【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第46回 向江洋光/準硬式野球

準硬式野球

実感した勝利の味

 低めを攻める制球力を武器に凡打の山を築く投球がこの男の持ち味。チームを幾度も勝利に導いてきた大黒柱・向江洋光(人=大分上野丘)がこの春、卒業を迎える。3年時の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では最優秀防御率賞のタイトルを獲得した頼れる右腕だ。リーグ優勝も2度経験した。しかし四年間を振り返った時に浮かんでくるのは、そんな栄光ではなく、4年時に感じたもどかしさだった。

 小学校4年生の時に始めたソフトボールが向江の野球人生の門出だった。中学からボーイズリーグで硬式野球を始め、実力をつけていく。そして甲子園出場経験もある大分上野丘高ではエースナンバー『1』を着け、チームをけん引。早大進学後は高校時代の先輩のアドバイスも踏まえ、「硬式とは違う新しい野球にも触れてみよう」と思い、常に優勝争いに名を連ねる早大準硬式野球部に入部した。

グラウンドの内外でチームを支えた向江

 2年時の春季リーグ戦では、全てのカードで勝ち点を獲得する完全優勝を果たし、全日本大学選手権ではベスト4に輝く。さらにその次の年も、同様に完全優勝。当時を振り返り、向江は「あっさり勝つことができて、『優勝って難しくないのかな』と思っているところもあった」と語った。しかし自らが最高学年となり、チームの核となると、勝つことの難しさを痛感することになる。春季リーグ戦ではフォームを崩したことで最悪のシーズンを過ごし、チームは3位という結果に。巻き返しを狙う秋季リーグ戦では、最優秀防御率賞を獲得した3年春を上回る好成績を残すが、それとは裏腹に打撃陣は絶不調。十分な援護点を得られず、取りこぼす試合が多かった。そして不本意なシーズンを最後に引退を迎えることとなってしまった。

 準硬式野球部の特徴として4年生が練習メニューを作るなど学生主体でチームを構築していくことが挙げられる。チームのことをそれまで以上に考えるようになる4年生になってからは、一つ一つの勝利は濃く、重い。「勝つ試合は出ていなくても嬉しい」。後輩への一言を求めたときにも、激励とともに最後の年に結果を残し、勝ちにこだわることが重要であることを説いた。早大準硬式野球部での四年間を『日常』と表現した向江。その間に身をもって勝利の喜びと難しさを実感した。

 「いい仲間と野球ができてよかった」。早大での四年間を振り返ると、向江はかみしめるように言った。奔放な雰囲気ながら共に切磋琢磨(せっさたくま)することができた同期や試合に出ずとも一生懸命に応援してくれるチームメイト、しっかりと意識を持って練習に臨む後輩など仲間に恵まれた野球生活。それは向江にとってかけがえのないものであっただろう。これからは地元・九州に戻り、大好きな野球を楽しみながら、また新たな一歩を踏み出す。

(記事 加藤耀、写真 杉田陵也)