では僕が、それ以外の面では津田が引っ張ると役割分担ができて、リーグ戦の終盤にかけてはチームがすごくまとまっていったという感覚がありました。インカレチャレンジマッチは危ない試合をしてしまいましたが、そこから津田を中心にもう一度チームを立て直して、良い練習をすることができていました。
――4年間を振り返って、早稲田のバスケットはいかがでしたか
僕が1年生だった時の4年生がすごくて。インカレでも2戦連続でブザービートといったギリギリの試合をものにすることができる人たちでした。あの1年間が強烈に頭に残っていて、僕が4年生になったときに「あの4年生を超えられるのか」というプレッシャーがありました。実際に4年生になった今シーズン、同期はケガをしていて、チームづくりをする中で後輩に頼ってしまうところがありました。それでも、僕らは早稲田の伝統などを引き継いでいかなければならない。自分自身、リハビリや気持ちとの戦いもある中で、そこは苦労しました。何回も揉めましたし、後輩がなかなかついてこないこともありました。でも、夏のトーナメントのあたりから徐々にチームがまとまっていって。欲を言えば春から僕ら(4年生)が万全な状態でスタートできれば良かったのですが、そうもいかなかったので、リーグ戦から徐々にチームをつくっていきました。最後はこうして早稲田のバスケットを体現できたので、良かったかなと思います。
――後輩たちへ伝えたいことは
リーグ戦の前半は、後輩は全然ボールを要求しなくて、遠慮しがちでした。しかし後半にかけては「俺によこせ」とか「1on1やらせろ」とか、要求をするようになってくれました。気持ちが萎縮してしまうとプレーも萎縮してしまうので、思い切りやってくれたら良いかなと思います。
萩原圭(先理4=東京・早実)
――試合を終えて、率直な気持ちをお聞かせください
複雑なのですが、一番は悔しいです。ここまで1年生から4年生までで築いてきたチームが、この1試合で終わってしまったことと、日本一というチームの目標が途絶えてしまいました。けれどやり切ったなという気持ちはあります。
――日大戦をどのような気持ちで迎えましたか
個人的には試合に絡むことは難しい状況だったのですが、上級生として一番声を出したり、そういう雰囲気の部分は最後まで貫こうと思って準備をしてきました。
――第4Qに向かう時、チームではどのようなことを話されたのですか
1つはチームで徹底してきたディフェンスの細かい部分を最後までやり切ろうということです。オフェンスではもっと自分たちのやりたいことをできるように、ペースアップして点差をひっくり返していこうと話しました。最後まで諦めない部分を特に監督は強調していたので、自分たちも勝つぞという気持ちで第4Qに臨みました。
――今季の早稲田のバスケットはいかがでしたか
一昨年監督が変わってから、プレースタイルを変えてきて、それが完成形に近いチームになれたのかなと思っています。具体的には、セットプレーが多いスタイルから、リズムを速くして一人一人が点を取っていこうというスタイルに変わりました。今日は最初から大輝(土家大輝、スポ3=福岡大大濠)や神田(誠仁、社3=静岡・浜松開誠館)がリズムを上げてくれて、チームとしてやりたいことはできていたのかなと思います。
――後輩へ伝えたいことは
今の3年生はずっと自分たちのことを支えてきてくれて、僕らも頼りになることは知っているので、心配はしていないです。けれど日本一という自分たちの掲げた目標を達成できなかったことは心残りなので、日本一になってほしいです。ただ最後の1年間は、楽しんだ者勝ちだと思うので、日本一という過酷な道を歩むとともに、楽しんでやってほしいのが本音です。